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そのおっさん、異世界で二周目プレイを満喫中 作者:月夜 涙(るい)

二章:おっさんは上り詰める

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第十五話:おっさんは使い魔の卵を手に入れる

 いよいよ、深夜になり神樹の森に足を踏み入れた。
 神樹の森は広い。目的の神樹まで一時間ほどかかるためバッファを三十分ほど見ている。多少のトラブルがあっても余裕で間に合うだろう。

「ユーヤ、すっごい人。いつも人が多いけど今日は特別すごい」
「まあな、神樹がいつ実るかはわからないが、ほぼ一か月周期なのを知っている奴は多い。前回見つかった日から三十日後を目安に、プラスマイナス五日には特に冒険者が集まる。朝も夜も関係なくな」

 使い魔の卵が実る瞬間、周囲が光に包まれる。その瞬間を見たものが言いふらせば使い魔が実った日は特定できる。
 加えて、前回は入手した冒険者がそうそうにオークションに出したでの見つかった日が多くの冒険者に知られている。
 今、押し寄せている冒険者の群れは競争相手であり、卵を手に入れてからは略奪者に変わる。
 ……ある意味、卵を見つけることより見つけた卵を守りぬくほうが難しいぐらいだ。

「うわぁ、十日も張り付くんだ。みんなすっごい根性だね。うわ、向こうの人たち怪しげな踊りをしてる。向こうは歌、なんだろ?」
「いろいろと迷信があるんだ。ああいうことをすると、目の前で神樹に卵が宿るってな。ひどい奴になると、そういう攻略法を売り出す」

 もちろん、それらはガセだ。
 そういう詐欺のすごいところは、確実に出るとは言わない。出る確率が百倍なんて言い方を選ぶ。
 そうすれば、どうにでも言い逃れができる。

「呆れるわね。私たちはまっとうに頑張らないと」

 ちなみに、ルーナたちは一言も自分たちがどの神樹に実るかを知っていることを口に出さない。
 その手の話題を禁止していた。破れば飯抜きだ。
 どこに人の目があるかわからない。
 まあ、聞かれたところでよくある攻略法に騙されたバカだと思われるだろうが用心にこしたことはない。
 森の奥へ行けば行くほど、冒険者の密度が下がる。
 なにせ、神樹の数は数百本あるうえに広大なダンジョンだ。そうそう狙いは被らない。

「ユーヤ、ここ変。これだけ走ってるのに魔物が一匹もいない」
「狩りつくされてるんだ。星食蟲と使い魔の卵目当ての冒険者たちに再配置から三日もあれば魔物が狩りつくされるからな」
「へえ、そうなんだ。あの大きなヤドカリさんみたいに無限に取り巻き呼んでくれる魔物がいればいいのに」
「ああいうのはレアだからな」

 取り巻き召喚を持つ魔物は非常に限られる。
 少なくともグリーンウッドから通えるダンジョンには存在しない。

 次に行く街のダンジョンには存在するので利用するつもりだ。……そいつは厄介な性質を持っているおかげで命がけにはなるが。そもそもが、競争率が高いレベル30以上が適正のダンジョンで狩り放題なんて贅沢をする以上、まともな方法で狩りができるわけがない。

「ユーヤ、あと少しでつく」

 ルーナは物覚えがいい。
 一度歩いたルートは絶対に忘れない。下見に来たときと同じルートを通っているのでしっかりと所要時間が計算できる。

「周りに冒険者は少ししかいないな」

 最悪はヤマを張った冒険者に取られてしまうことだが……。この近くにはいない。
 さて、このまま目的の神樹にも冒険者がいなければいいが。

 ◇

 ようやく、星図に示された神樹にたどり着いた。
 後をつけられていないか注意しながら走っていたが、その心配は必要なかったようだ。
 ただ、恐れた自体の一つは起きている。
 ヤマ勘を張っていた冒険者がいたようだ。
 そいつらがこちらにやってくる。

「おまえら出ていけ! ここらいったいは俺ら【ウルフガング】のナワバリだ」

 二人組の冒険者だ。
 周囲には三十本ほどの神樹が密集している。これらすべてを自分たちのナワバリと言い張っているようだ。 

「わかった。俺たちは少し離れた位置にいる」

 争そってもいいが、騒ぎを起こして人が寄ってくるとまずい。
 ここは大人しく引こう。そう決めた瞬間だった。

「おっ。よく見たら、あのヒモやろうじゃねえか」
「まじかよ。じゃあ、あの暴れ獣人も……」
「呼んだ?」

 ルーナが俺の後ろからひょっこり顔を出す。
 すると冒険者たちが露骨に後退る。
 こいつらは、ルーナとティルをパーティに勧誘した連中か。
 怯えるのも無理はない。ルーナが本気の一撃を鳩尾に叩き込んだ。トラウマになるほどの痛みだったのだろう。

「おっ、俺たちはひかねえぞ! ひいたらボスに殺されちまう! 絶対、ここらの神樹には近寄らせねえ!」

 今の発言からパーティ内での立場が低いとわかる。
 どうやら【ウルフガング】というパーティはこいつらが作ったパーティではなく、【ウルフガング】というパーティに参入したようだ。
 この強引なやり方から言ってろくなパーティじゃない。

「わかった。俺たちは他に行こう、だからそう睨むな」

 ますます喧嘩するわけにはいかなくなった、仲間を呼ばれたら面倒になる。
 俺たちはルーナたちと共に来た道を引き返すことにした。
 そんな俺たちをあっけにとられた顔で奴らは見ていた。

 ◇

 引き返すとは言っても使い魔の卵を諦めたわけじゃない。
 一つ手前の曲がり角の木々の裏に隠れる。

「運が悪いな。あんな連中がヤマ勘で張ってるなんて」
「むう。あんなのルーナがドーンってやれば追い払えるのに」
「強引にやることが必要な場合もあるが、その必要がないときに無理をすることはないさ。ルーナ、この時計をおまえに託す。今から作戦を話すからよく聞いておけよ」

 俺は懐から懐中時計を取り出す。
 これはドワーフが共振石を使って作り出した非常に高価な時計で、共振石の性質故に絶対に時間がずれない。

「零時零分の十秒前になれば、ここから全力疾走で飛び出して目標の神樹に登れ。ルーナの全力の速さなら絶対にあいつらは止められない」
「ん。ルーナに任せて! そういうことなら頑張る」

 ルーナは圧倒的な速さと身軽さを持つ。
 それだけでなく、あいつらはルーナが突っ込んでくれば恐怖で硬直するだろう。

「バックアップはティルだ。前に森でのかくれんぼは得意だと言ってただろ? ここから周囲の木を使って、反対側経由で奴らに気付かれないように目的の神樹に近づいておいてくれ。もし、ルーナ止められたら、その隙をついてティルが神樹の卵を確保するんだ」

 ルーナが止められるということは、ルーナが奴らを引き寄せているということだ。余裕で使い魔の卵をもぎ取れる。

「任せて。私にとって森は友達だよ!」

 ティルは頼りになりそうだ。
 お子様二人組が準備をし始める。ティルが気配を消して闇に溶け込み大回りに移動を開始し、ルーナは準備運動を始める。

「ユーヤおじさま。私には何かないのかしら?」
「俺たちは二人が危険になれば飛び出す準備だ」
「怖いわね」
「心配するな。今のセレネは強い」

 もとから、セレネは剣を叩き込まれて基礎ができているし、ここ数日の特訓でさらに強くなった。
 あの程度の相手を恐れる必要はない。

「いえ、あの人たちがちゃんとした鍛錬を積んでいないのは見てわかるわ。防御もまともにできなさそうで、スパイクを使って殺さずに無力化する自信はないの」
「……スパイク禁止だ」

 確かに、あれをぶち当てて殺さないのは難しいだろう。
 急所を外しても大穴を開けるか、骨を粉々に砕く。
 さあ、どうなるか。

 ◇

 今は零時零分の三十秒前。
 ルーナはサングラスをかけていた。れっきとした装備品だ。迷宮のドロップでしか手に入らない。
 これをかけないと危険だ。零時零分になったとたんにとある仕掛けが発動する。ルーナとティルには事前に叩き込んでいる。
 二十秒前。
 ルーナが前傾姿勢になり足に力をためる。いよいよ十秒前だ。ルーナがカウントダウンを始める。

「三、ニ、一、行くの!」

 ルーナが飛び出す。三歩で最高速に乗る。
 俺たちに絡んだ冒険者たちがぎょっとした顔でルーナを見る。
 残り七秒。
 やつらは泡喰った顔でルーナを捕えようと駆け寄ってくる。
 一人目を軽やかにルーナが躱す。
 残り五秒。
 二人目を派手なジャンプで飛び越え、一回転を決めて着地、即座に再加速、冒険者たちは追いかけるがまったく追いつけない。
 キツネ尻尾をたなびかせての走りは美しさすら感じさせる。
 残り二秒。
 ルーナが目的の神樹の目前までたどり着く。
 残りゼロ秒。

 それは来た。
 光の爆発だ。暗闇に閉ざされた森を一気に照らす。
 サングラスを持たせたのはこのためだ。
 直視すれば目が焼かれる。

 ちなみに、セレネには目を閉じさせ、俺は予備のサングラスをかけている。
 光の中、ルーナの足が木の幹に触れ、そのまま駆け上がっていく。
 ルーナは神樹の高い位置にある一番太い枝に実った卵をもぎ取り、飛び降りる。
 柔軟な体で衝撃を殺しつつ、卵を抱えて前回りで殺しきれなかった衝撃を流す。
 そのままこちらに帰ってきた。
 光が止む。
 冒険者たちは周りをきょろきょろと見渡すがルーナはすでに消えている。
 バックアップで待機していたティルも戻ってきた。

「ユーヤ見て! 大きな卵!」

 ルーナがどや顔で使い魔の卵を両手で差し出す。ダチョウの卵より一回り小さく独特の光る紋章が描かれた卵だ。
 使い魔の卵をさっそく魔法の袋に入れる。

「よくやったルーナ」
「ん。がんばった」

 ルーナが抱き着いてくるので頭をがしがしと撫でてやると嬉しそうに尻尾をぶんぶんと振る。相変わらず可愛い奴だ。

「みんな。ここを離れようか」
「ん。あいつらめんどくさい」
「だね、用事も済んだし」
「帰ったら、祝杯をあげたいわね。夜は飲めなかったし」
「そうしよう。夜更かしもたまにはいいだろう」

 俺たちは笑いあい、帰路を急ぐ。
 途中でなんどか冒険者たちとすれ違った。
 あの光が使い魔の卵の誕生の証拠だと知っているものは知っている。急いで探しに行ったのだろう。

 ……無駄足で可哀そうだが、忠告はしない。卵を持っていると勘づかれ襲われるのがおちだ。
 ようやく念願の使い魔の卵を手に入れた。
 孵すために頑張ろう。
 使い魔が生まれれば、冒険はより捗るだろう。
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