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勇者になろう  作者: パラヂン
40/42

第41話 生け贄

……どうしよう。


あ、そういえば一話と二話の内容を少し変えてみたのです。

――死んだ。

――多分、死んだ。


そう思った。

水面に衝突したときに身体が飛び散る感覚を覚え、気付いたら一面真っ白の『世界』に足をついて立っている。


ここを死の世界と、――いや、何も無いのなら定義によっては『世界』とは言えないが――認識しても不思議じゃないだろう。



「死の世界だったら死人がいるだろうなぁ……てか何で床があるのさ?」



『床』を靴で小突くとコンコンと小気味のいい音が響いた。

響いたということはどうやら『壁』があるらしい。距離は計れないが。



「あー…あれか?魂ごとに部屋があるのか?だったらどうしよう。マジで死んだのか。ファウストのやろう、あいつなら助けれると思ったのになぁ」



ファウストに助けられることを望んだ発言をしたことに軽く自虐的になっていると、『世界』に反応を示された。



「部屋では無い、狭間だ」


「うぉあ!!?いきなり誰!?」



振り向いても誰もいない。

そんなはずは無い、と辺りを見渡しても白以外の色を認識できなかった。



「ここは世界の隙間にして世界の狭間。世界の無い空間」


「――っ!」



この『世界』のある一点から黒い液体が『漏れ』、蒸発し霧となる。

その霧はやがて一つの人を形作り、人間であれば頭に当たる部分の裂け目から声を発する。


――感覚でわかる。コイツは、『危ない』――



「貴様か……貴様が、『生け贄』か……まさか、本当に寄越すとはな」


「生け贄……。お前はなんだ?どうしてオレをここに『喚んだ』?」


「ほぅ……今の問答で貴様が『喚ばれた』ことに気付いたか。なかなかどうして、理解の早い」



『それ』の裂け目が笑ったかのように形を変える。

今まで死を受け入れていた坂神は、『それ』にだけは絶対に殺されたくないと思った。何か嫌な予感がする。

けれど逃げることが出来ないであろうことは容易に想像できる。



「で、お前はなんなんだ?いいから答えろ」


「答えても貴様には意味が無いのだが……まぁいい、貴様達の言葉で表すのなら、化け物、悪魔、魔王、魔神、悪、魔、魔人……といったところか」


「見た目からなんとなく分かってたけどなぁ……やっぱり『生け贄』ってのは……」


「ふん……やはり理解が早いな、話がしやすい」


「そりゃどーも」


「貴様は、貴様がいた世界のことを知っているのか?」



生け贄にするのならこの会話は完全に無駄なのだが、『それ』は坂神と会話をしようとしている。

坂神にはそれが何故なのか分からなかった。

いや、半分くらいは分かっている。あまり認められないだけだ。


――『これ』がオレに興味を持った?



「この世界?……いや、知らん」

 

「その世界は貴様達の言葉で言うと、冥界、地獄、闇の世界、か?いや、負の世界といったほうが分かりやすいか」


「………」


「そして貴様が初めて逢った超常の力を持った者はおそらく、天界、つまり正の世界の住人だろう」


「……そして、オレ達の世界は二つの中間?」


「そうだ。貴様達が正の世界と負の世界の住人の力を超常だと感じるのは、貴様達が正と負を合わせ持ち、ある程度打ち消し合っているからだ。」


「へぇ、じゃあ具体的に言うとどうなっているんだ?まさか打ち消し合ってゼロになっているわけじゃないだろう」


「それは人それぞれだ。打ち消し合う量もな。だから多彩なのだ。完全に打ち消し合って正や負しか持っていない者や、どちらも多く持っている者もいるからな」


「成る程な。それで、まだ不可解なことがいくつかあるんだが……」



こうなりゃ全て聞き出してやる。といった感じでさらに会話を伸ばそうとする。



「それも全て話して我が同志にでもしたいところなのだが……いかんせん、それは不可能だ。時間も無い」


「?」



「もう時間が無い。我も完全には程遠いからな。だから今からお前を――喰らう」


「っ!?」



霧の塊が一瞬収縮したかと思うと、一気に弾ける。

『それ』は坂神の視界を瞬く間に覆い、坂神を喰らおうとする。



「――ちぃっ!」



逃げようと振り向くが、既に上下前後左右全てが黒に塗り替えられていた。

どこに逃げればいいのか全く分からない。



「フハハ!!逃げようとしたのか?逃げられないと分かっていただろうに!」


「いやでもこうね、生きようとすれば大底は――」



両手両足が『それ』に捕まり、眼前に裂け目が迫っている。

怖い。怖い。怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。


というか、嫌だ。


――喰ーわーれーるー



「ん?」


「お」



上から身体が引っ張られる感覚。

だが、全く足りない。力が『それ』に対して全くの無力になっている。


――だけどこれは、生存フラグ!――



「ハッハッハッハッハ!!なんと愚かな!この程度の力で!この我に!対抗したつもりかぁ!?」


「……………」


――考えろ考えろ考えろ!今どうすれば生き残る!?選択肢は?一択くらい用意しとけよ全くもう!何か、何か何か――


「………何でいつも下らない方法ばっか浮かぶかなぁ」


「ん?どうした?諦めたか」



裂け目のニヤケ具合が増す。

そこで坂神は




「あっ!あれ何だ!?」




「ん?」



『それ』が後ろを向いた瞬間に

動く動く動く動く動く抵抗する抵抗する振りほどく振りほどく!!


だが力に自信のある『それ』はわざと緩慢に首を戻す。



「ふん、滑稽だな。――なっ!?」


「ドルァァア!!」




振りほどいた。

振りほどけた。




まさかの事態に坂神も『それ』も困惑する。

そのまま力に引っ張られるままに上に移動する坂神。



「くっ!」



『床』から再び手足を掴もうと霧が伸びる。

必死な坂神はそれらをひょいひょいと手足を引っ込めることで一回だけ躱す。『それ』が少しでも冷静になればこんな躱し方など意味を為さないだろう。


――あとはこのまま行けば!


とは思ったが、霧が上から伸びてきた。万事休す。


しかしそれも急に上がった坂神の速度によって空を切る。

まだ『それ』は焦っていたようだ。


あとは、上に広がる『それ』



坂神は、もうどうにでもなれというように両腕を『それ』に突っ込む。



「どけやゴルァァァアアアアアアアアアアアアアア!!!」




――白が、見えた。




~~~




「……ここは?」


「川だけど?」



独り言に返事をもらい、坂神が若干焦る。

その、返事をした人を確認するために首を回す。


その人は、髪と瞳が漆黒に染まり、感覚的にはまるで悪魔の類だと錯覚させるオーラを纏っていた。


記憶に該当する人物がいなかったため、次に詳細を尋ねる。



「……誰?」


「それは名前を聞いてるの?それとも種族?はたまた何をする人なのかを?」



質問に質問で答えてきた。

その場合、先の質問に不備があったか、または先の質問を無視したかに分かれる。今回は前者だろうか。

その質問に対するベストアンサーを模索し、たどり着いた答えを言う。



「……自己紹介をお願いします」


「自己紹介ね、それって私に任せるってことでOK?」


「OKです……」



会話してみて、坂神はなんとなくこの人は言葉遊びが好きなんだろうなと思った。

同時に、暇人なんだろうなとも。



「えっとねー。名前はセイナで、種族は妖怪。多分君を救ったんじゃないかな、と思ってるんだけど……。あと好きな食べ物はねー、人間が作るものって大体美味しいよね。あと真水。炭酸飲料でも可。あと自己紹介で紹介することって……」


「ストップ、ちょいストップ」



ペラペラと理解しがたいことを平然と言ってのけるその人をとにかく止める。

この時点で話題がありすぎる。どうしようか。



「はい、どうぞ?」


「えっと……妖怪?」


「うん妖怪」



話題一つ目、終わり。

この調子なら案外早く済むかもしれない。



「救った、の部分について詳しく説明プリーズ」


「その前にさ、名乗ったんだから名前言ってよ。ついでに君の名前プリーズ?」


――……どうもマイペースだな、いや後半には激しく反省するけども。


「坂神、坂神裕也だよ。えっと……。…………セイナ…さん?…ちゃん?」


「さかがみゆうや……サカガミユウヤ……坂ガミユウ也……坂神裕也、坂神裕也。おっけ、バッチグー」



どこらへんがバッチグーなのか理解しにくいが、それよりも深刻な問題を解決させて欲しい。

さん付けか、ちゃん付けか。



「あぁ、呼び捨てでいいよ。」


「……それはちょっと抵抗がですね」


「じゃあセイナみゃん」


「さん付けでいい?」


「つれないね~。分かった、じゃあちゃん付けでいいよ」


「分かったよ、セイナ……ちゃん。……ゴメン、やっぱ呼び捨てで」


「おっけー♪」



どう足掻いてもこの人には敵わない気がした。いや、妖怪か。

イメージしてた妖怪とは大分掛け離れてはいるが。そこは偏見によるものなのだろう。



「で、セイナ。救ったっていうのは、あれか?魔王とか邪神とかに生け贄にされそうだったオレを?」


「あ、そうだったの?やっぱり救ってたんだ、良かった~」


「?」



早く結論を言って欲しい。

この妖怪、理系じゃないな。



「いやね、次元の狭間っぽい『歪み』にバラバラの君がズルッとね。これは新手の自傷行為?とお節介かなと思いながらも、出してあげようと尽力したわけなのよ」



そんな自傷行為を誰がするかとツッコミを入れようとしたけど、自重してみた。

おそらくだが、坂神も同じ立場だったら同じことを考えるだろうと思ったから。



「まぁ……ありがとうな、助けてくれて。セイナがいなかったら、多分死んでた」


「いえいえ」


セイナが畏まったようにお辞儀する。


「あ、そうだ。私のことはなるべく秘密ってことにしといてね」


「いいけど、なんで?」


「妖怪だし」


「成る程」



理由として不十分ではあるが、坂神はなんとなく承諾した。



「んじゃっ!」


「…………うお?」



気付いたら既にセイナはいなかった。

今のは速さによるものか、それともワープ的な何かによるものかを考えようとしたけど止めた。

川の上流から声が聞こえたからだ。



「坂神ー!!」


「あ、ファウスト」

始動までもうすぐ

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