-11- 魔王の本気
コイツは俺が求めているスキル【万古長青】を持っている。コイツはこの能力で、幸せでハッピーな状態をずっと維持している。怒りに変わる筈の攻撃を受けてなお、葉が色づかないのが何よりの証拠だった。
先ほどは酩酊状態に似ていると評したが、違う。コイツは快楽を受けた状態をずっと維持している。痛みを上回るほどの快楽が体を巡ることにより、一種のドーピング状態になっていた。
面白い。快楽を超える恐怖を与えてやる。
その前に1つ確かめたいことがあった。
俺はジュモンクに向けて手をかざした。
「焔・薄紅葵」
ジュモンクの足元に発生する熱源。地面から飛び出した焔は5枚の花弁となって広がると、ジュモンクを飲み込むように花弁が閉じた。
「土壁」
ジュモンクの体を土の壁が囲う。
ジュモンクは飲み込まれる寸前で魔法を発動させ俺の攻撃を防いだ。
やはり思った通りだ。スキル【孤軍奮闘】、【孤立無援】によって使用する魔法の威力が増していた。【孤立無援】は元々俺のスキルではあるが、保有していたスキルが余りにも多く、どれほどの効果があるか把握していなかった。これほどとは。
ぼろぼろと崩れ落ちる土の壁。姿を現すトレントの葉が少しだけ赤みを増している様に見えた。未だに燻る焔がそう見せているだけなのかもしれないが。
「根堀葉堀の乱れ舞い」
ジュモンクが両手を地面につけた。手というよりは手を模した枝だ。
次の瞬間、地面を裂いて大樹の根が突き破り、四方から草木の枝が鋭く伸びた。
根は俺を捕縛するため、枝は俺を突き刺すため。
一度根に捕らえられれば逃げ場がなくなり、魔王の串刺しの完成となる。
俺は根から逃れるために高く跳んだ。森を見渡せる高さまで跳んでもなお、根は俺を追いかけ伸び続ける。
「焔・黒鉄黐」
ボコボコと発生する小さな紅玉。
焔を圧縮させたその玉は、何かに触れると爆発を起こす。
指でつまめるサイズの紅玉が溢れんばかりに両手に溜まると、地面に向けてばら撒いた。
根に紅玉がぶつかると、それは爆発を起こし、根の息の根を止めた。太く、そして空中まで伸びた根。質量は相当なものだ。案の定、根が地面に落下した時、天を衝くほどの轟音が起きた。
間髪入れず、それをはるかに超える複数の爆発音が森を轟かせた。
紅玉が落下した地点は空から見れば一目瞭然だった。爆発により草木は禿げ上がり、何の生命も感じない平地と化した。
地面に着地した俺を待っていたのは、葉を赤く染め上げたジュモンクだった。
「どうした。頭が怒りに染まっているぞ」
「僕の国に何をしてくれる……」
お仲間である森林を破壊されたことが余程頭に来たのか、それとも自分の国を壊された怒りか。どちらかは不明だが、コイツの感情を揺さぶれたのならどちらでも良い。
「俺がこんなもので済ませると思うのか? 怒っているのがお前だけだと思うなよ」
右手を天に掲げ、残るすべての魔力をその手に集中させた。
「焔・瑠璃玉薊」
右手に浮かぶ、約2メートル大のふわふわの綿毛。色は橙色に染まっており、いくら馬鹿者でも、それが焔であると察するに時間はいらない。
「僕の国、と言ったな。自分の所有物を奪われる苦しみを味わわせてやろう」
右手を握りしめた後、花弁が開くかのように優しく開く。
ふわふわの綿毛は四散し、宙を舞った。
トレントは炎を嫌う。樹木の性なのだろう。それはジュモンクも例外ではない。
この綿毛たちが森に危害を加えると分かっていても、手を出さずに、いや手を出せないでした。自分に火の粉がかからぬように。
綿毛は森へと広がっていく。1つの綿毛が森と接触した時、それは発火した。
炎は次々と木々に燃え移り、森は炎上した。追い打ちをかけるように燃料を投下し続ける綿毛がその炎上を加速させていく。
「これで逃げ場はないぞ。お前に燃える森に向かって逃げる勇気はないだろうがな」
俺とジュモンクを囲う樹木は既に燃え、さながら炎で囲われた闘技場の様相を呈していた。
「この炎を収めないとエルフたちが死ぬぞ!」
「エルフの生死などどうでも良いわ」
自分が困っているだけなのに他人を巻き込む。その醜悪さに吐き気がした。
「俺を誰と心得る。魔王ルシフ・テスタロッサぞ。こんなもの俺の覇道に転がる石ころを蹴飛ばしただけに過ぎん」
両手を合わせ合掌のポーズを取った。
「煉獄」
森を侵食し続ける炎がピタリと動きを止めた。
炎は時間を遡るかのように向きを変えると、俺の下に集まり、その姿を焔へと変えた。
俺の背後で燃え盛る焔。天に届くほど高く揺らめく。
今の俺の魔力ではこれだけの量の焔を出すことは出来ない。しかしエルフの森を燃やすことで焔の供給を可能とした。
「何か言い残すことはあるか」
「魔王様、ご慈悲を」
しおしおと葉が枯れていき、ひらひらと茶色の葉が宙を舞う。
あれだけ生い茂っていたジュモンクの頭だったが、一切の葉もなくなった。
「命乞いか。お前は魔王に相応しくない」
右手を振り下ろすと、焔が這うようにジュモンクを囲むと、とぐろを巻くように渦を発生させた。上がる火柱の中にジュモンクを捕えた。
永遠に体を焼く尽くす地獄の業火。焔が酸素を燃やすため、呼吸をすることすらままならない。火柱の中からジュモンクの叫び声が聞こえたが止めてやる気はない。
「こんな状態ではあるが俺に本気を出させたこと、冥府で自慢するがよい」




