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『AGISS -対神機関-』  作者: 羽吹南瓜
シン章
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第63話『選ばれた器』

――AGISS本部・格納庫。

透真はしばらく黒い装甲を見上げていた。


「……やっぱり、いるのか」


返事はない。


「ソラナム」


――沈黙。


「……ソラナム?」


それでも何も起こらない。


「なんだよ……」


透真は苦笑する。


「反応したと思ったら、それだけかよ」


すると。


――ピッ。


ヴァルグレイヴの胸部に、ほんの僅かに光が灯った。


『……まだ、話せない』


「!」


今度ははっきり聞こえた。


透真は目を見開く。


「お前……!」


『久城透真』


「俺の名前……」


『……お前は、私を知っている』


「当たり前だろ」


透真は笑った。


「俺の好きな小説の主人公だからな」


しばらく間が空く。


『……そうか』


その声は、どこか懐かしそうだった。


『ならば――いつか分かる』


「何が?」


『私が何者なのか』


――通信が入る。


『久城! 格納庫から離れろ!』


伊藤だった。


「伊藤さん?」


『緊急だ。研究部門が古代資料から新しい記録を発見した』


「どんな?」


『……HX適合者についてだ』


透真はヴァルグレイヴを見る。


「分かった」


――AGISS本部・研究会議室。


巨大なスクリーンに、古代文字の解析結果が表示されていた。


伊藤。


神崎ミサキ。


透真、八重、レオン、鳴海。


そして南瓜。


全員が画面を見ている。


「この文章は、複数の石板から断片的に発見された」


神崎が説明する。


「まだ完全な翻訳ではありません。ですが、意味としては――」


画面に日本語訳が表示された。


HXは、器を求める。


透真が眉をひそめる。


「……器?」


「続きがあります」


次の文字。


器がHXを選ぶのではない。

HXが器を選ぶ。


部屋が静まり返る。


「つまり……」


八重が透真を見る。


「ヴァルグレイヴが、透真さんを選んだ……?」


「可能性は高い」


伊藤が答える。


「そして、さらに重要なのがここだ」


別の文章が表示される。


適合者は、力を与えられる者ではない。

力と共に生きる者である。


「……どういう意味だ?」


レオンが問う。


「まだ分からない」


伊藤は首を横に振る。


「だが、現在のAGISSが考えていた『HX=兵器』という認識そのものを見直す必要があるかもしれない」


鳴海が腕を組む。


「ほな、HXって何なんや?」


誰も答えない。


その時。


「……昔の人間も、分かってなかったんじゃない?」


南瓜が呟いた。


全員の視線が集まる。


「どういうことだ?」


伊藤が聞く。


「この記録を見る限り、古代文明の人たちもHXを完全に理解していたとは限らない」


南瓜は画面を指差す。


「『器を求める』って書いてある」


「つまり?」


「HX自身が、誰かを必要としていた可能性がある」


透真は黙って聞いていた。


すると。


――ザザッ。


スクリーンが乱れる。


「またか!」


画面に大量のノイズが走る。


そして突然。


一つの映像が表示された。


古代の都市。


巨大な塔。


そして――


一人の人間とHX。


「……またヴァルグレイヴか?」


だが違う。


白銀の翼。


六枚の光翼。


「セラフィム……?」


八重が呟く。


オランダ支部のエルから通信が入った。


『その映像――こちらでも確認できます』


「エル?」


『セラフィムが、この映像に反応しています』


画面の中。


古代のセラフィムらしきHXの隣に、一人の人間が立っている。


だが、顔は見えない。


その人物が、ゆっくりと手を伸ばす。


するとセラフィムが――


その手に触れた。


『……適合』


エルが息を呑む。


「セラフィムが……」


『ええ』


『これは……私とセラフィムの出会いに酷似しています』


透真は映像を見る。


「じゃあ……」


「HXには、昔から適合者がいた」


神崎が呟く。


「二億年前にも」


そして。


画面がさらに切り替わる。


別のHX。


別の人間。


また別のHX。


次々に映像が流れていく。


それぞれのHXには、一人の人間が寄り添っている。


――まるで。


共に生きていたように。


そして最後に。


黒い画面。


そこへ一行だけ表示された。


HX-01 VALGRAVE

適合者:SOLANUM


透真の呼吸が止まる。


「…………」


八重が透真を見る。


「透真さん……」


「……やっぱり」


透真は画面から目を離さない。


「ソラナムは……ヴァルグレイヴの適合者だったんだ」


南瓜は何も言わない。


だが、伊藤が次の資料を開く。


「問題は、その次だ」


画面に古代文字。


その翻訳。


適合者は、終焉の後も残る。


「終焉……?」


透真が呟く。


伊藤は頷く。


「さらに別の資料には、こうある」


肉体が失われても、意志はHXに残る。


――静寂。


透真の顔から、表情が消える。


「……意志が」


ヴァルグレイヴ。


ソラナム。


二億年。


全てが一本の線になり始める。


そして透真の脳裏に、昨夜聞いた声が蘇った。


『……まだ、話せない』


「……ソラナム」


透真が呟く。


その時。


ヴァルグレイヴの反応が、研究室まで届いた。


――ゴォン。


施設全体が揺れる。


『久城透真』


今度は全員に聞こえた。


低く、静かな声。


「……!」


『私は――』


ヴァルグレイヴの装甲が、ゆっくりと展開していく。


黒い装甲。


赤い発光ライン。


そして、その奥に宿る意識。


『……ずっと、お前を見ていた』


透真は目を見開く。


「……ずっと?」


『この世界が再び文明を築き――』


一瞬、声が途切れる。


『……そして、お前が生まれるまで』


「…………」


『私は待っていた』


透真の胸が強く鳴る。


「じゃあ……俺を選んだのは」


『私だ』


ヴァルグレイヴが答える。


『お前なら、私の力を――』


そこで。


突然、通信が途切れた。


――バァン!!


研究室の照明が全て消える。


「何!?」


警報。


『緊急警報。地下区画に未知の反応』


『怪異反応ではありません』


『HX反応でもありません』


伊藤が叫ぶ。


「なら何だ!」


返ってきた報告。


『……判別不能』


そして。


地下深層から――


一度だけ、巨大な心音のような音が響いた。


――ドクン。


南瓜が顔を上げる。


その表情は面白くて仕方がない、という風に歪んだ笑みを浮かべていた。


「……来た」


「南瓜?」


「……いや」


南瓜はクスクスと笑いながら立ち上がる。


「まだ、来てない」


「何が?」


南瓜は答えない。


ただ地下を見つめる。


そして。


小さく呟いた。


「二億年越しに、何かが目を覚ましただけだよ。」

『目覚め』


AGISS地下深層で発生した謎の反応。


それは怪異でも、HXでもない。


古代文明が残した、新たな未知の観測装置だった。


しかし、その装置が映し出したのは――


「現在の地球」ではなかった。


一方、ヴァルグレイヴの中に残るソラナムは、透真へ初めて自分の過去を語り始める。


「俺は……二億年前に――」

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