第40話 修業その2
むぅ……新作のアイデアばかり浮かんでくるのですが、むぅ……
真っ白な宮殿の中で、目の前にはまだ二十代に見える青年がいる。
フィリスの話だと、この人がその元剣士らしい。
今、指導を頼んだところだ。
「剣の指導ですか……うーん……断らせて頂きます」
「え?」
意外だ、と言わんばかりに驚きの声を上げるフィリス。
その態度にクリスは不服そうに顔を歪める。
「いやいやフィリス、あなたが驚くところじゃないでしょう?私がなんで剣を捨てたと思っているんですか」
「いや……クリスさんなら『ああ、また脱剣士が遠退く……』とか言ってあっさり引き受けると……」
「あなたねぇ……」
割と真面目に言っているフィリスをため息混じりに見つめつつ、クリスは次の言葉を発する。
「というより、そもそもの問題なんですが……教えて欲しいのは坂神君なんですよね?」
「あ、はい」
「私の剣術って魔術を応用したものなんですが、貴方はですね、その――」
――ああ、魔力の無いオレには無理だってことか。
納得する坂神を見てどう思ったのか、クリスは一つな提案をだす。
「ですが、貴方が目指すのはコロッセオで勝つことでしょう?」
「はい…まぁそうですね」
他にも女性に守られっぱなしが嫌だとか、そんな理由もあるが今はそういうことにしておく。
「剣の指導はできませんけど、基本の型なら教えますよ?相手が相手なら大体はその型を振り回すだけで十分ですし」
「いいんですか!?是非お願いします!」
「太刀筋とかは教えられませんから、暗記みたいになるでしょうがね。それでいいなら」
「十分です、ありがとうございます!」
「でも今日は私は用事がありますので明日からやりましょうか」
雰囲気的に教えてもらえなさそうだったので少しビックリしたが、教えてくれるならこれ幸いだ。
~~~
「んで、帰ってきたわけだが……」
自宅に戻ってみたはいいが、何もすることが無い。帰るなりみんな寝転がるのもどうかと思うが。
まだ昼だというのになぁ……
暇すぎるので筋トレでもしてみることにした。
「いーち、にーい、さー…」
飽きた。
「……なぁファウストー」
「なんだー?」
「スパルタって具体的にどんなことするんだー?」
「お?なんだ、今日からやるか。それもいいな、暇つぶしにはなる。よし、そうときまれば早速行くぞ、善は急げだ」
そう言うとファウストはすっくと立ち上がり、坂神の腕を捻り上げる。
手をとるのがなんとなく恥ずかしかったからとかなんとか。
本人以外には知る由も無いが。
「あでで!ちょ、ファウスト!?まだ昼飯が――」
「いるのか?じゃあこれでいいだろ」
ポケットの携帯食料を口に突っ込まれる。
――これ、パサパサしてて飲み込みにくいから苦手だ。味よりもそっちが目立つ。
他の二人を見ると、どちらも異論は無いようだ。自宅警備の意思を示している。
ここにいる全員はどうやら極度の面倒臭がりらしい。
類は友を喚ぶってか?
「なぁファウスト?」
「ん?」
「そろそろ腕ヤバ気」
慣れて(?)感覚が無くなってきたからか、幾分落ち着いて話せた。
それを聞いたファウストは数秒黙って、おもむろに走り出した。
「っ!!?今っ!今確実に捻れたっ!腕の皮じゃなくて中身がっ!捻れたっ!!」
「………」
手の離し方が分からなかったとか、そんなことは誰にも分からなかった。
彼女はただ走り続ける。なんとなく、止まれなかった。
~~~
「着いたぞ」
「………」
着いたのは滝の……なんと言うのか、上流?とにかく、滝の上である。
しかし、そんなことはどうでもいい。
腕が動くか確認しなければ。
「むっ……紫……」
握られていたところから先が毒々しく紫色に変色している。
手を握ろうとしてみると、微動だにしない。
――あれ、アウト?これアウト?
現実から逃げるように何回か試すと、段々と感覚が戻り、最後にはちゃんと動くようになった。
「おい坂神?」
「そこ、なんで本気で尋ねてる?てめぇ今オレが腕一本諦めたの知らないだろうが」
「過ぎたことだ、気にするな」
「それは決してお前のセリフじゃあない」
浮いてたからな。ファウストが走ってるとき、オレ、浮いてたからな。
マジで腕ちぎれる気がしたんだからな。
「ともあれ修業を始めるぞ」
「てめぇ……まぁいいや、んで何するんだ?ぶっちゃけこんな大掛かりな修業するとは思ってなかったが」
「滝だぞ?」
「滝だな」
「ならやることは一つだ」
「……は?まさか――」
「行ってこい」
「うお!?うわぁぁぁああ!?」
ファウストは坂神を滝壺に向かっていきなり投げる。
坂神は途中に抜き出た岩になんとかしがみつき、というか落ちて身体を打って悶絶する。
「いってぇ!おいファウスト!殺す気だな!?オレを殺す気なんだな!?下に落ちてたら多分死んでたぞ!?」
「それに向けて投げたんだ。大丈夫、私を信じろ」
「どの口がそれを……」
「ほら修業だ修業。さっさと滝に打たれろ」
「……落ちたら死ぬ高さで、滝を受けろと?」
「御託はいいからとっととやれ」
「この鬼め!あぁもういいよやってやるよ!神様、今なら簡単にオレを殺せるぜ?」
意を決して足を踏み出し、プラスチックなら簡単に潰せるであろう水圧を全身で受ける。
――思ったよりキツイな
「……お前、さっきからやけに諦めがいいな」
「ば!?ばぶばっべ!?あばばばば(は!?何だって!?)」
「喋るな、舌を噛む――」
ガッコン
「ば?」
「?」
坂神が乗っていた岩がいい音を奏で、重力に逆らうのを止めた。
――まさか、本当に殺しにくるとはねー
滞空時間、数秒か数十秒。
体感時間、数分か数十分。等ということも無く結構短かった。
走馬灯が浮かぶわけでもなく、ただ単に『この高さってやっぱり下が水でも死ぬかなぁ?』としか考えなかった。
「坂神ぃーーーーーーー!!!」
ファウストが必死の形相で叫ぶ。
――なんだよ、てめぇ私を信じろって言ったろうが
坂神は基本極度の楽観主義者です。
マイナス思考が好きで、前向きな。




