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偽りのピンクブロンド【WEB改稿版】  作者: 川崎悠
ロバート編(改稿済み)

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40/48

【40】2回戦目

 ヒューバートは相変わらず堅実で地味な勝ち方をしていた。

 まだまだ2回戦ではバラけた実力者たちが勝ち上がっていく流れだ。

 参加者もそれなりに多いけど騎士科以外の学科からの参加者は流石に苦戦しているみたい。


「はぁッ!」


 ミランダ様が再び華麗に勝利し、そのまま会場から剣を私に向けてくる。

 パフォーマンスまでしっかりしていらっしゃるわ。

 2戦目を勝てたら、次はとうとうミランダ様が相手なのよね。

 彼女の動きを観察するに剣術もきちんと鍛錬してきたのがわかる。

 付け焼き刃の私では流石に技術負けしそうだわ。


 ただね? なんとなくなんだけど。

 こうして戦いのために力を示すみんなを見ていると。

 全員、魔力コントロールがずいぶんと荒いというか。

 コントロールの上手さ・荒さは……どう言えばいいのかしら。

 見える魔力放出量が〝滑らか〟じゃないのよ。


 意識に直結している魔力の扱いは、戦闘という刹那の場面において相手に動きを知らせるようなもの。たとえば『右ストレートのパンチを繰り出す』時にどのように力むのか。

 一瞬、歪んで膨れ上がって見えて、その動きが読める。

 もちろん、こちらが『身体強化』で能力を引き上げているのも重要なのだけど。


 レイドリック殿下、ロバート、ミランダ様はこれが顕著でわかりやすい。

 3人共、如何にも魔力出力で強気に押していく行け行けタイプ。

 ヒューバートとドノバン嬢は魔力コントロールが流麗で、戦闘素人の私からすると動きが読みづらく、こっちの方が相手にしにくそうだわ。

 剣術の分野だけならロバートが一番なのは間違いないでしょうけど。

 私が戦う時に苦手な相手はヒューバートとドノバン嬢の方ね。

 これを活かせば、意外とミランダ様が相手なら勝機があったりするのかも。


『アリスター・シェルベル公爵令嬢!』


 ま、それも私が2回戦を勝ち上がれれば、の話だけど。


「よろしくお願いするわ」

「ハッ!」

「……?」


 2回戦の相手は騎士科2年生の男子生徒。1回戦の相手と比べて一気に手強くなりそう。

 レイドリック殿下タイプなら勝機あり。

 ヒューバートタイプなら、もう基本剣技と魔力出力でゴリ押しするしか今の私にはない。


「はじめっ!」


 2試合目が始まった。それはそうと対戦前に目の前の男は私を鼻で笑った。

 貴族特有の悪意ありって雰囲気。なら気をつけておきましょうか。


「ほら、かかってきなよ、お姫様」

「…………」


 2試合目の男は如何にも魔力の流れにムラがあるタイプだ。

 殿下たちの場合はムラがあっても密度が上で、如何に相手の動きを読めたとしても力で押し込まれてしまいそうなもの。

 対して、この男の魔力はムラがある上で密度が薄い。

 保護と強化の両面で考えても防戦重視じゃなさそう。

 とすると速攻か、力による押し込みスタイル。カウンターの線もあるかしら。

 体格はいい、鍛えてもいるのだろう。利き腕は右手ね、魔力がそっちに偏っている。


「おいおい、ビビってるのかぁ?」


 まだ魔力の流れに乱れはなし。ただ、なぜかさっきより密度が薄まった?

 人間がコントロールしているのだもの。その精神性は反映されてしまう。

 鍛えていれば絶えず全身に張り巡らせていられると思うのだけど。


 逆にこちらの油断を誘うためかしら?

 魔力の流れも戦い慣れた者たちの間では駆け引きに使うもの?

 ありえるわね。私の打てる手は限られている。

 私のできることをやるならば、最大まで魔力密度を上げて『身体保護』と『身体強化』を最高の状態で維持し続けること。

 私の魔力コントロール技術と魔力総量ならばそれは苦ではない。


「…………」

「おい! かかってこいって言ってんだろうが!」

「…………」


 集中する。

 敵の身体の動きに惑わされず、魔力の流れに意識をフォーカスして。

 身体の強化と保護を持続していると己が何かの達人にでもなったように感じる。

 人間を人間ではなく〝魔力の塊〟として認識して、すべてを見て知るような。


 ……来る。

 魔力のムラが増えた。足に力が込められ、突進する前兆。


「無視してんじゃねぇ!」

「シッ!」

「!?」


 突進に合わせ、その動きから予測できる方向をズラして動く。

 視線のブレ。より相手の視野が狭まり、思考と身体がズレたのが丸わかり。

 集中すると、こんなにも魔力は語ってくれるのね?

 これは長年、この世界で私が続けてきた魔力コントロールの鍛錬成果だ。

 王妃教育における魔術鍛錬は派手なものではなく、ひたすらコントロールを重視する。

 王族の前で魔力を暴走させないためにね。

 剣の腕も、魔法の腕も、まだまだ未熟な私だけれど。

 魔力コントロールだけは誰よりも厳しく制御してきた自負がある。

 今、それが活かされている。


「ぐっ!」


 敵の動きが予測できる。私自身は予測した動きに合わせた速度で動き回れる。

 ……楽しい。意外と。前世ではなかったはずの感覚。

 私って剣を振るうのが、戦いが、けっこう好きなようだ。

 それが武術の嗜みとして程度なのか。それとも、もっと血生臭いものなのかわからないけれど。

 日本人的な温和な性質は生憎と前世から引き継いでいない。

 あくまでこの身は、この世界に生きるアリスター・シェルベルのもの。


「くっ、ちょこまかと動き回って!」


 相手の動きを予測しながら視界に捉え切れないように死角へ、死角へと動き回って翻弄する。

 超人的な動きかもしれないが、それは前世の世界基準。

 身体強化の魔法があるこの世界ならばこの程度は普通だろう。


「くっ、くそっ、こら!」


 ……隙だらけ。

 わざとか、誘っているのか、それとも本当に隙なのか。

 経験不足から判断しかねる状況。ならば残るは私の決断のみ。

 カウンターと回避を念頭に全力で打つ。


「はぁッ!」


 ──ドゴッ!


「ぎゃ!」


 動きで翻弄したあと、隙だと思った魔力密度の薄まった胴へと剣を叩き込んだ。

 見事にクリーンヒット。

 回避はされなかったが、カウンターを警戒して、すぐさま私は離脱する。


「げごっ、かはっ……なっ」


 男は吹き飛ばないまでも数メートル横へ移動。

 攻撃がまともに当たってダメージも入っているように見える。

 それでもなお警戒は怠らずに集中。


「がっ、くぅ……」


 魔力の揺らぎがより大きくなる。一撃喰らえば誰でもそうなるか。

 私も気をつけなければいけない。ヒューバートなら同じ状況でも動じなかっただろう。

 ……次は、あえて攻撃を喰らってみる?

 薄まった魔力密度を見るに私の『身体保護』は抜けないように感じた。

 逆にそれがこちらの油断狙いなら、もう勉強代だと思うしかない。

 私は動き回るのを止めて今度は構えたまま相手を待ち受ける。


「くそがぁッ! よくもやりやがったな!」


 怒りがそのまま魔力の流れにも影響を与えているようだ。それでも、あの程度。

 ゆっくりにさえ思える相手の攻撃は大きく振りかぶられ、私の頭に打ち込まれる。


 ガッ!


「なっ……」

「…………」


 身体保護の魔法は魔力の鎧を纏うようなもの。

 当然、頭部の攻撃を受けたって魔力の鎧に当たるだけ。

 私の場合、とくに量と密度のある魔力で身体を覆っているから。

 頭部に鉄の剣での攻撃を受けたとしても何も影響を受けなかった。

 相手の全力の一撃。そのあとに続く魔力の揺らぎはなし、と。

 むしろ爆発的に高まっていた魔力が翳り、密度が薄くなっていく。


「シッ!!」

「がっ!」


 私は相手の剣を打ち払って弾き飛ばす。

 そのまま相手の首元へ剣を突きつけてチェックメイト。


「終わりね?」

「あっ……」


 武器を失った相手にこうした時点で降参の意思がなくとも審判が勝敗を決める。


「しょ、勝者! アリスター・シェルベル!」

「ん」


 スッと剣を引き、私は男から距離を取る。

 背中は見せないわよ? 敵意が消えていないものね。

 男女格差がそれ程にない世界といっても男は女に負けたら恥だと思うもの。

 それはこっちの世界でも変わっていない。

 なので試合が終わろうとも警戒を解かず、かつ優雅に微笑みを浮かべながら下がった。


「……ッ!」


 男は納得のいかない顔を浮かべていた。騎士科出身で自信もあったのだろう。

 勝って当たり前だと私を見下していたのがわかる。

 実力で上回ったはずだけど負けた時の気持ちじゃ言いがかりぐらいはつけたくなるかもね。


「審判、今のは──」

「もう一度やりましょうか?」

「!?」


 風魔法で男に届くように宣言してあげた。男の言葉を遮るように。


「何度やっても、何度やっても。私が勝つでしょうけれど。なんなら、そちらは他の攻撃魔法を解禁してもよろしくてよ? 今ので『お前』の実力はわかったから」


 ニィ、と嗜虐的な笑みに感じるように圧をかけて微笑んであげる。


「ふふ……。お前程度、いくら攻撃魔法を使ってこようが私は身体保護と強化だけで処理できる。 ああ、だけど覚悟なさい? お前の、その小さなプライドで正当な勝敗にケチをつけるのだから。今度は私、審判が止めようともお前への攻撃を止めないわ。剣技大会の勝敗なんて私には関係がないのだから。好きなように、思うままに振る舞うわ。やられたら、やり返す。倍以上にして。今日からお前に監視もつけさせましょう。逆恨みするような性根をしていそうだもの。これから徹底的に追い込んで、追い詰めて……ふふ。ああ、これからが楽しみ」


 ああ、私、悪役令嬢しているわぁ……。

 しかも別にそんな自分が嫌ではなかったりする。

 やっぱり私は私自身らしい。前世があっても変わらないのね。

 ちなみに魔法で相手の耳に直接台詞を叩きつけている。

 唇を読まれると内容はわかるけど声は遠くまで聞こえていない。糸電話みたいなものよ。


「どうする? 引き下がる? 観客や審判に至るまで動員して、今の試合の審議をしてもらう? どちらがみっともなく言いがかりをつけたのか明らかになるでしょうね」

「う……」

「より多くの監視がある中で再試合をしましょうか? ねぇ、驕るほどの実力もない分際で一丁前に自信があった貴方。いいことを教えて差し上げるわ。私、剣をまともに握ったのも、剣の鍛錬を始めたのも1ヶ月に満たないの。つまり、お前のこれまでの鍛錬は、その実力は、私の1ヶ月以下の価値しかなかったの。まったく弱いし、みっともない。もっと鍛えてから大会に出てきなさい? 情けない」

「…………」


 あ、顔色が青くなっていっていたところが、今度は涙目になった。

 魔力もシオシオと萎んでいっている。戦意喪失したわね。


「……あのぅ。それぐらいで……。再試合とかないですし。それに反則とかも今の試合にはありませんでしたから。いくら彼がごねたって俺が認めませんよ。むしろ黙らせます」


 と、審判役の人……現役騎士だ……が言ってきてくれた。


「あらそう? ありがとう、じゃあ終わりで」

「はい、貴方の勝ちです」


 うん。言いがかりもなさそうだし、傷ついたプライドを守るために怒り狂って襲ってくるとかもなさそう。じゃあ、2回戦も無事突破ね。問題ない。ヨシ!

 次の相手はミランダ様だわ。


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