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-17- 『依頼』蛇たちの饗宴

「ルシフ様、どうなされましたか?」


 貧乏揺すりが止まらなかった。事の原因は分かっている。勇者たちの安否だ。

 彼らが旅立ってから数日が経ち、それは日に日に増していっている。

 名の知れた魔物と言っていたが㈱魔王の社員だろうか。

 そうならば、俺の能力が与えられているため、想像のレベルをはるかに上回っていることだろう。


「聞けば良かったですね。名前」


 あの時はこんな気持ちになると思っていなかったのだ。


「別に興味などないがな」


 言動がまったく一致していないことは自分でもわかった。

 リゼの目が紫に光り輝いた瞬間、観念して俺は自分の本心を話した。


「俺は魔王になろうと思ったわけじゃない。立ち向かってくる者を退け続けた先に魔王の座があっただけだ。しかし魔王という称号が付いてから、俺は魔王とは何であるべきかを考えた。魔王とはつまり魔族の王。魔族とは人間と相容れぬ生き物、互いが互いを嫌悪し争う仇敵だ。であれば、魔族の本懐は何だ。人類の滅亡他ならない。だから俺は世界征服を掲げたのだ」


 リゼは黙って俺の話に耳を傾けている。


「魔王という肩書が残ってはいるが、こんなものは残りかすに過ぎん。いずれ誰かに取って代わられ俺はただの魔族となる。そうなった時、世界征服をしたいかと言われても即答は出来ん。つまり、世界征服は俺の願いではなく、魔王としてあるべき姿を演じるための仮初の願いに過ぎなかったというわけだ。実際に今、勇者たちの無事を願っている己がいる。敵に感情移入をしてしまっている俺は魔王失格だ」


 ジュモンクに言われた言葉を思い出す。型に嵌めたがる性格。


「部下たちには偉そうに魔王はこうあるべきだとか、こうでなければならないとか語っていたが、本心でなかった以上、部下が付いてくるわけがない。反旗を翻されるのも当然の結果だな」


「私の思い浮かべる魔王像は傍若無人で己の欲に事欠かない性格をしています。立場に囚われず自由に自分のしたいことをする。他者の言葉には耳を貸さず自分の意思が最優先事項。逆らう者は圧倒的な力で制圧する。ルシフ様はしっかり魔王様をしていましたよ。ただその性格は忌み嫌われます。ルシフ様が反逆にあったのは、しっかり魔王を全うしていたからです。誇らしいではありませんか。立派に役柄を務めたのですから」


 リゼは俺を抱擁した。それはいつもの下心に満ちたものではなく、慈愛に溢れていた。


 しかし、その性格については俺本来のものだ。別に魔王を演じたためになった性格ではない。本人にそのつもりはないのだろうが、性格が悪いから部下に造反されたと言われて悲しくなった。


「本日までお勤めご苦労様でした」


「まだ終わっておらぬ。俺を裏切った奴を殺し魔王としての威厳を見せつける。そこまでが魔王の仕事だ。最後まで付き合えリゼ」


 魔王としてだけではない。ルシフ・テスタロッサが受けた屈辱もある。これを晴らさずにはいられなかった。


「かしこまりました」


 リゼの抱擁が強くなった。その色が変わる。

 リゼから突如溢れ出したその雰囲気は桃の色をしていた。



 *



「もう勘弁してください」


 ミミは懇願するように俺の足に縋りついた。

 50万Gなどという大金を受け取っておきながら、何という厚かましい獣だ、コイツは。


「1度の要求で済むわけがなかろう。俺が与えた金額分働くまで、お前を離すつもりはない。末永く頼む」


 俺は崩れ落ちたミミの肩に手を置くと、案内されるより先に2階に向かった。


「C級の依頼を出せ」


 席に着くや否や本題に入る。

 ミミは観念したように依頼書を取りに行き、それを大量に抱えて戻ってきた。


 俺とリゼは1枚1枚捲って中身を確認する。


「依頼書に名前が載っている中で課長はいるか?」


「今のところはいませんね」


 ㈱魔王の元社員に関する依頼書を探すがなかなか見つからない。


 ジークの『名の知れた魔物』というセリフから有名な奴は勇者ギルドにリストアップされていることが分かる。

 俺たちの目的は依頼書に記載された魔物のレベルを確認することだった。


「ルシフ様、御座いました」


 リゼは1枚の依頼書を俺に見せた。

 そこに記載された、リール・レ―ファンという名前。


「彼は金融部営業一課長です。依頼日は3日前にもかかわらず、推定レベルは240になっております」


 反映されていない。課長クラスのレベルは200前半~中盤あたりだ。つまり、ジークたちの依頼に記載された魔物が㈱魔王の元社員である場合、ジークたちの身に危険が及ぶ可能性があった。


「ミミよ。現在受注されている依頼の中に勇者興業のジークとマリアが行っている依頼があるな? それを見せろ」


「コンプライアンス的にちょっと……」


「賄賂はコンプライアンス違反ではないのですか?」


 リゼの一言を受けてミミは飛ぶように部屋を出た。戻ってきたミミの手に握られた1枚の依頼書。

 俺はそれを奪う様に受け取る。


「ほう。やはり人助けはするものだな」


「ですね」


・依頼名:蛇たちの饗宴

・目的地:砂漠の神殿

・受注条件:C級以上

・魔物情報:アズワン・ベリータルト

       推定レベル250以下

・依頼詳細:神殿が魔物に乗っ取られました。

      我らがラーフェン神を祀った偶像が破壊されるのではないかと思うと、

      心配で夜も眠れません。

      一刻も早く魔物を退治して、神殿を明け渡させてください。

      おお、神よ。祈りを捧げられないことを許したまえ。


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