リバースアバター編Ⅴ:サウンドクローン計画"トラウマ"
「そう言えば、君は寮に住んでるって感じじゃあなかったけど、高専は全寮制じゃなかったかな?」
伊原 恒二の元へ案内される道中、気になって居たことを質問するトワイライト
に朝日 焔は答える。
「ああ、内は母子家庭で母親の帰りが遅い上に、妹はまだ中学生だからな。特別措置で札幌市内の実家から学校に通ってんだ。」
「え!札幌校の外から!?登校大変じゃない?」
「まあな・・・バイトで学校行かない事の方が多いから関係ねえけどな。」
「それ大丈夫?成績とか出席率とか。」
「ランクEXにもなって成績危ういとかは流石にねえよ。出席率もランクEXの特権で問題ねえ。」
「特権ねえ、羨ましいな。何でもかんでも好き放題頼めるのは。」
「早坂 一途ほど好き放題してねえ。せいぜいが出席率を誤魔化す程度だ。」
「ふーん。」
「んだよ?」
「いやー?べーつに。やっぱり、思ったより常識的だね。もっと『天上天下唯我独尊!』・・・みたいな感じかと思ってたけど。」
「別に・・・今日はもう遅いし、明日にした方がいいか。ネカフェにでも泊まるぞ。」
「?・・・ふーん。」
「んだよ?」
「いや、なんでも無いよ。」
───今すぐにでも伊原恒二と会って事を終わらせたいのかと思ったけど、先延ばしにするんだね。
「1000体の異能力者クローンを用いて、実戦方式で被検体を成長させます。この実験で私の息子、焔は確実にランクEXに到達します。資金や実験情報の揉み消しなど諸々のご協力、お願いできませんか?」
御原ゆうじはPCに向かって頭を下げる。通話の相手は・・・
「・・・いいだろう手配しよう。ランクEXを増やせば国防軍や防衛省に対して私の影響力も強まるからな。」
「では、よろしくお願いします。神宮寺統一理事長。」
「どうしても出来ませんか?」
「もう、無理だ・・・あと、何人の、命を奪えば・・・」
「あと、219体ですね。」
「200・・・」
「・・・大丈夫、貴方ならできますよ。なんてったて、私の息子なんですから。」
首を振る焔。
「はあ、仕方ありませんねえ。」
クローン達の死体を回収したコンテナからコップで血液を掬い上げる。そして、そのコップを焔の頭上で傾ける。
「分かりますか?彼らはこの計画に命を捧げてくれたんです。貴方がここで辞めたら、彼らの命は無駄に終わる。貴方は賢い、わかるはずです。」
───嘘だ。少なくとも、父さんはそんな事思ってない。この計画は、俺をランクEXにするためのもの。父さんは、俺をランクEXにしたいだけ・・・自らの才能を俺で証明したいだけだ。
血で赤く染まる白髪。クローン達を殺す度感じる罪悪感と死の匂い。狂いたくても、父との会話が平静さを保たせる。
「───────────────────────────────────────────────────────────ああ。」
わかっていたはずだ。この実験に人権など存在しない。ただ父の自己顕示欲と顔も知らないスポンサー共の利権のためだけのものだ。
「クズ共が・・・」
結局、この実験は987体を殺害した時点で、焔の精神状態上、続行不可能と判断された。だが、その実戦経験を生かし、2年後焔はランクEXと認定される。それと同時に、焔の心に罪悪感とトラウマを植え付け、その後の人格形成に影響をあたえた。
「これは・・・夢か?」
まるでウユニ塩湖の様な風景。そして水滴が湖に垂れる音。
「ああ?」
その音の正体は焔の右手だった。右手は血にまみれ、その血が水面に垂れている。だが、右手にはどこにも外傷は無い。
「なっ!あ、ああ!」
気づくと女が焔の右脚にしがみついていた。
その女は片目が潰れ、全身に火傷を負い、服は焼け落ち、苦しそうな表情で焔の脚を掴む。
「お、俺は!」
脚を掴まれながら、尻餅をつく焔。だがその尻の下には男が横たわっていた。
左胸に穴が空いており、その穴は焼き切られた様に出血は無い。だが、苦しみの顔をこちらに負けてくる。
「やめろ!」
「貴方のせいですよ。」
焔の背後に立つ伊原恒二。焔が振り向くと、伊原はコップに入った血液を焔に頭から浴びせる。
赤く染まる湖。大量のクローン達が焔を襲う。
「あ、ああ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
「はあ、はあ、ここは、ネカフェか?・・・はあ。」
「やあ、随分魘されてたね。」
悪夢に息が上がる焔に、トワイライトが呑気に話しかけてくる。
「じゃあ、起こせよ・・・」
「ああ、確かに。次、機会があったら、その時は起こしてあげよう。」
「お前と寝泊まりとか、二度とごめんだ。」
携帯の待ち受けで時刻を確認しながらそう言う。
「大体5時半ぐらいか。ちょっと早い時間帯だが・・・まあ、起き、る、かっ・・・」
ベッドから出ようとした焔をトワイライトが抱きしめる。
「何してやがる。」
「魘されてる君を、起こしてあげなかったお詫び、かな?」
「いや、だからってなんで・・・」
「人肌って落ち着くでしょ?特にこの部屋は冷房が効きすぎててちょっと寒いし。」
───ああ確かに、最近は人の温もりに触れる様な機会なかったからな・・・
「じゃねえよ!ロリに抱きつかせるとか!側から見たら犯罪臭だぞ!?」
「いいでしょ。君から私に抱きついて私が嫌がってるならそりゃまずいだろうけど。私から抱きついているんだから。」
そう言って、頭を撫で始める。
「それに、ギャップ萌えと言うのかな?私は君を好意的に見ている。」
「ああ?」
「君は一見チンピラの様に感じるけど、意外と冷静で、サウザンドクローン計画の被験者になって、クローンを殺し続けても快楽に溺れることなく人間性を保っている。」
「お前だって誰かのクローンなんだろ?いいのか?お前の仲間を千体近く殺したやつを・・・」
「ああ、確かに私は萌波田 水面と言う少女のクローンだ。体は成長不全でロリだけど。でも、君は私を攻撃しないし、出来ない。でしょ?」
「チッ、知った風に語ったんじゃねえよ。」
そう言うと、トワイライトから離れて二度寝する。
───震えてた。怯える様なそんな感じの。ちょっと前まだ起きるかって言ってたのに、二度寝してるし、やっぱり君は・・・・・
二度寝から目覚めて、ネカフェを出た焔はトワイライトの案内によって、広場に辿り着く。
「ここだよ。」
「ああ?あのクソ親父との待ち合わせ場所なのにカフェとかじゃねえのか。」
「流石にランクEXを公共の場で暴れさせるほど私もバカじゃないよ。」
「おいテメェ、遠回しに俺のことバカだって言ってるぞ?」
「ああ、済まない。」
そう言っている間に、広場に黒い車が入ってくる。
「久しぶりですねえ。」
車から降りてきたのはもちろん、伊原恒二だ。
「伊原ッ!」
「ハッハッハ、自分の父親を名字呼びですか。もう父さんとは呼ばないんですねえ。」
「黙れッ、またロクでもないもんばら撒きやがって!お前はッ!お前はッ!
なんでそんなにクズなんだよッ!」
「私をどれだけ下げても貴方にの半分は私で出来ている。哀れですねえ。それに、口だけで何も攻撃してこない。前にも、言ったはずですよ?貴方には殺意が足りないと。」
「ッ!うるせえ!!!黙れ黙れ黙れ!黙れッ!」
「どうしました?まだ何もしていないのに、すごい汗ですねえ。」
拳を握り、殴りかかる焔。
「肉弾戦ですか。フッ!何故異能を使わないのです?」
焔の拳を冷静に捌き、反撃に腹パンをお見舞いする。
「クッ!ゴホッ!ゴホッ!」
「私を殺したいなら、異能を使えばいいのに。肉弾戦では私には勝てないでしょう。多少は鍛えたかもしれませんが、あなたは喘息な上に、母親の筋肉が付きづらい体質を受け継いでしまっている。」
「お前は、お前だけは、燃やしてお終いじゃ気が済まねえ、
この手でぶん殴んなきゃ気が済まねえんだよ!」