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偽りのピンクブロンド【WEB改稿版】  作者: 川崎悠
アルス編(改稿済み)

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32/48

【32】vs闇の眷属

「なんなのよ、こいつは!」


 問答無用で私は『黒い塊』に向かって水魔法を放った。

 室内で火魔法は危ないので控える。


「な、なんだお前たちは!?」

「それはこっちの台詞よ!」


 魔法陣から噴き出した黒い煙が形を成していく。

 それは肉となり、やがて目や鼻、口、牙を、舌を形成していく。


「……これは」

「黒い犬型の魔獣!」


 知らないわよ、こんなの! 私の知識にはない!

 でも、ここは王都なのよ? 王都の中に魔獣を召喚!?


「あんたたち、絶対に許さないわ!」


 どれだけの人がこの王都で暮らしていると思っている?

 この場で全員を捕縛し、尋問してやりたいが、それよりもこの魔獣だ。

 弱いのか強いのか。判断がつかない。まず防御を固めてからがセオリー。


「お嬢、俺の後ろに」


 ヒューバートは武器もなしにそう告げ、私を背中に庇う。

 黒いローブの男たちはまだ突然現れた私たちに度肝を抜かれている様子だ。

 黒い犬の魔獣はこの男たちにコントロールされているのか?

 それとも制御などできないものを呼び出したのか。


「くそっ、どこから入ってきやがった? いつから、そこにいやがる!」

『グルルルゥ……』


 犬型の魔獣、黒ローブの男たち、私とヒューバート。

 3つの勢力が広くもない地下室で相対している。場所は王都にある屋敷。

 絶対にこの魔獣を外に出すわけにはいかない。民に被害を出してはならない。


「ヒューバート。『どっち』に集中する? 役割分担しましょう。貴方の得意な方を選んで」


 身体強化・身体保護の魔法を全力で展開する。

 同時に魔獣と男たちを警戒、威嚇。

 魔獣は外に逃がせないが、男たちだって逃がせない。生かしたまま捕らえるべきだ。

 だが優先事項は魔獣の制圧の方。


「……心苦しいですが魔獣の方をお任せします」

「わかったわ」


 ヒューバートは対人戦の方が得意らしい。

 複数人数が相手であっても、そちらの方が動けるということ。

 さらに対複数でも制圧できると見立てている。


 私たちはそれ以上の言葉を交わすことなく、互いの役割に集中する。

 男たちのことはヒューバートに任せた。あとは信じる。

 私はこの黒い犬の魔獣を絶対に外には出さない。

 刺し違えてでも、ここでこいつを仕留める。


 先程のファーストアタックではなんのダメージも入らなかった様子だ。

 不得手の初級魔法では効果がない。

 魔獣の体躯は成人男性並にまで膨れ上がっている。大型の狼クラスといっていいだろう。

 問題となるのはこの戦場。

 大技はヒューバートを巻き込む。互いの邪魔にならない戦闘をしなければいけない。


「ゴム・ショット!」


 だから、ただシンプルな砲撃スタイルを選択。


 ドドドドッ!


 魔法で形成したゴム弾を指先から放ち、魔獣へ向けて連射する。

 動き回らず、足を止めて、ただ撃つのみ。ヒューバートの邪魔にならないように。

 かつ私の後方にある上階へつながる階段を守るように。


『ギャンッ! ガルルルゥ!』


 ヒット。殺傷性の低いゴム・ショットは魔獣を殺すには適さない。

 だけど私が今、最も使い慣れている魔法でもある。

 魔法相性の弱点を突くなどといった工夫は捨てる。

 ただ、この場を私は通さない。


 ドドドドドドッ!


「てめぇ!」

『ギャン、ガッルルゥ!』


 魔獣はタフだった。

 何度もゴム・ショットに弾き飛ばされるが、それでも倒れない。

 これは私のゴム魔法の攻撃性が低いだけなのか。それとも敵の皮膚が硬いのか。

 男たちの声はするが、意識の外に捨てた。

 私はヒューバートを信じ、任せたのだ。なんとかしてくれるだろう。


 魔獣を攻撃し、牽制射撃を続けながら観察もする。

 こちらの攻撃が効いていない理由は……『再生』している?

 自己再生持ちの魔獣。倒したとしても油断することはできない。

 無限の再生などとは信じられない。だからなぜそうなるかを考える。

 ある程度の魔力を消費させれば、そこで回復は終わるのか。

 それとも別の要因があって自己再生を繰り返しているのか。

 今の時点で考えつくのは……。


「……ゴム・ウォール!」


 ゴムの壁を私の後方に展開。

 誰も、どんな獣も、この地下室から抜け出せないように妨害する。

 その上で私は前方へ突進した。もちろん『身体強化』の魔法を行使した上で。


『ギャゥウウ!!』


 前に出た私に黒い犬の魔獣は喰らいつこうとする。

 大きな牙だ。あれに噛まれれば大怪我をするだろう。

 身体保護だけでなく、ゴムの鎧を身体に覆った。

 私の『狙い』は魔法陣。その中心に置かれた『聖霊のロザリオ』だ。


「てめぇ! させねぇ、」


 横から男の声がするが、そんなものは無視し、石の床の上にあったロザリオを手に取る。


「っ……!」


 何か粘つくモノに引っついているかのように重い!

 視界には何もないけれど、これは床の魔法陣にロザリオが紐づいている?


「ブロンズ・ニードル!」


 私は魔法陣の四隅に『銅の針』を撃ち込んだ。

 その間、魔獣はロザリオを手に取った私に噛みつく。


「くっ……!」


 だが私は、あえて左腕を差し出して魔獣の牙を受け止めた。

 左腕の周囲には分厚いゴムの鎧が纏われている。


『ガルゥゥゥ!!』


 その凶悪な牙は私の皮膚に届かない。

 届いたとしても、あとは私の身体保護魔法を破れるか否か。

 そこで私は視線を動かし、ヒューバートを見た。

 素早い動きで彼は男たちを打ち倒している。


「ゴム・フィールド!」


 私と魔獣と魔法陣をゴムの壁でドーム状に覆う。これならばヒューバートに被害は出まい。


「ブロンズ・スレッド!」


 糸状にした銅を形成し、魔獣に巻きつけていく。

 拘束に使えるほどの強度はこの糸にはない。だが準備は整った。


「雷魔法……サンダーボルト!」


 私を中心とした放射状の雷の発生。

 出力を抑えずに、容赦なく威力を高めたもの。


 バチバチバチ……ガッシャアアアアンッ!!!


「ぐっ……!」


 耳やら何やらも『絶縁体』の特性を持たせたゴム魔法でガードしている。

 ただし近距離での落雷だ。全力の身体保護も含めてのものだが衝撃が凄まじい。

 閃光に目を焼かれないように無防備に目も閉じての魔法の行使。


『ギャ……』


 石造りの床に打たれた銅の針。そして魔獣の身体に巻きつけられた銅の糸。

 それらに私が発した雷は伝播する……はずだ。

 ゴム・フィールドの向こうにいるヒューバートにも害はないはず。


「……っ」


 おそるおそる目を開く私。

 見れば、床に刻まれた魔法陣は砕かれると共に焼け焦げていて損壊していた。

 同時に『聖霊のロザリオ』を持っていた手の抵抗がなくなった気がする。

 魔法陣に紐づけられていたらしいロザリオが解放された?

 私の左腕に噛みついていた犬型の魔獣は断末魔と共に崩れ落ち、再び黒い煙となって霧散していく。

 ……どうやら無事に倒せたみたいだ。


「ヒューバート」


 魔獣の再生と再発生を警戒しながらも私は視線を彷徨わせる。


「……こちらも終わりましたよ、お嬢」


 そう言って困ったような顔を浮かべる彼もまた無事な様子だ。

 男たちは4人共倒れていた。

 そこまでの長い戦闘時間ではなかったというのに1対4でこれか。

 やっぱり彼もまたヒーローの一人なのだと実感する。


「……終わった、かしら?」

「どうもそのようですね。魔法陣の破壊とロザリオの奪取が決め手になったかと」


 ヒューバートがそう告げる。一応、警戒はし続けるけど……うん。

 本当に、どうやら解決することができたようだ。


「よくやってくれました、お嬢、ありがとうございます」

「貴方もね、ヒューバート」


 私は深く息を吐き出して安堵するのだった。


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