第22話 王太子の悩み |王太子の側近(2)
「なぜそんな誤解を?」
(誤解、ですかねえ……)
乳兄弟として幼い頃からルカヴィスの傍にいて、いまは最側近としてルカヴィスを見ていれば『それ』が誤解とは思えないのだった。
「そんな目で見るな。確かにあのようなデザインは好みだ」
(素直だな)
「好みだ、が、二人きりのときの話だ。なんでセラフィナが他の男のために肌を晒さなければならないのだ」
(だから、証をね……って、このままでは話が進まない)
「エアロファーネ侯爵家のオーレリア嬢とブリーズリーフ男爵夫人のせいです」
「社交界の二大問題児ではないか」
問題児と表現したが、二人とも子どもではない。オーレリアは今年十九歳で成人済み。ブリーズリーフ男爵夫人は今年二十七歳で、年の離れた夫と死別した未亡人である。
「問題を起こすのも一種の才能なのです」
「聞きたくないのに、聞かなくてはいけないのがつらい」
「良い判断です。あの二人、昨日のお茶会でセラフィナ様に『私、殿下とはとても親しいお付き合いをさせていただいておりますの。そしてこれからも……その意味、お分かりですよね?』と言ったそうです」
「……神の愛し子相手に喧嘩を売ったのか、バカなのか?」
「それが……あの二人、セラフィナ様が神の愛し子だと信じていないそうです」
「証を見ても?」
「背中パックリな魅惑的なドレスを着ていらっしゃるのに、『平民の女に愛しい子の証があるわけがないわ、馬鹿馬鹿しい』と言って見ていないそうです」
「周りは愛し子と認めてもか?」
「ご自分の目で見ていない者は信じないそうです」
エリオットの言葉にルカヴィスはしばし考えこみ、首を傾げる。
「見ないのに、『自分の目で見ていないから信じない』って、どうしろっていうんだ?」
「本当ですよねえ。それにしても二人揃って示し合わせたように同じことを言うとは、問題を起こすタイプって思考が似ているんですね。それに引き換えセラフィナ様は周りの言葉をよく聞く方ですから、あの二人が問題児であることを聞いて二人の言葉は信じませんでした」
「信じてくれたのか」
「嬉しそうな顔をなさっているところ申し訳ありませんが……以下はセラフィナ様のご発言です。そのままの発言です、脚色ゼロです。私を恨まないでくださいね」
前置きしたエリオットは大きく息を吸った。
「『殿下ってお胸の大きな美女がお好きなの。夜鳴亭のアリアさん、夢の館のセレナさん、木漏れ日亭のサリさん。殿下というかルカの元カノだけど、三人ともお胸の大きな美女で色気もすっごくあるの。目線を向けるだけで男性を五、六人射貫ける感じの物凄い色気なのよ』……しっかり知られていますね、殿下」
セラフィナの口調のまま彼女の言葉を教える。物真似はエリオットの特技であり、いつものルカヴィスなら笑ってくれるのだが――。
「別に胸が大きな女性が好みというわけではない」
「そうですか?」
「……男にはないものだし、触るなら触り甲斐のあるほうがいいだろう?」
(触れる胸がたくさんあるモテ男の台詞だな、おい)
「……違う」
「なにが?」
棘のある言葉が出た気がしたが、気のせいだ。決してモテない男のひがみではない。顔もいいほうだし、家柄も問題ないし、三男なので面倒臭い「跡取りうんぬん」がない好物件だとエリオットは自負している。
(この三年間恋人がいないのは仕事が忙しいせいだ、うん)
「別に胸が大きな女性が好みなわけではない」
「まあ、なんでもウェルカムでしたものね」
「人を最低男のように言うな」
無言で見つめ返すと、ルカヴィスはすいっと目を逸らした。
「確かに最低だったかもしれない。いままでは好みなどなかったからな。でもセラフィを好きになってからはセラフィが俺の好みだ」
「それを私におっしゃられても、そういうことはセラフィナ様に……と思いましたが、最後の名ゼリフまでの迷ゼリフがクズ発言なので私でよかったですね」
「そうだな……なんか、疲れた」
「過去のある男は大変ですね」
(どこかで誰かと楽しく汗をかきながら気晴らしをしている間、私はずーっと仕事をしていましたからねえ)
自分は結構ルカヴィスを恨んでいたのだな、とエリオットは自分の気持ちを認識することができた。
「それでお胸の件ですが」
「お胸、言うな」
「セラフィナ様はご自身の胸に手を当てられ、盛ることを検討したそうです」
「でかい胸が俺の好みではない」
「ですから、それを私に言っても仕方がありませんし、知られている内容が内容ですからねえ。と、それはさておき、盛ることにはバランスの悪さなどを理由に双子侍女が反対し、侍女長は『お持ちのもの』で勝負するべきだと助言したそうです」
「安心したいのに、安心できないな……なぜだ?」
「殿下は予知能力をお持ちなのですね。生真面目なセラフィナ様は護衛騎士などにアンケートを取り、腰や足に魅力を感じる男が多いことを知ったため、今回のドレスは大胆なスリットも採用するそうです」
「“も”?」
「“も”、です」
「布地がさらに減っただけじゃないか! 誰だ、セラフィナのアンケートにそんな答えを出したやつ……おい。そういえばエリオット、お前は女性の魅力を胸よりも脚に感じる男だったよな? お前か!」
「誤解です」
「嘘つけ!」
「私だけではありません。セラフィナ様の護衛騎士の二人とも意見が一致し、深く理解し合い、今度一緒に飲みにいくことになりました」
「お前なあ!」
ルカヴィスに胸元を掴まれ、思いきり揺さぶられてエリオットの頭はぐらぐら揺れた。少々気持ち悪くなった。
「自分にできることをしよう、素晴らしいお考えではありませんか。しかも目的は殿下を悩殺ですよ? 惚れた女性がそんな努力をしてくれるなんて、男として嬉しいではありませんか」
「悩殺も誘惑も大歓迎だが、結婚式後にしてほしい。誘惑されても襲えない、生殺し。しかも背中だけじゃなくて脚も見えるなんて……これまでだって、彼女の背中を見た男の目玉をくり抜いてやりたい衝動を必死で抑えていたのに……」
不意に言葉を止めたルカヴィスと目が合ったエリオット。
「『背中パックリな魅惑的なドレス』、だったか?」
「……記憶力がいいですね」
エリオットはとっさに自分の両眼を手で覆った。
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