【33】聖霊のロザリオ
ヒューバートと協力し、事態の終息に当たる。
互いに変装中の身のため、正式な通報者になることは困る。
「警備に突き出すにせよ、事情の説明が難解ですね。信用されるかどうか」
「そうね……」
ここで起きたことはいったいなんだったのだろう。
『聖霊のロザリオ』を媒介とした魔獣召喚?
魔法陣が残っていれば証拠になったかもしれないが私が焼き尽くしてしまった。
そして黒ローブの男たちの正体は? 彼らはなんの目的でこんなことをしたのか。
王都の中で魔獣を呼び出すなんて。
先程の魔獣が街中に現れていたら、どれだけの民に犠牲者が出たか。
「レーミルは、この事態に陥ることをわかっていたのかしら。それともヒューバートが解決すると思っていた……?」
「俺がですか?」
「……たぶん」
あの余裕のある態度。
一連の事件は彼女にとって『知っているイベント』だったのだと思う。
だが、もしもそうだとするならば。
民に被害が出かねない状況を未然に防ごうともせず笑っていた?
ヒューバートの活躍はゲーム中、あまり語られない。
詳細については彼女だって知らなかったという線もまだあるが。
アルスにはどう伝えたものか。
私たちはこのあと、この男たちを連行して事情聴取を受ける?
「ヒューバート、このあとはどうするべきかしら」
私は彼にそう問いかける。
ヒューバートは人差し指を折り曲げて顎につけ、少しだけ考え込む仕草をする。
「……正式なところに捜査させた方がいいですね。ただし、ここで何があったか自体は秘匿した方がいいかと」
「そう……」
魔獣召喚が人為的に成されたなんて酷い話もいいところ。
民に報せれば混乱の元となるだろう。であれば秘匿は当然か。
「……そういった調査機関に渡りはつけられる?」
「ええ、まぁ」
「では任せてもいいかしら。もちろん手伝うわよ」
「いえ。……ただ」
「うん」
「そのロザリオですが、それも証拠品として提出しても? お嬢としては何かありますか?」
「ああ、これは。どうかしら、別に」
証拠品にするのならアルスの手元に返るのが遅れてしまうが。
それは仕方ないことかしらね。
私は、手に持っていた『聖霊のロザリオ』を改めて見た。
銀色のアクセサリーで手の平に収まるサイズ。
先程までは魔法陣によってなんらかの力を引き出されていた? のか。
先代教皇猊下が『奇跡』を込められた遺物。
アルスが手に入れれば何かしらの効果を発揮するのかもしれない。
祈れば何かのご利益があるのだろうか。
「知らないわねぇ」
アルスイベントとして出てくる『聖霊のロザリオ』はその時限りのイベントアイテムだ。
レーミルにとっては入手価値がなかったのか。
さっきの男たちはゲームでは見たことがない……。
かろうじて登場していたとすれば、やはりヒューバートルートの暗躍する者たち?
彼らにとってはなんらかの意味があるものだった。
それは先程の魔法陣と魔獣が証明しているわね。
うん。ついで祈っておこうかしら?
なんだかご利益があるっぽいアイテムだし?
ここは異世界。ファンタジー要素がある、魔法・奇跡のある世界だ。
であるならば真摯な祈りもまた価値を持つだろう。
というか『奇跡』とは、そういうものだし。
私はスタンダードな祈りの姿勢を取り、『聖霊のロザリオ』に祈りを捧げてみた。
「お嬢?」
どうか、このロザリオに関わる事件で民が傷つくことがないように。
また『私』が破滅の終わりを迎えませんように。
ダメ元だった。思い立ち、興味本位で試してみただけ。
それでも、それは真摯な願いでもあった。
カッ!
「え」
聖霊のロザリオから光が溢れ始め、驚く。
え、え? まさか、本当に?
「お嬢!」
「あ、いいの、これは」
何か悪い感じがしない?
光は優しくロザリオから溢れ出し、染み渡るように私の中に入ってくる。
熱く、優しい。内側に滾るような光の奔流。
「ん……」
『奇跡』が私の中に宿った? 私、悪役令嬢なんだけど。
ゲームの私は限りなく万能寄りなラスボス系悪役令嬢だが『奇跡』だけは行使できなかった。
やがてロザリオからの光は弱まっていき、沈黙した。
「お嬢、大丈夫ですか?」
「ええ、体調は大丈夫、なんだけど」
「今のは」
「『奇跡』を賜ったみたい。この『聖霊のロザリオ』はそういう修得アイテムだった?」
つまり『わざ〇シン』ってこと?
魔法と違い、奇跡は賜るものだ。ありえなくはないのかもしれない。
「……何の『奇跡』を?」
「わからない……」
賜った後って情報出てこないの?
こう、ステータス画面とか便利なインターフェースはなし?
教会へ行って調べないとダメかぁ。
どうやら、今回のイベントの正式な報酬はこの奇跡の修得らしい。
アルスかレーミルが本来なら手に入れるはずのもの?
だとしたら単なる『治癒』や『解毒』ではなさそう。ちょっと怖い。
ロザリオに祈ればアルスたちも手に入れられるかしら。
ロザリオを奪還し、新たに『奇跡』を賜り、イベントを終えた。
男たちはヒューバートが呼び出した捜査官たちに美味しく回収されていきましたとさ。
うん。めでたしめでたし?
ロザリオは捜査官に持っていかれちゃったけどね。




