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偽りのピンクブロンド【WEB改稿版】  作者: 川崎悠
ロバート編(改稿済み)

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39/48

【39】剣技大会

 試合会場は4か所あって、序盤は4試合が一斉に開始される。

 その中の初戦にはレイドリック殿下の試合があり、開始早々で注目の一戦だ。

 スケジュールで言えば2回目にロバート、その次にフィオナ嬢の試合があり、その辺りでヒューバートの試合が挟まれる。

 さらに次がミランダ様の試合。


 見事に注目を浴びないような、人気選手たちの合間に挟まれる試合タイミングのヒューバート。

 しれっと勝って目立たずフェードアウトしそうな気しかしない。

 それでいて、そこそこに勝ち上がる。3回戦ぐらいまで行くかしら。

 その辺りでコソッと、わざと負けそうねぇ。

 むしろ注目したい。その『絶対に目立たない』という強い意思を込めた試合運び。


 そして1回戦の最後に回ってくるのが私の試合となる。

 対戦表と試合順のプログラムを見るに間違いない。わざとかしらね、これ。

 注目させていいのか、させない方がいいのか悩んだんだろうな。


 なんだかんだ言っても私の肩書きは『王太子殿下の婚約者』のまま。

 本来ならば堂々と注目を浴びせたいけど、実力もわからないし、どんな人物かもわからない。

 学園に在籍しているけど、ほとんど姿を見せず、かと思えば期末考査に突然に現れて堂々と首席を取っていった怪人物。それがアリスター・シェルベルだ。

 謎すぎるわね、我ながら。


 選手用の観戦場所もあるし。麗しの婚約者様の第一試合ぐらいは見ておきましょうか。

 ……この辺りで『アリス』を匂わせておくとか、どう?

 もしかして同一人物なんじゃないか? とか思ってくれるといいわよね。

 なにか今、完全に別人判定をされていて逆に面白くない気がするし。

 よーし、その路線で行きましょうか。

 『アリス』スマイルでレイドリック殿下を応援して差し上げましょう。

 ギャップ萌えよ、ギャップ萌え。


『──これより本年度の剣技大会を開催いたします。第一試合、選手は会場へどうぞ』


 風魔法系の魔道具による音声拡張、すなわち『マイクとスピーカー』でアナウンスされる。

 こういうところがアレよね。

 本格中世系の異世界とは程遠い、前世の現代風というか。

 やっぱり、ゆるふわ乙女ゲーム世界だわ、ここ。すごくチグハグ。

 この世界で純粋に生きていれば気にならないんだろうな。

 そんなことを考えている間に始まるレイドリック殿下の1試合目。


 風魔法による音の拡張ぐらいなら初級の域だから私にもできる。意外と便利な使い道。

 拡張してキチンと聞こえるように調整して、と。


 ススーっと殿下の試合会場近くへ移動し、すれ違う人たちからギョッとした目で見られる。

 何よ、いじめないわよ? 悪役令嬢がお通りなだけ。

 深く息を吸い込んで魔法を使ってっと。


「レイドリック様! がんばってー!!」

「!!?!?」


 元気いっぱいに『アリス』スマイルで、アリスターの私のまま、殿下を応援してみた。

 失礼なことにビクッとして、こっちに注目するレイドリック殿下。

 あら、危ない。それは隙よ。


「ぐっ……!」


 あわや、対戦相手の攻撃をまともに喰らいそうになる殿下。

 うーん、集中力がないわね、鍛え直し。


「おおおっ!」

「うわっ!」


 そのまま試合は続き、華麗な剣技とは言えないゴリ押しパワースタイルで押し切って、どうにか勝利するレイドリック殿下。


『1回戦! レイドリック・ウィクター殿下の勝利でーす!』


 軽快なアナウンス。マイクパフォーマンスに情熱を傾けていそうな生徒がいるわね。

 そして、ズンズンと怒り肩と怒りの表情でこっちに向かってくるレイドリック殿下。

 やだ、こわぁい、アリス、そういうのきらぁい。


「ゴム魔法・耳栓」


 完全防音じゃないけど、ちょっと聴覚保護しておく。


「貴様っ! アリスターッ! 私の注意を逸らして試合の妨害をするとは何のつもりだッ!」


 ……と。

 怒られちゃった、てへっ。

 『アリス』効果とは逆に『アリスター』効果でなんでもマイナス判定されるのよねー。


「あらまぁ、応援されて怒るとは驚きですわね、レイドリック殿下。その言動、王家の影を通じて国王陛下にご報告致しますわね」

「なっ!」


 やっぱりアリスターに対しては何もかも気に入らないらしい。

 なぜそうなったのか知らないけど。憎々し気に私を睨むのは、いったいなんなのかしら?


「そんなに応援されたくありませんでした? あれしきのことで集中を乱す方が情けないと思いますが」

「っ……! お前に応援されて嬉しいとでも思うのか?」

「何をおっしゃっているのやら。本当に大丈夫ですか? 心身が不調であればすぐに療養なさってくださいね。時に頭を休めるのも、己の言動をゆっくりと見直せて良いと思いますわ」

「なっ……!」


 思わず溜息が出る。私たちは、1年以上前は仲睦まじかった。

 こんなにギスギスとしたやり取りなどなかったのだ。

 きっとゲーム上の『私』もこんなふうに突っかかられては、わけもわからずに『どうしてなの、レイドリック殿下……』と思ってウジウジしていたのだと思う。


 レイドリック殿下は強めに返してくる今の私に驚愕している。

 威圧すれば私はそうやって嘆いたりすると思われているのだろう。

 だけど今の私は殿下から『アリスター』への態度に期待していない。

 彼が怒鳴りつけてくるのも、こう何かホルモンバランスでも崩れたりしているのかしら? なんて思うぐらい。生温かい目で見てしまう。


「アリスター!」

「1回戦突破、誠におめでとうございます、レイドリック殿下」

「っ……!」


 怒鳴りそうになったタイミングで祝辞を述べて礼をする。

 もっと怒鳴りたいのだろうけど、そういうバッド・コミュニケーションはお断りだから。


「しかし、私に応援されただけで照れ隠し(・・・・)とはいえ、そのように真っ赤になって、照れて(・・・)声を大きくされても困ってしまいますわ」

「なっ!?」


 照れ隠しとか、照れての部分を風魔法で強調して周りに聴こえ易くしてあげた。

 はい、これでデレデレなレイドリック殿下の出来上がり。


「子供っぽいですのね、殿下はもう。そんなに照れないでくださいませ」

「照れているんじゃない!」

「ふふ。まぁ、照れ隠しを。お可愛らしい、微笑ましいですわ、殿下」

「ぐっ、この、アリスター!」

「皆様、真っ赤になって照れる殿下なんて貴重ですわ! どうぞご覧になって!」


 手振りで私たちを見守る者たちの視線を誘導する。


「ぐっ! 違う!」

「殿下、今は何を言っても恥ずかしくなりますわよ?」

「……くそっ!」


 逃げるように去っていくレイドリック殿下。

 片方が怒鳴り散らしてギスギス感を出すと不仲なんだな、と思われるだけ。

 でも顔が真っ赤になる彼と、その姿を微笑ましいと軽くあしらいながら笑う私の姿を見れば、私の言葉通りに『ああ、殿下の照れ隠しか』と思われる。

 レイドリック殿下本人の心象は悪くなっても周囲の評価はそれほど下がらない。


「ふふ、彼、可愛らしかったでしょう?」


 レイドリック殿下を見送った私は満足そうな笑みを浮かべて周囲に同調を求める。

 苦笑いで誤魔化される皆さん、なかなかいい空気じゃないかしら。

 少なくとも沈痛な面持ちではないわ。

 ここで別の女が現れて私を貶める空気にしない限りは大丈夫そう。

 ……なんとなく嫌な視線は感じたものの、決してその視線の方向へは目を向けない。

 『ヒロイン』がその辺にいそうだものね。私はさっさと場所を移動することにした。



 それからロバート、ドノバン嬢の試合が続く。

 その中でやっぱり、しれっと静かに始まるヒューバートの試合。

 どれだけ目立たなくても絶対に見てやるんだからね! もはや、ちょっとした意地である。

 私は生来、負けず嫌いなのだ。


 立ち上がりは静か、型通りの構え。突進はせず、じりじりと距離を詰める。

 相手は逆に速攻型でヒューバートに攻めいってくる。

 避ける余裕ぐらいはあるでしょうにヒューバートはその攻撃を受け止めた。

 ガギン! と音を鳴らして力比べ。すぐに弾いて何度か打ち合う。

 白熱する剣戟というより鍛錬の延長線のように。

 そのうちに、ぬるりとヒューバートの剣が相手の腕を強打する。


「ぐっ!」


 呻き声を上げる相手。ヒューバートは表情を変えず、構えすら崩れない。

 注意して見ていれば明らかに実力差がある。

 相手は騎士科の1年生だ。相応に動けていることから鍛錬もサボってはいないはず。

 それなのにこの差だ。流石は攻略対象の一人。その辺りの人物では相手にならないか。

 そのあと、何度か打ち合いを続けてからヒューバートの一打で相手がその場に剣を取り落として終了。

 弾いてどこかに剣が吹っ飛んでいくなんて派手な演出もない、ひたすらに地味な勝利。


 順当に考えると、ロバートやレイドリック殿下が相手だって負けないハイスペックのはずなのよねぇ、ヒューバートって。だって同格のヒーローなんだもの。

 その片鱗を垣間見た気がするわ。

 けれどキャラ特性か職業病か、ひたすら目立たない。

 とくにこの大会で一番輝くだろうロバートたちとは華々しさが違った。


「……」


 ふと、そんなヒューバートと目が合う。

 『アリスター』の私が、ずっと彼の試合を観戦していたことには気づいたのだろう。

 つながりを悟られたくないから互いに声はかけない。

 でも、私はわかるかわからないかぐらいの動作で静かに頷いてみせる。

 ヒューバートはそれに気づき、同じような動作を返してくれる。

 阿吽の呼吸というか、アイコンタクトが通じているわねー。

 あ、少しだけヒューバートの頬が緩んでいる。ああいうところ、ちょっと可愛いわよね。

 労いの意図は伝わっている様子で良かったわ。


 次はミランダ様の試合だ。ミランダ様は素人目に見ても華麗な戦い方をする。

 華がある人ね、ミランダ様。華麗な勝利を収めて終わったわ。

 これで全員が順調に1回戦を勝ち上がった。そうして私の番になる。


『……と、アリスター・シェルベル公爵令嬢です!』


 対戦相手と私の名前が読み上げられる。

 4試合を同時に進めているけれど、注目されているのがわかる。どよめく会場の空気。


「よろしくお願いします」

「……よろしくお願いします」


 相手は魔術科の一年生女子。さて、初めての対人戦はどこまで通用するかしら?


「はじめっ!」


 審判の声がかかり、緊張の一戦が始まった。

 立ち上がりは様子見、相手も同様。経験不足があまりに顕著だから。

 油断をする気はない。基本に忠実でいつつ、最大限の力をもって。

 ヒューバートの戦い方を真似るんじゃないけど受け手に回りましょうか。

 負けたってなんのリスクもない。この試合から可能な限りの経験値を得るつもりで。


「……やぁあ!」


 痺れを切らした相手が突進してくる。

 それを見てから、こちらも合わせるように動く。


「はっ!」


 ガギン! 相手の攻撃に合わせて剣をぶつける。

 当然、相手も身体強化と保護の魔法を纏っている。


「っ!」


 冷静に分析するように相手の動きすべてを観察し、次の動きに予測が立てられないか思考する。


「ぁああっ!」


 相手からの猛攻が始まった。

 ヒューバートのようにすべてを避けはせず、打ち合いに持ち込む。


 強化込みで私の方が基礎スペックは上かしら。相手が手を抜いていないのであればだけど。

 何度も彼女の剣を真っ向から受ける。大振りになった攻撃は受け流すようにして距離を開いて。

 どちらかというと防戦一方の私に猛攻を仕掛ける彼女は有利と思ったのかギアを上げてくる。


 ガギン! ガギン! ガギン!


 彼女の魔力量はやはり相応にある。代わりに剣を振るう動きが微妙な印象。

 それを言えば私と同じタイプの相手。

 こうして対人で競い合う機会はなかったけど、この相手なら勝てそうな気がする。


「っ……!」


 猛攻を凌ぎながら観察を続ける私に彼女は違和感を覚えたのだろう。その表情が変化する。

 私には余裕がある。彼女には焦りが生まれる。


「そこっ!」


 ガキンッ!


「きゃっ……」


 緩んだ手を逃さず、鋭く切り払う。

 彼女は剣を手放してしまい、その剣が飛んでいった。


「うっ……ま、参りました!」

「ふふ」


 けっこう余裕のある勝利だったわ。私、対人戦、初勝利!

 これは自信につながるわねー。


「うぅ」

「貴方もがんばったわよ」

「はい……、ありがとうございます」


 試合後の握手を交わし、相手を労ってあげた。

 高揚感を感じる。やっぱり『勝つ』のって気分がいいものよ。

 視線を巡らせると、まぁまぁ! ずいぶんと注目されていること。

 とにかく第一戦、勝利! うふふ、素直に嬉しいわ。


※2026年6月19日に改稿しました。

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