第314話 分かつ時
短め、それとグロ注意。
久しぶりに活動報告も上げる予定です(;ω;`*)
パチパチと音を立てて飛び散る火の粉の中。
漸くの思いで城庭へと辿り着いた俺は立ち尽くしていた。
「よくもっ……よくもボクのルゥちゃんをッ!」
絶叫して飛び回り、獰猛な爪や脚に取り付けた強化ライフルで襲い掛かるココ。
「人の命を好き勝手に奪い、蹂躙してきた帝国人も自分の番になったらこれか……!」
対称的に白く輝く翼を羽ばたかせ、〝光〟の魔力を帯びた羽根と両手に持った新装備レールガンで応戦するライ。
片や【応急措置】で無敵バリアを張れる身。
片や【紫電一閃】で稲妻と化せる身。
消去法とて、帝国の『最強』になった異形の少女と現ターイズ連合『最強』であるクソッタレ勇者の戦いは激戦といって差し支えなく、空戦速度だけなら俺をも凌ぐ勢いで……それこそ二つの流星が空を駆けるようにぶつかっていた。
「ふ……ふふ……ざまあない……です、わね……」
それらを上回るような現実を当の本人によって叩き付けられ、その場に崩れ落ちる。
「る……ルゥ……ネ……?」
声が、身体が、視界が震える。
ムクロの眠っている今、ルゥネは俺にとって……
いや、こうも個人の戦力差や技術革新による組織力の差が広がった今、今後の為にも必要不可欠な存在。
それなのに。
「女の子……だそう、です……部下が言うには……無……事……旦那様……可愛が……ゃ……やっ……て……ごぷっ……!? ごほっ、ごほっ!」
鳩尾辺りに大きな空洞を作って倒れている彼女を直視出来なかった。
ーーそ、そうだっ……回復薬っ……
ーーこの傷……ダメだ間に合わないっ……
ーー……っ、マナミに頼めば!
ーーいや……それも出来ない……あいつが居る場所もわからなければ……
ーー俺達に協力する理由も義務もない……
ーー詰……み……? ルゥネが……死ぬ……?
ーー嫌だ……嫌だ嫌だ……嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ……!!
ーーまたかよっ……またっ……何でこうなるんだっ……俺が何したってんだよ……!?
思考系スキルで脳がフル回転するが、結局は全ての思考回路が同じ結論に至る。
打つ手が……
ない。
「くっ……! こ、い、つうぅっ……! んっ!? し、シキ君っ!? 来てくれたの!?」
「…………」
俺に気付いたココとライがそれぞれの獲物同士で鍔迫り合いを続けながら声を掛けてきても視線すら返せない。
「シキ君っ、何とかして! ボクならルゥちゃんの身体の時間を止められるっ!! ボクの【応急措置】の効果は知ってるでしょ!? し、シャムザの時みたいにさっ、きっと大丈夫だよっ!」
幾ら目が良いフクロウ系の魔族とのハーフと言っても、ココは戦闘中。細部まで確認出来る俺とは得られる情報量に違いがある。
穴が開いてるんだ。内臓も持っていかれていれば血だって明らかに流れ過ぎている。出産の直後でこの傷、この出血量……。
万が一、現状維持が出来たところで……そして億が一、マナミが力を貸してくれたところで治るとも思えない。
【起死回生】が首を跳ねられたり、真っ二つにされての死亡すらひっくり返す万能の能力じゃないのは幾度となく見てきた。
「ユウ……いや、今はシキだったっけ……なあ、今……どんな気持ちだよ……? 俺から次々と大切な人を奪っていって……これはその報いさ……人を殺すのってこんな気分なんだな……? こうまで不愉快でここまで落ち着かないのは初めてだ……こんなことの何が楽しいんだ……? 笑ってたよなお前……?」
粉砕骨折からの開放骨折状態の両腕がバキバキとグロい演奏をしながら修復されていっているライは見れば目の焦点は合ってないし、全身が小刻みに震えている。
妙にベラベラ喋るのも慣れない人殺しを繰り返したことで一種の錯乱状態にあるのだろう。
「っ……っ……!」
俺は言葉にならない声を発して首を振り、ルゥネの手を握った。
「止めてよッッ!! 大丈夫って言ってるでしょッ!? 魔王殺しの魔帝なら勇者も殺してっ、このヘタレっ! 今すぐッ!!」
尚も叫び続け、至近距離で弾丸を放つココに対し、ライは転移魔法で背後に回り、ゼロ距離で撃ち返す。
固有スキル由来のバリアがそれを弾き、次いだ長物の銃による殴打も無効化していた。
やり返すように爪を立てた蹴りを、反対にその脚を狙った振り下ろしを。
そんな光景を横目に、ルゥネに話し掛ける。
「最期とか……言うなよ……ルゥネ……」
先程から途切れ途切れの声が届いていた。
【以心伝心】を介しても弱々しく、力のない心の声。
ーー旦那様……わ、私……楽しかった……です……
最早、口も聞けなくなったらしい。
パクパクと酸素を求めてか、あるいは何かを言っているのだろうが、血と血の泡が溢れて止まらない唇からは何の意味も成さない……何なら呼吸音ですらない音が出るだけで何も聞こえない。
あれほど力強く、感情的で美しかった瞳もアメジストのような輝きを失いつつある。
「こんのおおおぉっ!!」
「煩いな……今、良いところなんだ……! 君もあそこの女帝もっ、直ぐにあのモグラみたいな子のところに行けるよ……! ははははっ……神様が居る世界だからなぁっ、きっと楽しいぞっ……!?」
二人が衝突するごとに、あるいは二人の攻撃が交差し、周囲を破壊するごとに凄まじい轟音と震動が辺りを襲う。
テキオの時と同じだ。
どうせ助からない。
「介錯は……」
ジル様の時と同じだ。
どうせ救えない。
ーー必要、かと……回復魔法だけで……あの回復力……明……らかに……異常……ま、るで……あの男みた……い……ですわ……
実際に戦った分、ルゥネの方が今のアイツを理解している。
その上での答えだ。拒否なんて出来ない。
「何でアイのことをっ……っ!? お前っ、あの子を殺したね! 許さないっ……絶対に許さないからッ!!」
「アハハハッ! 帝国もっ……魔国もっ……全部全部焼いてやるっ……それが正義なんだ……! それこそ世界を平和にする唯一の手段なんだってさっ、気付いたんだよ俺はっ! 例え勝手な神共の傀儡となろうとっ、俺はああぁっ!!」
戦争を早期に終結させる方法は戦う相手を殲滅し、皆殺しにすること。
嘗て、そして今も抱いている野心と決意、思想が叫ぶだけのココではなく、どこまでも奴を彷彿とさせる狂った笑みのライを肯定していた。
憎い。
全てが憎い。
ライの暴走もそれを放置した自分も。
あれだけ俺を否定していたその口で、同じところへ堕ちてしまったと被害者ぶれる無神経さが許せない。
ーーお前は元々そんな奴だったろ……!
ーー人間が抱く無意識の悪意を凝縮したような……
ーー楽観的で、受動的で、身勝手な男だっただろうが……!
そんな憎しみを募らせれば募らせるほど〝闇〟の魔力が昂り、荒ぶる。
ーーいっそ……奴のように暴走してでもッ……!!
身の内を、心を侵食してきた『負』の感情と衝動を自覚し、そのまま委ねるのも良いかと諦念が湧いたその時。
ーーあぁ……旦那様……どう、か……悲しまないで……ください……まし……
キュッ……と、弱々しく握り返してきた手で我に返った。
「無茶を……言ってくれる。わかるだろ……? 俺にはまだお前が必要なんだ……俺の元に居てくれ……頼むから……死ぬな、よぉ……!」
遅れて、溢れてきた涙で更に視界が歪み、とうとう嗚咽が漏れ始める。
ーーふふふっ……どちらが無茶なんだか……
ルゥネは再び吐血しながら笑っていた。
段々と抜けていく力、地面に染みていく夥しい量の血液、冷めていく体温、浅くなっていく呼吸。
その全てが今後を物語っているのに、当のルゥネが気丈に振る舞ってくれているのに、俺は未だ自業自得の現実を受け入れられずにいる。
なんて情けない。
なんて不甲斐ない。
そんな、自分を責めるような想いもまた俺の〝力〟へと変換されていく。
この世界の無情さと自らが招いた結果をとことんまで突き付けられるようだった。
そして、だからこそ。
ーーねぇ……旦那、様……? う、生まれ変わったら……またお会いし……しま……しょう……?
最期くらい看取ってやりたいと笑顔を向ける。
「はは、何言ってんだ……人は死んだらそこまでだろ……? 俺はそれが嫌でっ……今まで俺を支えてくれた人達に報い、たくて……!」
同時に、その彼女を楽にしてやる為の……深紅の刃を。
ーーあ、ら……? ココ達のこと……を……思えば……か、可能性はゼロじゃ……あり、ま……せん……こと、よ……?
確かにと思わせてくれる儚い願い、希望を、ココも聞いていたらしい。
「ぐうううぅうぅっ……!! ルゥちゃんっ……ルゥちゃんっ……嫌だよボクっ……! こんなのやだっ……こんなの戦争じゃないっ……楽しくないじゃんっ……!」
同じ翼持ちとしては経験が長い分軍配が上がるのか、泣き出しても尚ライと渡り合えており、魔力で作動する脚の銃で以て発砲し、爪を突き立て、引き裂かんと動き回りながら心情を吐露している。
「そうやって……そうやってお前達はどれだけの人達を殺してきたッ!? どれだけの人達の富を我が物としっ、生活を破壊してきたっ! 皆、家族がいたんだ……! 友達がいたんだよ! 自分の居場所を守りたかっただけなのに! 俺だって……!! こんな世界に召喚されてっ、戦わされてっ、いっぱい殺されてっ、殺してッ!」
反対にそれを聞いて激情する勇者でも、ゼーアロットクラスじゃないと破れない無敵のバリアは流石にどうしようもないようで、先程から転移魔法と稲妻化を繰り返してココの死角を狙おうと躍起になっていた。
態々邪魔立てを企てるような底意地の悪さまではまだ会得してないと妙な潔さから黒煙と黒煙に反射する帝都全体の火で覆われていた空を、俺達を青い雷光の目立つレールガンや不気味な色の稲光で眩く照らすだけに留めている。
ーーい、いつの……日、か……きっと……き…………かなら……
刻一刻と迫るルゥネの死が彼女の顔でわかって、また絶望した。
この感じ、もう本当に長くない。
持って十秒あるかどうか……
「そう、か……そうだよな……最期まで……あ、ありがとうっ……なっ……俺も楽しかったっ……大好きだ……!」
これでお別れなのならと手ではなく身体を抱き、強く思いの丈を全てぶちまける。
「また……会おうなっ……必ず……必ずだっ……またお前と会って……今度こそ守るからっ……今度こそ幸せにするっ……次は戦争も殺し合いもなしでさ……普通に出逢うんだ……俺がしがない旅人で、ルゥネが鍛冶屋の娘……それでっ……」
そして、今まで数多の敵を葬ってきた獲物を。
ついこの間、俺の大切な人の首を跳ねた刀剣の切っ先をルゥネの首に当てる。
ーーあ……ぁ……良い……です……わ、ねぇ……それ……
辛いが……心臓ではダメだ。
神とやらが作ったこの世界のルールではその者の命を直接奪った者に経験値などの優先権がある。
「うっ……う、ぐっ……ぐうぅっ……あ、愛してるっ……愛してるよ、ルゥネ……」
俺は言いながら、大粒の涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら血濡れた唇を奪い……
ーーわた……く……も……あ……あい……し…………旦……さ…………ま……
彼女の返事を聞き届けるや否や、拒否反応で震える左手を理性で無理やり抑え付け、次の瞬間。
せめてこれ以上苦しまないよう静かに、しかし、確かな力を込めて紅の刀身を滑らせた。




