退去
「フンッ。少し時間が掛かりすぎましたかね。」
上村は目の前の光景。即ちゴウゴウと燃える炎を眼に達成感というよりも当然の結界だと言わんばかりな冷徹な声で呟いた。
そう。もう何もかも終わったと言うかのように。
「帰りますよ。ロックブレス。」
と、ロックブレスホーンに撤退命令を出したその瞬間に異変は起きた。
'ゾワーッ ′
と言う音と共に今までゴウゴウ燃えていた炎が吹き飛んだのだ。
「なっ。何が。」
目の前の状況に字のまんま目を丸くしながら
上村が驚嘆の言葉を口にする。
段々と視界に映る人影を認識し上村は再度ロックブレスホーンに戦闘体勢を命じる。
「ハァ、ハァ。何とか無事か?」
炎の温度に耐えながらも言霊なのか詠唱なのかを口にした風斗は奇跡的に生還していた。
風斗の周りには風がゴウゴウと舞い風斗を包み込んでいた。言うなれば風の防壁である。
実際、今も包み込まれていた灼熱の炎を吹き飛ばし無い物としている。
炎に飲み込まれた瞬間、風斗は即座に頭に
浮かんだ言葉を熱さに耐えながらも唱えたのだ。
「我に使えし眷属よ現在我身中に集いたまえ我は汝を使えし覇王なり。」
その詠唱?言霊?を唱え終えた直後に風が舞い
今の現状に至るのである。
成宮は気を失ってしまったが。
死ぬよりかは一万倍ましであろう。
たが、この力を発揮出来たとして闘って勝利を治める等は不可能であろう。
第一、体力が戻ったわけでわ無いのだから逃げるにしてもかなり際どい。
だが、やるしかない。
全ての炎が吹き飛んだ後、俺は残っている全ての力を足に入れて今日何回目か地を蹴った。
視界がボヤケ、一瞬でも気を許そうならば直ぐに意識を失うことになるだろう。
全ては上村が立ちはだかうように立っている鳥居に目と意識を向ける。
ロックブレスホーンの咆炎が直撃。
だが、炎は俺を避けるように分けていく。
俺の身体には熱さも感じない。
鳥居まで後 目測25メートル。と言った距離で
ロックブレスホーンの咆炎が終わる。と、同時にガッガッという音が耳に入ってくる。
どうやらブレスが効かないことに気付き攻撃を変えるようだ。だが、風の防壁がある。
しかし高を括っていると又も頭中に声が走る。
“あの猛進、防げなくもないがちっと主の身体に重い衝撃が走ることになろう。どれ主、こう口にしろ。”
「攻。」と一言いながら時速何キロあんだよ。
というような猛獣に右手を向け手に力を込める。
すると今まで身に舞っていた風が全て手に集まり数秒後、膨大な風の圧力が発射された。
全力で突っ込んで来る猛獣は避けることもできずそれを全身全霊で受け止める。
全力と全力のぶつかり合い。
風と角のぶつかり合い。
程なくして勝利を治めたのは風だった。
ロックブレスホーンは結界の壁に身体を豪快な音をたててぶつけた。
ダメージは微量だが初めてロックブレスホーンを吹き飛ばしたのだ。
“ギュルッ”。
という情けない鳴き声をあげている。
ダメージはないにせよ少しの時間稼ぎにはなるであろう。
ロックブレスホーンのことはなんとかなったが
あくまで目的はこの場からの撤退、避難である。再度鳥居目指して足を加速させる。
時間がないのだ。数秒もしたらロックブレスホーンは起き上がり攻撃をしかけてくるだろう。
そんな体力と精神力はもう残されていない。
鳥居まで後五メートル。と、そこで又も声。
“止まれ朋友よ。”
「んだ。時間がねぇんだよ」
と反論約二秒。
そこで上村の方を眺める。
上村にはあの獣を操るだけで大した力は無いだろうと高を括っていたのだ。
が、目前に映っている上村は何やら異様な。
RPG風の武器。刀を携わえていた。
そこから俺もその刀の邪悪な力に気づいた。
「ヤバイぞ。さっきの風もないし。」
万事休止か。ここまで来て。ヤバイ倒れる。
と思った瞬間言葉が頭に流れた。
“友朋よまだワシの眷属め等は消えておらんぞ”
その言葉は今の窮地を救うに十分な言葉だった。後は頭に浮かぶ言葉を言うだけ
「我眷属よ我身体を包め。」
すると先程同様、風が風斗の身体を包み込む。
だが、それで終わらない。
「脚。」
と言うと先程の風が脚にまとわりついた。
「逃がしませんよ。」
上村が大剣を振るってくる。
だが、それより速く俺は動いていた。
今までは地を蹴って走っていたが今度は地を蹴って宙、空に跳んだ。
‘ブオン’
と言う豪快な音が聞こえ、上村の大剣は空しく空気を切った。
高さにして10メートル程の跳躍。
これで逃げ切れる。と、思っていたのは束の間。
下方から鮮明な輝きが近づいてくる。
それはロックブレスホーンが放った咆炎だ。
俺は咄嗟に足をを大きく振り上げていきよいよく蹴りあげた。
纏っていた風が全て近付いてくる炎を無にする。
だが、片方の脚に纏っていた風を全て使ってしまったため後は地上に急落下するしかない。
それはこの勝負の敗北を意味するに等しいもの。
だからと言うものの俺は次の言を口にする。
“我眷属よ我身体の浮上の理を命ずる”
すると今まで静寂を守っていた空間に暴風が吹き俺の身体は綿の様にフワフワ浮く。
「まだです。」
と又も下方から声が聞こえる。
“ブオォォォォォン”
音が耳に届くと同時に物凄い風力の風が下から襲いかかる。
言うまでもなく上村が手にしていた大剣を振るったのだ。
それも暴風を呼ぶほどの強力な力で。
俺が呼んだ風は左右から挟むように俺を浮かせている。
故に上村が繰り出した風が俺の呼んだ風よりも強かった場合俺の風は消され落下してしまう。
本当に僅かでも気を抜けない相手である。
それほどの相手だとは初めから分かっていたこと。
俺はただただ逃げにる為に全力を施している。
「右。」
と口にした直後今まで吹いていた比ではない風が右だけから吹き始めた。
今まで左から吹いていた風(もの )を全て右に移したのだ。
それは一瞬にして俺をこの場から逃がしてくれるに申し分ない威力の風だった。
ここで初めて気を抜けた。
闘いからの逃亡に成功したからだ。
俺の身体は意識は風と共に流された。
着く場所はその言葉どうり風の気まぐれに任せる。
その死闘の場は見かけだけは綺麗な神社が
映っている。
が、結界が破れたらそこに神社の原型はないだろう。
そこは文字通り荒野に変貌したのだ。
神も居ないただの荒野に。




