第313話 帝都、燃ゆ
遅れました、今回も短めです・゜・(つД`)・゜・
「ちぃっ……マッチポンプで手負いの獣と化すかっ、ナチュラルクズがッ!!」
事実上の魔帝旗艦となった最速の小型艇ディルフィンブリッジにて、シキがモニター越しの惨状に怒気を表す。
何倍にも何倍にも拡大して映し出された映像内。
イクシアともシャムザとも違う発達をした、荒くれ者達の都は火と黒煙に包まれていた。
「シキ氏っ、こちらは亡者の反逆以来の急行っ、もう無理は出来ないんですぞ!」
「わかっているッ!」
「わ、わかってっ!? こんなっ……こんな少人数で何が出来るって言うんですぞ!?」
「軍の構成上の話だっ、旧魔王軍は動かせないと魔都で言った! 全てを救う必要もない! たかが一隻でも攪乱くらいは出来る! 俺はルゥネの元に直行するっ、メイも来い! フェイは先行頼むっ!」
「あうぅぅ……ひ、人使い荒いよぉユウ兄ぃ……」
怒声に怒声を返し、艦長のジョンを黙らせる。
一方でタオルやマントを床に敷いて横になっていたメイからは無理に使ってきた転移魔法の代償で青い顔のままの返事がくる。
(……無理もない。本来なら魔導戦艦で一週間は掛かる距離をおおよそ二時間で移動してきたんだ。まさに超強行軍……急激な魔力減少による体調不良も場合によっちゃ《闇魔法》クラスだからな……)
ライの妹メイは兄同様の天才型オールラウンダー。しかし、有能も過ぎれば結果的に扱いは雑になる。ターイズ連合でのライのように。
最悪の状況や帰りの足、物資運搬(マジックバッグに積めた支援物資等)を想定し、巡洋艦とMMM一機ならと無理をさせたのが祟った。
(こうなっては艦からの固定砲台くらいしか期待出来ないか……)
最早、立つのもやっとらしい幼馴染みに肩を貸してやる。
自分と同等か、相性を踏まえればそれ以上に強い少女の身体は驚くほどに細く、小さく。ルゥネも含め、改めてこのような年下の子に頼っていたのかとシキは自分が情けなくなった。
「きゃっ、ユウ兄のえっちっ」
「……そんな悪ふざけに付き合ってられるほどの余裕はない。対空艦手の真似事くらいはやってもらうぞ」
固有スキルならば魔力は使わない。この改造巡洋艦なら砲撃も合わせてそれなりの脅威になろう。
そう思って変更した指示に、メイは相変わらず軽くふざけながらも真面目なそれへと態度を変え、優しく言ってきた。
「ぶーっ……ねぇユウ兄。この肩、固くなってるよ。焦ったってさ……いいこと、ないんじゃない?」
シキがシャムザで色々あったように、メイもまた帝国で確執がある。
だが、それ以上にシキはルゥネを好いているし、彼女からしても大切な友人らしい。
「ごめん……苦労かけるな」
そのメイが普段呼び続けている日本人としての自分で返したところで、別の画面に予想外の物体群が映った。
「ジョン艦長っ、シキ!」
「な、何でっ……!?」
「ぶひっ!? し、シキ氏あそこ!」
「わかっていると言った!」
驚愕するオペレーターやジョン達に動揺を見せないよう演技しつつ、内心で舌打ちする。
(この状況っ、最悪だっ……! ルゥネが何処に居るかもわからんし、何だって奴等がここにっ……!?)
機械の精度のお陰とて、目測で確認出来る距離に入ったのに【以心伝心】のリンクが繋がらない。
焦りから高まる鼓動が煩わしいと義手の装甲を胸に当てて押さえ、それらを注視する。
この場の全員が見つめる先にあるもの。
それは二つの組織が持つ艦隊だった。
一つはマナミ率いるメサイア軍。何のつもりか、付近の荒れ地に着艦し、逃げ惑う帝都の臣民を受け入れたり、避難誘導を試みていたり、傷を癒している。その長も健在のようで、崩れた外壁や街並みの一部が不自然に修復されている最中だ。
そしてもう一つはターイズ連合軍。たった今到着したらしい艦の殆どには損傷が見られた。恐らくヴァルキリー隊と手駒の魔帝艦隊を沈めた艦隊だろう。こちらは逆に爆撃を開始しており、帝都全体の被害増大に一役を買っている。降下したとおぼしき量産型MFA装備の聖騎士達に至っては都の外に先回りし、逃亡してきた女子供、老人を容赦なく斬り殺し、刺し殺し、撃ち殺して回っている始末。
「あ、あいつらっ、この期に乗じてっ……! あんのバカ兄貴は何で利用されてるだけってわからないのっ!?」
「魔導砲を使わないってんなら……まだあの野郎が残ってるってことだっ……!」
言いながら憤るメイを連れて甲板に走り、ノイズ混じりの無線で今更ながらのフェイの返事を聞く。
『大将っ、今出撃準備が終わったところっ……って、この反応っ……あの女だ! 女王の奴が来てる!』
どうやらロベリアまで参戦するらしい。
『……? 待てっ、一人でか!?』
『あんっ? なんだって!?』
『金ピカの機体が一機だけかと訊いているっ! 護衛はどうしたっ、方角は!?』
『えーとっ……うんにゃっ、艦影もフルーゲルも連れてない! 変だねっ、南から向かってきたよ!?』
その方向を一瞬考え、驚く。
「シャムザからっ……どういうことだっ……?」
そうして首を傾げたのも一瞬。
考えても無駄と直ぐ様切り捨てたシキは『こちらシヴァト! 出るよ!』という威勢の良い声を耳に、そして発進時の衝撃らしい振動に揺らされる中、甲板へと飛び出た。
見れば銀灰色の戦闘機が空色の粒を放出しながら帝都に向かっている。
「どうせ先に出れないんなら俺を連れてけってぇのにフェイの奴っ……部下を殺られて気が急いてるなっ……?」
「っ……ユウ兄も行ってっ、嫌な予感がする! このままじゃきっと皆が死んじゃう!」
縁に掴まったメイにドンッと背中を押され、一歩前に出る。
それ自体はシキも全身に走るが如く感じていたもの。
呆けそうになり、踏み留まって、浮く。
「わかっていることをそう何度も言われちゃ腹も立つっ!」
こんな時だからこそだろうか、仲間達の思いやりと大切さが身に染みた。僅かでも笑えたのは有り難かった。
故に。
不安と恐怖と激励の気持ちが入り混ざったメイの表情に、シキは最大加速の溜めを行いながら減らず口で応えた。
「だからっ……後で覚えてろよっ、お前らっ!」
轟ッ……!!
狂魔帝専用MFAから紫炎が溢れ出る。
遅れてパチンコ玉のように、瞬く間に飛び出したシキは現在進行形で直進するディルフィンを置き去りにするのだった。
『邪装・真』。
来るべき勇者との死闘を想定し、女帝ルゥネが手掛けた空飛ぶ鎧は既に装備者が放つ業火の推進力をより安全に放出出来るよう……シキを守るよう内部機構に量産型とは全く別物の構造が取り入れられている。
その為、以前のように飛ぶだけで皮膚が焼け爛れ、溶けていくことはない。
無論、それはあくまで通常運用時の話で、本気を出せば装甲そのものが溶解を始めるが、以前よりは改善されている。事実、紫色の炎から成る擬似的な翼と各スラスターから散っていく魔力の粒は彼を過去最高の移動速度へと導いていた。
「たかだか一人にこの様かよっ、世界一の軍事力を誇る筈の国が何て脆いっ……!」
『もうちょい艦同士の距離が近けりゃ無理やり通信も出来たんだけどねぇ……』
独り言×独り言。ほぼ同時に帝都の北区域に着いたシキとフェイはチラリと互いを見やってフォーメーションを組んだ。
シヴァトが前、その背後に隠れるようにしてシキが並ぶ。
自動的に正面からはハリケーン以上のエネルギー、背面からは自分が放つ推進力に挟まれる形になるものの、魔障壁の出力を上げ、物理的なバリアーとして機能させれば何とでもなる。
それを証明するように、円錐形を少し崩した形状で発生した半透明の結界は時折極小のハニカム構造で形成されたシールドを露にすることで存在感をアピールし、全ての障害物を取り除いていた。
『艦隊は潰させてもらうよ!』
「任せたっ! 人に言えたことじゃないが……クレバーにな!」
短い会話を最後にフェイは機首に取り付けた魔銃で掃射を開始。艦隊……ではなく、艦隊から降り続けている航空爆弾を薙ぎ払い、連鎖爆発を起こして吹き飛ばす。
その全てを排除出来ずとも、掃除している間に距離は縮まる。高熱ビームの発射を止め、代わりに熱を伴う白煙が銃口から漏れると同時、機銃による艦隊攻撃へと移行した。
その後ろで、シキは紛れるようにして降下。
燃え崩れる都内を僅かに減速するだけで突き抜ける。
「っ……来たかっ」
時を同じくしてロベリア機も南区域に到着したようだが、眼下に広がる惨状と味方の艦隊の暴走に足ならぬ翼を止めている。
連合艦隊が突撃してきたシヴァトに気を取られている様子も、機械人間に妙な表現だが、ロベリアが唖然としている様子も炎と煙に隠れて確認出来た。
「何だっ……!? 母艦が襲われている!?」
「あの機体っ、何処から現れた!」
「い、いや待てっ、今正面の方で何かっ……」
状況が状況だからと、無用心にも戦場で停止していた聖騎士数人の首をすれ違い様に飛ばし、速度をした状態で辺りを見渡す。
恐らく何が起きたかも理解出来ないまま落ちていく末端兵は兎も角として、都内ではそこらかしこで略奪や破壊、凌辱行為が散見された。
「勇者殿の先行一つでこれか! ははははっ、良い気味だなっ、蛮族共!」
「食糧庫を狙えっ、こっちだ!」
「そこな女を連れてこい! 私自ら可愛がってやる! 男は殺してしまえぃ!」
「いやあああぁっ!? 助けてっ、誰か助けてぇっ!」
「くっ、少女相手に何をしよっ……ぐわあぁっ!?」
「ええいっ、ちょこまかと神出鬼没な奴等めっ! 当たれっ!」
「こっちも応援頼む! 弾が切れそうなんだ!」
残っていた臣民や帝国軍人も応戦しているが、数や装備の差、転移魔法には勝てない。明らかに劣勢だった。
そして、現在進行形で蹂躙されている彼等も大半は嘗て他を蹂躙した側。仮にしていなくとも憎しみ恨み嫉みを向けられている帝国人であることに変わりはなく、また、彼等自身が掲げている帝国主義に則った結果である。
助ける義理も情もこの場では持ち合わせていないが、善悪などと正確な答えのない、一方的な価値観を押し付けてくる組織が悪と定めた者達と同じことをしている光景は中々に神経を苛立たせる。
「信仰の名の元に奴等なりの正義を貫いているかと思えばこれだっ」
いざ中心地へと来てみて、理解した。
(こいつら爆撃地帯を予め定めてやがるなっ……? 兵站や軍事施設を狙った部隊と鬱憤を溜めた連中の遊撃を兼ねたガス抜き……魔物以下だな……!)
完全に聖騎士だけで構成されているわけではないのか、無駄に派手な装飾の目立つ装備や偉そうな立ち振舞いの者、何やら恨み言を叫びながら年端もいかぬ子供を追いかけ回してまで殺している者も居る。
シキはその正体が帝国に煮え湯を飲まされた歴史背景を持った上で連合に飲み込まれた小国群の人間だと気付き、見放した。
そんな下衆連中相手に武装したメサイア軍の兵士が交戦を仕掛けている場面が見受けられたからだ。
「兵や王族貴族ではなくっ、民や女子供を率先して襲うとはっ……!」
「これが軍人のやることか!?」
「今すぐ止めさせろ!」
「う、動ける方はこちらへっ! 急いで!」
「衛生兵っ、そっちで倒れてる奴連れてってやれ!」
マナミの指示だろう。
メサイアという組織の成り立ちや理念からして士気こそ高い。
が、その練度と装備格差は如何ともし難いレベルで、変わらず連合側が押している。
「所詮は怨念返しにおままごとをしたい連中っ……!」
帝国の人間も含め、構っている暇はないと城を目指す。
そも彼等が見せる本性や底意地の悪さ、醜さこそ〝力〟の根源であり、戦国時代がもたらす真実。
内心で見下そうが、同じ穴の狢とわかっている身としては小さな矛盾よりも大きな矛盾を選びたいというのが本音だった。
(どうせなら身内を優先するのが人間だ。恨みたければ好きなだけ恨むが良い。お前達大衆が生み出した社会全体の軟弱な態度が聖神教のような歪みを育み、ゼーアロットや俺のような異端者を呼び込むんだっ……!)
見ない振りして聞こえない振りして。
(大体がステータスなんて馬鹿げたシステムあったればこそこんな理不尽や横暴が罷り通るっ……一軍隊をも上回る戦力を単騎で保持する俺達がどれだけの危険因子かわかってないのかアイツはっ!)
開き直って自己弁護して。
(ふざけるなよ……ふざけるなよあの野郎ッ……! 頭だぞっ、王なんだぞっ……クイーン以上の性能を持ったキングがいきなり敵国へ乗り込むなんざ想定出来るかっ、完璧じゃないにしろ俺ですら出来ることを何でお前みたいな天才がこなせないんだっ……!)
ただ一人、ただ一直線に。
ヴォルケニスが墜落している城庭へ向かう。
(いつもそうだっ……いつもいつもっ……いつもいつもいつもっ……! お前はあの白騎士と一緒になって俺の邪魔をする!)
道中に現れた障害は人だろうと、崩れかかった建物だろうと纏めて粉砕した。
こちらに気付いて砲撃してきた一部の艦はシヴァトが、あるいは何処からともなく飛んできた稲妻が排除した。
野蛮人らしからぬ、そして逆にルゥネらしい……色とりどりの花や草木で満ちていた城庭が見えてくる。
爆炎と花弁、火の粉が入り乱れて舞い、定期的に凄まじい轟音と凄まじい威力の何かが付近の建物や地面、果ては味方の筈の魔導戦艦をも貫き、破壊する大きな戦場が。
(撫子は事故だろうがっ……)
帝国人を自業自得と蔑んだその心に憎しみと恨み、嫉みが膨らんでいく。
(イクシアの女王のような小物こそ腐敗した政治者の最たる例だろうがっ……)
無意識に〝闇〟の魔力が増大され、速度が増す。
(ミサキみたいな感情論だけで動くゴミは是正されるべきだろうがっ……)
友人や仲間、家族、大切な人の命が散らされた時の絶望がライという男の絶望を受け止める。
(白騎士が居ない……つまり残存ハーレムの女共は置いてけぼり……そしてここまでの暴れっぷり……奴が正気なら艦隊を退かせる筈……神の干渉っ? 『付き人』は何してやがるっ? 何でこうなったっ?)
精神的な動揺から視界が揺れ、心臓の鼓動が不規則に乱れる。
「罰だってぇのかっ……? 俺が殺したからっ……? 今度はそっちの番だぁ……?」
嫌な予感がした。
心がざわつき、悪寒が止まらなかった。
「これではゼーアロットを取り逃がした日の再現だ、学習能力のない無能め」と心の中のささくれた部分が囁いた気がした。
「何でこのタイミングなんだよ……何でっ……」
独りごち、減速し、そうして漸く目的地へと辿り着いたシキが視界に収めたのは……。




