第五話 『観測者』
白いHXは言った。
『最後の一機となったHXには、あらゆる願いを叶える権利を与えます。』
『さあ――証明してください。』
『誰が最強なのかを。』
巨大な光輪がゆっくりと回転する。
空一面を覆うほどの巨大な存在。
それは戦う意思すら見せない。
ただこちらを"観測"しているだけだった。
「……なんなんだよ、あいつ。」
俺は思わず呟く。
『観測者《ANGEL PRIME》』
『HX文明最高管理AI』
セラフィムが静かに答える。
「管理AI……?」
八重が息を呑む。
『全HXの管理権限を保有。』
『戦闘への直接介入は禁止、観測のみ許可されている存在。』
「つまり……ゲームマスターということか。」
レオンが空を睨む。
『概ね正解です。』
ANGEL PRIMEの声が世界中へ響く。
『私は裁定者。』
『勝者を記録し、敗者を記録する存在。』
リアが肩をすくめる。
「奴は倒せないんだよ。」
「倒せない?」
「うん。」
リアは笑った。
「攻撃しても全部無効化される。」
その瞬間。
BEASTが地面を蹴る。
「でも今は!」
「目の前の相手!」
ドォォォォン!!
再び突撃。
「エル!」
俺は叫ぶ。
「任せてください!」
エルが右手を掲げる。
「HX-02!」
「セラフィム!」
純白の装甲が粒子となって身体へ集まる。
腕。
脚。
胸部。
頭部。
一瞬で白銀の装甲が形成される。
背中。
六枚の翼が展開。
黄金の光輪が頭上に浮かぶ。
『Synchronize Complete.SERAPHIM』
「綺麗……」
八重が思わず見惚れる。
一方。
「ヴァルグレイヴ!」
透真も脚部スラスターユニットを展開する。
その瞬間。
BEASTが二人へ飛び掛かる。
「来た!」
「透真!」
エルが叫ぶ。
「合わせるぞ!」
「了解!」
黒と白。
二機のHXが同時に飛び出した。
ガギィィィィン!!
ヴァルグレイヴの剣がBEASTの爪を受け止める。
「重っ……!」
その横から。
セラフィムが光槍を突き出す。
ドン!!
BEASTが初めて後退した。
リアが嬉しそうに笑う。
「そうそう!」
「HX争奪戦ってこうじゃなきゃ!」
しかし。
BEASTの装甲が赤く光る。
『適応開始』
『近接戦闘データ取得』
『ヴァルグレイヴ解析開始』
『セラフィム解析開始』
羽吹の表情が変わる。
「まずい。」
「何が?」
「学習が始まった。」
「このまま長引くと……」
「二人の戦い方を全部コピーされる。」
「はぁ!?」
鳴海が叫ぶ。
「ズルやん!!」
リアは困ったように笑った。
「だからBEASTは厄介なんだ。」
「時間をかけるほど強くなる。」
その時だった。
オランダ支部の通信が割り込む。
『こちら司令室!』
『市街地地下で新たなエネルギー反応!』
『これは……!』
オペレーターの声が震える。
『HX反応です!』
『しかも一つじゃありません!!』
全員が息を呑む。
モニターには世界地図。
新たな光が灯る。
ロシア。
アメリカ。
日本。
そして、さらにもう一つ。
「世界中で……同時に?」
俺が呟く。
羽吹は静かに目を閉じた。
「始まった。」
「HXは互いを呼び合う。」
「これから世界中の適合者が動き出す。」
「争奪戦は、まだ始まったばかりなんだ。」
空ではANGEL PRIMEが静かに全てを見下ろえていた。
その光輪は、まるで次の戦いを待ち望んでいるかのように、ゆっくりと回り続けていた。
次回予告
BEASTとの戦いは激化する一方、世界各地で眠っていたHXが次々と覚醒する。
さらに日本にも未知のHX反応が出現。神戸支部へ帰還命令が下る中、リアが透真に意味深な一言を残す。
次回――
第六話『覚醒する世界』




