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22 心は悪役令嬢のもの

「変なことになってしまったわね……」


 ゲームからルートが外れることは別にいい。

 それは私が最初から望んでいたことだもの。

 ヒューバートとは、あの後すぐに別れて、いえ、寮の近くまで送ってもらって私は自室へと帰ってきた。

 友人作りに励む余地はなく、まだまだといったところ。


 9人ものヒーロー役を設定された私の知る『原作』は、やはりそのヒーローの数こそが売りのゲームだった。

 ルートに入ればこそ決まった運命はあるが、そこに到達するまでの運命なんて、あってないようなもの。

 どこに転んでもヒーローがいるのだもの。


 バッドエンドを躱してゴールを目指す。

 そして、それを繰り返してシナリオを堪能しながら各種スチルを回収するゲーム性。

 よくあるすべてのエンドを経た後に隠しルートが解放される、なんてことはない。

 9つのグッドエンドからの分岐はなく、バッドエンドを回避し切ればハッピーな結末だけが待っている。

 私のような転生者の干渉がなければ、成り行き通りに事が進んで『ヒロイン』レーミルの選んだ相手のルートが開けるだけだったはず。


「だけどレーミルの、あの態度……」


 入学式で他ならない私を凝視する動機は、本来のレーミルには存在しないはずだ。

 それがあの有様だったなら、やはり彼女も転生者である可能性が濃厚だった。


「『そのパターン』ってわけよね」


 私が警戒したように、彼女の方も私が原作を知っていることを警戒したのだろう。

 公爵令嬢を面と向かって陥れることは現時点では難しい。

 学園でもっと私の悪評が立ち、殿下からの冷遇が明確化されてからなら別だけど。

 レーミルが、これからどう出るのかは気になるわ。


 アリスターの行動として明確に違和感を覚える瞬間は、イベント時にアリスターが登場しているはずだったシーンしかない。

 初日から私が登校しなかったとしても、それがゲーム通りの運命なのか、転生者の作戦なのかレーミルには分からないはず。


 うん。私の方策は、あくまで全面対応の手なのよ。

 私がしようとしている事は、ヒロインの立場に立ってレイドリック様を攻略すること。

 これは今の状況を陛下とお父様に呑み込ませるために必須の『建前』だった。


 建前でもあるし、私の本音でもある。

 レイドリック様の態度には思うところはあるけれど、今の段階で彼に反省した態度で来られたら私、彼を許してしまうもの。

 まだ『致命的な言動』には至ってないから。

 これが結婚してから『君を愛することはない』なんて言われたなら、取り返しがつかないんだから大きく怒るけどね。

 私は、レイドリック様が私にとって致命的なことをしでかさなければ、彼を受け入れるつもりだった。


 でも乙女ゲームを知っている私は『悪役令嬢アリスター』の立場で立ち回らなければならない状態を避けたかった。

 公爵令嬢としての誇りや矜持、言動・態度は、だいたい悪い方へと転がってしまうのよ。


 誇り高く振る舞いつつ、殿下との関係には溝が残されたまま。

 そうした状態で時間が進み、やがて断罪イベントが起こる。

 いえ『冤罪』イベントと言うべきかしら。

 私は当然それへの対策も練るし、『断罪返し』もやってやれないことはないでしょう。

 でも、その『誇り高き公爵令嬢による筋の通った断罪返し』の道筋は、私に多くの忍耐を強いる。


 具体的に言うと、この学園生活の大半を『婚約者に愛されない女』『王太子に認められない女』『男爵令嬢に負けるような哀れな女』などと蔑まれて過ごさなければいけなくなる。

 私はそれが嫌だったのだ。

 貴重な学園生活を、鬱陶しいヒロイン転生者や、不誠実な婚約者の態度に曇らせられながら過ごしたくない。


「だからこそのヒロインなりすまし計画」


 ヒューバートのことは気になるけれど。

 基本的にレーミルに落とされてから、私にありもしない冤罪を被せてくるとか。

 そういうことをしない限り、レイドリック様以外の攻略対象者たちと絡む気はない。

 つまり、これからのレーミル次第ね。

 それだって私に不利益をもたらさないのなら邪魔することはないわ。むしろ応援してもいい。

 でも私の婚約者であるレイドリック様を落とそうとするのなら。

 それは、やっぱり悪意の塊として彼女を見なければいけないの。


「この思考回路が悪役令嬢たる所以かしらねぇ……」


 思えば私ってヒロインのことを純粋な良い子だとは想定してこなかったわ。

 自分が転生者なのも大きいけれど、どちらかと言えば『ヒロイン=敵』で考えを進めていた。

 原作の乙女ゲームを知っているのなら、レーミルは心の純粋な優しい少女のはずなのによ?


「純粋な良い子でも。悪辣な転生者でも。一緒なのよね、私にとって」


 等しく敵に過ぎなくて。

 婚約者を奪おうとする者。私の立場を追い立てようとする者。

 それらでしかなかったわ。


 ……私は、やっぱり悪役令嬢なのよ。アリスター本人なの。

 前世の記憶は、ただの便利なもので、私にとって後付けの外部記憶みたいなもの。


 だから私の心の中心は、自分のことばかりで。

 レイドリック様のことをお慕いしている。それでも、それ以上に。

 私を蔑ろにするというのなら、見返してやりたくもある。


 私がレイドリック様に望むエンディングは2種類しかないわ。

 1つ目は、彼が態度を改め、婚約者として私を尊重し、私を愛すること。

 2つ目は、彼が私を切り捨てようと『私』に惚れ直して。

 私へ振り向き直させた後で、関係を修復するかどうかの『主導権』を私が握ること。


 仲直りするにせよ。破局するにせよ。

 彼には、もう一度、私を昔のように好ましい女として思わせたいの。

 すべてはそれから。


 2つ目の事態になった時、元サヤに収まるかどうかは……その時の私の気持ち次第。

 それが望ましいわ。


「そのためには」


 ヒロインなりすましプランは実行していかないとね。

 まずは『初イベント』から。

 それはゲーム上で好感度の変動がまだ発生しないもの。

 『ヒーロー役・レイドリックの顔見せ』イベントよ。

 入学式をしてから3日目の昼休憩時間。

 その際、ヒロインが教室から食堂へ向かう途中の中庭で彼と遭遇することになるの。

 もちろん『ヒロイン』が、ね?


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