続報
ジャージャー。
皿の汚れを取るべくスポンジを手に俺は台所の流し台に立っていた。すぐ斜め下には洗浄器がゴーゴー音を発てて食器の洗浄に精を出している。
「なぁ。成宮?今思ったんだが昨夜上村との戦闘になった瞬間、髪留めひっ千切って髪色を銀髪にしてたけどあれにはなんの意味があるんだ?」
俺は隣で洗浄された皿を拭いている成宮に問う。
「あぁ。あれは髪留めで私の本来の霊力を抑えてたのよ。髪はあっちの世界では銀髪だし。ちなみに巫女装束になったのもあっちの世界での戦闘スタイルがそれだからだから。」
「何で力を抑える必要があるんだ?」
俺は魚料理が載っていた皿のしつこい汚れに少々苛立ちを覚えながら成宮に聞いた。
持っていたスポンジにいっそう力を込める。
「力を抑えていないと私達の存在が地球の世間に公になる危険性があるのよ。そうなると色々と厄介でしょ?あと、私の事情になるけど力を抑えることで私の今いる居場所を上村に知られないようにしているの。」
「ふーん。じゃぁ、上村も今段階では力を抑えてるってことか?それじゃあ上村の居場所は分からないのか?」
それでは再戦なんか望めない。
「確かに現在上村は力を抑えているわね。でも、居場所は判るから安心して。確かに私達は戦闘を主にした霊力者だけど基礎的な偵察術ぐらいはできるから。いま町中に私が飛ばした式神が上村の居場所を探索中よ。
で、ついさっき五分前に居場所を突き止めたわ。」
「そういう術はいまの成宮の力でも出来るんだな。」
魚料理の汚れをついに取り除いた俺はその二皿を洗浄器に掛ける。
「ええ。そうね。基礎的な術はそんなに力は要らないから。」
そして両者の間に沈黙がおちる。
ゴーゴーと先程掛けた洗浄器が発する音だけがこの空間に流れていた。
そこで
「ねぇ?今さらだけど何で新神君は昨夜あの神社に入れたの?あの時、既に結界は張られていたと思うんだけど。何で?」
と今度は成宮が俺に聞いてきた。
「そう言えばそうだな。たしか、その結界って空間の屈曲とかいう能力があったんだよな?」
「ええ。そうよ。あの地に訪れた者は必ず私が指定した場所に転送される仕掛けだったのよ。予めあの地には霊力を少しずつ流し入れて私用のフィールドにしていたからかなり結界も強力だった筈よ。」
それは上村の戦闘用に準備した意味も含む。
「ん?ああ〜。成る程。」
「何よ。独りで呟いて。」
成宮が若干俺との距離を遠ざける。
「違う。違う。そんな引くなよ。さっき言ったろ俺の頭中にあの神社の神の声が流れたって。それが今流れたんだよ。」
必死で弁解を試みる。
「ん。そうなの?」
信じたのか信じてないのかよく分からない表情。
「で、その神様は何て言ったの?」
「ああ。成宮が張った結界は今頭中に話し掛けてきた神が俺が境内に入った時だけ無効にしたんだとよ。」
「そうよね。神の力ともなれば私の結界など容易いわよね。」
そこでふっ。とあることを思い出した。昨夜に記憶を戻したからであろう。
「あのさ。成宮も分かっていると思うけど保険医の美穂先生が今行方不明になってるだろ?その美穂先生と上村は実はなかなか複雑なんだけどとにかく親戚関係に値するんだ。で、十中八九美穂先生は俺達が目を向けている事件に関わってると思うんだ。そこで、疑問に思ったんだが何で上村は美穂先生を拐ったんだ?」
単純に考えたら偶々美穂先生が上村が力を得るための犠牲になったのだ。だが、何か違う感じがする。本当にただの勘だが。
「そう?美穂先生と言う先生が私達が通っている学校の教師で上村の親族に値する人物なの?」
そういえば興味ないことは受け流すタイプだったな成宮は。と俺は思った。
「う〜ん。そうね。たしかに血縁者の血液の方が一般人の血液よりも力の増しは大きいわ。けど、上村は既に80%の力を備え持っていたのよね。そこに私の感覚が正しければそれ以上の力は無かった。もし、美穂先生の血液を上村の体内に吸収されていたら微妙に力は上がっていた筈よ。その美穂先生が上村の親族だっていう情報が正しいならね。ということは、なにか違う目的があるということになるわね。何かしら?」
成宮は洗浄された皿を元あった場所にしまいながら複雑な顔をして俺の質問に答えた。
が、俺はここで確かな情報を掴んだ。美穂先生はまだ生きている。なら、一早く上村の居場所に向かわなければならない。俺は残りの皿の汚れを落とすスポンジの速度を上げた。




