↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
演じていたヒーローが本物になったので、異世界の女勇者を支えることにした~時空騎行グランゼイト異世界英雄譚~  作者: 水辺野かわせみ
第一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

【第6話】異世界の街

 森を抜けた先に広がる平原を暫く進んだ所で、イヴはマオの手綱を引いて止めた。


「ここからは歩いて行きましょう。その魔道具は、なるべく見せない方がいいわ」


「ああ、そっか。そうだね」


 確かに、このまま街へ入れば大騒ぎになることは間違いない。


「フォースイン」


 漣はレッグバックの亜空間収納に、ハートマックを収納した。


 それから街道を折れて、クローナークの正面となる南門に向かう。


 高くそびえる城壁。


 背後を流れる大河。


 門前には、検問を行う守備隊の姿。


「そう言えば……」


 イヴがふと足を緩め、漣を振り返った。


「何か、身分を証明するものを持っていますか?」


「えっと、ごめん。何も持ってないな」


 漣はポケットを軽く叩き、肩を竦める。


「財布くらいならあるけど……多分、意味ないよね」


「ええ……」


 イヴは小さく頷き、わずかに視線を落とした。


「……」


 ほんの数秒、思考を巡らせる。


「……それでは、こうしましょう」


 顔を上げた。


「貴方は、私が雇った料理人です」


「料理人?」


「はい。ここへ来る途中、魔物に襲われ――貴方だけが生き残った」


 淡々と、しかし淀みなく続ける。


「荷物も身分証も、その際に失った。……そういうことにします」


「なるほどね」


 漣は軽く笑った。


「いいね、それでいこう。命からがら逃げてきたって感じで」


「ええ」


 イヴは小さく頷く。


「私が守衛に説明します」


 そして、声を少しだけ落とした。


「ですので……直接問われるまで、余計なことは話さないでください」


「了解」


 そうして、二人は正門へと向かう。


 守衛が二人、前へ出て並ぶ。


「お帰りなさいませ、勇者様。ご無事で何よりです」


「ええ。ありがとう」


「あの、失礼ですが、こちらの御仁は一体……」


「出かけられるときは、お一人だったと記憶しておりますが?」


 守衛二人は、漣に視線を向ける。


「彼は――」


 イヴは打合せ通りの説明をした。


「そうですか……それは大変でしたね。分かりました、それでは街に入ったらすぐに登記所へ行って登録してください。勇者様が後見人であれば、すぐに身分証を作ってくれますよ」


「ではどうぞ、お通りください」


 守衛の二人が後退りしてイヴに一礼する。


「ありがとう、ご苦労様」


 イヴと漣が入口の門をくぐろうとした直前。


「おいおい、ちょいと待った」


 守衛所から出てきた男が、イヴたちを止めた。


「シュルツ分隊長殿っ」


 守衛の二人が、男に向かって敬礼をする。


「お前たちは下がれ」


「……ですが……」


 守衛の一人が食い下がる。


「ほう、俺の命令が聞けねえってのか?」


「いえっ、申し訳ありませんでしたっ」


 二人の守衛は、シュルツの命令に従い、逃げるように守衛所へと戻っていった。


「いけませんねぇ、勇者様。街の規則を破るおつもりですか?」


 勇者様、と呼んではいるものの、男にはイヴに対する敬意を感じられない。


「私はっ、そんなつもりはありません。これからすぐに登記所に行って、彼の身分証を発行してもらいます。それの何処が規則違反なのですか」


 珍しく少しだけ語気を強めたイヴは、射抜くような目でシュルツを睨む。


「そりゃあ、どこにも怪しいところがないヤツの話しですよ」


 シュルツは人を小馬鹿にしたように口元を歪め、やれやれと大げさに肩を竦めた。


「……ノーバディさんが、怪しいとでも言うのですか」


 イヴが睨みつける。


 怯むことなく、ねっとりとした声音でシュルツは答える。


「身元不明、素性不明。加えてその名……それに」


 シュルツは漣の服を指で示した。


「その、妙な服だ。魔物に襲われたにしちゃあ、綺麗すぎる」


 空気が、張り詰める。


 漣の服は 『グランゼイト』の設定通り、防弾、防刃の他に防塵、撥水の機能があり、埃や汚れを受け付けない。


 かなり有効で便利な機能ではあるが、今はその性能が仇となったようだ。


(どうする……ここは、戦う場面じゃない……そ(・)う(・)い(・)う(・)役(・)、でいくか)


「……これは、勇者様が以前探索したダンジョンで見つけた物で、おそらく、アーティファクトだよ。弱い俺が怪我しないようにって、くれたんだ。調べれば分かると思いますけど」


 漣はまったくのデタラメを口にすると、シュルツに気付かれないよう髪をかき上げながらイヴに目配せをした。


「……必要であれば」


 わずかに間を置いてから、イヴは続ける。


「王都の防衛部に問い合わせても、構いません」


 勇者を支援する防衛部は国王の直属機関だ。一介の守備分隊長程度が易々と話ができるものではない。


「ほう」


 シュルツの視線が再び動く。


「勇者様が、そこまで仰ると」


 イヴは大きく頷いた。


 シュルツは表情こそ変えなかったものの、チッ、と小さく舌打ちをする。


「いいでしょう。ですが、勇者様だから通すんですよ? コイツは街にいる間、監視の対象とします。怪しい行動をとれば牢にぶち込みますんで、そこんとこをお忘れなく」


「分かりました。ご苦労様シュルツ分隊長」


 淡々とした声で、イヴは答えた。


「悪く思わないでください。街の安全は、我々守備隊の責務。疑わしきは確認する。それが規則ですので」


「ごもっとも」


 漣は軽く肩を竦める。


 そのとき――。


 ――ボンッ!!


 乾いた爆発音と共に、黒煙が門の内側から噴き上がった。


 焦げた匂いが、風に乗って流れてくる。


「……またか」


 シュルツが露骨に顔をしかめ、舌打ちした。


「今度は何をやらかした」


 守備隊の一人が慌てて振り返る。


「分隊長、街路の方で――っ!?」


「分かってる。行くぞ」


 吐き捨てるように言いながら、黒煙の上がる方へと駆け出した。


「私たちも行きましょう」


「え? あ、ああっ」


 何か思い当たることでもあるのか、イヴはシュルツを追う。


 門をくぐり、少し走ったところで――。


 煙の中から、ひとりの少女が飛び出してきた。


「げほっ、げほっ……いや、ちょっと待って、今のはおかしいって……!」


 ショートボブの少女は、ローブの裾を焦がしながら、ぶつぶつと何かを呟いている。


「計算は合ってたはずなんだけどなぁ……」


 顔を上げ――。


 そこで、ぴたりと動きを止めた。


「……あ」


 守備隊。勇者。そして、見知らぬ男。


 こちらに向かってくる顔ぶれに、少女は目を瞬かせた。


 数秒の沈黙。


「……何か、皆さんお揃いで」


 遠慮のない一言。


「リーナ・リーン、さん」


 シュルツの声が低く落ちる。


「今度は何を爆発させたんです?」


「いやー、ちょっと魔力圧縮の実験でさ?」


 悪びれた様子もなく肩を竦める。


「ちょっとだけ暴発しちゃって」


「〝ちょっと〟で済む規模じゃあないでしょう」


 ぴしゃりと切り捨てる。


「あとで報告書を出してくださいよ」


「えー、また?」


「当然でしょう」


 取り付く島もない。


 そのやり取りの最中。


 リーナの視線が、ふと漣へと向いた。


「……で」


 じっと見つめる。


「その人、誰?」


「や、こっちのセリフなんだけど」


 間髪入れず返す。


 一瞬の間。


 そして。


 リーナの口元が、ゆっくりと歪んだ。


「へぇ」


 興味を見つけた顔。


 リーナの視線が、漣の服をなぞる。


「……変わった格好してるね」


 一拍おいてから、にやりと笑う。


「うん、キテレツだ」


「キテレツ?」


「そう。かなりキテレツ」


 即答。


「ボク、リーナ。リーナ・リーン」


 軽く手を振る。


「よろしく――って言いたいとこだけど」


 ちらりとシュルツを見る。


「君、何かやった?」


「いや、やってないし」


「そう?」


 軽く笑う。


「まあいいや」


 くるりと踵を返しながら、


「ね、イヴ。あとで詳しく聞かせてよ」


「……まずは後始末を」


 イヴが静かに言う。


「えー、めんどくさいなぁ」


 ぶつぶつ文句を言いながら、守備隊の方へと向かう。


 去り際、ちらりと振り返った。


「逃げないでよ?」


 漣に向かって、指をひらひらと振る。


「ちょっと面白そうだからさ、キ(・)テ(・)レ(・)ツ(・)くん」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。