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第十六話:おっさんの祝勝会と正妻のこと

 無事、争奪戦に勝ち使い魔の卵をゲットした。

 ただ、すべてがうまくいったわけじゃない。運悪くルーナとティルを勧誘した男たちに絡まれてしまった。

 彼らは【ウルフガング】というパーティに所属しているようだ。

 あとで受付嬢に【ウルフガング】がどんなパーティか話を聞こう。今後因縁を付けられる危険性が高い。敵のことを知っていれば優位に立てる。


 とはいえ、今は深夜。とっくにギルドがしまっているので動くのは明日だ。

 それより、今日はすることがある。


「使い魔の卵をみんなのおかげで無事手に入れられた。お祝いだ。……乾杯!」

「「「乾杯!」」」


 みんなでジョッキをぶつけ合う。

 宿に戻っていた。本当なら酒場で盛大にやりたいところだが、使い魔の卵を手に入れたお祝いなんてすれば目を付けられる。


 それに、【ウルフガング】が追いかけてくるかもしれない。

 なので、大人しく宿に戻った。

 飲み物も食べ物も昼のうちに買い込んである。買い食いをしながら気に入ったものは魔法袋にしっかり確保していたのだ。


 俺は好物のエールを、セレネはワインを飲み、前回酒で痛い目をみたお子様二人組はそれぞれミルクとぶどうジュースを楽しんでいる。

 ほどほどにすれば酒は素晴らしいと俺は説明したものの、二人はまだ警戒しているようだ。

 ルーナやティルと一緒に飲むのが楽しみだっただけに、少し残念ではある。


「ユーヤおじさま、驚いたわね。こんなにあっさり使い魔の卵が手に入るなんて」

「あっさりじゃないさ。星食蟲の迷宮を二回以上クリアして、あの暗号を読み解く必要があった。それなりに苦労している」

「それはそうだけど。……あんな暗号、普通は気付かないわ」

「経験だ。似たようなものを見たことがあったからな」


 前世の記憶とは言えないので適当に誤魔化しておく。

 そんな俺をセレネが憧れの眼で見ていた。

 ……気持ちはわからなくもない。あれを洞察力だけで気付ける奴がいれば俺も尊敬する。

 話を逸らすためにも口にミルクのひげを生やした今日のMVPに目を向けた。


「ルーナ、よくやったな。見事だったぞ」

「ん。当然、ルーナの木登りは世界一」


 ルーナがどや顔をしているが、ミルクでひげができているため、かっこがつかない。


「あーあ、私も活躍したかったな。ユーヤ、次は私が活躍できる作戦を立ててね」

「考えておく。だけど、あくまで俺はできるやつに頼むからな」


 適材適所。

 パーティメンバーのそれぞれの長所を踏まえて最適な指示を出すのがパーティーリーダーとしての役目だ。

 ティルの弓は活かせる機会が多い。そう遠くないうちに役立ってくれるだろう。


「ユーヤおじさま、使い魔の卵を見せてもらっていいかしら?」

「もちろん」


 魔法袋から使い魔の卵を取り出しセレネに渡すと、おっかなびっくり受け取る。

 ルーナとティルも気になっていたのか興味津々と言った様子で覗き込む。


「ユーヤ、この卵、生きてる」

「うん、音がするね。この卵から何が生まれるんだろ?」

「そもそも、どうやって孵せばいいのかしら?」


 三人は撫でたり突いたり、匂いを嗅いだり耳を押し当てたりといろいろと試していた。


「孵すには、二つ必要なことがあって、まずは二百時間ほど人肌で温める必要がある。基本的には専用リュックを作って肌身放さず持っておく」


 これが割とハードルが高い。

 使い魔の卵は非常に頑丈だが、さすがに魔物の全力の攻撃を受ければ割れるときは割れる。

 そして、高価で希少な使い魔の卵を見えるようにして持ち歩くのは、どうぞ奪ってくださいと言っているようなものだ。


「へえ、大変だね。この卵って二キロはあるから、ずっとリュックに入れてるのは辛そう」

「まあな、二百時間は合計時間でいいから寝るときにだけ抱いておくってのもありだ。むしろ、安全面を考えればそっちのほうがいい。どっちみち、第二の条件はグリーンウッドでは満たせないので急ぐ必要はないしな」


 グリーンウッドにはレベル30になるまでいるつもりだ。

 最短でもあと三週間はかかる。

 一日の睡眠時間を八時間として、夜抱くだけでも百六十八時間。次の街への移動時間は五日なのでそこでも四十時間、偶然だがちょうどいいタイミングで温め作業が終わる。


「ユーヤ、もう一つはなに?」

「温め終わったあと、霊力が混じった温泉に三十分つけることだ。そうすると使い魔が生まれる。グリーンウッドの次に行く街は、火と鉄の街。大陸一の鍛冶の街フレアガルド。火山があるおかげで温泉でも有名だ」


 フレアガルド、世界一の鍛冶の街。

 世界一の鍛冶の秘密は二つある。一つはドワーフという鉄と火に愛された種族が住んでいること。

 もう一つは、世界の誕生から一度も消えたことがない聖火が燃え盛っていることだ。


 すべてを溶かす神の炎。それらはどんな炉でも溶かせないと言われるオリハルコンをも溶かす。

 その火を利用できるからこそ、世界一の鍛冶の街になった。

 聖火でしか加工できない魔法金属は多い。

 そして、その聖火の影響で温泉には霊力が満ちている。


「ユーヤ、温泉ってなに? ルーナは知らない」

「すっごいたくさんのお湯をためている桶だな。浸かると気持ちいい。とりわけフレアガルドの温泉はすごいぞ。あれは絶対に味わっておいたほうがいい」

「行きたい! ルーナ、気持ちいいの好き。ユーヤと一緒に気持ちよくなる!」


 霊泉は伊達じゃない。体にいい成分があるうえ霊力がしみ込んでいるので、疲れはとれるし持病も治る。怪我の回復の促進効果もある。


「行くのが楽しみね。そのためには早くレベル30にならないと。使い魔の卵を得た以上、レベルさえあがればすぐにでも出発できるわ」

「だね。明日からもがんばらないと」


 セレネとティルも乗り気だ。

 そして、実はこの段階では隠しているが当然フレアガルドを目指すのは鍛冶と温泉だけが目当てじゃない。

 あそこにも隠し要素がある。

 使い魔の卵を得るために訪れたグリーンウッドと同じく、必ず足を踏み入れたい場所だ。

 だからこそ、レベル30以降の狩場として選んでいる。


「そうだな。俺たちは最強にならないといけない。少しでも早く、レベルを30まで上げてグリーンウッドを出よう。あと決めないといけないのは、卵を誰が暖めるかだ。俺は無理だ。寝床のソファーがせまい。あんなところで抱いて寝たら朝が来る前に床へ落としてしまう」


 セレネが来たことでベッドが足りなくなった。

 ルーナとティルで一つ、セレネに一つ使わせている。

 ベッドが三つある部屋を店主に依頼したが、あいにく満室で今の使用者が出ていくのを待っている状態だ。


 そのため、相変わらず俺はソファーで寝ている。

 ルーナたちは自分がソファーで寝ると言ったり、俺も一緒にベッドに寝れば解決だというが、どちらも頑なに拒んでいた。

 ルーナとティルは精神的には子供ではあるが……体はそういうことができるぐらいには成長している。教育上よろしくない。

 セレネに至ってはお姫様だ。彼女の未来を考えると手を出さないにしろ男と一緒に寝たという事実は作りたくない。


「ルーナ、卵を温めてみたい!」

「私も私も!」


 ルーナとティルが手を上げる。


「いいんじゃないか。二人で温めてくれ。その卵から何が生まれるか話してなかったな。使い魔の卵は温めた奴の心と魔力を食べて育ち、何を食べたかによってどんな使い魔が生まれるかが決まる。何が生まれるかはおまえたち次第だ」


 ゲーム時代では、会話の解析やゲームの中の選択肢、そういったもので隠しパラメーターが変動し性格パターンと種族が決定した。


 その気になれば狙った種族の使い魔を選べたが、こっちではそれを意図的にやるのは難しそうだ。意図的に狙うなら子猫ほどの大きさの飛竜、フェアリー・ドラゴンを狙いたい。

 フェアリー・ドラゴンは回復とバフ、妨害と一通りこなせるし勤勉で便利なのだ。

 だが、それができない以上、二人の好きにさせよう。

 ありのままのルーナとティルの心と魔力を喰らった使い魔なら、きっといい子が生まれるだろう。


「ルーナ、がんばる!」

「私もがんばるよ。私たちの子供みたいなものだしね」


 母性を刺激されてお子様二人組が仲よく二人で卵を挟むようにして抱き上げる。

 ルーナのキツネ耳がピンと伸びた。何かが思い浮かんだときの仕草だ。


「ティル、いい案がある。ルーナたちの子なら……」


 ひそひそひそとルーナがティルの耳元で何かを話す。


「あっ、それいいね。頭いい!」


 ティルが怪しげな笑みを浮かべる。

 もはや、嫌な予感しかしない。


「まあ、なんだ。二人でちゃんと温めるんだぞ」

「わかったよ!」

「ルーナたちに任せて!」


 非常に元気のある返事だ。

 セレネはさきほどからもじもじとしている。何か言いたいことがありそうだ。


「どうした、セレネ?」


 このままでは可哀そうなので口に出す機会を与える。


「私も、一日ぐらい温めたいわ。たまには貸してもらえないかしら」


 ルーナとティルがセレネの顔を見つめる。

 そして……。


「ん。いい」

「水臭いな。そんなのいいに決まってるじゃん」


 即答した。

 この子たちはいい子なのだ。セレネの頼みを断りはしない。


「ありがとう。嬉しいわ。みんなで、卵を孵しましょう」


 さて、この三人が育てた卵からどんな子が生まれるだろうか?

 それが少し楽しみだった。

 そもそも、ゲーム時代には共同作業で温めた前例がないからな、あるいは俺すら知らない使い魔が生まれるかもしれない。

 それはちょっと、期待しすぎか。


「さて、卵の話は終わりだ。今日のお祝いに戻ろう。夜も遅いが盛大にやろう!」

「「「おおおおぅ」」」


 そうして、祝勝会は盛り上がった。

 みんなで笑いあって酒を飲む。


 そんな中でフィルのことを思いだした。

 今日は寝る前に手紙を書こう。

 俺、ルーナ、ティルが元気にやっていること、そして新しい仲間であるセレネが加わったこと。

 パーティ上限を五人にするための隠しアイテムを入手しようと考えていること。……なにより、フィルと早く一緒に旅をしたいと思っていること。

 伝えたいことはたくさんある。

 そんなことを考えながら、俺はエールを飲み干した。


 そして、明日からは一気に強くなる。

 もはや、使い魔の卵を手に入れた。あとはひたすら効率的にレベルを上げるだけだ。明日は早速、ちょっとした裏技を使うとしよう。

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