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偽りのピンクブロンド  作者: 川崎悠
第二章 アリスの学園生活

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31 10人目(レーミル視点)

 私は、レーミル。

 レーミル・ケーニッヒ男爵令嬢。貴族の女。

 でも自分が貴族だって分かったのは本当に最近だった。

 ケーニッヒ男爵が若い頃に侍女だった母にお手付きをして生まれたのが私だ。


 平民の中でも質素に暮らしていた私たち母娘。

 それがある日、兵士に迎えに来られて……。

 なんでも前妻だった男爵の女が死んだみたい。

 病気だったんだって。どうでもいいけど。

 その女が死んだお陰で、私は母と一緒に貴族の仲間入りを果たした。


 まぁ、そうよね。私、思っていたもの。

 私の容姿は平民で終わらせちゃダメだって。

 それに、その確信や自信は何故か昔からあった。

 だから平民の男の友人たちに言い寄られたって、なびいたりしなかったのだ。


 そして、私がそうまで自信を持っていた理由がある日、はっきりと分かる。

 男爵家で与えられた私の部屋。

 身綺麗に整えて、初めてドレスを着て。鏡に映った自身の姿を見た時に。


「あ、ここって『レム花』の世界なんだ……」


 乙女ゲーム『レムリアに咲く花のように』の世界。

 私は、そのヒロイン……つまり、女主人公だった。

 私は異世界に『転生』していたんだって分かったの。


「はぁ……。だから私って、こんなに可愛かったんだ」


 ふふっ、とお腹の底から笑いがこみ上げてきて。

 だけど、すぐに『あっ』ってなったわ。


 だって、私の知る乙女ゲー『レム花』のヒロインってハッピーエンド確定じゃないんだもの。

 何もしなくても絶対に皆から愛されてハッピーになれまーす系のゲームじゃないの。

 きちんと選択肢を選んだり、フラグを立てていかないとグッドエンドどころかバッドエンドで死んでしまう。

 良くてモブと結ばれる『ノーマルエンド』なんだけど……。

 王族にすら愛されうるヒロインに生まれ変わっておいて平民エンドとかありえなくない?

 よく心優しい人と結ばれればー、とか言う人が居るけど。

 それ言うのって、だいたい男だと思うわ。


 何もかも揃った美形の男に愛され、それを誰もに羨ましがられる……。

 それは最高の瞬間であり、自身を満たすもの。

 その気持ちを理解できない男は三流なのよ。

 ていうか、そういう気持ちでも持ってなきゃ世の中にアイドルだ、スターだなんて生まれてないわ。


「そうと決まったら対策を取らなきゃいけないわね」


 記憶が鮮明な内に、出来るだけ『レム花』に関する情報を書き出しておかなくちゃ!

 私は、その日から云々と唸りながら、覚えている限りの情報をノートに書き出し、まとめていった。



 この世界は、乙女ゲーム『レムリアに咲く花のように』の世界。

 ゲーム名は略して『レム花』。

 ヒロインとなるのは私、レーミル・ケーニッヒ。

 身分は男爵令嬢で、男爵家の庶子。定番よね。

 前世ではジャンルとして確立するほどの同様のゲームが多く存在していた。

 『レム花』も、その中のひとつであり、概ねの流れは他作品と似たようなものとなっている。


 異なる点と言えば、やはりヒーローの数だ。

 そこが、このゲームの売りの一つだった。他に誇るべき点がなかったとも言えるわ。


 ヒーローは全員で『10人』いる。かなりの人数よね。


 基本的には周回プレイ前提のゲームであり、1プレイ……。

 つまり1人を攻略するまで、そこまでの時間は掛からない。

 それは、もちろんプレイ時間の話であって、作中時間は2年間もあるのだけど。


 この世界では、それが現実となる。

 手堅くいくならグッドエンドを目指すというよりも、バッドエンドを避ける方向で話を進めるべきだ。

 なにせヒロインにもバッドエンドがあるゲームだったから。

 でも、そんなんじゃ、たかが男爵令嬢の私は、この可愛さの持ち腐れになってしまう。

 ……それにね。

 このゲームには他のゲームと同じく逆ハーレムエンドが『ある』。

 正確に言うと少し事情が違うんだけど……。だけど概ね、そういうこと。


 よくあるじゃない? 隠しルートとかさ。

 マルチエンド式のゲームでは、往々にして『すべてのルートをコンプリートした後』に『オマケ要素』が発生する。

 それはまぁ、ゲーム中音楽やスチルを鑑賞するモードだとか。

 声優のキャラクターコメントが解放されるだとか、そういうものもあるけど。


 『レム恋』には表向き9人の攻略対象、ヒーローたちが居る。

 これは公式サイトのビジュアルにも出ていて、キャラクター紹介にも載っている面子よ。

 9人には、それぞれのグッドエンドがあり、概ねそれを目指すのがゲームの根幹。

 人によっては周回なんてせずに、お気に入りのキャラクターだけ落とせば満足ってパターンもある。


 でも、そうするとボリュームがすごく物足りないゲームになるのよね。

 周回前提。ヒーロー数でボリュームを確保しているゲームだからさ。

 そうして全員を攻略した後、プレイヤーを襲う虚無感を払拭するのが『オマケ要素』よ。


 それが『ヒロインにとって』は逆ハーレムエンドになる。

 ただし、これ、別にそのフラグが立ったことはゲーム上でアナウンスしてくれないの。

 やり込みプレイヤーか、ネットでその情報を知ったプレイヤーでもなければ、辿り着けない要素になっているのだ。


 まず、順当に9人のヒーロー全員を攻略し、グッドエンドに辿り着く。

 バッドエンドやノーマルエンドは未回収で構わないわ。

 この段階でのゲーム上のアナウンスは一切なし。

 だけど、そこから改めてゲームをスタートしていき、特定の選択肢を上手く選んでいくと、物語が変わってくる。

 それこそが逆ハーレムルート。

 9人のヒーロー全員とフラグを立てて話を進めていき、そして。


 『悪役令嬢』アリスター・シェルベルを完璧に『追い込んで』いくのよ。


 婚約者である『王太子』から愛を向けられないことを突きつけられ。

 『宰相の子』に知略で負け。

 『近衛騎士』との決闘に敗れ。

 義弟だった『公爵令息』に地位をすべて奪われ。

 『大商人の子』に商売で上回られ、個人の財産すら、すべて失う。


 未来の王妃だったはずの女がすべてを失い、転落していき……。

 やがて様々な噂が流れていく。

 修道院に入ったとか、家を追い出されて娼婦になったとか。

 王族にすらなるヒロインの成り上がり物語とは真逆の、将来がすべて約束された状態から、ただひたすら転落するだけのアリスターの人生が描かれるの。

 ……そうして。


 悪役令嬢は『魔王』を引き連れて現れるわ。


 『ファンタジールート』のラスト展開が伏線になった話ね。

 『大司教の子』と『魔塔の天才児』のルートのスチルには描かれているのよ?

 アリスターの背後に『人型の影』のようなものがあるって。

 それは、悪役令嬢のイメージ映像にも見えるもので、その時のストーリー上では触れられなかったんだけど。

 このオマケ要素、ううん。

 『隠しルート』では、そのアリスターの背後にいる影の正体が、はっきりと描かれる。


 落ちぶれて人生のどん底にまで落ちた悪役令嬢は、魔王と契約して王国のすべてをぶち壊そうとする。

 アリスターは生まれながらに『悪』としての素質があって……。

 魔王と共鳴し、魔王に魅入られている。

 ずっとストーカーされているみたいなものかな。

 いつ頃からかは分からないけど、とにかくアリスターは魔王に目を付けられていた。

 そして、アリスターが絶望の底に落ちて、堕ちて、落ちぶれて。

 そうすることで魔王を受け入れるまでになって。

 闇落ちキャラクターのお手本のようなパターンね。


 その、闇落ちして魔王の力を手に入れたアリスターが真のラスボスとなる。

 9人のヒーローたちの力を借りて、どうにか彼女を打ち倒すことで本当の最後のエンディング。

 『グランドエピローグ』になるわ。

 その時のヒロインがヒーローの中の誰と付き合っているかは、正確に描かれない。


 ただ、背景が王宮のものなので、たぶんレイドリックと仲が良い設定なんだと思う。

 つまり、未来の王妃になっているか、そもそも既に結婚していて王太子妃になっているか。

 或いは、逆ハーレム状態だったことから、まだ誰も相手に選んでいないのかもしれない。


 最終決戦で、魔王の『依り代』になったアリスターは、魔力を使い果たし、枯れ果てたように干からびていき、美しかったその見た目が見る影もないものに変わって朽ちて、惨めな言葉を吐いて死ぬのだけど。

 それに取り着いていた【魔王】は違うの。

 その戦いで魔王に悪事をさせていた悪いもの、『瘴気』がすべてアリスターと共に消え去っていたのよ。

 つまり『浄化』された魔王が世界には残っていて。

 綺麗になった魔王が現れ、ヒロインに愛を囁くことになる。

 今まで彼の心を蝕んでいた瘴気を晴らしてくれたヒロインに感謝し、そして愛するようになるの。

 それが『レムリアに咲く花のように』の真エンディング。

 ……そう。

 魔王こそが『10人目』のヒーローなのだ。


 当然、私の推しは10人目のヒーロー、『魔王』フェリル・ルードウィック。

 私は、彼とのエンディングを目指すわ。

 まぁ、あとは王族ルートも確保しておきたいわよね、やっぱり。

 他の男たちは……目の保養としてキープぐらいはするけど。

 最後のところを見るに私、王宮に居るみたいだし。

 だからレイドリックか、サラザールをメインに攻略しつつ、逆ハーレムルートを進める。

 そう決めていた。


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