第312話 雷禍襲来
大変長らくくたばっておりました……(ヽ´ω`)
ちょっと思うところがあって海外留学というのに挑戦中ですので今後はマジで不定期更新になります。
英語力0で来てるのも相まって執筆時間がまあ取れないのなんの……。
完全に私情で申し訳ありませんが、落ち着くまで暫くお待ちくださると幸いです( ノ;_ _)ノ
「全くっ、こんのめでたい時にっ……!」
帝国軍突撃総隊長であるテキオの戦死により、自動的にNo.2兼女帝ルゥネの親衛隊長から繰り上げとなったフクロウ系魔族のハーフ少女ココが翼をバタつかせながらボヤく。
「日頃の行いかしらね!」
苦笑いしながら返すはモグラ系獣人のハーフ娘アイ。普段は文官、戦時は不動の斥候として働く彼女は走るのに向かない短い足をペタペタと必死に蹴り出している。
「ここまでの先手っ……まさかルゥちゃんっ、何か察してっ……? せめて意識があればっ!」
「ありそうね、うちの姫ならっ……因みに襲撃者だけど単騎っ、蛮勇よねっ、勇者ただ一人だわっ!」
「様子見っ? 武装っ、状態はっ!?」
「MFAは装着してない! 生身っ、獲物は聖剣だけ! 『見』た感じ錯乱してるっ……? ゼーアロットみたいにぶつぶつ言いながら暴れてるとこよっ。内容は人だか仲間だかを殺してしまったとか何とか……目の挙動からして正気じゃないっ、それとっ……んっ、今わかった! 独断専行っ、周囲数百キロ内に艦影なしっ!」
つまるところ、互いに増援は望めない。
募りゆく焦燥感を抑えつつ、早口で情報の共有を終えた二人の共通認識は孤軍奮闘。
敵こそが孤軍だというのに、そのたった一人の突撃一つで歴史ある荘厳な城は既に半壊状態にあり、自分達で事を治めなければならない。
「嬉しいんだか厳しいんだかっ……」
「赤ちゃんは真っ先に離れてるっ、姫も無事! 持たせなさいよっ、女帝代行っ!」
予兆か、《直感》か。
安定していた筈のルゥネはその日の昼頃、突如破水している。
予定を押して切迫早産に、一時は母子共に危ない状況にあったが、回復魔法と回復薬はやはり偉大で、彼女が持つ異常なまでに強固な精神性も相まって無事に事なきを得ていた。
現在は夜の帳が下り始めた時間帯。
「煽ててっ……!」
「相手は稲妻そのものでしょっ!? しかも艦隊も率いずの特攻っ、予想なんてっ!」
城を襲った激震と流れてきた電流に飛び起きたという経緯を持つ、非番の異形種二人は長く広い廊下を駆け続ける。
迎撃に向かわせた兵の断末魔を無線で聞きつつ、互いに指示を出しつつ、苛立ちをぶつけ合う。
「っ、あーもうっ、こんなことになるんだったら通信くらい送っとくべきだった!」
「不安にさせるかも、なーんて気を遣ったのが仇になったわねっ!」
ヴァルキリー隊の母艦を含めた強襲艦隊が帝国に向かう連合艦隊と遭遇、開戦、壊滅して真っ先に情報が届いたのは当然、帝国本土である。
まさかその敵艦隊がライ一人を追っていたとは夢にも思わない。
「うーんっ、ダメっ、遅い! 先行するっ!」
アイのように現状を確認出来ずとも、ズシンズシンと城全体を揺らす何らかの衝撃と落雷は恐ろしいものがある。愚痴を言い合いながら落ちてくる瓦礫を避け、それらの被害者らしき兵の上を飛び越えると同時、ココは真横の壁に魔粒子を放出しての体当たりをぶつけて破り、外に出る。
「アタシはヴォルケニスにっ、多分姫もそっちに向かってる! 頑張って!!」
それは答えるように加速を掛けたココが最後に聞いた戦友の声だった。
◇ ◇ ◇
所変わってヴォルケニスのブリッジ。
幸か不幸か、早産のショックで意識を失っていたルゥネはライにその存在を気付かれるよりも前に艦内へ担ぎ込まれたものの、普段【以心伝心】に頼りきりだったことが災いし、兵達の混乱は極めていた。
「閣下は収容した! 出ろ出ろっ、帝都にまで被害が及ぶ!」
「怪我人は!?」
「迎撃班は何やってんだ!」
「索敵もだろっ!? 何でわからなかった!」
「わかるかよっ、雷みてぇにいきなり降ってきやがったんだ!」
「御託は良い! 今はヴォルケニスを発進させろ! 帝都の上で艦隊戦は嫌だろう!?」
「で、でも艦長っ、艦影なんて一つもっ!」
『ヴォルケニスはこれより緊急発進する! 他の艦もだっ! 取り残された者は被害の拡大を防げ! エアクラフト隊とMFA隊は出撃っ、出撃ぃっ!』
突然の襲撃と言えど、そこは帝国人。紆余曲折ありつつも敵が一人だと知った部下達は産まれたばかりの赤子とルゥネとを分けて逃がし、リスクを分散させる。
が、彼等が対応出来たのはここまで。
浮上を始めた頃には城を崩壊させたものと同じ衝撃が艦を襲った。
「「「うおおおっ!?」」」
「なっ、何事かぁっ!?」
「わかりませんっ!」
「メインジェネレーターが落とされた模様っ! 全スラスターへの供給途切れましたっ、おっ、墜ちまぁすっ!」
強力な銃火器か何かにぶち抜かれたが如く、エンジン部に円形の風穴を開けた帝国旗艦は船員の奮闘も虚しくそのまま墜落。
重心の寄っている船首から突き刺さるようにして城庭に墜ち……
轟音と共にのし掛かった物理法則が彼等の殆どを硬い壁や強化ガラスに叩き付けた。
悲鳴と断末魔は激震に埋もれて消えていく。
対照的に、このような事態を見越してか医療用ベッドに拘束されて無事だったルゥネがあまりのGに目を覚ました。
「うぐううぅっ……~っ……く、ぁぁっ……!? あ、れ……? 私の赤ちゃん……いえ、この状況っ……な、何がっ……!?」
逆さ吊りになるだけで済んだとはいえ、弱りきった身にはその衝撃と自分の体重を×幾つかさせた重さは厳しい。
ただでさえ悪かった顔色を土気色にしながらも、何とか器具を緩ませて脱出。まともに受け身すら出来ず、散らばっていた薬品のガラスの破片にダイブする。
「ぎっ……!? く、ん……~~っ……! はっ……はっ……!」
身体中を走る激痛と迸る赤黒い血液を代償にゆっくり立ち上がったところで、天を向いていた艦の背面が思い出したかのように傾き始めた。
「ちょっ、ちょっ……!? うそうそうそっ!? ええいっ、クソッタレですわぁっ!」
このままでは天井や壁から死を運ぶシャワーを浴びることになる。
そんな、何とも受け入れ難い現実の中、仕方なしに今度はベッドへ飛び跳ねて耐え忍んだ。
「~~~っ……!?!!? はっ、はひゅっ……う、くうぅっ……!!」
内部に到達、あるいは骨まで深々と刺さっていく礫に、子を産み落とした時以上の悲鳴が上がりそうになった。
そうして、ズシイィンッ……! と、艦が丁度真っ直ぐ墜ちてきたような状態になり、完全に落ち着きを取り戻すのを確認したら恐る恐る艦内を歩き出す。
全身は既に血まみれ。痛くない箇所がないほどの重傷。
出産で失った体力と血が合わさり、ルゥネは急性の失血性ショックに陥っていた。
死神の鎌が喉元まで近付いているような、嫌な気配を感じ、否定するように首を振りながら、そして、肩で息をしながらブリッジを目指す。
通路では兵の殆どが身体の何処かしらを強かに打ち付け、場合によっては中身をぶち撒けているという酷い惨状だった。
たまに見かける生存者も長くは持たないと一目でわかる。
「はぁっ……はぁっ……こ、これ、はっ……チェック……かも……しれません、わね……はぁ……はぁ……」
口調こそ弱々しく、脳はフル回転。復活した【以心伝心】により、瞬く間に統制力を取り戻した城の兵達、ココと通信する。
ーー敵の狙いは恐らく私っ、なればこそっ! 囮として出迎えてやりますわ! 迎撃に当たった者が死に際に伝えてきたイメージ映像を参考に航空兵は散開して支援っ! 回避と狙撃メインで貴方達が対応なさい!
ーーはっ!
ーー承知!
ーーな、何も閣下自ら出ずとも!
ーーヴォルケニスが墜ちたってのは本当なんですかいっ!?
ーールゥちゃん良かったっ、無事なんだね!? どうしようっ、アイと連絡付かないの! てか今どこ!?
緊急性を伴うものに対しては短く答え、帝都の方には避難勧告を直接出す。
ココに言われて初めて側近の不在に気付き、反応がない……死亡ないし、気絶していることを悟った。
ーー魔力さえあればヴォルケニスはまだ飛べますっ、生存者とココはこちらに!
ーーわかった! それと敵の武器だけど、とんでもなく速くてイカれ性能の長物銃! レールガンってやつだよきっと!
ぶるぶると震える手、霞む目元、人生一の倦怠感と寒気の中、付近に落ちていた兵のライフルを杖変わりに歩を進める。
「ふーっ……ふーっ……うぐっ、はぁっ……!」
来ないとわかっている救援を、快勝続きだった自分をあの何処までも続く砂漠の国で完膚なきまでに叩き潰してくれた愛しい人を想いながら足を引き摺る。
「うっ……は、ぁ……は……ぁ……」
後少し。
後、十数メートルで外に出れる。
だらだらドクドクと、ゆっくり……しかし、確実に流れゆく大量の血が患者衣を真っ赤なドレスに変貌させ、本人も気付かぬうちに瞳から光が失われていく最中を、一心不乱に突き進んだルゥネを待ち受けていたのは更なる絶望。
「っ……」
視界に捉えた光景に思わずふらりと倒れかけ、嘆息した。
何に引火したのか、燃え広がる城庭に、ではない。
ーーココ……私はここまでのようです。旦那様によろしく言っておいてくださいな。
ーーは……? ちょっ、ルゥちゃんっ? 何言ってっ……まさか奴がそこに居るの!? すれ違いになったっ……!?
探していたのだろう。
崩れゆく城と激しくうねる火の手、上がっていく黒煙をバックに。
物言わぬ肉塊の山を足元に。
想い人の宿敵とも言える男が両手をだらんと下げて立っていた。
「目は潰した……次は……次は心だ……あぁ……また殺してしまった……」
相当の反動が襲うらしい。
連合『最強』の勇者ライの腕もまた脱臼に開放骨折と見るに絶えない有り様で、にも拘わらず狂気にも似た気迫を瞳に宿しながら何かを呟いており、レールガンとおぼしきライフルを手放さない。
「俺は……俺の罪……贖う為には……この世界はどうすれば……誰もが笑い合える……差別も戦争も何もない……何でそれだけの願いが……俺が悪いのか……俺が悪……?」
見れば聖剣は近くの死体に突き刺さっている。
端正な顔を、引き締まった肉体を返り血で染め、臓物の欠片か何かを付着させたままで居る、その血の化粧姿は形容し難いほどにおぞましく、禍々しい。
焦点の合ってない、常軌を逸した目の勇者らしからぬ勇者は痛々しい腕をぶらんぶらんと揺らして空を仰ぎ、城を見つめ、死体を見下ろし、ヴォルケニスを横目にこちらを見やった。
「ぁ……? じゃあ……じゃあアイツは……ユウは……? 何でだ……何でこうなる……俺が……何したって言うんだ……? なぁ……教えてくれ……アイツが正しいのか……? 俺が間違ってたのか……? 何が……何が正解なんだ……だって聖騎士達が勝手に……ノアまで一緒になって……」
独り言か、質問しているのか。
それすら判別が難しい呟き。
ルゥネは深く溜め息をついて脱力すると、視界から得られた情報を精査。
城もヴォルケニスも、ダメージ覚悟で新装備を試した結果と推測し、呆れた顔で返した。
「……何ですの貴方。たかだか部下を殺したくらいで自棄に? 思考もぐちゃぐちゃ、感情もぐちゃぐちゃ……気持ちの悪い男。開き直って〝同調〟を求めてくる旦那様の方が余程可愛げがありますわ」
戦力差は歴然。
ダメージ量も雲泥の差。
装備だって、《アイテムボックス》も回復魔法も使える人間相手に比べるものじゃない。
とうとう話す気力も今ので喪失した。
しかし。
1on1の死合ならば勝てる見込みはないとわかるが、現実は少し違う。
相手は自暴自棄で。
こちらは残存した兵を忍ばせている。
(さ……また躍りましょう、旦那様のお友達さん)
ルゥネは自分を奮い立たせるように獰猛な笑みを浮かべ、ライフルを向けるのだった。




