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溺愛に気づかない彼女は、つぶやきで世界を変える  作者: 酔夫人(旧:綴)


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第23話 神に愛されている女(1)

「エアロファーネ侯爵夫人がオーレリア嬢を連れて登城し、セラフィナ様に面会を求めております」


緊急といって自分の執務室にきたマルセラの報告に、ルカヴィスの眉間に皺が寄った。



「目的は、オーレリア嬢の夜会での発言か?」


「はい。ご息女の失言をセラフィナ様に直接詫びたいとのことです……いかがなさいますか?」



マルセラの発言にルカヴィスが答える前に、エリオットが割り込んだ。



「セラフィナ様はルカヴィスのご婚約者。筆頭貴族家のご夫人とはいえ、準王族になられたセラフィナ様の許可を求めず勝手に城のやってきて会いたいなど無礼極まりありません」



この国には王族の傍系が興した公爵家が二家あるが、どちらも政治には不干渉。


筆頭貴族として城を牛耳っていたリアン侯爵家が没落したあとは、国王派でルカヴィスを指示していたエアロファーネ侯爵家が筆頭貴族として政界と社交界で幅を利かせている。



「セラフィを侮っているのか……マルセラ、セラフィはどうすると言っている?」


「会うとおっしゃられております」


「そうか」


「しかし、殿下。ここで侯爵夫人の面会を受け入れてしまったら、セラフィナ様が彼女らに侮られていることを周知させてしまうのではありませんか?」


「それをセラフィに言ったか?」


「もちろんです。しかし、それでも会う、と。大丈夫だとおっしゃられて……」



心配を隠さないマルセラの様子にセラフィナがしっかり守られていることをルカヴィスは心強く思うと同時に、笑いたくなった。


セラフィナは愚かではない。


ルカヴィスからの求婚を「貴族が認めるわけがない」と理解してずっと拒絶していたくらいだ。


その求婚を受け入れたということは、セラフィナは腹をくくったということ。



「そろそろ締めておこうということだろう」


「え? 締め……え?」


「安心しろ、セラフィナはやられたらやり返す女だし、売られた喧嘩は実質的に倍で買っている」


(買っているのは神々だがな)



「しかし、場合によっては憤りを飲み込まなければいけないではありませんか。エアロファーネ侯爵家は国の重鎮、セラフィナ様もご存知ですからあまり強気の態度はおとりになれないはず」


「セラフィは立派に貴婦人の対応をするだろうさ。彼女は理不尽に慣れている、憤りも笑って飲み込むだろう」


「それではセラフィナ様が……」


「安心しろ、ちゃんと俺が彼女の愚痴を聞くから」


「……愚痴?」


「嫌なことがあったらその日のうちに愚痴って発散して忘れる主義、なんだそうだ。ストレスを抱えるのは性に合わないんだとさ」


「愚痴……」


「その愚痴を、俺の他に誰が聞くことになると思う?」



ルカヴィスの問いにマルセラとエリオットはハッとした。



「セラフィナが愛し子だと知る前は彼女の愚痴を笑って聞いていたが、今では笑えないな。相手が少々気の毒になってしまう。最近の例だと、エルダリス川で船の事故だな」


マルセラとエリオットは顔を見合わせた。



「あの事故が起きる前、ノアルドはセラフィナに貴族議員が俺たち兄弟をバラバラにしようとしていると相談し、それを聞いたセラフィナは怒って『家族に見捨てられそうになればいい』と言ったそうだ」


船の事故のあとの貴族議員たちの改めた態度を思い出したエリオットは顔色を青くした。


「あの貴族たちと一緒に難破したカリオス商会長。あの男からセラフィナはセクハラを受けてな、酒場で一杯奢りながら愚痴を聞いていたが『男しかいない島で孤立してみればいい』みたいなことを言っていた。その結果があれだ」


カリオス商会長は救助されたあと、女神を祭る神殿巡りをしながら女性への態度を懺悔し、王都に戻ると女性を支援する団体に多額の寄付をした。



「セラフィナは『愚痴ってスッキリした』と笑っていたが、な」


「真相を知っていると笑えませんよ……神の愛し子が取り扱い注意であることが分かりました」


「さすがセラフィナ様です」


「母さん、そんな満足気に……女性は肝が据わっていますね」



マルセラはエリオットの実母であった。



「それに二人は謝罪にきたのだろう? 悪いことをしたら謝る、謝ったら許す。これがセラフィの考え方だ……まあ、謝るためだけに来たわけがないがな」


「それがお分かりなら……愚痴ると言うことは、ストレスを受けることには変わりがないのですし……」


「ストレスのない生活などないだろう。真綿に包むように守ってやりたい気持ちは分かるし、俺にもあるが、俺たちよりもっと容赦なく過保護な方々がいるじゃないか。セラフィの心や体に傷をつける者の接近を彼らが許すとは思えないし、むしろ『叩きのめせ』という応援にすら聞こえる」


「……なるほど、確かにそうですわね」



納得したマルセラが部屋を出ていくのを見送ったルカヴィスは、エリオットに急ぎの仕事の確認をした。



「こっそりと観察にいくぞ」


「そう言うと思いました」

次回は 8月12日12時 に更新します。


エブリスタで先行公開しています(https://estar.jp/novels/26401692)。

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