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演じていたヒーローが本物になったので、異世界の女勇者を支えることにした~時空騎行グランゼイト異世界英雄譚~  作者: 水辺野かわせみ
第一章

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【第4話】勇者様は食いしん坊

 日の傾きかけた森は、異様な静けさに包まれていた。


 つい先ほどまで響いていた衝撃音も、咆哮も、すべてが嘘のように消え去っている。


 残っているのは、踏み荒らされた地面と、かすかに漂う血の匂いだけ。


 イヴァンジェリンは、ゆっくりと息を吐いた。


「……はぁ……」


 肺の奥が、まだ熱い。


 ――生きている。


 その実感が、遅れて全身に広がってくる。


 視線の先には、赤いジャケットの男。



〝貴方は、誰?〟


〝ノ(・)ー(・)バ(・)デ(・)ィ(・)……何処にでもいる、ヒーローさ〟



「……」


 警戒は解けない。


 あの戦い方。


 あの力。


 魔力も加護も一切感じられなかったのに、強さは神託の勇者に匹敵する。


 正体不明の戦士。


 本来であれば、距離を取るべき相手だ。


 それなのに――。


「……何を、しているのですか」


 気づけば、そう問いかけていた。





「この鳥、食べられるよね?」


 先ほどの鳥型魔物の肉を捌きながら、漣が尋ねる。


「え……?」


 イヴァンジェリンは一瞬ぽかんとして、それからようやく質問の意味を飲み込んだ。


「……ああ、イクティノスの事……ええ。ただ、臭みがあって、あまり美味しくは……」


「大丈夫。食べられるなら、何とかなる」


 手際よく解体していく。


 鳥、と言っても相手は魔物、大人ほどの大きさがある。


「もも肉だけで、十分だな……」


 羽根は毟らず、皮を剥ぐ。


「……って……」


 動物の解体など、やった事はない。


 それなのに、自然と手が動く。


 何処にナイフを入れればいいか、考えなくても分かる。


「これも、グランゼイトの……」


 さっきの戦闘でもそうだった。


 銃の扱いも、動きも、技も、すべて。


 身体が覚えていた。


 あっという間に、肉だけを切り取る。


 左右合わせて、10Kgほど。


 非常食には十分だ。


「どうする? ここで野営する?」


「え?」


 辺りにはもう、薄闇が迫っていた。


「……いえ、少し移動しましょう。ここは、血の匂いが強いわ」


 イヴァンジェリンはそう言って、周囲を見渡し指笛を吹いた。


 何かを呼ぶように。


 だが――。


 何も起きない。


 暫く待って、もう一度。


 何の気配もしない。


「……行きましょう」


 諦めたように首を振って、イヴァンジェリンは呟いた。


「ああ、ちょっと待って」


 漣は、腰のレッグバッグに手を伸ばす。


「えっと、確かこれって……」


 バッグ上部のボタンを押して、地面に置いた肉に左手をかざす。


 そして――。


「フォースイン」


 手の紋章が緑に輝き、一瞬のうちに肉が消え、視界の端に、【STORE】と表示された。


「……収納、魔法……?」


 イヴァンジェリンが小さく呟く。


「まあ、そんなカンジ。さ、行こうか」


 二人は、風上に向かって歩き出す。


 運のいいことに、暫く進んだところで小川を見つけた。


「水場もあるし、この辺りにしましょう」


 漣は注意深く周囲を見渡す。


 どの方向にも敵対者の存在はない。


「じゃあ、俺は、飯の準備をするよ」


「助かります。私は焚き木を拾ってきます」


 イヴァンジェリンは少しだけ笑顔を見せ、焚火に使えそうな枝を探しに行った。


「……さて、と」


 漣はレッグバッグ側面のボタンを押す。


〝いろいろと馴染めない文化もあるだろうから、僕からの特典も付けておくよ〟


「それって、多分……」


 意識を向けて、中(・)に(・)あ(・)る(・)も(・)の(・)を思い浮かべる。


「――フォースアウト」


 すると。


 す、と目の前にそれが現れた。


「お、やっぱりね。結構いい仕事してくれるな、メビウス少年」


 思った通り、出てきたのは日本の調味料。


 醤油、ごま油、料理酒。生ニンニクと生ショウガのチューブ、鶏ガラスープの素。塩に黒コショウ。それに片栗粉とサラダ油。


 加えて、アウトドア用調理セットにガスコンロ。


「じゃ、始めるか」


 料理は一人暮らしで慣れたもの。


 レシピもWEBで見つけた。


 肉を適度な大きさに切り、ボールに入れて、料理酒、醤油を適量。


 香り付けのごま油、チューブの生姜、生ニンニクを足し、鶏ガラスープの素と塩、粗挽きの黒胡麻を振ってよく揉み込み、一つずつ片栗粉にまぶしていく。


 料理酒もそうだが、チューブ入りの生姜とニンニクが調味料扱いなのは何気に嬉しい。


 サラダオイルをフライパンに注ぎ、コンロに乗せて火をつける。


「それ……魔道具、ですか? 初めてみるわ……」


 焚き木を拾って火の準備を終えたイヴが、興味津々な目でカセットコンロの火を覗き込む。


「こんな、小さな火がたくさん輪になって並んで……しかも青い……」


 彼女は、割と好奇心が強いようだ。


 そして――。


 じゅわぁぁぁ……。


 肉が油に落ちた瞬間、空気が弾ける。


 一気に広がる香り。


 油の中で、肉が踊る。


 泡が弾け、表面の色が少しずつ変わっていく。


「……フライドミートですか?」


「うん、まあそんなトコ」


「まさか、こんな所で宮廷料理を食べられるなんてっ」


「そんな、大袈裟なもんじゃないけど……」


 きらきらと目を輝かせたイヴに見つめられて、照れくささを感じながら漣は料理を続けた。


「さ、どうぞ。俺の国の料理だから、口に合うかどうか分からないけど」


 皿に盛りつけられた肉の表面は、カリッとした黄金色。


 油がわずかに滴り、月明かりを受けてきらりと光る。


「はいっ。実はさっきから、この香りにお腹が鳴りっぱなしなの。とても美味しそう、ありがとうございます」


 そう言って、渡されたフォークを肉に突き刺す。


 少し息を吹きかけて一口。


 サクッ。


 軽やかな音。


 次の瞬間――。


「んむぅっ」


 途端に変な声をあげた。


「え?」


 イヴはその切れ長の瞳をこれでもかというくらいまん丸に見開いて、さらにぷるぷると震えている。


「あ、やっ、マジで口に合わなかった……」


 日本人好みな味付けは、いかにも西洋人な彼女には合わなかったのかもしれない。


「ご、ごめんっ。すぐ作りなお……」


 だがイヴは素早く咀嚼して、ごくりと飲み込んだ。


 暫くの沈黙の後。


「おいっしいいいいいぃ!!」


 歓喜に満ちたイヴの叫び声が、薄闇の空に響いた。


「これがっ……あの鳥(イクティノス)の肉……!?」


 そのまま、二つ目。


 三つ目。


「え、え、やだ、うそっ……これ、ダメっ」


 とても食事をしているとは思えない艶っぽい声で呟きながら、イヴは次々と唐揚げを口に運ぶ。


「ええと、気に入ってもらえた?」


「はい、はいっ。それはもう。凄く美味しいっ」


 気づけば、皿は空になっていた。


「……」


「……」


 沈黙。


 ぱち、と焚き火が弾ける音だけが響く。


「……っ、申し訳ありません!」


 はっとして、イヴァンジェリンは頭を下げる。


「とんだ、無作法を……」


「いや、気に入ってもらえて、嬉しいよ」


 漣は笑って、次の肉を油に落とす。


 じゅわ、と再び音が弾ける。


 その音に、イヴァンジェリンの視線が引き寄せられた。


「……あの」


 気づけば、口が動いていた。


「もう一つ、頂いても……よろしいでしょうか」


 ほんのわずかに、耳が熱い。


「遠慮なくどうぞ。まだまだいっぱいあるから」


 漣は、そう言って揚げたての肉を差し出す。


 イヴァンジェリンは、それを受け取り――。


 今度は、ほんの少しだけ、遠慮しながら口に運んだ。



お読みくださりありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
リメイクでもやっぱりいっぱい食べて美味しく食べるイヴちゃん・・・良き。
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