光の勇者ちゃん
俺は黒い子猫のエーコを雇う事にして数日経った
夜泣きがたまにある
どうやら火事の際に家に居たらしく両親に外に放り出されて助かったらしいが両親は間に合わなかった事が夢に出てくるらしい
後はそうだな
正直言ってなめてた
エーコはよくよく考えればわかる事だった
自分だってそうだったのだ
スラムなんかで勉強を教えてくれる人なんている訳がない
せめて読み書きできないと注文も取れない
いや、客に書いてもらうと言う事もできなくはないんだろうがそれは俺個人が納得できないのでやらせる気はない
まだ新しい俺の家の一室、真新しく家具の一つもないただの部屋
そこをエーコの部屋として貸し出している
最初大きな部屋を貸そうとしたのだが頑なに断ってきて廊下の隅を陣取ろうとしていたので止めさせたのだ
代わりに小さい部屋で何とか納得させた
おかしくないか?
部屋をやるって言ってんのに断ってくるんだぜ?
まぁ自分を卑下するのは良くないからってことで押し通した
とりあえずは読み書きから覚えさせることにした
スポンジが水を吸収するようにするすると覚えていったのはこちらとしては中々いい誤算だった
とは言ってもまだ完璧ではないのだけれども及第点ではなかろうか
そんなことをしながら日は経ち俺は中庭をDIY的な事をしながら自分好みに改造していた
イメージは番傘を立てる和風カフェと言った感じだ
中々にうまくいってると思う
正直番傘を作るのが難しかった
紙の質もよくなかったし竹も無かった
試行錯誤の末もどきは完成したので良しとした
そんな改造をエーコは隣で見ていた
目が輝いていたので魔法を見るのは楽しかったんだろう
可愛かったのでとりあえずなでておいた
俺の当面の目標はこの子猫をふっくらさせることだ
だって太った猫ってかわいいだろ?
まぁ獣人に当てはまるか分からんが
さて
開店を明日に控えてやることはやった
エーコもとりあえずたどたどしくはあるが注文を取るくらいは問題なさそうだ
食材も買ってきたし中庭も完成した
メニューは開店を十時にして閉店を十七時に設定してある
基本を甘味のセットにお茶を十種類
軽食も五種類
ランチは日替わりのワンプレートにしたので問題ないだろう
軌道に乗ったら夜は酒でも出してみるか?
どっちにしても後は客がどのくらい入るかだな
明日が楽しみだ
「ソウ様おはようです」
「ん?エーコか…随分早いな」
「えへへワクワクして早く起きちゃったです」
「遠足行くこどm…(子供だったか)」
子供みたいだなと言おうとして子供だったことを思い出した
顔を洗って一階の喫茶スペースに降りて準備をする
ふと入り口に影が差したのが見えた
視線を入り口にやるとドアに着いている窓から水色の透き通る髪の美少女がこちらを見ていた
「ぶっふぅ」
俺は飲みかけた紅茶を吹き出してしまった
「ふみぃぃ」
「ああ、すまん」
噴き出した紅茶をエーコにかけてしまった俺はタオルでエーコを拭いてやる
「なんで噴き出したんですか」
エーコが涙目であったが外にいる人物のせいである
俺は扉まで歩いていくとドアを開けた
「お客様開店は後に時間後になりますが?」
「あ、ちょっ!他人行儀はやめてよソウ君」
「勇者ちゃんは何でここにいるのかな?」
「もう!私の事はクレアって呼んでっていつも言ってるでしょ!婚約者なんだから!」
ぷんすかと怒る美少女クレアは可愛いが婚約した覚えはない
「婚約はしていないだろ」
ガーンと音が鳴りそうなくらい大きな口を開いてがっかりのポーズをクレアはとっていた
「なによう…いいじゃない、今日開店なんでしょ!だから来たのよ?」
「うん。さっきも言ったけどまだ早いからな?」
うるうると瞳を濡らしこちらを上目使いで睨んでくる
うん、可愛いだけだな
俺は小さく息を漏らし中に入れることにした
だって美少女が外で待ちぼうけって絵面悪いだろ?
しかも勇者ちゃんことクレアはこの王国のお姫様だしな
因みにクレアは今15歳
同い年だな
一年前の「俺喫茶店やるわ」発言の時はヤバかった
何がやばかったって?
それはもう俺と結婚する気満々だったクレアがショックのあまり聖剣抜いて斬りかかってきたことだろうな
冗談でも笑えなかった
魔王もドラゴンも切り裂いた聖剣ですよ?
全力で障壁張って防いでやったわ
陛下の前でな!
俺の師匠は宮廷魔導士だけど俺自身は宮廷魔導士になる気は一切なかった
だから旅が終わって一人前になったらさっさと城を出ようと考えてた
クレアがお姫様じゃなければ結婚どんと来いだったんだけどな
政治に関わるのは勘弁してほしい
いざとなったらとりあえず登録しておいたハンターギルドでモンスター狩りしてでも暮らせるし
気が付いたらランクもAまで上がっていて本職そっちでもやっていけるしな
喫茶店を趣味にする気はないけど
「まぁ中でゆっくりしてなよ」
「うん」
やっぱり美人だなコイツ
「おじゃましまー・・・」
中に入った瞬間エーコを見たクレアが斬りかかってきた
寸前の所で身を反らし躱す
「うおおお!あぶねぇ!」
クレアは大粒の涙を瞳に蓄えこちらを睨み付ける
「なんで…なんで…」
なんでと呟きながらこちらに剣を構えてくる
いや
こっちがなんでだよ!
「ちょっと落ち着け!今一体何があった!」
涙目でクレアが指さしたのはエーコだった
「エーコがどうした?」
「私がいるのに!あんな幼女に手を出すなんて!」
爆弾落としやがったよこの子!
「いや違うからな!」
「何が違うのよ!」
このままじゃあなたを殺して私も死ぬとか言い出しそうで怖いな
「これはだな!」
三十分程説明してようやく納得したらしいクレアは顔を真っ赤にして謝ってきた
そしてエーコの境遇に涙している
「うんまぁいいから気にすんなよ」
もう少しで死ぬとこだったけどな、とは言わないけど
そしてクレアはこちらをキッっと睨むと着ていた鎧を徐に脱ぎだした。
「ちょっと待てクレア何をしてる!」
「私もここで住み込んで働くわ!」
「え!?何言ってんの!お前姫様じゃん!」
「だってエーコちゃんが羨ましいんだもん!」
もんってクレアさん…
「分かった!でもとりあえず王様に許可貰ってからにしてくれ。説得できれば俺からも頼むから」
なぁなぁでごまかそう
ほんとに説得してきたなら…いや、娘命な王様だから説得はできない…か?
とりあえずクレアの口に朝食のサンドイッチを押し込んだ
幸せそうな顔で咀嚼しているのを見るとこちらも少し嬉しくなる
エーコは終始ポカンとした顔をしていたがクレアが姫でしかも勇者だと気が付くと額が埋まるくらいの勢いで頭を下げ始めたので止めさせた
姫とスラムの子供じゃこうなるわな…
その後、クレアは開店まで待たずに帰って行った
たぶん説得しに行ったんだろう
「それじゃエーコ時間になったから開店しようか!」
「はい!ソウ様!」
エーコが勢いよくシュピッと手を上げた
扉の呼び鈴がなる
「いらっしゃいませ『喫茶魔法使いの箒』へようこそ」
王城の一室が謎の爆発を起こしたのを知ったのは翌日の事だった。
割と手が早い姫勇者ちゃんでした