5-9 魔獣イラストレーターと最強のFランカー
「おめでとうございます。これで仮登録から仮マークを外せます」
そう事務的に述べたのは第四十一支部、マリウスたちのいる町にあるギルド施設の受付嬢。
暖かみのあった田舎ギルドとは違って事務的だ。
俺がこの世界に来てからの最大の難関である、試験の合格。ついに成し遂げた。
後ろではネリアやマリウスたちも騒いでいる。ザバックも来ている。まるで合格発表時の付添の親戚のようでやや煩わしい。
「それでは続きましてランク判定をします」
受付嬢は続けてそう告げる。
各ギルド支部にて回収したログを、このギルドで集計してもらったのだ。ザバックの予測ではBランクには確実に行けるらしい。
「各地で思った以上に採集されていたのですね。それぞれのギルドでの加算が多かったです。素材を提出されたのが最近なのもよかったですね。ポイントの有効期限が切れていません。
黒竜は単独での討伐、対象が指名手配の個体、また討伐後の状態が良かったので、こちらの加算も大きいです。
また、全体に比べたら微々たるものではありますが、町の少年たちがシオン様名義で登録してくれた素材もいくつかありましたので、こちらも加算いたしました。
以上の内容と、これまでの町への貢献、トラブルによる減算その他諸々を協議した結果、通常のランクでは対応しきれませんでしたので、SSランクを新設し当ランクに該当と認定しました」
前言撤回だ。田舎ギルドは暖かみがあった。都会のギルドでは対応が冷たいと思っていたが、この受付嬢冷静に振る舞いつつ滔々と熱く語ってくる。
「まさか。なんだそのランク」
後ろではザバックが呟いている。
その横では何故かついてきたキファランガが「まあ妥当かも」と言っていた。
「Fランクは最初にお話したように、暫定的なランクです。誰でもなれると申しますか、ただの名簿への登録のようなものです。実質的にはEランクから特典がつきます。Bランク以上の方ですと、ギルド施設の自由な利用。新規クラン申請。住宅優遇。魔法の判定。有名冒険者との会合。詳しくは冊子を用意しておりますので、そちらをお読みください」
受付嬢はより早口にしかし丁寧に次々と情報をくれる。
「最後にカードの登録を行います」
心なしか受付嬢も嬉しそうだ。
とうとうか。別に冒険者ランクが無くても不便はなかったのだが、ザバックたちが持っているようなちゃんとした冒険者カードはクレジットカードに似ていて羨ましかった。ようやく俺も持つことができるのか。
そう思い、少しワクワクしながらカード取得の手続きをすすめる。最後の方で指紋認証のように手のひらを乗せる機械を差し出される。
「あれ、反応しない」
「故障ですか?」
横からキファランガと黒雷が覗いてくる。
「おかしいですね……。魔力の感知機能が働いてないようです」
ギルドの受付嬢が機械の様子を見てくれたが、なんだ。そんな理由かと思う。機械の故障ではない。
「いや、シオン魔力ないし」
「え?」
「え?」
「え?」
ゴーシュのその言葉に受付嬢と周りに集まる野次馬が反応するので、俺も驚く。魔力なしは珍しいのか。
「いや、魔力……ないし」
改めてそう説明する。
「え〜〜」
「今までそれでやってきたのか」
意外なことに俺が魔力無しなのを知らない者も多かったようだ。野次馬の中から呆れた声が漏れる。
「シオン様、申し訳ございません。この登録装置は個人識別と魔力の属性登録も兼ねて、魔力を通すことで手続きが完了できる仕組みになっております。このままですと、正式登録ができません」
受付嬢は必死に説明してくれる。「なんとか魔力を絞り出すことはできませんか?」とまで言われたが、無理なものは無理だ。
「このまま書面での登録ではいけないのか?」
横からザバックが訪ねる。
「申し訳ございません。先程申し上げましたように、Fランクは名簿のための登録、つまり人工把握のためのものです。そのため簡易的に書面で受け付けております。ギルドとしましてはEランクより正式な冒険者扱いとなっており、冒険者の素質把握と素行管理のために細かな登録も必須事項としているのです」
その後もなんとかザバックが押し問答をしてくれたが、だめなものはだめらしい。
ギルド四十一支部側も、どちらかというと俺に協力的な立場で、なんとか本登録までこぎつけたいと上に掛け合ってくれている。ギルドマスターも顔を出し、必死でどこかに連絡をとってくれているが、どうも芳しくない。
結局ギルドカードそして魔力というのはギルド体制の根幹に関わる部分らしく、魔力なしでの正式な登録は難しそうだとの答えだった。
「……つまり、シオンはFランカーのままってこと?」
「ポイント上は最強なのに?」
マリウスたちもそう顔を見合わせている。
流石に白けた空気を感じ取ってしまった。せっかく移民試験も受かったし、わざわざ知り合いが集まってくれているというのに、申し訳ない気分になる。
「俺は今までのFランクで全く構わないぞ」
実際、それで問題があるかと言われると何も問題はない。これまで通りゴーシュのお絵描きに付き合っていればいいだけだ。むしろその方がやりやすい。
「帝国クランが出てきたらどうするんだ。黒雷の件もあるしきっと逆恨みされているぞ。ランクは無駄な争いの抑止力にもなる。持っていて損はしない」
ザバックが、もうすでにやる気がなくなりかけている俺に尚も説得してくる。俺を説得しても何も自体は変わらないというのに。
「それにお前は行動範囲が広いんだから魔境向こうの敵性国が相手になったりすることもあるだろう。その時にランクが低いと不利だぞ」
まだまだ知らない常識があるようだ。
「まあ、いいだろ。その時はその時だ」
これ以上ごねても受付嬢を困らせるだけなので、ギルド施設から退出することにした。
「つまり、シオンはポイント判定上は最強で、ランクはそのまま最低のFランクってことだね!」
ギルドの施設の入口で。なぜかゴーシュが嬉しそうにそう言う。
「ああ。そう言うことだな。それも面白くていいじゃないか。魔獣イラストレーターと、最強の称号を持つFランカー。いいコンビだ。これからもよろしく、ゴーシュ」
「うん! よろしくね! シオン!」
――こうして名実ともに最強のFランカーが誕生した。
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次回完結予定です。
2/16 21:00ごろ投稿予定です。
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