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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第三章 シオンのスローライフ        (推定累計ポイントD→Bランク)

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3-13 絶対強者

投稿遅くなりました。

よろしくお願いします。

 少年が走っていた。楽しそうに駆けているわけではない。それはそうだ。ここは魔境である。シオンにとっては散策の場だが、通常は違う。


 少年は逃げていたのだ。味方の、いや味方ではない。ただ単に共に行動していた冒険者たちに見放され、誰の助けもなくただただ逃げていた。この地ではよくある話だった。



 その冒険者たちは予想外の魔物の奇襲を受け、主力メンバーのみを乗ってきたホバーヴィークルに乗せてすでに安全圏に逃亡済みだ。


(そもそもが無理な話だったんだ)少年は思う。


 自分たちよりも一つ上の魔物が棲まうとされているエリア。そこからたまたま生還できた冒険者がおり、それを酒場で自慢げに吹聴していた。それを聞いた血気盛んな、少年の所属するクランの冒険者たちが「ならば自分たちも」と身の程を弁えぬ無謀な策を講じて出発し、そして案の定失敗した。


 少年の目からも明らかに無理だとわかる状況だったのだが、入ったばかりの新米冒険者である彼が意見を出せるはずもなく、雑用として連れて来られ、雑に置いて行かれた。それだけの話だ。


 身一つで魔境を歩く愚か者はいない。そしてどんなに少数でも基本的にペア以上。魔物を振り切れる速度の乗り物に乗って移動するのが当然なこの環境で、少年は十分な武器もないまま置いて行かれた。徒歩で帰るしかない絶望的な状況に途方に暮れていたのだが、さらに追い打ちをかけるように鳥の魔物に襲われ、助けを求めて逃げまどっているところだった。


 追いかけてくる魔物を振り返って見る。鳥と言っても飛ばない鳥だ。脚が太く、胴体は羽を含めて丸いフォルム。首は長く、小さな頭には大きな瞳。つまりダチョウのようなフォルム。ダチョウと違うのは、その太い脚が一本だけというところ。植物が絡まったまま成長してしまった時のように、二本の足が一本になってしまっている。


 飛べず二足歩行もできない、というのなら果たしてどのように移動しているのかというと、その一つ足で飛び跳ねて追いかけてくるのだ。そのひと駆けは驚異的な飛距離であり、少年が必死で逃げるのにもかかわらず、一瞬で距離を詰めてくる。


 振り返るのではなかったと少年は後悔しながら、しかし前を向いて走ったからといって何があるのかと言うと何もないこの状況で、ただひたすら走る。


 そんな時、ふと視界の端に違和感を覚える。少し先の方に見える古代樹の森。その上の方に赤い影が見えたような気がした。






「古代樹に赤い木の実なんかあったっけ?」少年がまず思ったのはそんなこと。


「いや、なかった。……もしかしたら魔物か何かかも」逃げまどいながらも、頭のどこかは冷静だ。少年も冒険者の端くれ。危機処理能力は自然と磨かれていた。


 が、迂回している余裕もない。足はそのまままっすぐ古代樹の森へと向かうしかなかった。できることと言えば、その魔物と思わしき赤い影が無害であることを祈るのみ。


 だが、その樹に近づくにつれ、だんだんその赤色の正体がわかってきた。人だ。人がいる。


 目の前の樹の上に、葉巻をのんきに吸っている赤髪が特徴の冒険者が腰を下ろして、何やらしていた。


 そして、何となくその顔はお人好しに見えた。


「助けて!」少年は、身内の冒険者の裏切りにあったばかりにもかかわらず、声を張り上げ見知らぬ冒険者に助けを乞うた。






 少年はカリムと名乗った。赤髪の冒険者はシオンと名乗る。二人は今、樹上の人だ。


 あとひと跳びで少年の真上に飛んできたであろうダチョウの魔物は、シオンが放ったパチンコが頭に当たったせいで方角を見誤り、獲物の捕獲に失敗した。そして着地した後に獲物を見失ったことで目的も見失ったのか、そのままどこかへ去っていった。


 ダチョウの魔物が去った後にシオンが縄梯子を下ろし、カリムを引き上げてやり、ふたり樹上に仲良く並んで座ることになったのだ。


「忘れっぽい魔物だな」


 シオンが手元の道具をいじりながらつぶやく。


「何をしてるんですか? シオンさん」 


 助けてくれたお礼をした後シオンと二、三言葉を交わしたカリムは、シオンが信頼に足る人物だと判断して比較的気安く話しかけた。


「ああ、釣りだ」


「……ここ森ですよ」


 シオンは信頼に足るけれど常識の足らない人かと疑い始めた。


「ああ」


 シオンの方は拒否するわけでもなく、しかし集中しているのかカリムに簡単に返事を返したきり、黙って吊り下げた釣り糸の先を見つめていた。


 釣り糸の先には何があるのか、カリムには最初わからなかった。しかし目を凝らして見えてきたのは、金色の、魚をとらえるには少し大ぶりな、返し針。


 助けてもらった手前、意味が分からずともあまり邪魔はできない。どのみちこの冒険者が用事を終えて帰るまでは帰れないのだ。


 ホヴィー(浮遊車(ホバーヴィークル))の類は見当たらないが、どこかに隠してあるのだろうか。なんにせよ、ソロでこんなところにいるのだ。腕に自信はあるのだろう。実力はわからないが、一人で帰るよりかは格段にましだ。そうカリムは目測をたてていた。


 シオンが見つめ続けている森にはなんの変化もない。飽きずによく釣り針など垂らしていられるものだな。そもそもなぜ森で釣り? そうカリムが思っているとき、()()()()変化があった。


 体勢をわずかに変え、目線が鋭くなった。と思った瞬間には、針に、獲物が。


「飛竜は森を泳ぐ」


 シオンが冷静にそう説明するのだが、カリムは暗闇から突如現れたようにしか見えないその魔物、いや魔獣に目が釘付けだった。


 針が飛竜の口かどこかに引っかかって取れないのだろうか。猛烈に暴れまわるのに、シオンは構わずその釣り竿を古代樹のどこかに固定してきた。予め固定の仕掛けを施してあったのだろうか。暴れる飛竜にびくともせず、釣り竿はしなり続ける。


 釣り竿と、暴れる飛竜をすでに完全に放置して、シオンは背負っていたかばんをおろし、何やらゴソゴソと取り出す。


「腹、減ってるか?」


 そう言い、携帯食料をカリムに渡した。


 言いたいこと、聞きたいことが山ほどあったが、確かに腹が減っている。カリムはそう気がつき、無心で食料を頬張った。うまくはなかったが、目からこぼれ出るなにかでちょうどいい塩梅だ。


 古代樹の枝の上で、見知らぬ赤髪の冒険者と二人。携帯食料を食べながら足元でなおも暴れる飛竜をただ見ているという、なかなかシュールな状況にカリムは頭が追いつかない。とりあえず、無心で食べ物を食べる。


「シオンさん。あれは、どうするんですか?」


 なんとか食料を飲み込み、しかし飲み込めない状況についてシオンにようやく尋ねる。


「あれはな。放っておくとああして暴れて周りの木に頭をぶつけ回るんだ。そうすれば勝手に脳震盪のうしんとうを起こしてくれる」


 ほら、見てみろと言われて見てみると、言われたとおりに飛竜がややフラフラしている。


 しかしまだ意識はあるようで、近づくのは危険だろうとカリムが思っていたのに、シオンが飛び降りて飛竜の首にひょいとまたがる。


 肝が冷えて仕方のないカリムだが、かと言って邪魔もできず、ただただ見守る。


 どうやらシオンは飛竜に目隠しをしているようだ。目を完全に覆われると、面白いほどピタッと飛竜の動きが止まる。ついで、釣り針の傷の処置をする。


(……なるほど。ああやって捕らえると、無傷で飛竜を捕縛できるわけだな)


 カリムはそう思ったのだが、なにやら想像とは様子がことなる。


(……なんか羽をむしっている?)


「何をしているんですか,シオンさん」


「ああ。生え変わる前の飾りの羽をとっているんだ」


「そんなの、何に使うんですか? 素材リストでは見たことがありませんが」


「これはまあ、友達への土産だ」


 カリムが理解する前に、なんとシオンは飛竜を解き放ってしまった。もう用事はないのだと言う。


 もったいないことこの上ないと思っていたが、カリムに口を出せることでもない。何より用事が終わったということは、ようやく帰ることができるということだ。


 無事命を守れた安堵感でいっぱいになる。






 荷物を片付け、帰路に就くシオンにとりあえずついていくカリム。どこまで行けばホヴィーがあるのか気になるところだが、助けてもらった身だ。あまりあれこれ聞くのも良くないだろう。


(それにしても、このシオンと言う冒険者はとてもタフだ。現れる多種多様な魔物を造作もなく退治していく)


 カリムの所属していた(見捨てて逃げた)冒険者クランも強くはなかったが決して弱かったわけでもない。きちんと魔法部隊を組んで、戦略立て、普段は順当に討伐依頼をこなす。また、合同クエストや救助要請で出会う高ランカー冒険者の強さも知っている。


 でも、このシオンの強さはなんだか違う。


 現在ろくな武器を持たないカリムを共にしながら、本人も大した装備もせずにこの魔境をガンガン進んでいく。なんでも普段は非戦闘員の護衛をしながら魔境に長時間滞在しているのだと言う。


 魔力温存のためか何か知らないが、魔法も一切使わない。魔物の足から先手を取るために必須なホヴィーの類もまだまだ見当たらない。


 それなのに、まるで近所を散歩しているかのような足取りでザクザクと歩を進めている。


 鎌虫やアンティモなどはまるで何千回も戦ったことのあるような手際の良さで倒していくし、キブリやランヴィーのようなレア物も迷うことなく倒していく。


 なんていえばいいのだろうか。その背中はとても頼もしいのだ。


 この魔境においてシオンは自然体のまま生きている。地を生きる絶対強者の風格をカリムは感じ取った。一時は帰還を絶望視したカリムだったが、その頼もしい背を生きる希望を持って追いかけていく。

カリム「まさか最後まで徒歩だとは思いませんでした」

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エンジェライト文庫様より2023/12/23電子書籍化
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― 新着の感想 ―
[良い点] やったね、お散歩を一緒にしてくれる人がいましたね!(なお強制) 休憩してるとこ、やっぱり危険地帯でしたか(笑) [一言] 何前回も戦ったことがあるんです(ツッコミ) シオンさんが楽し…
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