第七話:能力の開花2
※前回からの続きです。
その方法により、無事に能力を引き出すことに成功した訳だが、問題はここからだった。特に身体に異常はなく、不思議に思っていると、頭の中にある映像が流れ込んできた。映っているのは、小さな二人の男の子。二人はこの河原でしばしキャッチボールをした後、ある約束をして別れた。
「一週間後、遠足の買い物する約束、忘れるなよ!!」
「分かってるって!!十六日の十時集合だろ」
頭の中で流れていた情景はそこで途切れた。私が思わず呆然としていると、琥珀が首を傾げながらこちらを見上げた。
「どうした?」
私は素直に、たった今、一瞬の間に起きたことを説明した。
「なるほど……今日は二十日だ。会話から察するに、お前が視たものは、過去の時間の一部だろう。それも、十日以上前の」
確かに、会話の中で男の子達は一週間後が十六日だといっていた。つまり、この会話が成されたのは九日の日だということだ。今日は二十日だから、今日から数えて十一日前の会話ということになる。
「そして、視えたのはこの河原で起こった出来事。他に河原に関係のないものは視えなかった。だとすると、お前の能力はおそらく、物に宿る記憶を読み取ることだ」
「記憶?」
「お前が今視たものは、この河原に宿る記憶。それがお前の能力だ。そう考えるのが自然だろう」
「物に宿る記憶……」
ーーそして、冒頭の発言に至る訳である。
「えっ?これなんか意味ある?」
「視えるのは物だけでなく、人や動物なんかも対象だろう。それに、今回は十日程前の記憶だったが、鍛えればその範囲を広げられるかもしれない」
「だとしても、どういう場面で役に立つのか分からないんだけど」
「使い道がない訳ではない」
「例えば?」
「おいおい分かる」
この猫ーーいや、妖の狼もどきは、やたらともったいつけるのが好きである。
「分かったよ。今はそれでいい。上手くコントロールできるように頑張るよ」
「うむ。いい心がけだ」
琥珀の声を聞き届けて、私は大きく伸びをする。
ちょっとだけ。ほんのちょっとだけ、疲労感を感じる。おそらく、魔術を使った影響だろう。
「さて。もうそろそろ開店準備しなきゃいけないから帰ろうか」
「そうしよう」
私は、琥珀と一緒にゆっくりと歩き出す。
「使い道がない訳ではない」私はその言葉の意味を、この後すぐに理解することとなる。
※次回更新は明日です。
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