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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第2章 悪役令嬢はヒロインになる
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07 ゲーム世界と彼女の目標

 ここはゲームを舞台にした世界。そして、私はその登場人物だった。

 物語の中に入り込んだ? 前世で死んだ魂が……。

 でも憑依について考えたように、私は確かにアリスターとして生きてきたわ。

 ゲーム上には登場もしなかった人々も、この世界で生活していることを知っている。

 私の主観、基準は前世にはない。

 あくまで私は、このウィクトリア王国に生まれたアリスターだ。

 だから、どちらかと言えば、今思い出した乙女ゲームの記憶の方が後付けのように感じる。

 むしろ、未来を伝えられたような、そんな感覚だった。


 物語に入り込んだのではなく、未来を啓示された、と。

 個人の記憶すら曖昧な前世の記憶は、この記憶に比べれば『ついで』のようなものだろう。

 ……そう。だから思い出したのかしら? 私自身に待ち受ける運命を知るために?

 だとしたら私は神様を信じればいいのか。


 ちなみに、この国が信仰している教義の神様は、女神様よ。

 教会の在り方とかは、前世の方を詳しく知らないけど……。

 神官服など見慣れないものもあれば、シスター服はなんだか前世でも見覚えのあるものに近かったりするわね。


 ……待って。たしかヒロインの攻略対象に大司教の息子がいたわ。

 神官服って彼をメインにデザインされたんじゃないかしら?

 少なくとも前世のゲーム事情的にはそうよね。

 だからシスター服は見慣れたようなデザインなのに神官服は、ちょっと小洒落(こじゃれ)た雰囲気なのね。

 まぁ、なんだか世界の真理を知ったような感覚よ。


「……申し訳ないわね。少し体調が悪くなってきたの。

 もう少し殿下を待ちたかったけれど、私、先に帰らせてもらうわね」

「えっ! あ、は、はい……」


 私が大人しく紅茶を飲んでいたのを気まずそうに見守っていた王宮使用人に言伝を託す。

 レイドリック様は遅れてやってくるのかもしれないし、初めから来る気もないのかも。

 なにせ相手が悪役令嬢ですものねぇ……。

 いえ、理由がそれだというのは因果が逆だとは思うのだけれど。

 物語上では元々、私が学園に入る前から私たちは不仲だったりしたのかしら?

 ……ダメね。

 整理して考えないと流石に私でもこれ以上は無理。今とても混乱しているわ。

 淑女としての振る舞いを崩さないギリギリを保ちつつ、早めに屋敷へ帰る。

 馬車に揺られながら程なくして王都にあるシェルベル家の屋敷へ着き、自室へ向かった。


「お、お嬢様? お早いお帰りですね」

「少し体調を崩してしまってね。早めに帰らせて貰ったのよ」

「まぁ!」


 屋敷の侍女たちに心配をされつつ、すぐにまた部屋に引き籠ることに。

 新たに気付いてしまった記憶と、そしてこれからすべきことに思いを馳せたの。



◇◆◇



 乙女ゲーム。

 女性が主人公で選択肢によってルート、つまり辿る運命が変わり、そして結ばれる男性が変化する。

 私が前世の記憶から引っ張り出した、この世界に該当する物語の記憶は、たしかに私を含めたこの世界の人々を示していた。


「まずヒロインは、レーミル・ケーニッヒ。男爵令嬢」


 黒い髪と黒い瞳の、おそらく日本人プレイヤーを意識した主人公の造形ね。

 少女漫画などでありがちな『平凡な見た目の普通ぐらいの』と容姿を説明されているにも拘らず、キャラクターのイラストは物凄く可愛らしい。

 絶対にモブになるわけがない美少女な見た目をしているタイプ。

 そんな美少女がモブ扱いになるわけないでしょ、ってツッコんだなぁ……。


 ゲームのスタートは、レーミルが王立学園に入学してから。……なるほど。

 王族も公爵令嬢も、そして平民までもごった煮で入学させる、この国が身分社会なことを考えれば効率的というよりもトンデモな学園があるのは、さてはそのせいなのね……?


 いえいえ、だからそれは因果が逆なのかしら。

 王妃教育も含めて私はウィクトリア王国の歴史を知っている。

 この国は確かに連綿と歴史を紡いできた国よ。

 だから私が転生してから初めてこの国が生まれたってワケじゃない。

 絶対に物語に出てこないような人物たちの過去にも、波乱万丈なエピソードが転がっていたりするもの。

 だから、ゲームをクリアしたら世界が崩壊するとか、そういう心配はなさそう……?


 どちらかと言えば、この世界は元から確かにあって。

 あっちの乙女ゲーの存在の方が異常なんだと思うわ。

 私の魂がここにある以上、知覚できなくても何らかの繋がりはあったワケだから……。

 世界を越える記憶なのだし、時間さえも越えて、この世界の『未来の情報』を電波として受け取ってシナリオが書かれたとか、そっちの方が信憑性がある。

 だって現地に『私』が居るのだもの。


 細かい記憶は曖昧だけれど、私の知っているこの物語は唯一無二のヒット作などではなかったはず。

 同様の作品が量産され、多くの物語がゲーム・小説・漫画・アニメとメディア展開されていた。

 だからかストーリー構成の大まかな部分は、基本を押さえたものになっているわ。



 ヒロインはレーミル・ケーニッヒ男爵令嬢。

 学園に入学してから彼女には様々なイベントが発生し、その都度に選択肢を選んでルートが分岐していく。

 攻略対象と呼ばれるヒーロー役たちは複数人。

 その中には当然のように王太子であり、私の婚約者でもあるレイドリック・ウィクター様もいるわね……。

 まぁ、王子は外せないヒーロー役だものね。特に異世界が舞台なら。


 私は遠い目をして前世のシナリオライターさんに思いを馳せたの。

 この世界観設定で王族を出さないのは、たぶんユーザー受けとか悪いんだろうなって。

 私は自分のことを『悪役令嬢』と呼んだけれど、言い換えればヒドインとか、ライバル女みたいな。

 そういう役回りの女キャラクターを指している。


 恋愛主軸で女主人公だと、男キャラクターが敵対したって、もうそれは『恋愛フラグ』にしかならないのよねぇ。

 読者のカップリング妄想力を侮ってはいけないわ。

 なので必然的に悪役になるキャラクターも女キャラになる。

 白雪姫の母親とか、シンデレラの意地悪なお姉様みたいな存在よ。


 ……男キャラが心底の悪役になる場合、貞操の危機の方が強く感じるし。

 家族や恋人の恨みぃ! なんてタイプのキャラだと、やっぱり逆に恋愛フラグに変換される。

 だから男キャラで悪役を出すぞー、ってなるとまぁ『ぐへへ』系になるのよね。

 そういう事情だから悪役と言えば、恋敵になるライバル女になる。

 そして悲しいかな。

 そのポジションなのが今の私。

 『悪役令嬢』アリスター・シェルベルなのだ。


 ヒーロー役となる男性たちは、王子を含めた高位貴族の令息たち。

 加えて身分的なことに言及すると大商人の息子や、大司教の息子などが純粋な貴族とは別枠にあるわね。


 王太子。騎士団長の子。宰相の子。大商人の子。大司教の子。

 悪役令嬢の義弟。……私の義弟ね? これ。

 歳の離れた王弟殿下は年上枠。そして年下枠は魔塔の天才児。


 それから……王家の影の攻略対象も居る。

 正確には影候補というか、そういう一族を輩出する家があるの。

 前世で言えば諜報機関の長の家系という感じね。暗殺者とかじゃないと思うけど……。

 王国と現代日本の倫理観を比較すると一番キナ臭いヒーロー役かもしれないわ。


 ゲームの期間は、およそ学園生活の2年間。

 王立学園の在学期間自体は、3年間あるけどね。

 このゲーム期間は、たぶんレイドリック様が年上で、1年先に卒業してしまうからよね……。

 どのルート、どのエンディングを選ぶとしてもまず『共通ルート』となるシナリオがあるの。

 ほぼ全ヒーロー役が顔出ししてくるパートね。

 ヒロインが1年生の間は、この共通ルートを過ごすことになる。

 そこで『ヒロイン』レーミルは少なからずヒーロー役の全員と絡む。

 その関係上、レイドリック様とも絡み、多少なりと気に入られることになるわ。


 ……だから。

 レイドリック様の婚約者アリスターは、自分が認めて貰えないのに彼女を構う彼の姿を見て嫉妬する。


 つまり不可避の共通ルートで、アリスターはレーミルと敵対関係になるの。

 ということで、誰のルートでもお邪魔虫化しちゃうのが私ね。

 ヒーローごとに悪役令嬢・ライバル令嬢がいるパターンじゃないシナリオだわ。

 どのルートでも悪いのは、ぜーんぶ『私』ってタイプのストーリーね。

 もう少し悪役について、しっかり考えていただけるかしら? シナリオライターさん。


「あっはっはっは……、はぁ」


 とはいえ、各種のイベントは私が巻き起こすものじゃない。

 時間経過で確定で発生するイベント類や、個別イベントが生じた上で、私はその障害になる案を思いつく感じね。


 ヒロインが誰とくっ付くかは重要じゃない。

 ほぼ確定で悪役として貧乏くじを引くのが私の役回り。

 それぞれに小者の悪役はいるけれど、物語の中盤から終盤にかけての大きな障害となるのが私よ。

 だから、ラスト前には盛大に倒されてゲームはハッピーエンドへ辿り着く。


「……世界観としては、世界が破滅に向かっている系じゃないのは幸いね」


 魔法のある世界で、かつ魔獣なども出てくるものの、それは主題じゃない。

 あくまで恋愛が主題であり、誰とくっ付くか? が、ゲームのメインストーリー。

 ヒロインの特別な能力がなければ王国に破滅が訪れる……ってわけではないので、そこは少し安心。


「んっ」


 チリチリと頭の奥が痛んだ。

 考え事をし過ぎたかしら。すべて正確に覚えているわけじゃないから、ここは決めつけない方がいいかも?

 万が一を考えると権力の行使でヒロインをゲーム開始前から排除する、っていうのは止めた方が賢明ね。

 何か私の知らないことで取返しのつかないことが起きるかもしれない。

 バレれば醜聞だし。

 王家の影という諜報機関まである以上、逸脱した行為は見破られる可能性も高い。

 公爵令嬢と言えども深刻な罰が与えられる危険性があるわ。

 ……そもそもヒロインが良い子なら、手を出したくないわよね。

 自身の破滅を回避するためとはいえ、善良な人間を手にかけるなど出来ない。


「物語通りの世界なのかの確認方法は、ヒロインがこの世界に存在するかどうかを探ることね」


 レイドリック様のような方たちは、正確にその存在を今の時点で知っている。

 でも男爵令嬢のレーミルまでは今の私では分からないわ。

 ただ、ケーニッヒ男爵が王国の貴族であることは分かっているから、そこから調べれば……。


 私の記憶にある前世の日本では、この手のストーリーは山ほどあった。

 その中には、今の私と同じような境遇に陥った主人公たちも沢山いたの。

 それらも参考にしていくと……。

 ここから私のすべき事としては、王道なのがゲームに関係する人々に極力関わらないこと。

 レイドリック様とも婚約は破棄される前提で立ち回り……。


「……いえ、それはダメね」


 ゲーム部分を理解して、悪役令嬢になった『私』が破滅を回避することだけを考えもしている。

 だけど同時に、公爵令嬢アリスターであることも強く今の私を形作っていた。

 王太子の婚約者を退けられれば、どうあれ私は傷もの扱い。

 ヒロインには勝てないと諦め、破滅を逃れるためだけに道を譲って。

 それで破滅を逃れても、残るのは『王太子にフラれた傷もの令嬢』だ。


 長女の私が王家に嫁ぐ予定のため、我が家はシェルベル公爵家を継ぐための養子をとっている。

 婚約破棄なり解消なりされた後で、スライドして私が家督を継ぐか。

 それとも義弟に継がせるかは微妙なライン。

 醜聞がついている状態で終わった場合、流石に私が女公爵になる線はなくなるでしょう。


 ……そんな末路を許容できるかと問われれば。

 私には許容できそうにない。

 『なぜ私が引かなければならないのか』と。そう思うの。

 知ってしまった未来の情報に怯え、ヒロインに道を譲り、己の破滅を防ぐことだけに精一杯になる。

 そして安全な道を選んだだけの、色々なものを失った『私』が残るのだ。

 かつての輝いていた公爵令嬢アリスターが。小さな幸せだけを有難がるように。


 ──そんな人生は嫌よ。


 だから。私がすべきことは、最終的に望んだ未来を掴むこと。

 破滅しない、不幸にならないことは『前提条件』に過ぎない。

 ただ、破滅しないだけを求める人生なんてお断り。


 バッドエンドを避けることは『目的』じゃない。

 ハッピーエンドに到達することこそが私の目標よ。


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