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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第2章 悪役令嬢はヒロインになる
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08 ヒロインを探して

「ケーニッヒ男爵家、と」


 私は、まず王宮が管理して作っている『貴族名鑑』を見てみたの。

 何よりもすべき事は私の記憶にある『物語』と、この世界がどこまで『類似』しているかの確認よね。

 それが分からない事には未来の対策も何もないもの。

 そのためにはヒロインであるレーミルの存在を確認するのが一番。

 だからこその貴族名鑑なのだけど。


「あら。載っていないわね……?」


 ケーニッヒ男爵家には後継になれる嫡男がいて、その人は名鑑に載っていた。

 でも『レーミル』という名の娘はいなかったの。

 嫡男の年齢は、私の3つ上。私が学園に入学する頃には彼は卒業している事になる。


「考えられるのは私の勘違いの可能性。または歴史が変わっているとか」

「どうされたのですか、お嬢様」

「……リーゼル。いえ、何でもないのよ」


 公爵令嬢として動いて貰える人員も居るには居る。

 ただ、今の段階では事を大きくしたくないのよね。

 だから出来れば私個人で情報を把握したい。


「アリスターお嬢様。どうかお悩みなことがあるのでしたら、私でなくとも旦那様や奥様にご相談ください」

「え?」


 私は驚いて侍女のリーゼルに目を向けた。


「……お嬢様は、ここ数日ずっと悩まれていました。私、心配で」

「リーゼル」


 専属侍女のリーゼルは、他の使用人たちよりも私に距離が近い。

 普通はこんな風には言われない……いえ。それも最近の私の状況では別か。


「先日、アリスターお嬢様は、王太子殿下とのお茶会から早々に帰ってこられましたよね。

 もしや、そこで何かあったのでは?」

「え? あ、あー……」


 他人から見た私は、そう見えたのかしら。


「別にお茶会では何もなかったわよ」


 逆に何もなさ過ぎたと言うべきかしら。まず殿下が来られてないものねぇ。

 リーゼルが、そのことを知っているとは思えないけど。

 状況だけ見れば私の悩みのタネはレイドリック様ということになる。当たらずも遠からずね。


「お嬢様……」

「やだ、そんなに心配しないで、リーゼル。最近のは本当に考え事をしていただけなのよ」

「ですが」


 困ったわね。それほど深刻な様子に見えたかしら?

 いえ、深刻なのだけれどね。なにせ将来のこと、未来の顛末のことに関係する。

 ヒロインの存在を確認してから、改めて私の知識にあるルートやエンディングを見定めて対策を練るつもり。

 なのだけど。リーゼルの様子を窺うと、本当に私を心配してくれているみたい。

 これは、何かしら言っておかないと納得しないわね……。


 私とお父様との関係は悪くない。

 悪役令嬢のはずの私だけど、家庭環境は良好だわ。

 だから父に相談するのは、それほど難易度は高くない。

 リーゼルがこう言うのも、そういう環境だからだろう。

 ……父と仲が良いのに、破滅するのかしら、私。

 ということは、私とお父様は将来的に関係が破綻する……?

 思い込みは良くないわね。慎重に動かないと。自分の人生なのだもの。

 状況分析は正確にしたいわ。

 ひとまずはリーゼルを納得させましょうか。


「リーゼル。貴族名鑑に載っていないけれど、後々にある家の子として家門の名を名乗れるようになるのは、どんな場合があると思う?」

「えっと? そうですね」


 私は心配させないように微笑みを浮かべながら彼女に問う。


「まず養子として縁組して、その家に迎え入れることです。ジーク様のように」

「うん。そうね」


 ジークは私の義弟。

 元々はシェルベル公爵家の縁戚の子爵家の子で、私が王太子の婚約者となったことから、公爵家を継ぐために迎え入れられた子よ。年齢は私の一つ下。

 婚約関係が上手くいった場合。

 かつ、私と殿下が子宝に恵まれた場合。

 後の王子・王女となる内の誰かが、シェルベル公爵家を正式に継ぐことになる。

 ジークはその間の『代理公爵』の座に座る予定ね。

 広大な領地を持つシェルベル家だから、管理者は常に必要になるのよ。

 お父様・お母様の実子でないため、そう容易には爵位を引き継ぐことはないけれど。

 両親に何かあった場合は、滞りなく彼がシェルベル家を回せるようにと教育を受けている。


 そして、そんなジーク・シェルベルも『攻略対象』の一人だった。

 その名は私の記憶にあるものと相違ないし、その出自もやっぱり記憶通り。

 レーミルを確認するまでもなく、やっぱりこの世界は乙女ゲームの世界、と思うわ。

 レイドリック様と同じく彼のルートでも私が自然と障害になる立ち位置だ。


「あとは血の繋がりがある、庶子などが居て、改めて迎え入れる場合でしょうか。

 対外的には養子縁組と変わりありませんが、血の繋がりが確かだと示す方が法的には価値がありますね」

「うん。そうね」


 庶子がいる。つまり、愛人やらが居て、他所に子を作った。

 血縁があったとしても手続きを取らなければ、その子に爵位や財産が与えられることはない。

 そして貴族としては一応、そういった話は醜聞でもある。

 ウィクトリア王国は、魔法による発展の影響なのか。

 前世の記憶にある、あちらの国の昔よりも女性蔑視の向きは軽度なの。

 だから、この国では女性にも爵位を継ぐ権利が元からある。

 歴史の元を辿れば、要は『武力』によって立場を示すことが出来たから……が少なからずあるはず。

 この世界では、その点が男女平等だ。


 そうは言っても前世の、特に日本と比べれば、個人の自由よりも、子を成す事の方が重視されている。

 それは爵位によって定められた身分制度があるからで。

 男と女の役割は変えることが出来ない以上、やっぱり……という面はあるわね。


 そういうわけだから貴族であっても愛人を作るだとか、そういうことには思ったよりも寛容ではないの。

 きちんと不貞だと非難はされる。

 それと同時に『血を繋ぐ子供ができるか否か』もまた重要視されるのだけれど、ね。

 子供を産めない妻の立場は、あまりよろしくないのは確か。

 それでも庶子がいること、愛人がいることなどが明らかとなれば、貴族としては醜聞なのが我が国よ。


 だけど血の繋がりがあることは法的には認知されやすくもあるの。

 人からは白い目で見られつつ、問題なくその子に権利は与えられるように出来るってことね。

 まぁ、どういう事情かはケースバイケースだもの。

 子に罪はないと言われるように、別に庶子だからって、その子が悪いわけではないから。


 問題は、レーミルが男爵家の庶子だったかよね。

 ヒロインはそんな設定だったかしら?

 私の知っているゲームと、この世界は似ている。

 名前も同じ。物語の流れも大まかには分かる。

 だけど私は、そのゲームのタイトルも思い出せない。

 いくつかプレイした中にそれがあった、という曖昧な記憶だけがある。

 多く溢れた同様の作品群の中のひとつ。

 なら大まかな……基本設定は同じと見るべきか。

 ヒロインは男爵家の庶子で。ヒーローたちは高位貴族の令息たち。

 悪役令嬢は私ひとり。最後には破滅することで物語の締めくくりになる存在……。


「庶子かぁ」


 じゃあ、今どこにいるかは簡単には分からないわね。

 ケーニッヒ男爵家の領地のどこかで暮らしているのかしら。

 ヒロインと言えば平民に近い立場に居るのがスタンダードよ。

 それは、きっと『読者』が一般人だから感情移入しやすくするために。

 黒い髪と黒い瞳の、一般人的な感覚の強い、普通の容姿……これには疑問あり……の可愛い女の子。


 あと王道なのはヒロインの髪の色が桜色のパターン。

 『ピンクブロンドのヒロイン』ね。

 色の濃淡はあれど、その系統の髪をしていることも多いわ。金髪なのも王道だったりするかしら。


「どなたかを探しているのですか?」

「……ううん。いいの。ありがとう、リーゼル」


 公爵家の伝手を使ってケーニッヒ男爵に庶子がいるかを調べることは出来る。

 でも、その動きを誰かに知られたくないのよね。

 それは、やっぱり私が『ある事』を警戒しているから。

 もちろん、それは……私以外の誰かが転生者であること、だ。

 それっぽい動きをした時点で、あっという間にバレると思うの。

 他の誰よりも、きっと私は注目されてしまうから。

 それこそ現代用品を提案して売りに出したりすれば『あ、こいつ転生者だな』って分かる人には分かってしまう。

 『悪役令嬢』の立場で、それが得策とは思えないのよね……。


 出来れば相手に対策を取られたくない。破滅する身としてはね。

 情報アドバンテージは確保しておきたいわ。

 ヒロインが物語通りの純粋な子であったなら……。

 いえ、そうであったとしても、やっぱり私が道を譲るのはおかしいと思うけれど。



 それからも私は、大きな動きをしないようにしつつ、『物語』とこの世界の類似性を調べていったの。

 独自の調査ノートに情報をまとめて。

 思い出せる限りのゲーム情報の書き出しと、現実世界の裏取り調査。

 ケーニッヒ男爵家に庶子がいるかは分からなかったけれど。

 攻略対象となる男性たちのほとんどは、たしかにこの世界に存在していることが明らかになったわ。

 その名前と境遇も物語と同じ。


 ただ、一人だけ。

 はっきりとしていない人物が居た。

 それは境遇、設定的に妥当ではあるのだけれど。


「ヒューバート・リンデル」


 リンデル侯爵家の次男。

 たしかに、その名を持つ男性は貴族名鑑には載っているのだけれど。

 若い世代の社交の場に出てきたことはない。

 リンデル侯爵家自体があまり表舞台に出てこないわ。

 主に領地の運営を大人しくしていると思われているし、現実で回ってくる話もそう。


「……だけど」


 私が思い出した前世の記憶において。

 ヒューバート・リンデルは。いえ、リンデル侯爵家は。


「王家の影の、一門」


 侯爵家というのは表向きの顔だ。

 これは王妃教育を受けている『私』でも知らされていない事実。

 公爵であるお父様なら知っている可能性はあるけれど。

 知っているはずのない事を知っている、ということは命に関わりかねない。

 この国は王族が居て、身分制度がある国なのだから。


「……この情報は、慎重に扱わないといけないわね」


 ヒロインか、或いは王家の影について明らかになれば。

 もう、ここはやはり私の知る物語の世界と同じと見てしまっても良いだろう。

 そうして、私がそれを知る機会は、すぐに訪れたの。

 私は、ある事業に目を付けた体で、リンデル家との交流を持ちかけたのよ。

 その事業とは『疑似毛髪』の作成。

 ……ウィッグのことね。

 王家の影であることを考えれば、それは、おそらくお洒落や身だしなみのためじゃなくて。


「変装のため、かしら」


 ウィッグ事業自体に興味が湧いたのは本心だったのよ。


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