先輩
少年は落下する。
こんな事なら父親の言いつけを守り遠出するんじゃなかったと脳裏をよぎりながら落下する。
タラレバなんて無意味極まりない。
しかし、あそこの魔族はなんて野郎だ!
この俺を誰だと思ってやがる!
生きて帰ったら父親に言いつけて酷い目に合わせてやるっ!!
生きていたらの話だけど。
少年は死を覚悟した。
「空ぐらい飛べるだろ?」
オーリスは少年と一緒に落下しながら話しかける。
「教えてもらってないんだから飛べるわけないだろ!」
「そーなのか?仕方ない…」
オーリスは少年を掴みそのまま下に降りた。
「ところで、お前なんであんなのに追いかけられたんだ?」
「…」
少年は口を閉ざす。
「命の恩人にその態度はよくない。俺は何もしてないけど。これ以上関わる気は無いからまぁーいいか。でもグリにはお礼ぐらい言ったほうがいいんじゃないか?」
沈黙する少年を見下ろしオーリスはファウスとグリの帰りを待った。
「おーい、無事かー??」
ファウスとグリは大きなワイバーンを2人で抱えながら戻ってきた。
「肉確保ー!」
グリは翼を広げてオーリスにアピールする。
「はいはい…よしよし、なでなで…」
オーリスはグリの頭と喉元をグシグシと撫でやると、グリは満足げに目元を垂らした。
ファウスは早速獲ってきたワイバーンを手早く解体、調理にはいる。
まずはまだギリギリ生きているワイバーンの頚椎を折り即死させ、胸元の心臓を抉り取り血抜きする。
続いて羽を引きちぎり2つに折り、食べるとこがないのでそのまま投げ捨てる。
頭と足を切り落とし、しばらく血抜きのため放置。
血抜きがある程度終わったら皮を剥いで最後は…
「オーリス!剣を貸してくれ!」
「なんで?」
「使うからにきまってんだろ」
肉を捌くために使うと思ったオーリスは剣を抜きファウスにわたした。
「あんまり汚すなよ」
「大丈夫だって!」
剣にズブリッと肉を刺して火にかけて出来上がり!
「出来上がりじゃねーよ!俺の剣を串がわりにするなっ!!一応、じーさんからの預かり物なんだからっ!」
「別にこんな火力程度でどーこーなる代物じゃないないって。これくらい大目にみろよ!細かい男だな…。嫌ならこの肉どーやって焼くんだ?お前が火の中に肉を持った手を突っ込んでくれるのか!それが無理なら火の中に放り入れて土まみれの肉を食べる羽目になるけどそれでもいーなら剣は返すぞ!!」
「わかったから。じーさんになんか言われたら炎系の魔法ついでに誰か切ったって言えばいいし。すまんなじーさん。これも生きるためだ…」
「おおげさな…飯食うだけだぞ」
ファウスは肉の刺さった剣を構え焦げないように慎重に炙り加減を見極めていた。
「オーリス様。あの子どーしましょ?」
「どーするも。何も話さないし。面倒だからほっといていいか?」
「てぃっ!!」
グリは翼を器用に使いオーリスの胸元めがけて水平チョップをくらわせた。
「なんて心無いことをおっしゃるのですかっ!!魔王である以上魔族全てを守る義務があると言うのに!」
「いや、そんな義務おった覚えはねーよ!!」
グリはため息をついた。
「よーしっ!!飯にしよーぜ!!」
ファウスがこんがり焼けたワイバーンの肉を人数分に切り分けようと皿を荷物の中から探す。
「グリ!これ持っててくれ。落とすなよ!絶対に!」
剣の持ち手を咥えさせられ、目の前の肉しか見えていないグリによだれを止める事はできなかった。
「おいっ!グリっ!ちゃんと咥えてろよ!…ちょっ!!よだれを垂らすなって!!やっぱオーリスが持っててくれよ!」
「肉ごときでおーげさな」
「ならオーリスは飯抜きな!」
「かせぇーいっ!仕方ないから肉当番をしてやる!」
「ちょっとっ!ホーリスはまっ!にふがほちちゃいまふっへ」
「グリのヨダレまみれにさせてなるものかぁー!!」
肉の刺さった剣の取り合いを2人でしている。
こーなっては結果はおのずと…。
「「あっ……」」
落ちた。
「お前ら…なんで肉もまともに持ってられねーんだよっ!!」
「俺はただ…グリがなぁー」
「あーっ!オーリス様っ!今、私のせいにしましたよねっ!!」
「2人とも黙って座ってろ」
「「はい…」」
ファウスに叱られ落ち込む1人と1匹。
「これでいーか」
5枚の平たい皿状の板を地面に置き、肉を水で洗い再度火の中に肉を入れ表面をカリカリに焼き上げた。
板の上で切り分けると美味しそうな匂いを辺りに充満した。
「1、2、3、4、5っと。食っていーぞ」
オーリスとグリは切り分けられた肉でどれが1番大きいのか見極めていた。
「俺はこれもーらい!」
「おいっ!まだ…」
「早い者勝ちだから迷ってるほーが悪い!」
そう言ってファウスは2皿選んだ。
「ほら、お前の分だ」
「えっ…」
少年は座ったままファウスを見上げた。
「お前が連れてきた獲物だ。食う権利くらいはあるだろ」
ファウスが少年を見て笑った。
少年は何も言わずただ肉にかぶりついた。
「んっ!!ん!!」
そして喉を詰まらせた。
「そんなにがっつくな!ほら水だ」
「んくっ…んくっ…んく…ぷはーー!」
「おっ!いー飲みっぷりだな!」
オーリスがグリと争い、ファウスが少年と話をし始めたころ、遠くから声が聞こえてきた。
「おーーーーぃ!オーリス様!オーリス様どちらですかー!?」
声に気がつきオーリスとグリは争いをやめた。
「誰かに呼ばれているよーな…」
「あっちの方から声がしました!」
声のする方を見るとタメトスが、こちらに歩いてきていた。
「ふー。よーやく追いつきました」
「おっ。タメトスどこ行ってたんだ?」
「グリさんから振り落とされてさんざんでしたよ」
「あっ…後で迎えにいこうと思って忘れてましたっ!」
「まぁーまぁー。肉でも食べて…」
肉を手渡すと、オーリスは気がつく。
「お前こんなに大きかったか?」
一回りほど大きくなっているよーな、いないよーな。
「どーでしょ。自分ではわかりませんがこんなもんでは?」
「気のせいならいーけど…」
実際は一回り程大きくなっていた。
グリの成長程急激ではないがタメトスもこっそり成長していたのだ。
そんな中、ファウスは少年に話しかける。
「お前…ベルゼの子か?」
「えっ!?なんで!?」
「俺のとこもそこそこの貴族だから、身なりとそのマントの裏地の刺繍みてな。ベルゼの紋章を身につけられるのなんてそーはいない。ましてや子供となると限られるし」
「…」
「家出か?さすがにこんな遠くで迷子なわけないよな?」
「…」
「話したくないなら別に俺には関係ないからいーけど、肉のお礼に名前くらいは教えてくれてもいーんじゃない?」
「イース…イース・ブブ」
「イースか。俺はファウス。あっちの騒がし魔王っぽいのがオーリスで、でっかいグリフォンがグリ、亀みたいなのがタメトスな」
「アイツらにもちゃんと礼は言えよ。貴族の息子ならな」
「でたよ。貴族の息子。俺はそー呼ばれるのがいやなんだよっ!!」
イースは立ち上がりファウスを睨んだ。
「おっ。ファウス達は仲良くやってるみたいだな!」
大きな声に反応したオーリスはファウスとイースの元に肉を食べながら顔をだした。
「そいつジジイの息子なのか?」
「らしーな」
「で、序列1位の息子がこんなとこでなにしてんだ?」
「あー…」
ファウスはオーリスの空気を読まない行動に苦笑いした。
「俺の名前はイースだ!息子なんて名前じゃないっ!」
「ベルゼに言いつけるとか叫んでた割には威勢がいいな」
「なんでそれをっ!?」
「落下しながら叫んでただろ?」
イースの心の声は漏れていた。
「お前っ!思い出した!前にお父様から聞いたことがあるぞ!いつも怠けて女の尻ばかり追いかけている最下位の魔王だなっ!!」
「あの野郎っ!いい加減な事教えやがって!誰が女の尻をおいかけるかっ!!性欲魔王はあっちだっ!あっち!!」
オーリスはファウスを指差した。
「おいおい。オーリス君。子供に嘘をつく教えるのは困るよ。俺は尻よりオッパイ派だから尻を鷲掴みする事はあっても、決して追いかけることはない!!」
ファウスはオーリスに向かって真面目な顔でキッパリと否定し訂正した。
「尻も胸も一緒じゃねーか!」
「わかってない。オーリスはなにもわかってない!尻は尻。オッパイはオッパイ!」
ファウスが力強く宣言したのをみて、オーリスは溜息をついた。
「ベルゼもあながち間違いを教えたわけでもないだろ?怠けているとか大当たりじゃないか」
「確かに真面目に魔王の仕事をこなしているかと聞かれたらそーだけど」
「どちらにしろ魔王の面汚しじゃないか!」
「おっ!言うねー。どーせならもっと言ってやれっ!」
ファウスは笑って親指を立てた。
「まぁー、なんとでも言ってろ。お前みたいな子供の戯言を魔王様はいちいち気にはしない。それに俺はすでに末席じゃないうえ、お前のよーに親の名前を盾に使ったこともない。俺が魔王の面汚しなら、お前は魔族の面汚しって事になるのか?ベルゼもこんな息子を待つなんて苦労してんなー」
「お父様を侮辱する気かっ!!」
「はぁ?何か勘違いしてないか?序列がどうであろーと。魔王対魔王。俺とベルゼは同格。けどお前は魔王の息子、俺は魔王。この差は子供でもわかるよな?」
「はいはい。オーリス。お前も言い過ぎだ」
「ふんっ!」
タイミングよくファウスが仲裁する。
「で、話を戻すけど。イースは何しにここに来たんだ?」
「どーせ、周りの声が嫌になって逃げて来たんだろ」
「っ!!」
オーリスの言葉でイース表情が変わった。
「そーなのか?それなら貴族の子供アルアルだな」
「アルアル?」
「そーそー。俺もオーリスも経験済みだからな!つまりイースの先輩ってこと」
「そー。なのか?」
「まぁー。親が偉ければ偉いほど、有名であれば有名なほど誰も自分の事をみてくれていないって思っちゃったりする時期があるんだよ。後ろの親の顔を子供を通して見てるだけで自分がどれだけ頑張っても最後にかけられるのは、さすがダレダレの子供で片付けられちまう。努力して結果出してそんな事言われたらたまったもんじゃないよなっ!なー、オーリス!」
「そんな事もあったかな?」
「あっただろーが!お前は特になっ!」
ファウスとオーリスを見てイースは肩の力が抜けていくのがわかった。
自分だけの悩みじゃない事、同じ事を経験した相手がいた事、そして親ではなく自分自身を見て、理解してくれた相手がいた事。
2人がどんな事を思っていたかは知らないがイースは2人に心を少し開いた。
「それで何て言われて家を出てきたんだ?」
「それは…」
「笑わないから言ってみろ」
「それは…クラスの仲間に父親のお陰で良い成績評価もらってるって…お父様に話したら…たった一言、くだらんって…」
「じじいが言いそな言葉などだな」
イースは悔しそうに拳をにぎった。
「まったく、くだらないな」
「どの世代も相変わらずそーゆーとこは変わらないんだな」
オーリスとファウスは顔を見合わせて首を振った。
「くだらなくないっ!!」
イースは否定するが2人はそんなイースを笑った。
「むしろそれが本当ならラッキーだろ。何もしなくても成績評価してくれんならあんな授業を寝て過ごせるんだぞ?」
「確かに。魔王の歴史と俺らにそんな関係ないし、今のところ役立った記憶は全くないしな」
「そーそー。計算がどーとか下級魔族の教師がほざいてたけど何一つ必要ないからな。俺のとこにはロハスがいるし!」
「いや、そこはちゃんと監視しないと。横領とか色々あるし」
「別にロハスが稼いで運用してくれてるからロイス領に影響ないなら横領くらい気にしない!」
「まぁー、ロハスが本気で隠したら俺らに見抜けるとも思えないしな」
「それより古文とかまったく要らなくないか?」
「わかるー。昔の文字とか学んでどーすんだよって感じだったよな!そんなに過去が大事かよって突っ込んだなー。最先端の技術とか魔力の扱い方やらせたほうがよっぽど有意義だろ」
「いや、あのー…」
「「ん?」」
「盛り上がってるとこ悪いんですが、私のことはー…」
「言いたい奴には言わせとけ。むしろ言い返せ!」
「言い返すんですか?」
「だったらお前の成績が悪いのは親が残念だからか。頑張っても報われない人生なんて可愛そうにってな」
「それお前が言った言葉だろ」
「そーだったか?」
「確かに!」
イースはその言葉を聞いて笑った。
「喧嘩になったら2度と歯向かわないよーに徹底的に潰せば誰にも文句言われないしな」
「死ななきゃヒーラー先生がいるから大丈夫だ!思いっきりやってやれ!」
「ファウスは思いっきりやり過ぎて親父に怒られたけどな」
「あれは美女が困っていたから助けただけだ!」
「いや、別れ話中の彼氏を彼女の目の前で瀕死にさせてるとか中々狂ってる行為だから!」
「美女より優先するものなし!」
イースは思う。
これが友と呼べる存在なのかと。
自分にはまだ友と呼べるよーな相手はいないが、もしいたらこんなにも楽しく毎日が遅れるのだろうかと。
遅くなりました。
嘘つきな猫です。
ちょっと長めに書いたので許して下さい!
新章「序列変動 編」が、始まりましたので今後ともよろしくお願いしまーす!




