第74話 ジンメンと三人の冒険者
山の麓、山から平野になる境目で颯爽と移動する影があった。
言わずもがな、俺とムクロだ。
「ムクロ! また奴等だ! 頼むぞ!」
「わかっている! けど、シキ、お前はもっとしっかり掴め! さっきからずり落ちそうだぞ!」
「煩いな! お前の胸が背中で潰れてヤバイんだよ! そのでけぇ胸を何とかしたら密着してやるよ!」
「胸くらいでこの童貞が!」
「落とすぞテメェ!」
「はっ、やってみろ! お前、奴等に対抗出来ないんだろう!? 死にたいのならどうぞ!」
「ええい、お前はもっと女としての恥じらいをだな!」
「気付いたら消えてたぞそんなもの!」
「はぁ!? マジで何者なんだよお前っ!」
「何だ!? 文句があるのか!?」
「「あぁもうこいつムカつくッ!」」
俺の背中の上でああだこうだと喚き散らすムクロと盛大な口喧嘩をしつつ、一瞬ムクロを浮かせておぶり直し、全力疾走を続ける。
後ろからは、
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
全く同じ奇怪な音を出しながらこちらを猛追する黄色や緑が入り交じった人面の植物が見える。
「クソッ! 何なんだよあいつら! こんな辺境に!」
洞窟から出てムクロと共に山を下っていた時だ。
辺りを警戒して歩く俺とボケ~っとして前だけ見て歩くムクロで対照的ではあったが、何気なく二人で互いに逆の方向を向いた瞬間。
奴等――ムクロ曰く洞窟で俺を眠らせた例の胞子を撒く、木なのか蔦なのか蔓なのかよくわからないうにょうにょと蠢く巨大な植物――と目があった。
いや、人面とはいえ目玉とか鼻はないんだが俺達が見た瞬間、口っぽい穴が開いたと思ったら、舌のような緑色のものと牙っぽい鋭いトゲを剥き出しにして、襲い掛かってきたのだ。
言っちゃあなんだが、某配水管工事の赤と緑の兄弟を貪り食う植物にしか見えない。あっちは一撃で命を絶ってくるアホみたいな強さで、こっちはこの世界で中の上か上の下くらいに位置する俺を簡単に眠らせる粉だが胞子だかを飛ばしてくるけど、正直どっちもどっちだ。
対人に特化した初見殺しの近接攻撃と精々十数メートルしか飛ばない斬撃しか攻撃手段がない俺は相手が攻撃特化でも状態異常特化でも近付けなければ手も足も出ない。
だから予想通り魔法使いだったらしいムクロを背負って逃げながらムクロに攻撃をしてもらっているのだ。
「■■■■――」
初めて聞いた時も混乱したが、ムクロの魔法は特別らしく、詠唱が全くわからない。
《言語翻訳》スキルを持っている俺ですら何の言語なのかわからないし、音の響きからしてそもそも言語なのかも怪しいしでハッキリ言えば異常だ。
まるで何かに話しかけるような、呟いているようだと思えば「ラーーー」とか一つの音で歌うように詠唱する。
何より驚くのはその威力だ。
先程からムクロは俺の爪斬撃並みの威力の真空の刃を大量に生み出して竜巻のように集め、ぶつけている。
全方位から飛ばしているから逃げ場はないに等しく、俺と違って体力も消耗しない為、威力が下がったり、速度が落ちたりなんてこともないという恐るべき殲滅能力を持った魔法なのである。
――うわぁ……ヤバい奴とパーティを組んじまったかもしれん……下手に怒らせたら冗談抜きで瞬殺される……!
ムクロの魔法を見た時、そんな風にぶるぶる震えたのは記憶に新しい。
巨乳というよりも美乳に位置するであろう形の良い胸を恥ずかしげもなく人の背中に押し付ける変人とはいえ、実力は本物。俺が見てきた奴等の中でもジル様を除けば間違いなく最強格の人間だ。
平然とした表情でそんな馬鹿げた魔法を撃ちまくってる辺り、下手したらゲイルや《限界超越》を使ったライをも越えている可能性もある。相性的に俺は近付けもしないだろう。
だが、毎回使っているところを見るに得意な魔法なのか、当たりに被害の少ない方法で攻撃しているのか……威力からして恐らく両方かと思われる。
言語がわからないんじゃ、属性魔法なのかも怪しいところだ。
俺やライの《闇or光魔法》みたいなスキル化した魔法だと踏んでいるが……
――ゴゥエゴギェアアアアァッ!
一際大きい奇声を上げて人面植物が細切れになった。
少しずつ削るのではなく、一瞬で全体を細断するから、イメージとしては全身をめちゃくちゃ早いシュレッダーに掛けてるような感じだな。……いや、シュレッダーっていうよりは切れ味抜群の刃物の群れに突っ込ませるとかそんな感じな気もする。
――漸く一息……っ!? また来た!
「ムクロ、まだ魔力はあるか? うじゃうじゃ来てるっ」
一息つこうとした瞬間、遠くから人面植物の奇声が聞こえたので走りながら人の背中でぐで~っと脱力している人物に問う。
魔力が尽きたのなら割りと普通にピンチだ。
「…………」
「ムクロ? ムクロっ……おいっ、聞いてんのか!?」
「こうして密着して思ったんだが……」
反応がないので揺さぶったり、後ろを振り向いたりしていたが、ムクロは俺の耳元に口を近付けてきたので何事かと耳を傾ける。
「な、何だ?」
全力疾走中にやることじゃないが、ムクロが居なければ俺は早々に死ぬからな。利用出来るものは利用しないといけない。
――その為にもムクロの気分を損ねないように……
「シキ、お前ちょっと臭いぞ」
そう思っていた矢先にこの罵倒だった。
「いや、テメェに言われたかねぇわ! 何を言うかと思えば土とか草を煮詰めたみたいな臭い発するドブ女の分際で!」
「あー……今のは傷付いたぞー……」
「~っ、はぁ……棒読みじゃねぇか。……もしかして魔力が尽きて疲れたのか?」
「……お腹空いた」
「早ぇよ。さっきもおやつとか言って残ってた熊肉全部食ったよな? どうなってんだその腹」
「こんな可愛い女の子に対し、何たる言い草か。恥を知れ恥を」
「恥を知るのはお前だバカたれ。相変わらず胸が凄いことになってるからもう少し力入れて自分の体を少し浮かすとかさ……」
「知らん、疲れる、童貞が」
「…………」
このやり場のない怒りをどうしてくれようか?
「う~ん……街はまだなのかぁ……?」
「かなりの距離走ってるからもうそろそろ見えてくると思う。……てかテメェ、魔法使わないんなら降りて走れよ。重いっ」
「嘘だぁ……私は軽い筈だぞぉ……重いのはこの胸くらzzz」
「っておい寝んなコラ! 起きて魔法撃て! マジで直ぐ後ろに迫ってるんだって!」
さっきから白い胞子が大量に降っている。もう奴等の射程距離に入ったということだろう。
「くっ……ぁっ……ッ!! カアアッ……クソいてえぇーっ!」
走っている最中なのにうとうとしてきたので唇を噛んで無理やり目を覚まし、涙目になりながら風を起こして胞子を吹っ飛ばしていく。
ムクロは本気で寝たっぽいし、無詠唱でも大丈夫だろうと、初っぱなから全開だ。
――ゴゥエゴエッゴギェアァッ!
しかし、洞窟のように密封空間じゃないから胞子はどうにかなったとしても人面植物は見た目に反してめちゃくちゃ早い。
今なら百メートル五秒を切るであろう俺にじわじわと近付いてくる辺り、相当なものだ。
「仕方ねぇっ……使うしかないかっ……!」
バクンッ! バックンッ! と噛み付いてくる人面植物の口をどうにか避けながら魔粒子ジェットを足から噴射させて一気に飛び上がった。
二十メートルほど浮き上がった俺達をふわりとした感覚が襲い、ムクロがむにゃむにゃ言いながらより抱き付いてきた。
「うひいっ……」
さっきから当たってる背中の感触がぐにゅぅっと潰されて変な声が出てしまった。
そうこうしている内に落下が始まり、地面が近付いてきたので魔粒子ジェットを再び噴射させ、落下速度を落として着地、またジャンプして移動を続けた。
加速をつけるようにしてジャンプしているので、大規模な走り幅跳びみたいな感じだ。
まあ、着地ミスったら大怪我するし、少しずつ離れていってるとはいえ、人面植物に着地時を狙われたら詰むんだけど。地味に首っぽい部位が伸びるから割りと危ないし。
だが逆に言えばそれだけだ。単調な相手で助かった。
人面植物は俺が跳んでいるのにも関わらず胞子を撒き散らしながらついてくるだけ。恐らく胞子と噛みつきしか攻撃手段がないんだろう。最初の着地はちょっと危なかったが、そこさえ乗り越えれば少しずつ距離が離れて安全になってきているからな。
それに……地平線の先にポツンと黒い点が見えた。
恐らく俺達が探していた街だろう。そこさえ行ければ何とかなる筈。
俺はそのまま凄まじい距離の走り幅跳びで街の近くまで爆走していく。連なるように後ろから聞こえる奇声も段々消えていった。
街の輪郭が見えてきた頃、魔粒子ジェットの使用を止め、疾走に切り変えた。
相変わらず背中で爆睡しているバカ女も居るが、街に辿り着ければこんな変人とはもうおさらばだ。
――むにゅうぅっ、むにゅうぅっ、ぐにゅうっ……
「おぉう……」
一年近く抑え込んでいた煩悩を激しく刺激するこの魅惑的な感触が名残惜しくもない。
いや、寧ろ……んんっ、いかんな、街に安心したせいか、気が緩んでる。街中でも安心して眠れる保証はないんだ。しっかりしないと……
仮面がなかったら変な顔になってるだろうな、と思いながら街に辿り着き、街を囲っている高さ二十メートルくらいの防壁をぐるぐる回って出入り口を探す。
「……おかしいな。普通は人が並んでる筈なんだが」
「あんな魔物が街道近くに出るんじゃまともに出歩けんだろう」
「確かに。……起きてたのか」
「起きた」
「んじゃ降りろ。いつまで乗っかってるつもりだよ」
「やだ」
「何で」
「面倒臭い」
「……何が?」
「歩くのが」
「どうやって生きてきたんだお前……」
まあ、臭いは兎も角、感触は女性のそれなのでやぶさかでもないんだが。
つっても無理やり冬眠させた性欲が起き始めてるのが辛い。ジ○ーさん立とうと必死に頑張ってる。クラ○が立った! しちゃう。
「ふっ……この童貞が。ふぅ~……」
「~っ……! っぶねぇ、変な声出るとこだった。止めっ、うひゃうっ!」
「んしょっ……んしょっと。ふひひ、こんな仮面しておいて意外と初なんだな。うひゃうだって……ぷくくっ」
「……くっ、強く抵抗出来ないのが痛い」
変人奇人の部類の、しかもめちゃくちゃ臭い奴に女を感じて、意識していたのはバレていたらしい。
耳ふーしてきた上にグリグリと胸を押し付けられて変な声が出てしまった。
振り返っても視界が若干遮られる仮面のせいでムクロの顔はわからない。
だが、ニヤニヤと人の反応を面白がっているのはわかる。
これが俗に言う「く、悔しいけど感じちゃう!」ってやつか。思わず歯を食い縛るくらい悔しいけど、幸せな感触に全く抵抗出来ん。
「な、なあムクロ。そろそろマジで止めてくれないか? ちょっと理性さんがストライキ起こしてきてるんだ」
「ストライキって何だ」
「それはどうでも良いから早く止めろくださいお願いします」
「……あぁ、勃ちそうなのか。それは困るな、前屈みだとこっちが辛い」
「勃ちっ……お、降りる気はないと?」
「ない」
「降りろ」
「やだ」
くっ、こいつムカつく……! 人の背中で好き勝手しやがってからに……
だが、冗談抜きでマジだ。魔物の仮面で顔を隠した奇人がテント張ったまま歩いてるとか日本だったら問答無用で捕まる。こっちだったら仮面だけでも石投げられる。
「降りてください」
「やだ」
「何でそんな頑なに」
「やだ」
「お前なぁ……」
「やだ」
歩きながら延々とそんな問答をしていると。
「なぁ、お前ら喧嘩売ってるのか? そうだよな、売ってるよな? クソっ、万年独り身の俺達の前でイチャイチャしやがってえぇっ……」
街の防壁から声を掛けられた。
友好的なものではなく、怨嗟の声だったが。
「達を付けるなリーフ。俺達まで同類みたいだろ」
「くっ、女が居たことのあるフレアにはわかるまいっ、この何とも言えない怒りが! 何であんな奴に美人な姉ちゃんが付いていくのに俺の隣にはむさ苦しい男しか居ねぇのかとかそういうのを引っくるめたぶつけようのない怒りがっ!」
「わかる」
「おおっ、わかってくれるかアクア!」
「冒険者も男ばっか」
「そうだよなっ、女冒険者だって居てくれても良いよな!? 何でこの街には男冒険者が殆どなんだ……」
よく見ると、壁の上でこちらを覗き込む三人組が居た。
全員、薄汚れた服装であり、武器や防具を身に付けているところを見るに冒険者だろう。
「大体、女ってのはわからねぇ生き物なんだ。この前だって――」
「――落ち着けリーフ。先に下の二人をどうするのか決めてから愚痴れ」
「ああ? んなもん、街に入れちまえば良いだろ」
「何か奴等を信用出来る根拠はあるのか?」
「出たよフレアの屁理屈っ。理屈屋にはわからねぇよ。見りゃわかんだろったく……奴さんは汚れているが高そうな装備の男とドレスの女の二人組。男の女に対する態度はなっちゃいないが、会話的に女はお偉いさんか、余程のアホだ。だが、男は降りろと言いつつ、無理やり下ろさねぇ。ってことは女に怪我や病気はなく、ただ甘えられるのが嫌なだけ。至って普通の人間の反応だ。盗賊ならもう少し汚ぇし、女への態度はもっと悪い。人間に擬態した魔物ならあぁも自然な会話は出来ん。あいつらが盗賊や魔物の類いってこたぁ先ずねぇだろうよ」
「男の仮面は怪しいけどね」
「それはまあ確かにそうだが、冒険者か傭兵でもやってりゃ顔に傷くらい出来る。見られたくねぇから隠してんだろ」
延々と続く問答に飽き飽きとしていたが、リーフとかいう冒険者は大雑把に見えて、中々洞察力があるらしい。
フレアとかいう奴とどちらが理屈屋なのかと疑うくらいだ。
「お前ら、街に入りたいんだろ? 入り口は少し戻ったところだ。よぉく壁見てみろ、切れ目がある筈だ。そこで待ってろ。開けるよう頼んでやっから」
「おいリーフ。勝手な真似は……」
「フレア。リーフはリーダー」
「だがアクア!」
心底妬んでいるようで目だけは冷静なリーフは三人組の中で薄い緑髪をした最も身長の高い大男で大剣を背負っており、フレアと呼ばれている奴は平均程度の身長の赤髪男だ。こちらは杖を装備している。最後のアクアはフレアよりも少し低いくらいの身長で短剣を腰に差した、まんま女顔の冒険者。
また無駄な問答を始めているが隠しきれていない実力と個性から中々忘れられそうにないトリオだ。
――それに……あのリーフとかいう男……あの飄々とした態度は演技か……? どうにも怪しい……かといって自分の実力を隠せない程度の力量の奴が出来る目じゃない。……何らかのスキル持ちだな。覚えておこう。
「すまない、助かった。……因みに聞いておくが、入り口がないのはあの人面植物への対抗策か?」
返答を完全に俺に任せたらしい、脱力したままのムクロをおんぶし直しながら聞いておく。
十中八九そうだろうが、異世界人だった俺を殺せる魔物がうようよしているこんなところで供給が間に合っているとは思えない。籠城にも限界がある筈だ。
「ん? あぁ、そうだ。見た目の通り、ジンメン。奴等はここ最近になって唐突に現れやがった。お陰で偶々近くに居た商人や弱い冒険者、平民は全滅だ。今は高ランクの冒険者が食料や生活必需品の入ったマジックバックを各方面から届けて何とかしている状況。あんまよろしかねぇから、ジンメンから逃げ切れるんならさっさと他の街に行った方が良いぜ?」
「……そうか。重ね重ねすまん。礼はする」
知りたい情報を得たので手を上げながら入り口の方へと向かっていく。
「リーフ、信用出来るのか? 何かあったら俺達の責任になるぞ」
「良い。ジンメンの名前とこの街周辺の村人がこの街に逃げてきて閉じ籠ってることを知らない上で、ジンメンから逃げ切れる実力者達だ。他所からの流れ者だろう。最寄りの街や村で噂くらいにはなってる筈のことを知らない……ってことは最近、街や村を避けている、もしくは避けられている。そんな情報を俺達に開示したのもわざとだ。だろ? 仮面の兄ちゃん」
ヒソヒソと会話しているようで聞こえると思ったら小さい声で問い掛けてきた。
聞こえなかった振りをしながら歩を進める。
「そして、礼はするって言葉。俺達が冒険者だとわかっていて言ったってことは冒険者か、もしくは……」
「これから冒険者になる人達。じゃないと僕達と会おうだなんて思わない」
「いや、冒険者なら街や村を避ける理由がない。ってことは一般人だ。それも相当な強さを持った訳ありの、な。恐らくギルドや憲兵にそれらの情報が渡るより俺達三人に渡った方がマシだと判断したんだろう。少なくとも奴はお前よりよっぽど切れるぞ、フレア」
「なっ、そんな奴等を……!」
そこまでわかった上でわざと聞こえる声量で言ってきたか……なら俺がとるべき行動は……
全てわかっているぞ? 的な雰囲気を出しながら振り返って、全力の殺気をぶつける、だ。
「「「っ!?!?!?」」」
三人の顔を見渡すように方向を変え、見られていることを意識させる。
ついでにムクロも巻き込んでいるが、反応でムクロの強さも大まかにだがわかる。問題はないだろう。
「こ、こいつぁ……想像以上の化け物だな……」
冷や汗を流しているリーフだが片手は大剣を握っており、フレアとアクアは武器を構えて完全な臨戦態勢をとり、リーフがそれをもう片方の手で制していた。
三人同時にびくりと肩を震わせたくらいだ。相当、ビビったんだろう。
「止めろお前ら。わかったろ? 俺達に勝てる相手じゃねぇんだよ……こいつは警告だ。言外に報告したら……わかってるな? って聞いている。俺達は黙って受け入れりゃあ良い。口振りじゃ、ジンメンから逃げてきたのか、何らかの理由で襲われなかったのかはわからないが……奴はやろうと思えばこの街を壊滅出来るんだ。何もしねぇ方が良い……わかったら武器を下ろせ」
冒険者のくせに頭が切れるというのも考えものだな。面倒なことこの上ない。
しれっと殺気の嵐に巻き込んでいたムクロは平然とした顔で欠伸してるし、色々面倒事がありそうだ。
「……はぁ」
俺はこれからのことを想像し、仮面の中でくぐもった溜め息をついた。




