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闇魔法の使い手  作者: 葉月 縷々
最終章 異界戦国時代編
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第316話 不倶戴天

すいません、ブランクに陥りました( ;∀;)

時間がないのもあるけど、それ以上に筆が止まるよぉ……色んなストレスと問題とカルチャーショックで禿げそうだよぉ……・゜・(つД`)・゜・


 ジル様の時ほどの怒りが湧かないのはいつかこの時が来ると心の何処かでわかっていたからかもしれない。


 首と胴が別れたルゥネの遺体を前に軽く祈りながら、そう思った。


「はっ……はははっ……! 死んだ……死んだ死んだっ……! また殺した! でもお前にはわからないんだろうなっ、奪われる側の気持ちなんて! 大切な人を手に掛けてもっ、失ってもっ、それでも尚考えは変わらないんだろっ!?」

「や、やだっ……嘘でしょっ……? 幻覚とかそういう固有スキル……そうじゃないと変だよ……変、でしょ……? ねぇシキ君っ……シキ君ってばぁっ!」


 何やら喚く二人を無視して眼前の生首を拾い、マジックバッグマントにしまう。


 再び髪の短くなったルゥネのソレはあの時と同じでとても軽く、とても重かった。


「お前も帝国も……俺の影響に関係なく元から悪逆的な存在だったもんな。自業自得……因果応報ってか」


 身を焼きかねない憤怒よりも、心が張り裂けそうなほどの悲しみが勝っているような、妙な気分だった。


 事実、殺意は留まることを知らず。


 身勝手にもこの世の全てを憎く思ってすらいる。


 が、自然と漏れていた〝闇〟の魔力とそれが変質した紫色の炎は俺の感情に強く波立つのではなく、洗練され、研ぎ澄まされつつある。


「~~っ……!!」


 ココは泣き崩れるというよりかは戦意を喪失し、無言でこちらに降りてきた。


「全ての種族が平和に暮らしていたあの村の……何の罪もない人達を殺して……わかったんだよ……お前の言う、人が多すぎるという意味……少なくなれば統制も可能で、確立し得る可能性……」


 ライもぺちゃくちゃぺちゃくちゃと寝言をお供に俺の正面へと稲妻化して回ってきた。


「ルゥちゃん……ルゥちゃん……ルゥちゃん……そういうの、良いからさ……シキ君も首返してよ……こん、な……の……きっと……きっと何かの間違いで……ど、ドッキリでしょ? 【以心伝心】を消して、二人でボクをからかってるんだよねっ?」

「そして、その矛盾もな……ふっ、ははっ……! ロベリアと同じさ……! 管理が必要というのなら、そう思ったお前自体が欲を出したことになるっ……支配欲という……おおよそ他人に良いことのない感情だっ。お前はお前が言う、情に流される愚かで生産性のない人間とやらと同じ状態にあるっ」


 見れば揃って目が死んでいる。


 一人は敵に背を向けるほどの動揺。


 一人は【明鏡止水】のせいか、表情筋までもが固まりながらも止まらない、震えた声。


 お前達みたいな感情に縛られた人間が組織社会の腐敗の根元だと何故わからないのか。


 顔中にへばり付いていた涙と鼻水がMFAの放つ静かな熱気によって蒸発し、消えていく中、周囲に回った火の手が一瞬だけ大きく跳ねた。


「うっ……うっ、ぐうぅっ……! ルゥちゃんっ、ルゥちゃんっ……!」

「何も殺さなくなっていいじゃないか……そうだよ、最初から交じわらなければ良いんだ……!」


 国や社会、軍隊という人の集合体を運営する側が下っ端と同じような思想を持って動く……


 つまりは組織全体が本来持つべき理念、思想、主義を忘れ、自分達の生活の為に生き始めるということ。


 だったら、それを縛る法やルールはどうなる?


 会社にしろ、社会にしろ、国にしろ、一度形骸化し、慣習となったものが当初の想いを取り戻すことは出来ない。


 だから、〝力〟ある者にはそれ相応の選択肢と責任が生じるんだろ。


 上に立っている奴が一時の感情で物事をどうこうしようとすること自体が民主主義のような全体史上主義の否定で、誰もが嫌がる独裁の始まりなんだよ……!


 そんな、俺の内心など知る由もないライはまだ言ってくる。


「お前がどうしても憎しみの連鎖を続けたいというのなら……俺は真逆の道を選ぼう。既に血濡れているこの世界をこれ以上の血で汚さずに平和へと導く唯一の方法……それは徹底的な種族の分断だ。それぞれに干渉せず、それぞれの生活圏だけで暮らし続ける……どうだ、戦争は起きないだろ? 起きよう筈がない」


 ルゥネのことよりも、その場に泣き崩れて嗚咽を漏らすだけになったココや分断思想なんてものを持ち出したアホに苛立ち、無意識に拳を握り締める。


 落ち着いていた筈の魔力が不安定に揺らめき出したのが感覚でわかった。


「手始めにこの帝国だ……! お前の拠点と言ってもいいこの国を失えばお前達の軍は忽ち瓦解するっ。連合は俺が抑え、仮にお前が攻めてきたとしても俺がお前を殺す……お前のお陰で大義名分は幾らでもあるからな……!」


 憎々しげに俺を睨むその白い瞳に神経が逆立つ。


 お前達がそんなだからムクロやロベリアの方がまだマシだと思うんだろうが……!


 目の前のことにばかり気を取られているから先を見れないんだろうが……!


 後回しの割りを食うのは未来を生きる人間達で、子供達で……この先永遠に死ねない運命にあるムクロなのに。


 そう憤ると同時、「大切な人を失っているのは俺も同じなのに、何でこうも分かり合えない?」と悲しくなる。


「クハッ……」


 腸が煮え繰り返りそうな怒りと悔しさすら覚える悲哀。


 逆に変な笑みが溢れた。


 口元はそのままに仮面を被り、刀剣を抜く。


「街は焼くわ、子供は拐って洗脳するわ、国々から街々に勢力を広げた挙げ句、政治にまで口を出すという実質的な独裁を世界に強いて肥え……増長して戦争の引き金となった聖神教を『もう罰は受けた』と抜本的に解決せず、放置する。それがお前の答えか?」


 問題が発生する頃にはどうせ自分達は死んでるから先送りにして後は後世に丸投げしよう、などという低俗な思考回路に反吐が出る。


 俺はリーフ達の街やスカーレットを思い出しながら続けた。


「ロベリアの語った古代の大規模戦争で領土は分断され、魔王は平和が良いと鎖国、聖神教は力を付ける為に人族の国々に根差した。そうして、表面上は冷戦状態にあった結果が今じゃないのか」


 一度でもやらかした人間は何度だって過去の過ちを繰り返す。


 長い年月が経てば世代交代し、あるべき反省と後悔は薄まる。


 そりゃ中にはナールみたいに変われる奴もいるかもしれない。


 が、それは極一部。可能性があるからといって全体傾向の軽視はそれこそ矛盾した主張であり、一方的な価値観と正義感に則った独裁的な考えだ。


 拡大解釈や更なる腐敗のリスクを内包する、危険な思想だ。


「現実から目を背け、現状維持という名の理不尽を受け入れろと……? お前は戯れに身体の一部を切り落とされ、焼かれ、あるいは殺されていった連中に……その関係者に、子供達に何て言うつもりなんだ……?」


 だからこそ俺はこの怒りも悲しみも動力そのものへと変える。


 感情で生まれた強力なエネルギーを感情のままに動かしていてはどうしたって人と衝突してしまう。人間社会を形成し、国を運営する為には個々人一人一人がそれらを律しなければならない。


 言外にそう宣言しながら深呼吸すると、肺を焼く熱気に、毒す黒煙、ルゥネの遺体や血の匂い、墜落したヴォルケニスによって抉れた地面の土の臭いが鼻を突いた。


 しかし、嗅覚が死ぬようなそれらより、ライの返答に顔を歪められることになる。


「別に何も。そりゃ……可哀想だとは思うさ。けど、お前の目指す平和は間違った方法による歪んだ世界だ。言ったろ。俺はこれ以上の血を……犠牲を増やしたくない。お前の独善や救っていてはキリがない被害者の為に今の世界を壊されては堪らないんだよ」


 反射的に〝闇〟の魔力が溢れた。


 俺の身体を中心に発生した感情の嵐が紫色の炎となって散った。

 

「元々歪んでただろッ……!! だから俺達が召喚されたんだっ……だからこんなことになってんだっ……! 言い分はどうあれ、大衆の目には同じ穴の狢に映るっ、こうも拗れた世界を今更分断しようなどとっ!」

 

 声を荒げた俺に呼応するように、ライもまた〝光〟の魔力を放出する。


 背中の白翼が神々しく、禍々しい光を纏ってバサリと羽ばたき、羽根を落としながら広がった。


「報復する権利があるから黙ってそれを受け入れろってっ!? 撫子さんをっ……マリーをっ、ミサキをっ……俺から大切な人を散々奪っておいてっ、まだ足りないのかッ!」


 俺達の強力な魔力が、スキルによって物理化された殺気がぶつかって弾け、その余波でルゥネのドレスの生地が揺れる。周囲の火が消える。


 それに巻き込まれたココも「ひっ……!?」と小さく悲鳴を上げて飛び退いていた。


 俺の前だ。MFAも無しには妙な行動は取れないのか、ライは完全に修復を終えた両手……否、その手に持つ銃型の新兵器を俺に向け、俺の一挙手一投足に集中している。


 俺は真っ直ぐ不倶戴天の敵を睨みつけながら言った。


「お前はディルフィンを守れ、ココ」


 フェイの参入で戦況が崩れたのだろう。空の上では連合艦隊が退きつつあり、メサイアはそれを追いかけて艦隊戦を行っていた。


 見なくてもわかるくらいにはハッキリとドンパチやっている。あの中じゃ速いだけが取り柄の巡洋艦は生き残れない。


「はぁ!? 何言ってんのさ! ルゥちゃんが居るんだよっ!?」


 バサバサ飛びながら怒ってこられても答えは変わらない。


「ルゥネは死んだ……もう居ない。泣こうが喚こうが、この事実は変わらん。お前も軍人なら割り切れ」

「やだよっ、出来ないよっ! ルゥちゃんが居ない世界なんて嫌! ボクも一緒に死ぬ!」


 自動的な繰り上がりが理由とて相手は現『世界最強』。精神状態や装備の差で埋まる戦力じゃない。


 号泣しながら首の失くなったルゥネに近付こうとしていたココに、俺は再度声を張り上げた。


「我が儘言ってねぇでさっさと行けッ!! ここでお前にまで死なれたらっ、俺はそのルゥネに顔向け出来ないってんだよっ!」


 殺気と怒気の一部を向けたのもあり、明らかに動揺、錯乱状態にあったフクロウ少女はビクリと肩を震わせると、「ううぅぅっ……! ルゥちゃんっ……ルゥちゃんっ……!」と、名残惜しそうにブツブツ言いながら飛んで行った。


「あははははっ! 随分と感情的だなっ、狂魔帝のシキっ? 仮にも王様なんだっ、ダメじゃないかっ、優しくしなきゃ!」


 自暴自棄にも近い心境らしい。


 らしからぬ高笑い、何故か大粒の涙で顔をくしゃくしゃにしながら虚仮にしてくれたので、バカはお前だと感謝の言葉を述べてやる。


「クハッ……そう言う心優しき勇者様は大事な部下を殺したんだろう? 無辜の民の命を理不尽に奪い、味方すら処分する。そして今、敵国とはいえ、他国に侵略まで仕掛けた。立派だよっ、これこそ〝異界戦国時代〟の正しい姿だっ、こんな俺を肯定してくれてどうもありがとう!」


 世界を二度目の混沌へと誘った絶望の権化の行動をなぞるという暴走。連合がどう言い繕おうが、証拠や噂なら幾らでも流せる。


 嘗て世界を救った英雄による世紀の大失態だ。


 その信頼は地に墜ちた。


 既に衰えている連合を纏め上げる求心力ももうない。


 それがわかっているから……


「ああそうだっ、何もかも終わりだよっ、お前のせいでな!」


 醜くも怒りを露に出来る。


 態々、固有スキルを切るのは感情を否定する俺への当て付けだろう。


「そいつぁ僥倖っ、ロベリアもノアも困ったなぁっ? こうなってしまっては〝力〟による支配でしか人は操れんっ! 黙ってりゃ負けっ、動けば敵の肯定っ! クハハハッ! バカがっ、言ったろうが!」


 こんな安い挑発に乗せられてしまうんだから、俺もこいつやココのことは言えない。


 レナ達に、ジル様に、ルゥネに申し訳がなくて涙が出てくる。


「お前はっ……お前だけはーー」

「ーーここでっ!」


 張り詰めていた空気が一気に破裂するが如く。


「「殺すッ!」」


 俺達は泣きながら地を蹴って争い出すのだった。


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