区切り
独りになってから、どの位の時間が経っただろうか。
野菜の納期や収穫時期は徹底してきたからわかるというのに、自分が暮らして来た年月に関してはもうこれでもかと適当だった。
あまりにも無頓着に成り過ぎて、アメリアは自分の誕生日と年齢さえもあやふやである。
誰とも会わないという訳ではない。
気を使ってだろうが、ジャック達は今でもちょくちょく立ち寄ってくれている。
最初はテイカーもこれまで通り野菜の配送をやってくれていたが、ある日を境にばったりと来なくなった。
仕事が出来たとかで、海賊船からも降りたそうだ。
逆に言えば、ジャック達と定期で訪れる出荷、納品係の人達以外とは誰とも話さない生活であった。
それ以外はずっとお野菜生活。
まあ、割と充実はしていたが。
独りでも、案外なんとかなっていた。
精神的にも、能力的にも。
出荷の頻度と財政的に考えたら、たぶん一人の時間は一年とちょっと位だろう。
そう考えて、そして大変な事実に気付く。
何てことだろうか。
気づけば誕生日を二回も飛ばしてしまった。
最初は日々があまりにも忙し過ぎて。
次は一人だからどうでも良くて。
だからまあ、もう歳を取らないという事で良いんじゃないだろうか。
そんなこんなで色々とあって……今アメリアは全く違う星域の、全く違う惑星に居た。
惑星の名前は『ぽっかりサンフラワー星』
しっかりぽっかりジュース製薬会社とかいう訳わからない会社がスポンサーをしている住居兼農業惑星である。
住民の数は三百人程の小さな場所で、田舎の農村と言えばいいだろう。
実際イメージキャラクターのサンフラワー君は麦わら帽子を身に着けている。
どの位田舎なのかと言えば到着してから既に三回も『おや可愛らしい嬢ちゃん。お若いのにこんな場所にどうしたの? あめちゃんいる?』と見知らぬ人に声をかけられた位である。
どうしてここに来たのかと言えば、今日この場所で大会が開かれているからだ。
『しっかりぽっかりジュース製薬会社協賛ぽっかりサンフラワー星暖か美味しい冬野菜コンテスト』
馬鹿馬鹿しい名前な上に『良く来てくれたねぇ……若いのにわざわざ……ありがとうねぇ』なんて住民に感謝される位にまったりしているが、一応は品評会の類である。
芸術品の様に野菜を評価する大会というのは決して少なくない。
なにせそれに選ばれたら直接貴族的価値観が付与されるのだから。
美術品の様な物で、尚且つ消え物。
だから需要は決してなくならない。
今回の様なド田舎かつ身内だらけで、しかも参加者たったの三十名の小規模大会でさえ優勝した野菜には一千万UDもの大金が付けられ取引されると予想される。
不作と言われた去年でさえ優勝すれば八百万という値が付いた。
だからまあ、小さな田舎の大会だからとは侮れない。
たったの三十名とは言えアメリア以外は皆ベテランとも言える歴戦の経験者達。
皆が一朝一夕でどうにかならない分野で積み重ねて来た何かを持つスペシャリスト達である為、簡単に優勝出来るなんて思っていない。
真っ当に積み重ねた者がどれ程偉大であるのかを知らないとはとてもではないが言えなくなっている。
だが、自信が全くないという訳でもない。
今日ここに来るまでに培ってきた物は、そういう自信に繋がる物であった。
アメリアの提出した物は大根であった。
オーソドックスな白く細長いタイプの大根。
古代種とも言われる物、地球原産の種が元。
そこから大きさは通常の物よりも一回り大きくし、味は本来持つ熱に弱い辛みと熱に強い甘みを更に増やした。
大根おろしにすればピリッと刺激的で、煮込めば煮込む程甘くなり尚且つ崩れにくい。
最大の特徴はその風味。
上品かつ芳醇なるその香りは、大根が本来持つ香り高さを更に強調する。
尚且つ、他の肉や野菜の香りを押しつぶさない。
高貴でありながら調和の道を選ぶ。
つまるところ、鍋に向いた使い勝手の良いオーソドックスな大根である。
元の品質をそのままに長所を強化し、その上で独自色も持った。
一年前までは絶対に出来ない事を幾つも取り込み、何世代にもわたって掛け合わせた、正しくアメリアの技術の結晶。
新種に等しいから、アメリアの子供と言っても差しさわりない。
それが、アメリアの自信の源であった。
そう、楽しかったのだ。
ここまでの道なりはとても楽しくて、後悔もなくて……。
『三位! まさかの新人農家が……』
遠くから、自分の作物を褒め称える声が聞こえる。
三位。
十年以上多少の前後がある程度の変化しかないランキングの中、無名かつ初参加の新人が三位入選。
間違いなく快挙である。
アナウンサーは怒鳴る様な声で褒め続け、万雷の拍手が響き続ける。
これは決して、子供だからというだけではないはずだ。
値段もどんどんと吊り上げられ、参加した貴族達も目の色を変えていく。
だけど、アメリアの心には何も響かなかった。
「……そっか。三位か」
遠くを見て、そう呟く。
そこに喜びはない。
むしろやっぱりという気持ちの方が強かった。
畑仕事は変わらず楽しかったし、後悔もない。
だけど、この結果は納得出来る。
あの日から……半身とも言える片割れを失ってから、ずっとこう。
虚無感があって、空虚で、そして……空しい。
楽しいのは否定しない。
けれど、アメリアはあの日からずっと……『熱』を感じられなくなっていた。
だから、これは気持ちを切り替える為の儀式であった。
もし……もしも初大会で優勝出来たら、もっと上を目指そう。
頂点とも言える農家となって、葡萄ジュース片手にふんぞり返ってやろう。
だけどもし駄目だったら……。
アメリアは公衆通信装置にアクセスし、自宅の方に連絡を入れる。
保留にしていた約束を受ける為に。
「あ。私。うん。……あの話受けるよ。……うん。別に良い。その方が良いでしょ。貴族的に」
そう言葉にしてから、通信を切断する。
アメリアは久方ぶりに、実家に帰る事に決めた。
色々諦める為に、降って湧いた見合い話を進めようと――。
ありがとうございました。




