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第十二話:おっさんは新たなパーティで戦う

 今日は神樹の森に来ていた。

 盗賊のルーナ、精霊弓士のティル、魔法戦士の俺というメンバーにクルセイダーのセレネが加わってからの初探索となる。

 壁役と回復役を兼ねるクルセイダーの加入により一気に安定性が増した。


 ルーナとティルはいつも通り張り切っている。

 セレネも準備万端だ。俺が渡した邪竜の皮鎧を身に付け利き腕にコーティングが施された戦姫ルノアの大きめのバックラー、左手には籠手を身につけ腰に剣をぶら下げている。

 戦姫ルノアと同じスタイルで戦うという意識の表れだ。


 腰の剣はあくまで保険だ。この世界では不思議とそれぞれの腕に二つ以上の装備アイテムがある場合、先に身に付けた方しかステータスに反映されない。籠手をつけたあとに剣を装備しても攻撃力が上がらないのだ。


「みんな、今日も星食蟲の迷宮に行くぞ」


 今日は再配置直後であり地上でも狩りができなくもないが、出口にある振り子時計の動きの幅を知るために星食蟲の迷宮に行く必要がある。


「ん。覚悟はしてる。前回ユーヤにいろいろ教えてもらって罠とかだいたいわかってきた」

「今日は体が重くなる前に突破しないとね!」


 前回は必要以上に罠に怯えたせいで踏破が遅れ、ひどい目にあった。そのことがトラウマになっていると思ったが思ったより硬くなっていない。

 とはいえ、緊張感が薄れて罠を見落としたら笑えない。

 しっかり集中しつつ急げるようになってほしい。


「セレネは大丈夫か?」

「問題ないわ。ちょっとだけ怖いけどね」

「わかった。無理はするなよ」


 セレネは星食蟲の前へ突き飛ばされて、星食蟲の迷宮に迷いこんだこともあり、若干の怯えがあった。

 適当に狩りをしていると星食蟲が現れた。

 星食蟲に喰われてはたまらないと、回りの冒険者たちが近くの神樹へと散っていく。


 しばらくすると周囲に人がいなくなった。

 俺たちは星食蟲の進路に出る。

 星食蟲の姿がどんどん大きくなる。巨大な眼を思わせる模様が描かれた緑の外殻、怪しく光る宝玉のような眼。すべてを飲み込む巨大な口。

 食べられても星食蟲の迷宮に飛ばされるだけとわかっていても凄まじい恐怖だ。

 ルーナとティルが俺の腕にしがみつき、セレネは背中に顔を押し付けてくる。


 ……これだと何かあったときに身動きがとれないが、諫めるのは可愛そうだ。

 目の前に星食蟲が迫り、巨大な口で視界が埋め尽くされる。


「星食蟲のダンジョンの噂が広まらないのは、この怖さのせいかもな。人に聞いても試すつもりになれないだろうな。……ガセだったら死だ」


 それだけじゃなく、運よく中に入り奇跡的に出口にたどり着いた冒険者も……『次も飛ばされるだけで済む』なんて能天気には考えられない。

 命をかけて検証なんてゲームじゃないとできないだろう。実際、星食蟲が戦闘モードの際、口の中に飛び込めば死が待っている。

 独り言をつぶやくと同時に星食蟲に飲み込まれた。

 さて、星食蟲の迷宮。今回は素早く踏破できるといいが。


 ◇


 目を開く。

 三人は俺にしがみついたままだ。


「みんな、もう安心だ。そろそろ離れてくれないか? 明かりを用意できない」

「ん。わかった。怖かった」

「ふう、相変わらず心臓に悪いよ」

「……そうね。わかっていても星食蟲の前に出るのは勇気がいるわ」


 全員が離れ空いた手で光水晶を取り出すとあたりが照らされ、迷宮型のダンジョンが露わになる。


「ルーナとセレネにも光水晶を渡しておく。ティルは必要ないだろ?」

「もちろん。この【翡翠眼】があるからね」


 ティルの眼はうらやましい。暗闇の中でもちゃんと視えている。光水晶をルーナとセレネの頭に括り付ける。


「こんな便利なものがあるのね。魔力も使わずにずっと光り続けるなんてすごいわ」

「かなりレアな魔法道具だ。無くしたら代わりがないし、補充もできないから大切にしてくれ」


 セレネが真面目な顔でうなずく。

 光水晶はレベルリセットの部屋まで行けばまだ残っているが、すべての光水晶がなくなればレベルリセット自体ができなくなるので、おいそれと持ち出せない。


 俺が光水晶を持ち出したのは、実のところ万が一俺以外の冒険者があそこにたどり着きすべての光水晶を持ち出された場合に備えてのことでもある。


 俺たちは陣形を組む。

 探索系のスキルを持つルーナが先頭、その後ろにセレネ、一番後ろにはティルがいて、俺は中衛。前と後ろ、どちらにトラブルがあっても対応できるようにしている。


「ルーナ、二歩先に罠がある。地面の色が微妙に違うだろ。これは落とし穴の特徴だ」

「……言われてみれば微妙に違う。でも、偶然でもこういう色の変わり方はありそう」

「落とし穴で色が変わっている場合。色が変わっている地面が正方形なんだ。自然ではこういう色の変わり方はなかなかしない」

「あっ、ほんとだ。わかりやすい」


 ルーナには罠の見分け方を教えている。

【罠感知】というスキルを取れるが、今言ったような感じで罠は経験と知識ですべて見抜けるようになっている。

 もっと別にスキルポイントは使いたい。


「ルーナ、ちゃんと昨日のうちにスキルを取ったか?」

「ん。【ドロップ率上昇】を今あげられる最大のレベル2まで取った」

「お手柄だ」


【ドロップ率上昇】はその名の通り、ドロップ率を上げるスキル。

 レベル1の時点でドロップ率が1.2倍になり、スキルレベルを上げるごとに+0.2されていき最大の10まで上げると3倍にもなる。

 単純に狩りの収穫が三倍になる。ぶっちゃけた話取らない理由がない。みんなこのスキルを欲しがるが前提条件がなかなか厄介だ。

 探索系のスキルレベルの合計が20にならないと取れない。

 ルーナの場合は、【気配感知】が10。最近レベルを上昇させた【解錠】が5。【お宝感知】が5で合計20になりようやくとれた。


 ルーナのレベルは23。レベル上昇の22と初期の5の合計27のうち、アサシン・エッジを5とり残りの22ポイントを探索に回したからこそ、このレベルで取得できた。


 普通の盗賊の場合は、状態異常にするスキルを最低二種。状態異常の成功率を上げるスキル、相手が状態異常時に攻撃倍率があがるスキルぐらいを取らないと戦力にならない。

 探索系のスキル合計20もとる余裕がなく、【ドロップ率上昇】がスキル取得時の選択肢にすら現れない。

 ……というより、【ドロップ率上昇】の条件の特定をできているものが、この世界にはほぼいないし、存在自体を取得できても隠す。冒険者たちは飯の種を人にぺらぺら話さない。


「今後レベルがあがる度に【ドロップ率上昇】のレベルを上げてくれ。10まで上がるスキルだ。そのスキルがあるかどうかで効率が全然違うからな」

「がんばる! いっぱいいっぱい稼げるようにする! それにユーヤと一緒なら、そんなに時間はかからない」


 苦笑してしまう。

 通常ならレベル二十台は一気にレベルが上がりにくくなる。


 必要な経験値が段違いになるうえ、そのせいでそのレベル帯から抜け出せない冒険者が増えるため、獲物の取り合いも激しくなり魔物を狩るのが難しくなるのだ。

 ……他にも適正レベルが四十を超えるとダンジョンの難易度が一気に跳ね上がる。ほとんどの冒険者はそこから上を目指すことがなくなり中級者向けである適正20~30のダンジョンで稼ぎ始め、より魔物の奪い合いは激しくなるという現状もある。

 

 その点、俺たちは星食蟲の迷宮のような魔物を独占できる狩場があるおかげでだいぶ楽ができる。そう苦労しないだろう。


「セレネには昨日教えた通り盾役をしてもらう。負担が大きい仕事だ。気合を入れてくれ」

「任せて。クルセイダーにとって盾役は最高の適役よ。やり遂げてみせるわ」


 実に頼もしい。

 そうして、俺たちはルーナを先頭にして探索を続けた。


 ◇


 前回と別ルートを通っていることもあり、このルートは魔物が手つかずだ。すぐに魔物を見つけた。


 長い直線の二十メートルほど先にホーン・ボア。

 猪型の魔物であり、豚肉(並)収集クエストではたっぷりとお世話になった魔物だ。

 今回は四匹の集団であり、ぐっすりと眠っている。


 四匹程度なら、やつらが近づく前にティルなら遠距離狙撃と魔法で殲滅できる。

 だが、セレネに壁をやってもらうためティルには手加減してもらう。


 セレネを加えての初戦だ。いきなり壁が壊滅すれば全滅なんて状況では戦いたくない。

 まずはセレネが失敗しても大丈夫な状況で試す。


 セレネが前にでる。

 まだ、ホーン・ボアは丸まって眠っているせいか、こちらに気付いていない。


「【ウォークライ】」


 セレネがスキルを使う。甲高い音がなり響く。

 敵意を自らに集中するさせる引き寄せスキル。

 戦士や魔法戦士も使えるが、クルセイダーだと補正がかかり、強く引き寄せられるし効果時間も長い。


 ホーン・ボアが飛び起きて突進してくる。

 セレネに向かって一直線だ。

 セレネがバックラーを構える。

 いくら防御力が高い壁役とはいえ、敵にこれだけの助走距離があり、さらにあの巨体だ。まともに受ければ吹っ飛ぶ。

 そもそも大きめとはいえ、バックラー程度で四体のホーン・ボアを同時に受け止めるのは物理的に不可能だ。


 ……通常であれば。

 セレネが魔力を盾に注ぎ込む。

 昨日、戦姫ルノアの盾の使い方は教えている。盾に隠された液状金属が膨張、固形化することにより、バックラー以上の長さのスパイクが飛び出て大地に突き刺さり、根を張る。


 これこそが戦姫ルノアの盾の守りにおける使い方だ。大地に根を張ることで大重量の突進も受け止められる。

 セレネが腰を落とし、全体重を盾に預ける。そこからさらにスキルを発動。


「【城壁】」


 盾から光の壁が広がり左右数メートルをカバーする。

 クルセイダー専用スキル。盾の効果範囲を広げ、さらに自らの重量と筋力、防御力と魔法防御力を上げるスキル。

 複数の敵を受け止めることも可能。


 二十秒程度だが、このスキルにより戦士などとは比べ物にならない守りの力をクルセイダーは手に入れることができる。


 最大レベルが10のスキルだが、クルセイダーなら何も考えずに全振りするべきスキルであり、クルセイダーの代名詞。

 ……ただ弱点もありスキル終了後、三十秒ほど使用不可になる。使いどころは考えないといけないだろう。


 次の瞬間、重い衝突音がした。ホーン・ボア四体が盾と光の壁にぶつかる。


 光の壁に受けて衝撃はそのまま盾へと伝わる。

 歯を食いしばってセレネは耐える。地面を抉りながら後退させられる。しかし、バランスは崩さず踏みとどまる。

 数秒後、ホーン・ボアの勢いが止まった。


 俺とルーナが走る。今だにセレネに突っかかっている左右のホーン・ボアに悠々と渾身の一撃を叩き込む。

 セレネの正面にいたホーンボアにはティルが山なりに放った矢が降り注ぎ崩れ落ちた。


 最後の一体は、仲間が倒れたことで狼狽し背を向けて逃げようとする。その判断は間違いだ。セレネ相手に絶好の隙を晒した。


 スパイクが収納される。

 セレネが盾を水平にする。

 そして、俺が昨日の模擬戦で見せたように思いっきり踏み込んで、腰を入れて盾で突く。腕が伸び切る寸前、スパイクが音速に近い速度で突き出す。

 腕の振りとスパイクの二重加速。

 昨晩、俺が徹底的に叩きこんだ動き。

 ……一つだけ俺のものとは違うところがある。

 クルセイダーであれば、この一撃をさらに強化できる!


「【シールドバッシュ】!」


【シールドバッシュ】。クルセイダー唯一の攻撃スキル。

 その特徴は優秀な威力倍率と攻撃力の代わりに防御力でダメージ判定をすること。


【城壁】で上昇した防御力がそのまま攻撃力へ置き換えられる。

 轟音が鳴り響き、スパイクがホーン・ボアを貫き、あまりの破壊力に内側で行き場を無くした運動エネルギーが暴れまわりホーン・ボアが四散する。


「すごい威力ね……びっくりした」


 俺たち以上に技を放った本人が一番驚いている。

 戦姫ルノアが剣を持たなかった理由はこのスキルを多用するためだ。

 剣と盾を持つよりも、盾と籠手のほうが防御力があがり、【シールドバッシュ】の威力が上がる。

 ルノアは盾で防ぎ、【シールドバッシュ】で威力を跳ね上げたスパイクで一撃必殺をするという戦略を得意とした。


 この戦法には他にもメリットがある。籠手には呪力を上昇させる効果を持つものが多い。呪力が上がれば、回復魔術の効果もあがる。……もっとも、呪力上昇効果がある籠手はなかなか希少なものなので、今セレネが装備しているのはただの丈夫な籠手だが。


 クルセイダーの特性をフルに生かすには、剣を持つよりも盾と籠手が最適解となる。

 昨日、この説明をセレネにしており納得した上でセレネは戦姫ルノアと同じ戦い方をすると決めた。


「セレネ、いい壁役だった。最後の止めも良かったが、よくあの突進を受け止めてくれた」

「敵が止まってくれるとアサシンするのがすっごく楽! セレネ、ありがと」

「まあ、私はどれだけ早く動いても余裕で当てるけどね。でも、安心して撃てるっていいね」


 確実に敵を引き寄せ受け止めてくれる壁がいるだけで安心できる。

 俺たちは今まで以上に攻撃に専念できて、狩りの効率があがるだろう。


「……仲間っていいものね。いつもよりずっと楽しかったわ。さあ、先を急ぎましょう。まだまだこのスタイルを続けるには訓練が必要なの」


 興奮でセレネは鼻息を荒くする。

 どこか大人びているが、中身はあまりルーナたちとは変わらないみたいだ。もしルーナのようなキツネ尻尾があったら膨らませて、ぶんぶん振っていることだろう。

 だが、頼りになる子だ。

 これからもパーティのためにしっかりと働いてもらおう。

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