-23- 勇者新聞 『C級依頼にてS級魔物が出現。㈱勇者興業のA級勇者が撃退』
勇者新聞
『C級依頼にてS級魔物が出現、㈱勇者興業のA級勇者が撃退』
㈱勇者興業が受注したC級依頼『蛇たちの饗宴』にて討伐対象だったアズワン・ベリータルトが推定レベルをはるかに上回る力を持っていることが確認された。依頼を受注した勇者はジーク・フリードリヒとマリア・ランドマークの2名。彼らはA級勇者であり、数々の依頼をこなしてきた歴戦の勇者だったが、2人がかりでようやく肉薄できるレベルであった。これにより勇者ギルドは全魔物の推定レベルの引き上げを行った。現在C級に設定されている依頼は全てS級に変更され、㈱勇者興業と㈱ブレイブの2社が対応に当たることになる。しかし、直近増え続ける魔物の侵略に対して、2社のみでは依頼の消化が不可能であることから、個々にS級の依頼を受注できる権限を与えることが検討されている。
「特別承認の要件はレベルが350以上。若しくはレベル差を覆すことが出来るスキルを保有していること。ですって」
俺はリビングのソファに寝転がりながら空にステータスを表示させた。
ルシフ・テスタロッサ
職業:魔王/社長
種族:魔人
Lv.257
魔力:224530/224530
スキル:【生殺与奪】、【孤軍奮闘】、【孤立無援】、【徒手空拳】、【万古長青】、【舞文曲筆】、【暗黒沈静】
「俺のレベルの上がり遅くないか?」
約400のレベルを保有するアズワンから経験値を奪ったというのに、俺のレベルは400に達さなかった。
「……レベルと言っても種族差はありますからね。多分ですけど」
レベルが上がれば上がるほど、1レベルを上げるために必要となる経験値が多くなることは経験上分かってはいるが、種族間で必要な経験値の量が異なるという話は聞いたことがない。
「それならば勇者ギルドが定める指数の説明が付かないではないか」
「私に聞かれましても……」
リゼは困惑の色を露にした。確かにリゼに聞いても答えは出ない。種族間で必要な経験値が異なり、それを勇者ギルドが換算しているということにしよう。どこか腑に落ちないが。
「それにしても面白いスキルを手にしたぞ。アズワンの奴、ステータスを書き換えられるスキルを持っておった」
――『舞文曲筆』が発動しました。
「ステータスの書き換えを実施」
俺は空に浮いた自分のステータス画面を弄っていく。
「リゼ。これでジークたちの追及を逃れられるぞ」
ルシフ・テスタロッサ
職業:勇者/社長
種族:人間
Lv.357
魔力:324530/324530
スキル:【貸し借り】
俺とリゼは、ジークとマリアを置いて砂漠を後にしていた。
言い訳が全く思いつかず、【物見遊山】でロリドンに構えた新しい事務所に飛んだのだ。
そろそろ彼らがロリドンに着く頃だろう。このスキルのお陰で彼らの追及を逃れることが出来る。
「スキルの名前が少々お粗末ですが、問題ないでしょう。それにこれなら新聞に書かれている特別承認の要件も満たすことが出来ますね」
リゼは俺の横に寝転がると、一緒にステータス画面を見上げた。
「リゼのステータスも書き換えてやる。特別承認が得られるぞ」
「私は結構です。ルシフ様だけが承認を得ていれば、勝手に付いて行きますから」
確かに可能ではあるが、勇者ギルドは勇者の安全を確保するためにクラス分けを実施している。特別承認を得ていない人物が依頼に参加するのはグレーゾーンのように思えた。
「良いではないか。新しいスキルを得るとどうしても使いたくなってしまう」
「ルシフ様、人のステータスを無理やり弄ろうとするなんてセクハラです」
リゼは俺の頬を軽く引っ張った。餅のように伸びるその感触をリゼが楽しんでいる。この行為の方がよっぽどセクハラのように思えた。
されるがままにしていると、1階の扉を乱暴に叩く音が聞こえ、その衝撃が2階に振動という形で伝わる。微かに聞こえるのはジークの声。「開けろ」と叫んでいた。
「リゼ」
俺はリゼに扉を開けるように指示を出すと、リゼは口惜しそうに手を離し1階に向かった。
ガチャン、と鍵が開くや否や、踏みつけるように階段を上る足音が向かってくる。
「社長、アンタ何者だ」
リビングに入って来たのは勿論ジークだった。額には脂汗が浮かび、髪の毛は向かい風によって散乱し、衣服は自分の汗が染みこんでくたびれていた。
砂漠の神殿から帰り、一目散にここまで走ってきたことが分かる。
「2日、いや3日ぶりか? 良かったな命があって」
ジークの質問には答えない。先日は言い訳がなく逃げた俺も、今はジークを言い負かす切り札を持っている。話をそらしたのは焦りではなく余裕の表れだった。
「そんなことどうでもいい。人の能力を奪ったり与えたりするのは魔王のスキルだ。顔は知られていないがスキルの詳細は掴んでいる。会社の名前や魔族を従えていることだって社長が魔王である証拠の1つだ」
顔を知られていたとしても、今の見た目は10歳児だ。結びつくわけがない。むしろ顔を知られていた方が動きやすいまである。ジークとマリアがリゼに反応を示さなかったことから、リゼも同様に知られていないと考えられる。
「体力の残っていないその身体で俺に勝てると思っているのか?」
「勝てない……」
ジークは俺の反論に対し、唇をかんだ。俺自身、魔王だと白状する気はないが、しばらくジークを泳がせてみることにした。
「……1人ならな」
ジークは眉を下げた。そこに秘めたる感情は寂寞。
俺に否定をして欲しかったと言わんばかりの表情だった。
次の瞬間、悠然と階段を上る足音が鼓膜を揺らした。
初めはマリアの足音だと思ったがどうも違う。自信に満ち溢れたそれは別人のものだった。
階段を上り終え、1歩1歩大きくなっていく足音。音が聞こえなくなったと思えば、リビングの入口には1人の女性が立っていた。
白い鎧を身に纏ったその女は見るからに勇者だった。
精悍な顔立ち。凛々しく吊り上がった眉。澄んだ瞳に涼しく伸びる鼻筋。そしてその整った顔面に似合わず、剣を腰に差している。
佇まいがジークやマリアとは違う。コイツはいずれ俺が対峙していたであろう相手だ。
「誰だ?」
「彼らの雇い主さ」
ジークからは俺のことを魔王だと聞いているであろうにこの澄ました態度。優位に進められているようで釈然としない。
「リゼはどうした?」
「寝て貰っているよ。邪魔をされたくないからね」
「ほう、リゼを」
感心した。リゼが声も上げずに気絶させる者など、俺が知る中では片手で事足りる。当然、俺はその片手の中に入っているが。
「ジークから聞いたのだが君は魔王らしいじゃないか。なぜ魔族の王が我々の領土内にいる? ここ数日間で活発になった魔物の動きが関係しているのかな?」
今まで自ら行動を起こさなかった魔王が出現したというイレギュラー。そして、突如増加した魔物の襲撃というイレギュラー。この2つに何かしら関係があるとこの女は踏んでいる。
鋭い、と思った。事実、当たっている。
経緯までは知る由もないが、与えられた情報だけで答えを導き出したその洞察力は賞賛に値する。しかし、それは俺が魔王だと結論付けた場合に過ぎない。俺が魔王であることを否定すれば、女の推測は泡沫となって消え失せる。
恥をかかせてやろう、そう思った瞬間、俺の身体は事務所の外へと吹き飛ばされていた。
俺の身体を追う様に発生する腹部への痛み。
窓ガラスが宙に舞うその先に、女が鞘に入ったままの剣を突いている姿が見えた。
「君はここで討伐する。なぜロリドンに現れたのかが知らないがこんな千載一遇のチャンスは他にない。幸いにもここは勇者の街だ。私が倒れても他の者がお前を倒す」
格上の相手を倒すには油断をさせることが一番効く。しかしこの女は俺のことを全盛期の魔王だと思っている。そこに油断が発生する隙などない。
消えた女の姿。上方に気配を感じ、頭をもたげる。そこには抜身の剣を振りかぶる女の姿があった。
「歴戦の魔王よ。手合わせ願う」




