5-8 付録 魔境の夜明け
「予想した通り、シオンさんと共に行動すると面白いものが見られますね。それにたまにはこうやって地に足つけての移動もいいですね」
黒雷はだいぶ有名らしく、行く先々で同行しているとこを驚かれる。そんな彼も魔物の不思議に魅せられた者らしい。俺たちの旅で楽しんでくれているようだ。
「元のクランは抜けて大丈夫だったのか?」
「いえ、大丈夫ではありません。ですがもともと寄せ集めの組織です。抜けたところで追いかけては来ないでしょう。リーダーのダンデリオンあたりに会うと黒焦げにされそうです。会わないように気をつけようと思っています」
魔境の中、何もないように見える草原にジープを停め、焚火を囲う。個性的なメンバーを炎が柔らかく照らす。
「噂だけでシオンを探してきたのか? その思い切りもすごいが、そもそもよく見つけられたな」
ザバックがそう尋ねる。焚火をしていると長閑な空気が流れるが、ここは魔境だ。話には乗りつつも、油断なく周囲の警戒をしていた。
黒雷は普段は浮遊車で移動しているのだと言う。
「ホヴィーは探索に適していますからね。それに、少数で魔境で活躍している冒険者というのは実は限られています。割と簡単に見つけられました」
ゴーシュと二人で行動している時は、他の冒険者にあまり会わなかったのでわからなかった。そもそも行動パターンが他と異なっていたようだ。
「こうやって夜魔境で過ごすのは初めてです」
黒雷も基本的に帝国ギルドの中で暫定的に作られるクランとともに行動していたらしい。帝国ギルドは速攻そして即撤退が基本姿勢らしいので、日中でも長時間滞在はなかったと話す。
しかし、五人いると楽だ。まあゴーシュは戦力にならないのですでに寝ているのだが、見張りを交互に立てられるのがいい。
黒雷と俺が先に仮眠し、キファランガとザバックが後から仮眠する話になっていた。俺としては寝なくても構わないし、ザバックも寝心地が悪くて寝付けないようで結局三人で話をしている。
「そう言えば町で受付嬢が言っていた、エウローラとはなんだ? アウローラなら知っているが」
聞き間違いかと思い、ザバックに尋ねる。
「エウローラはアウローラと同系統の魔物だ。C*ランクだったか。アウローラより小柄で、人間の子供サイズしかない。あの受付嬢の口ぶりだと、お前たちはエウローラの狩りに行ったことになっている感じじゃないか?」
「そうらしいな」
アウローラはA*らしい。つまり、俺はアウローラをC*ランクだと思っていたし、受付嬢は俺たちがエウローラを退治しに行くのだと思っていたということだ。ここにきて意外な勘違いが判明した。
「死の御使いがC*なんておかしいと思っていたんだ。共に過ごしていても圧倒的存在感だったぞ」
「まず共に過ごしている時点でおかしい」
そう突っ込むザバックに黒雷が笑っていた。意外と笑い上戸のようだ。
魔境でこうやって仲間と語らう日が来るとは思っていなかった。たまに闇に紛れて襲い来る魔物たちを適宜倒しながら、三人で朝まで語らった。
「そういえば魔境で過ごすことになにか目的があるのですか?」
明け方になり、黒雷がそう尋ねてきた。キファランガも寝ぼけ眼をこすって起きてくる。ゴーシュもいつの間にか起きていて絵を描いている。
「いや、単純に趣味だ。朝焼けがきれいでな」
「命がけの趣味だな」
夜更かししたせいか、ザバックの突っ込みに切れがない。
そんな会話をしている中、魔境にも朝日が昇る。不思議なことに、地にいる魔物の影を引きずるかのように地面から蜃気楼が立ち上る。地面全体がオーロラのような光を発するのだ。それが朝日に集約され、地面を引き上げるかのように太陽が昇っていく。
なかなかに禍々しい光景だ。
「こ……これは、きれいと言うのか?」
残念ながらザバックたちの同意は得られなかった。魔境の独特な美に共感してくれたのはゴーシュだけ。
「この景色の良さはわからないが、共に夜明けを迎えるのは良いな」
しかしそのあと、そう言ってくれた。すべてを分かり合えなくとも、時間を共有できる仲間がいるのは、やはり、良い。





