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魔獣イラストレーターと最強のFランカー  作者: 成若小意
第三章 シオンのスローライフ        (推定累計ポイントD→Bランク)

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3-8.5 ゴーシュの絵

 正直俺は、絵のことはよくわからない。


 だが、ゴーシュの絵がやたら上手いことはわかる。


 イラスト集として出版されているのだ。上手いのは当然なわけだが、他にはない魅力があると感じている。


 写実的で細部の描写まで正確。構図は緻密でかつ大胆。それに加えて、力強い生命力を感じるのだ。


 対象が魔物なだけに、絵面えづらは暗い色を基調としているが、その中に赤や黃などの差し色が入る。魔物の禍々しさや恐怖も感じさせるのだが、輝く甲羅、勇ましく広がるはね、それぞれの魔物の美しさも同時に描かれている。



 不思議なことに異世界このせかいの人々は、魔物を生き物だとはみていない。便宜上『生きた』だの『死んだ』だのと表現するが、ロボットのような存在だと捉えているらしい。


 それはこの地の宗教観であり、そして俺には馴染みのない魔力やらなんやらが関わる話であり、俺が理解できる話ではない。


 にも関わらず、ゴーシュの絵には、生命力を感じるのだ。






 たとえば、今回描いているのは木の馬の魔物。木馬ではない。黒い木の巨躯を持つ、雄々しい馬の魔物だ。


 植物の魔物が馬の形をなしているのか、馬の魔物の体表に木の性質が取り込まれたのかはわからない。とりあえず、木の、馬の形をしている。


 そいつが少し離れたところにいて、こちらを見下ろしている。全く動かないのでこれ幸いとゴーシュは一心不乱に描いている。


 その体表の滑らかさ。馬の肌の筋肉質な力強さ。と同時に木目も正確に描いていく。その本物さながら、いや写真をも凌駕するリアルさはまさに『動き出しそうな絵』なのである。


 全体が黒いためその瞳はどこを向いているかはわからない。しかしゴーシュの眼は優秀だ。イラストを見れば、それでも馬がこちらを視ていることがわかる。


 観察眼なら俺も自信があるのだが、ゴーシュはその先を行く。今も馬の額に何かを描き込んでいる。どうやら角があるようだ。これも黒くてわからない。つまりこいつは馬というよりユニコーン。


 木馬のユニコーンなんて、夢がある。


 その角すらも今すぐにでも飛び出しそうな立体感がある。……飛び出す?


「おい、ゴーシュ。なんだかこれ飛んできそうじゃないか?」


「そうだろうね。根本が膨らんできてるし。飛ぶとこも見てみたい!」


 ゴーシュの言葉が終わるか終わらないかのうちに、ゴーシュを抱えて横に飛びのく。草原地帯なので着地でのダメージが少なくて助かった。草でちょうど身が隠れるのも良い。


 単なる威嚇だったのか、それとも次弾装填ができないのか。木馬ヤツはこちらを向いていて、じっとその見えない瞳でこちらを見つめているのみ。


「あーー!!」


 馬の様子も気にせず、先程まで自分が描いていたイラストを持ち上げ叫ぶゴーシュ。どんな奇跡か、イラストのちょうど角の部分に、魔物が飛ばした角が突き刺さっていた。


「それはそれでいいんじゃないか? 立体アートというやつだ」


「いいわけ無いでしょ! シオン。もう一回描き直しだよ」


 もう日が暮れかけていたのだが、そう言うゴーシュに付き合うことにした。





 魔獣イラストレーターの護衛というこの仕事。


 訳のわからない場所に連れて行かれるし、理不尽なこともやらされる。今では慣れたし、むしろ普通では見過ごしていただろうこの世界の魅力を見て回れる利点はあるが。


 しかしお守りが大変なことに変わりはない。それでもこの仕事を続ける理由。なんのことはない。




 正直俺は、そんなゴーシュの絵が好きなのだ。




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