-12- スキル【万古長青】
辺り一面は焼け野原。焦げて灰になったジュモンクの体がぽつんと転がっている。
殺してはいない。既に虫の息ではあるが。
「起きろ」
ジュモンクの耳元に行き腰を下ろす。木の燃えた焦げ臭さが鼻腔に充満する。
「あ……」
半分だけ開いた瞼から覗かせる瞳は虚ろで、意識が混濁している様子だった。
「答えろ。俺をハメたのは誰だ。答えねば殺す」
「か、課長……。僕は指示されただけ……」
課長と言われても分からぬわ! 名前で言わんか。
「何を指示された」
「勤怠表の……改ざん」
やはりか。何者かが裏で手を引き、残業代が支払われない土壌を形成していた。
俺の許可を一切取らずに。
「話した……。だから命は……」
「良かろう、命までは取らぬ。だが貴様の未来を奪う」
掴めば塵になって吹き飛んでしまいそうだったため、そっと手を置いた。
「やめ……」
『生殺与奪』
――『生殺与奪』が発動しました。
「指定、ジュモンク・ジュモンクの全てのスキル」
掌が発光し、ジュモンクのスキルを吸い上げた。
ルシフ・テスタロッサ
職業:魔王/社長
Lv.65
魔力:8114/29489
スキル:【生殺与奪】、【孤軍奮闘】、【孤立無援】、【徒手空拳】、【万古長青】
ジュモンクとの一戦により、俺のレベルは少しだけ上がってしまっていた。
自分としては見た目に変わりはないように思えるが、リゼはわめき散らかしそうだ。俺は慌てて【万古長青】を使用した。
――『万古長青』が発動しました。
「成長による見た目の変化を停止」
これでリゼが俺に課した条件をクリアすることが出来る。
「再度指定、ジュモンク・ジュモンクの全ての経験値」
ルシフ・テスタロッサ
職業:魔王/社長
Lv.107
魔力:42411/71900
スキル:【生殺与奪】、【孤軍奮闘】、【孤立無援】、【徒手空拳】、【万古長青】
ジュモンクから経験値を奪ったことでレベルが100を超えた、ギルドの定めるランクに当てはめるとE級。まだまだ先は長い。
しかし思わぬスキルが手に入った。
【徒手空拳】素手で戦う際に力を発揮するスキルだ。
幸い俺は武器を持って戦わない。扱うのは魔法のみである。
偶然にも効率の良い回収が出来ている。強くなりすぎてマンネリ化していた俺にとって、1歩ずつ強くなっていく今の状況は新鮮な体験だった。
ふと職業の欄に目を向けると勇者の記載がなかった。相反する職業である勇者と魔王は共存できないのだろう。
「お疲れさまでした。ルシフ様」
2つの柔らかい物体が背中に当たった。振り向かなくても誰だが分かる。
「リゼ。業務時間外ではなかったのか?」
「今はプライベートです」
リゼの両腕が俺を抱擁する。密着性が高まったことで双丘の感触が強まった。
「あれ? ルシフ様少し成長しました?」
流石に勘が鋭すぎる。本人ですら気が付かない変化に気が付くという点においては秘書として抜きんでた能力を持っているのかもしれないが、その能力の使い道が怖い。
「でも全然対象内なので許しましょう」
安堵のため息をつく。無理やり働かせでもしない限り、これでリゼが俺から離れることはなくなった。
「手に入ったぞ。【万古長青】」
リゼはそれを聞いて顔を俺の頭に埋めた。その瞬間、頭皮が引かれるような痛みを覚えた。
この女、もしや俺の髪を吸っているのではあるまいな。
この狼藉。リゼに対しては魔王としての威厳は無いに等しかった。
「もう絶対にこれ以上成長したらダメですよ?」
「契約だからな。反対に言えばリゼも俺に付き従わねばならんぞ」
リゼが頷いたことが後頭部の感触で分かる。
「リゼ、1つ聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「人事部課長の名前を言え」
「ジュモンクの所属していた課は労務課でしたので、アズワン・ベリータルトです」
名前を言われてピンときた。
「ナーガの女か」
上半身は人間だが、下半身に蛇の尾を持つ種族だ。
「次はそいつを狙うぞ。俺をハメた可能性がある」
今すぐにでも見つけ出してやりたい。その逸る心を見透かされたのか、俺を落ち着かせるように優しく頭を撫でられた。
「もう暗くなりましたし帰りましょう」
「……そうだな、目下の目的は果たした」
昔の体ではない。魔力の少ない今の状態では連戦は不向きだ。
立ち上がろうとするが、リゼが離れず立ち上がれない。
「良い、このまま飛べ」
観念した時、アリエルが目の前に現れた。
「勇者様!」
「だから何度も言っているだろう。俺は勇者ではな……」
「助けてくれてありがとう御座いました!」
アリエルは腰を直角に曲げ、これでもかと頭を下げた。
「エルフに感謝される魔王様なんて聞いたことありませんね」
魔王という立場にいる以上、憎まれることはあれど感謝されることなどない。初めて言われた感謝の言葉に全身がむずがゆくなった。
「ジュモンクのことを言えないな。俺も魔王失格だ」
空間を飛ぶ寸前、ジュモンクを囲うエルフたちの姿が見えた。
ふん、自業自得だ。




