3-9 厄介なケモノ(前編)
このお話は第三者視点です。
その日ギルド第四十三支部は大混乱に陥っていた。シオンが所属する四十一支部の隣の支部だ。
「なんでよりによってゴイルが大量発生してんだよ」
そう毒づくのはこの支部の筆頭冒険者。冒険者には珍しく、丁寧に撫でつけられた髪型がトレードマークだ。問題が発生したということで、指揮を執ってもらうためにギルドに呼び出されていた。
「わかりません!」
そう答えたのは最近エースと同じクランに所属した新メンバー。
「馬鹿野郎。質問したわけじゃねえ。お前にわかるわけがないのは誰だってわかりきってるわ、このたわけ」
気の利かない新入りに苛立ちつつも、クランのリーダーとして場を仕切るために、その場にいる冒険者たちに指示を飛ばしていく。
第四十三支部は軍隊ギルドの管轄だが、少数国家が集まっている地域であり、このエースの所属するクラン以外にも多数のクランが所属していた。
しかし彼のクランが最大派閥だったので、自然他のクランも彼の指揮下に入って事にあたることになったのだ。
「とりあえず各クランの代表は集まったな。今から状況の説明をする。知っている者も多いだろうが静かに聞くように。
現在起きている事象はゴイルというB*の魔物の大量発生。こいつはカメ型の魔物だ。特徴は巨大で背中にとげが多数ある。背中は甲羅状なのでとても堅固だ。通常攻撃は通用しないと思ってくれ」
「でも亀型だから弱点は首ですよね」
「いや。たしかにカメ型魔物の弱点は基本首だ。だがこいつの場合弱点である首まで甲羅でおおわれている。また、さらに厄介なことに空を飛ぶ」
空を飛ぶカメと聞いたらシオンが某映画のようだと喜びそうだが、ここにはシオンはいない。
「空飛ぶカメなんて聞いたことねえ」
「どうやって飛ぶんだ。羽ばたくのか?」
一時騒然となるその場をしかりつけて、リーダーはまた話を進める。
「正確には、飛ぶのではなく噴出という方法を用いて水平方向に高速で突っ込んでくると言えばいいか。こいつを討伐したことのある奴はいるか?」
そう尋ねると、数人の冒険者が手を挙げた。
「どうだった?」
「簡単とは言わないが、数人がかりでやれば勝てない相手ではない。遠距離魔法が得意な奴が数人いると尚良い」
「なるほど。ちなみにこいつにはアスタリスクが付いている。条件付きで難易度が変わるが、その条件は複数体相手にすると難易度が上がるというものだ。……そいつらが大量発生している。状況は分かったな。うだうだここで話をしていても事態は解決しない。さっさと討伐にあたろう。
基本方針は個体を切り離して多対一に持ち込むことだ。連携がとりやすいように、クランごとにそれぞれ方針を立てて勝手にやってくれ。人が必要だ。なるべく多めに声をかけて参加させてくれよ」
そう言ってその場の冒険者たちをエリアの入口に追いやった。
そこには大量輸送機が用意されている。輸送機と言っても作りは単純で、巨大な土俵のような、天井も壁もないただの円盤に立ち乗りする仕組みだ。軍隊ギルドの所有物で、魔法で動く。
大量輸送機に乗り込む冒険者たちを見送り自分の番を待っていると、側近が近くに寄ってきた。
「リーダー。最近話題になっているソロの冒険者にも声をかけましょうか? 隣の支部にいると聞きます」
「話題?」
「Fランクだそうですが、魔物に対する知識が深いそうです。呼んでみても損はないかと」
「Fランカーが一人増えたくらいで状況が変わるわけねえだろ。まあ今回は人海戦術だ。人が多いに越したことはねえ。だがそいつを誘うのに人を割いてちゃ本末転倒だ。今回参加しない低級ランカーに行かせろ。呼べても呼べなくてもどちらでもいい」
「わかりました」
こうして臨時クエストであるゴイル討伐作戦は始まった。
「やばいな」
そうつぶやいたのは最終輸送便で到着したリーダー。
狩場は既に悲惨なことになっていた。
大量発生したゴイルに、情報にはなかった特徴があったという報告を受けた。
なんとこの魔物、空も飛ぶし、その上火も吐くのだという。ついでに背中の棘も飛ばしてくる。おかげで当然近寄れないし、かといって遠方から魔法攻撃しようとしても飛来する棘に邪魔をされて上手くいかない。
「ずいぶんと好戦的なカメだな」
リーダーは皮肉に笑う。
「笑ってないで何とかしてください!」
側近がそう叫ぶ。
「まあまて。元から近接攻撃はしない方針だったんだ。炎や棘は厄介だが反撃を食らうのはわかりきったことだろう。状況判断ができるクランは既に上手くいなし始めている。俺たちは最大クランなんだ。どんな状況でも対応できるところを他の奴らに見せつけてやれ」
◇◇◇
こうして第四十三ギルド周辺がわちゃわちゃしている一方、シオンはのんびりと散歩をしていた。本日の散策地は湿地帯エリア。
気味の悪い巨大な蚊やトンボ、蛾を振り払いながら、ざくざくと道なき道を進んでいく。シオンの移動は基本徒歩だ。ゴーシュとともにいるときは日帰りで帰れるように調整しているし、仕方なく遠方の場合は野宿の準備等を万全にしていく。
しかしこの日は単独行動。好きな場所に好きなように移動して、好きな場所で寝ればいい。とても気楽な散歩だった。
目的も特にない。普段来ない場所に行ってみたかっただけだ。マップ片手に進んでいく。時折マップの間違いを見つけて正しい地形を書き加えていく。
無駄な狩りはしないが、攻撃されたらもちろん反撃するし、珍しい魔物で土産や素材になりそうな部位があれば適宜狩っていった。
日が暮れたら樹上に上り、魔物除けのキセルを吸いながら、簡易寝床を作り浅い眠りにつく。
二日目、洞窟に行き当たった。湿地帯に横たわる崖のような山の側面に空いていた。風が良く通り抜ける気配がしたので、おそらく反対側まで穴が通っているだろう。
当然落盤や有毒ガスの危険もあるし、人が通れないほどのわずかな隙間が空いているだけで行き止まりの可能性だってある。
しかし、こんな冒険心をそそる洞窟を放置することができなかった。必要もないのにシオンは洞窟を通り抜けていく。





