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偽りのピンクブロンド【商業化予定】【全体改稿予定】  作者: 川崎悠
第2章 悪役令嬢はヒロインになる
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05 アリスターの目覚め

「うーん……」


 学園に入学する前。私は、頭を悩ませていた。


「アリスターお嬢様。どうされたのですか? ここ数日、ずっと唸っておられますけど」


 専属侍女のリーゼルが心配そうに私の様子を窺ってくる。

 ここはシェルベル公爵家にある私の部屋だ。

 見慣れたこの部屋を『広い』と感じるのは、私の意識にある記憶が原因。

 私が悩んでいる理由もまた、その記憶のせい。


「大丈夫よ、リーゼル。心配しないで。今後のことについて悩んでいるだけだから。しばらく一人にしてくれる?」

「かしこまりました、お嬢様」


 聞き分けのいい侍女に微笑みを浮かべて対応し、下がって貰う。

 そして私は誰にともなく呟いた。


「私。私は……アリスター・シェルベルよ」


 私が生きてきた記憶は確かにある。

 生来、頭の良かったらしい私は、うんと幼い頃からの記憶さえも残っていた。

 それらはたしかに『私』の記憶だ。


「だから憑依……じゃ、ないわよね、これ」


 一体、私が何を悩んでいるのか。それはね。

 思い出しちゃったから、なの。

 ……いわゆる『前世の記憶』っていうやつを。


 しかも、その前世の記憶が、この世界の、この国のものならまだいいわ。

 いえ、よくないけど。

 問題なのは、ここではない国の、世界の、記憶を私の前世は持っているっていうこと。


 前世の私は『日本』という国に住んでいた女だった。

 平民、というか一般人ね。

 どこそこの深窓の令嬢だとか、そんな記憶はない。

 マンション暮らしだった気がするし、本当に一般家庭の出よ。

 日本は日本でも近代というか、ええと、年号の記憶が曖昧だけど……。

 パソコンとかスマホがある時代の、日本の一般人女性。それが『前世の私』だった。


 始まりは3日前の朝だ。

 私は、いつも通り公爵家の屋敷の自室で寝ていて。

 朝に目が覚めると……『あ、私、日本で生きていた記憶がある』って。

 夢なのかどうか曖昧な記憶が、いつの間にか、当然のように私の頭にあった。

 混乱もしたし、若干の熱もあったけれど。

 今世の私の身体は優秀な脳みそを持っているらしい。

 それらの情報は、意外とすんなりと処理されて熱も引いていった。


「……私も元・現代日本人のはしくれ。この手の話は見聞きしたことぐらい沢山あるわ」


 異世界で目を覚ますってパターンね。

 うん。だって今の私、髪の毛と瞳の色がさ。真っ赤なの。

 それもコスプレ感のある赤じゃなくて、まさに『地毛』って感じの天然の赤髪。

 あと、かなり……美人さん。


 自分で言うの恥ずかしいな。あとスタイルいー。維持が大変だわ。

 あれ、でもそこまでプロポーション維持に苦労してない?

 ハイスペか! と自分で自分にツッコミを入れる始末。

 そんな事情なので、まず一つずつ私は、自身の現状を確認していく事にしたの。


「何よりも大事なのは、今こうして考えている『私』が何者かということ」


 たしかに私は今、この身体を動かしているけれど。

 でも、だからイコールこれが私の身体とは限らない。

 そう。いわゆる『転生』ではなく『憑依』ってヤツね。

 私は最もそれを警戒したの。……でも。


「やっぱり、どう考えても私は私、よね。アリスター・シェルベルだわ」


 他人の実感がないの。

 というより異物なのは明らかに『前世の私』の方だし。

 そもそも、その前世の記憶が、かなり曖昧なもの。


 たとえば前世の私自身の固有名が思い出せない。苗字も下の名前もだ。

 そして、出身地がどこだったのかが分からない。

 地名とかは分かるのに、自分がどこに住んでいたのかがピンと来ない。

 口調とかも方言を使っていたならハッキリするだろうけど、それもない。

 生家の記憶も(おぼろ)げで……。

 おそらく都会寄りの場所に住んでいたんじゃないかな? ってぐらい。

 たぶん、田舎暮らしだったら、それはそれで特徴的でわかると思うの。

 だけど、そういうのもハッキリしない。

 私の人格の大部分を占めているのは、やはりアリスター・シェルベルだった。


「……これ以上は考えても仕方ないかしら」


 この世界は、前世と根本的に違う部分があってね。

 それは『魔法』というものが存在していること。

 幸いなことに私が暮らすウィクトリア王国は、魔法によって生活基盤を築いており、衛生観念が発達している。

 そう。なので水道・下水関連がキチンと整備されていて、トイレやお風呂がちゃんとしているの。


 これだけは本当に助かった、と思ってしまうのは、やっぱり前世に引き摺られているのかな。

 公爵家だから衛生管理がきちんとされているのかもだけどね。

 また食生活だけれど、日本食的なものはなさそう。

 でも『私』は特にその事に不満がないのよね。


「そりゃあそうかしら? だって私は私だし」


 この国はパンが主食の国なのだけれど、その点に不満は覚えなかった。

 生まれた頃からそうだったものね。


 魔法があるのだから、と。

 私は私の『魂』を探ろうとしてみたけれど、よく分からない。

 というか無駄なことな気がして断念した。

 どこかで魂関係のスペシャリストと出会ったなら、私が転生者なのか憑依者なのかをはっきりさせて貰いたいと思う。

 前世の記憶を思い出した後と前で特に考え方は変わっていない。

 好きな異性とかの記憶も……うん。変化なし。


 やっぱり私はアリスターだということを念入りに確認していったわ。

 思い込もうとするんじゃなくて噛み締めるように。

 『私は別人じゃない?』『本当にアリスターを乗っ取った誰かじゃない?』ってね。

 自己分析と哲学の最果て、みたいな自己問答を延々と繰り返していたの。

 この3日間ずっとね。そのせいで侍女のリーゼルに心配されちゃった。


「私はアリスター。アリスター・シェルベルよ。誰に何を言われようと」


 前世の記憶は、文字通りに『私』の前世ということで。

 これから先も念入りに確認しつつ、それは自信を持って生きていきたいわ。

 まず、今世で学んだ記憶の方が『重い』しね。

 重いというか量があると言うべきかしら。

 私は、公爵家の長女だから。

 そのため、ただの貴族令嬢よりも学ぶことが多く厳しい。

 それに加えて私は王太子レイドリック様の婚約者だった。

 だから私は更に王妃教育なるものも受けている。

 前世の記憶を思い出したものの、それらの高等教育を学んできた私の記憶は失われていない。


 ……言っては何だけど、前世の一般家庭。

 平和な国で暮らしてきた『私』よりも、よっぽど今世の方が勉強しているわ。

 そういう状況だから、私同士での記憶対決なんかすると情報量で今世の私が圧勝しちゃう感じ。

 うん。やっぱり前世の記憶の方が『後付け』って感覚が拭えないわね……。

 まぁ、だから。私は憑依した『悪霊』なんかじゃなく、ただの『前世持ちのアリスター』って事で。


 ええ、改めまして。

 よろしくお願いしますわ。ウィクトリア王国。


がっつり転生者が主人公な話を書いたことがないので。

挑戦してみます。


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