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異能戦線-Chronos or BASIC-  作者: 崇詞
仙台騒乱編
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仙台騒乱編Ⅰ:ひとりじゃない

 真世界による、渋谷テロから2週間。渋谷駅地下は壊滅、地上の被害も少なくない。渋谷周辺は彼らが張っていた電磁バリアのおかげもあってほぼゼロ。とはいえ、日本のランクEX第一位がコールドスリープによって拉致された状況は、大きな影響を及ぼした。

 世界情勢はまだ、具体的な動きはないが、早坂一途の拉致を受け国防軍は陸空海すべてで、警戒態勢を続けている。一途がいなくなったからといって、周辺国が日本に戦争を仕掛けて勝てるかと言われると、ランクEXの数で勝る分、なかなか難しいと思うが、相手が勝てるかもと考えた時点で戦争は起きるものだ。

 そして、最も影響が大きかったのが・・・早坂零斗の精神状態だ。あれから2週間、食事は片手で数えれる回数しか取らず、ずっと自室から出ずにずっとベッドに横になっている。だが、寝ているわけではなく、無気力状態に陥っており、睡眠に関してはむしろ不眠症状が出ている。

 不定期で壊れたように泣き、不定期で破壊衝動のままに部屋を荒らしては、衝動がおさまると荒らした惨状を見て自責にかられる。心の支えだった一途がいなくなった零斗は・・・もはや、廃人も同然の状態だった。

「姉、さん・・・」




 姉さんが居なくなってから、眠るたびに五島の夢を見る。

 俺を抱きしめたまま、冷たくなっていく桜さんの体温が、今も記憶にこびりついている。

 うつ伏せから体勢を返して、天井を見上げる。

「桜さん・・・」

 弱いから狙われた。無力だから姉さんみたいに治療を試みることもできなかった。

 あの時、もし今みたいに人体の固定が出来ていたら、葉山さんが来るまで、病院に着くまで、桜さんを保存できていたら・・・何度悔いたかわからない。

 ただ確かなことは、また同じことを繰り返してしまったことだ。




 陽炎で空気が揺らぐ昼下がり。仁音は零斗の部屋のインターホンを鳴らす。

 一途が拉致されたこの状況。彼女として一緒に居てあげたいと思い、この二週間、何度も零斗の寮を訪れたが、零斗の精神状態は全くと言っていいほど改善されない。

 無理さを感じずにはいられないが、それでも、今の零斗を放ってはおけない。

 インターホンに手を伸ばす。

「零斗君、私。」

 いつもながら、返事は無い。

「・・・入るね。」




「お邪魔しまーす。」

 玄関を開けると、鬱屈とした空気が漂ってくる。最後に訪れたのは二日前だったか。

 部屋の中に入り、換気扇を回してから一途のベッドにうつ伏せになっている零斗を抱き上げる。以前はかなりがっしりしていた零斗の身体は、痩せてしまって少し軽い。

「ひと、ね・・・」

「うん、そうだよ。」

 仁音を認識した途端、仁音に抱き付く零斗。

「うん・・・しばらくこうしてよう。」

 優しく抱き返し、そう囁く仁音。自分の胸に顔を埋めたまま頷く零斗の頭を、優しく撫でる。

 冷房の音、換気扇の音、冷蔵庫の音、零斗の呼吸、自分の呼吸。静かな部屋にそれだけが響いている。

「仁音・・・」

「なーに?」

「仁音、いなくならないで・・・仁音まだいなくなったら・・・」

「いなくならないよ。こんな状態の零斗君、放って置けないもん。」

「そっ、か。よか、った・・・」

───寝ちゃった。やっぱり、あんまり寝れてなかったんだ。───




 眠ってしまった零斗の頭を膝に乗せる仁音。いわゆる、膝枕と呼ばれるものだ。

 零斗の寝顔を見ながら、部屋を見回す。

 前回来た時に綺麗に片付けてあげた部屋は、少しだけ散らかり始めている。

 お風呂どころか、食事すらまともに取れていない今の零斗に、部屋の片付けをするなんて精神的な体力は残っていないのだろう。

 胸を締め付けられる思いだ。彼女として寄り添ってあげたい。

 だが、今の仁音に一途の代わりには成れていない。

「どうして・・・どうして君のこと、救ってあげられないんだろう・・・」

 大粒の涙達が、仁音の頬を伝い、零斗の顔に次々と落ちていく。




「それで・・・零斗は、大丈夫か?」

 勇牙の問いに、無言で首を横に振る仁音。

「まあ、そうだよな。」

 珍しく、アポイントメントも無しに来た自分の姉を、心配する勇牙。泣いた跡のある顔に喰らって部屋に上げたが・・・

「どうしたら、いいんだろう・・・」

 零斗に引っ張られているのか、最近は仁音の表情も暗くなっている。

 どうしたらいいか、それは勇牙も思うことであった。

「んーーーーーーー」

 一応は考えるが、勇牙に精神治療の知識など、あるはずもない。

「・・・俺たちが考えたって無理か。」

「そんなっ!零斗君を放って置けって言うの!?」

「・・・そうは言ってねえだろ。」

 涙目の姉を見て、また少し心に来る勇牙。

「精神的な事は、それ専門の異能力者に聞けば良い。」




「それで、僕が呼ばれたのか・・・」

 出されたジャスミン茶を飲みながら、律神は仁音を見る。

「私、何も、力になってあげられなくって、零斗君の・・・」

 ちなみにジャスミン茶は、自律神経を整え、心を落ち着かせる効果があると言う。

 律神をもてなすと言うより、仁音を落ち着かせるために淹れた感じが強いが・・・

───勇牙に、そんな発想があるだろうか?───

「なんだよ、ジャスミン茶じゃ不満か?」

 心を読まれた様な言葉に、少しだけ取り乱す律神。

「いや!勇牙がジャスミン茶ってあんまりイメージなかったってだけで!」

「・・・七姫が「そんなんだからモテないのよ!」って言ってくるから、ちょっと勉強しただけだ。」

「・・・ふふっ!」

───なるほど、そっちは颯太や一歌と違って、随分と初心なことで・・・───

 律神は精神感応(テレパシー)の異能力者。七姫と勇牙の両片思いをその異能で知り、ラブコメ代わりに楽しんでいる。

 当の本人は、想い人にモテないと言われたことを少し気にしている様だが。




 それはそうと、本題の零斗と仁音のことだ。

 仁音とは面識がある程度の関係値ではあったが、それでも、以前より少し痩せているのがわかる。

 友人である一途が拉致された現状も、少しは影響しているだろうが、一番の原因は、零斗と共依存状態になりかけている事だろう。いや、もうなっていると言ってもいい。

 共依存の主な特徴の一つ、「自分の幸せより、相手の幸せを優先する」、これに近い。零斗を救えないことを自責してしまっている。

「わかった。明日は僕も着いて行こう。」




「やあ、零斗。」

「律神・・・」

 引き篭ってから、零斗は仁音以外の人間を拒絶していた。

「ごめんね、零斗君。何も言わずに連れて来ちゃったりして。」

「うんうん・・・別に、会いたくなかったんじゃないんだ。ただ・・・」

「仁音さん以外の人に、会うのがしんどかった?」

 そうだ。

「・・・心、読んだか?」

「それくらい、異能使わなくてもわかるよ。異能だけが相手の心を知る(すべ)じゃ無い。」

───それに、今の零斗の心を覗くのは、覚悟がいるよ。───

「そっか・・・」

 頑張って口角を上げ、笑顔を作ろうとする零斗。

「無理に笑わなくていいよ。前だって、面白くないことは、冷たく切り捨てていただろう?」

「そう、だな・・・」




 律神のみを部屋に通す。

「零斗。君は、一途を探そうとは思わないのかい?」

「探したいよ・・・でも、俺にそんな力は無い。神宮寺理事長に頼りっきりで・・・自分が嫌になる。」 

 無力感と、それに伴う激しい自責感情。

「まあ、異能というものは自分では選べない。仕方のないことだ。魔術だって限界はある。あまり自分を責めるないで。」

「そうだ。最近、ゆうまが新曲を出したんだ。聞くかい?」

 美川ゆうまは零斗の幼馴染で、ソロアイドルとして活動している。

 零斗の現状をゆうまも憂いていた。零斗に向けてその曲を作ったのか、それともたまたまそう言う曲を仕事として歌ったのかは、ゆうまと事務所の人にしかわからないことだが、その新曲は零斗に聞かせるべきだと思った。

 律神は、託された思いを届ける様に、そのMVを再生する。


『ひとりじゃない 君は・・・

手を伸ばして 心あけて


心の支えを失う日もあるでしょう

絶望に飲み込まれるような

それでも

私が最後の希望だから

「ひとりじゃない」

君の手を取るよ


君を抱きしめたいんだ

深く傷ついた その心抱え

涙さえ流せないままで

誰も側にいない君一人になっても


どんなに上手に隠れても

私が見つけてあげるから


砕け散った

凍てつく涙を溶かして

孤独なんか

パッと消えるように

手を伸ばして 手を伸ばして

抱きしめるよ!

この歌で!


一人じゃ抱えきれない悲しみを

痛みを一緒に持ってあげるから


君は「ひとりじゃない」


また立ち上がれるまで』


 涙で画面は見えない。それでも、鼓膜を震わすその歌は、確かに心に届いていた。

「零斗。一途が居なくなって、寂しいだろう。苦しいだろう。過去の後悔を、トラウマを、乗り越える事は容易じゃない。それに一途が必要だと言うなら、探しに行こう。」

 律神の合図で、仁音も部屋に入ってくる。

「僕もいる。仁音さんもいる。勇牙だって、颯太だって、勝也だって、七姫だって一歌だっているんだ。」

「零斗君・・・探しに行こう!一途のバカをさ!」

 そうだった。仁音はそういうふうに笑うんだった。

「零斗、君は・・・


「ひとりじゃない」。」


 これまで小学校も、中学校も、人見知りして交友関係はほとんどなかった。でも・・・


『よう遅刻!お前、『早坂』って言ったよな!』


 勇牙のあの言葉から、広がっていってたんだった。姉さんだけだなんて思い込んでた。


 俺は、ひとりじゃないんだ。

設定紹介


音霊家の家庭環境

 仁音と勇牙の母親は失踪。父親も仁音が高専に入学する直前に、長年のアルコール依存が原因で他界している。

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