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魔法の小瓶②

あまくてR15な後編

 そして、数日後の朝。

 私は無気力状態でベッドに伸びていた。

 ベッドサイドのテーブルには、空になった瓶が。部屋の中は甘ったるい香りで満ちていて、肌や髪にまでその匂いが染みついている気がする。決して不快な匂いじゃないけれど、嗅いでいるだけで体がむずむずしてくる蠱惑的な香りだ。


 目覚めてしばらくの間、私は今の自分の状況が把握できず、昨夜から順に物事を思い出すことにした。

 確か……昨夜、いつもより早めに帰宅したエドウィンに明日の仕事内容を尋ね、早番でないのを確認した。そして「今夜、抱いてください」と思いきって誘ったんだ。あのときのエドウィンの顔は、すごかった。驚いて、でもすぐに満面の笑みになってたくさんキスをしてくれたっけ。


 それで、風呂から上がった私は寝室に行く前に、居間の戸棚に入れておいた例の瓶を取ってきた。それを片手に握りしめて寝室に行き、ベッドに近くに行く前に思いきってかなりの量を首や手首に擦り込んだ。


 エドウィンはベッドに座って私を待っていたけれど――私を抱きしめ、キスした辺りから既に様子がおかしく、やたらすんすんと私の体を嗅いだり、舐めたりしてきた。やっぱりこの辺、エドウィンは犬系男子だな、と思った。


 ……でも、だんだんと余計なことを考えられなくなった。

 媚薬は私が思っていた以上の効果を発揮したようで、エドウィンは興奮して私を抱きしめ、キスし、あっという間に服を引っぺがしてしまった。

 いつもよりその手つきが性急なもんで慌てて止めようとしたら、小瓶がベッドに転がった。エドウィンはそれを見ると目を見開き、にやっと笑って――


『なるほど、なにやらそそるような匂いがすると思ったら』

『う、うん。嫌だった?』

『まさか。……ああ、これ、飲んでもいいそうですね。こういうのって、直接体内に取り込んだ方が効果が出るそうですよ。……ということで』

『えっ?』

『はい、カトレア様。あーん』


 エドウィンは私の顎を捉えて口を開かせ、あれよあれよという間に瓶の中身の半分を私の口に流し込んだ。いきなりだから噎せそうになったけれど、思ったよりその液体は甘くておいしそうだから、一気に飲み込んでしまう。


 あ、まずい、と思った側から、エドウィンは瓶に残っていた液体を今度は自分が一気に飲んでしまった。えっ、マジか、と思っている間にお互い体が熱くなって、荒れ狂う熱を逃がす方法が知りたくなって――


「うっ、わぁぁぁぁ!」


 昨夜から今朝に至るまでのアレコレをつぶさに思い出してしまい、私は枕に顔を突っ込み、バンバンとマットレスを叩いた。

 そういうことか、そういうことだった! 薬をお互い飲んで、気分が高揚して、いつも以上に盛り上がって――


 見たところシーツも上掛けもきれいだから、いつも通り私が先に気絶した後、エドウィンがせっせと取り替えてくれたんだろう。近くにエドウィンのいる気配がしないから、早めに起きて鍛錬をしているのかもしれない。


 ああ、やばい。なんかすごくやばい。でも、不思議と後悔はしていない。

 思いきって誘ってよかった。

 エドウィンの余裕のなさそうな顔を見られてよかった。

 彼に我慢させなくて……よかった。


 そうしていると、遠慮がちにドアが開いた。私服姿のエドウィンは室内に入ってまず、驚いたように目を見開き、急いで窓を開けた。ああ、匂いが充満しているからだね。


「おは、よう……エディ」

「おはようございます、カトレア様。……まだ早い時間なので、無理に起きなくていいですよ」


 私が枕に肘をついて起きようとすると、駆け寄ってきたエドウィンがその場にしゃがみ、私の手をぎゅっと握ってきた。昨夜散々色っぽい顔を見せてくれた彼だけど、今は朝のすがすがしい空気に似つかわしい爽やかな雰囲気で、私を心配そうに見つめてきている。


「すみません、昨夜は無理をさせました。……その、ついあなたをもっと求めたくなって……」

「謝らないで。薬を持ってきたのは私だし……それに、私も……う、嬉しかったから」

「マジ……いえ、まことですか?」


 つい口調を崩しそうになって慌てて言い直した彼は、昨夜のようなケダモノっぷりは微塵も見せず、ただただ優しくて可愛げがある。エドウィンも来年には二十歳になる大の男なのに、こうして時たま見せる仕草が可愛いと感じるのは、きっとこれから先も続くことだろう。


 私は頷き、空になった瓶をちらっと横目で見た。


「……私、あなたに無理をさせていると思っていて」

「無理? あなたが俺に?」

「ええ。その……ほら、騎士って体力がたくさんあるけれど、私はあなたの体力についていけないことがあるし……それで、あなたに我慢させているのかと思って、お薬を持ってきたの」

「……そういうことでしたか」


 最初は怪訝そうな顔をしていたエドウィンだけど、納得がいったように目を丸くした後、きゅっと眉根を寄せた。


「……確かに俺はあなたより体力はありますが、それとこれとはあんまり関係ありませんよ」

「……でも、騎士が旦那様だといろいろあるって……先輩奥方が――」

「……そりゃあ、人によってはがっつくこともありますけど、俺は別に無理をしているとか我慢をしているわけじゃないですよ。あなたの寝顔を見るのも、ぐったりしたあなたの体を拭いたりするのも、結構好きですし。それに、俺一人が先走ってあなたに痛い思いや嫌な思いをさせる方がずっと嫌です」


 きりっとして言い放った後、彼は少しだけ気まずそうに視線を逸らした。


「……ただ、ですね。えーっと……昨夜のように、カトレア様の方から誘惑していただけたりしたら……男冥利に尽きるっていうか、すげぇ興奮するというか」


 うっ……確かに昨夜の私は、あの薬を飲んでいたこともあってかなり積極的になっていたと思う。エドウィン、すごい嬉しそうだったし、目をぎらぎらさせていたっけ。


「……う、うん。だから、その……たまには、いいかなって思うの」

「そうですね。恥ずかしがり屋なあなたが時たま積極的になってくれたら、それだけで俺は嬉しいです」

「う、うん。薬を飲めば――って、もうなくなっちゃったんだ」


 さすがにサイネリアに、「二本目がほしいから売っている店を教えて」と聞く勇気はなかった。サイネリアなら余計なことを言いつつもちゃんと教えてくれるだろうけれど、他人に夫婦事情を赤裸々に言えるほど、今の私のレベルは高くない。

 エドウィンもまた、昨夜自分たちで飲み干してしまった媚薬の瓶を見やり、頷いた。


「そうですね。……だったら今度、一緒に買いに行きません?」

「えっ」

「ラベルを見たところ、あれって結構有名な店で取り扱っているみたいです。ごく普通の薬品も扱っている店なので買い出しついでに探すこともできますし、あの店の薬なら変なものが入っていないので、安心して使えそうですからね」


 あ、そうか。ラベルも箱もあるし、それを見れば店が分かるんだ! それにエドウィンは私と違ってよく城下町にも降りるから、店にも詳しいみたい。日用品の薬を買いに行くついでにこっそり購入するなら……いけそうかな?

 私の表情が緩んだのを見て、エドウィンも微笑んで私の手の甲にキスを落とした。


「……積極的なあなたももちろん素敵ですが、俺は今のように、愛らしく恥じらうあなたのことが大好きです。これから、あなたのたくさんの顔を見せてくださいね。……もちろん、俺だけに」


 最後にちょこっとだけ独占欲の欠片を見せるエドウィンは、本当に私の感情を揺さぶる天才だ。微妙なさじ加減といい、完璧としかいいようがない。

 私は微笑み、エドウィンの手を引き寄せてさっきしてもらったように手の甲にキスした。


「ええ、もちろんよ」


 私だけのエドウィンと、エドウィンだけの私。

 そんな顔があるのって、とても素敵なことだと思うから。









「……さてはカトレア。あなた、例の媚薬を使い切ったわね」

「なっ!? なんで分かるのですか!?」

「口から甘い匂いがしたからね。さっきすれ違ったエドウィンからも同じ匂いがしたし――ほら、これでも飲んでちょっとは匂いをかき消しなさい」

「うっ……かしこまりました」

「……これなら、エルフリーデ王家の血を継ぐ子ができるのもあっという間でしょうね。楽しみなことだわ」

「そ、そうかも、しれません。でも、サイネリア様のご結婚だって皆待ち望んでいるのですからね!」

「それもそうね。……じゃ、そろそろ仕事に戻りましょうか。次、アドルフォ殿下の資料をまとめるわよ」

「かしこまりました」

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