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五人目の召喚者

「ありがとうございました」

その言葉を、一日に何度口にしただろう。

神崎悠真かんざき ゆうまは、深夜のコンビニ店内を見渡していた。

時刻は午前0時50分。

先ほどまでいた最後のお客様が店を出て、店内には静かな時間が流れている。

こういう時間こそ、店舗の差が出る。

悠真はそう考えていた。

「悠真さん、また店内見てるんですか?」

アルバイトの青年が苦笑する。

「見てるというより、確認かな」

悠真は飲料棚を見る。

「水が少し減ってる」

「朝の出勤前に買う人が増えるかもしれないから、補充しておこう」

続いて、おにぎりの棚を見る。

「こっちは少し多め」

「明日は雨予報だから、外に出たくない人が増える可能性がある」

青年は感心したように笑った。

「そこまで考えて発注してるんですね」

悠真は少し照れたように笑う。

「まあ、長くやってると分かるようになるよ」


神崎悠真。

40歳。

職業。

コンビニエリアマネージャー。


世間から見れば、特別な職業ではない。

剣を振るうわけでもない。

魔法を使えるわけでもない。

誰もが知る有名人でもない。


それでも悠真は、この仕事が嫌いではなかった。

売れ残りを減らす。

困っている店舗を立て直す。

新人スタッフが成長する姿を見る。

そして、

「この店があって助かった」

そう言われる瞬間。

それが好きだった。


悠真は昔から思っていた。

商売とは、

金を奪い合うことではない。

誰かの生活を少し便利にすること。

誰かの一日を少し楽にすること。

その積み重ねが、商売というものだ。


閉店作業を終え、悠真は店を後にした。

夜道を歩く。

40歳にもなると、若い頃のような無茶はできない。

それでも、明日の仕事のことを考えると不思議と気持ちは軽かった。

「明日は新商品の売れ行き確認だな」

そんなことを考えながら歩いていた時だった。


突然。

世界が白く染まった。

「……え?」

足元に光が広がる。

見たことのない魔法陣。

聞いたことのない言葉。

身体が動かない。

状況を理解しようとする。

だが、どれだけ考えても答えは出ない。

そんな中、悠真は小さく息を吐いた。

「……参ったな」

一瞬だけ、仕事のことが頭をよぎる。

「明日の予定、全部キャンセルだ」

長年社会人として培った経験が、こんな状況でも悠真を冷静にしていた。

しかし次の瞬間。

光が悠真を包み込んだ。


次に目を開けた時。

そこは巨大な広間だった。

石造りの床。

高い天井。

並ぶ騎士達。

正面には王冠を被った老人。


「成功した……」

誰かが震える声で呟く。

「勇者召喚は成功だ!」


悠真の隣には、四人の男女がいた。

その瞬間。

四人の身体が光り始める。


【剣聖】

【聖女】

【大魔導師】

【聖騎士】


広間が歓声に包まれる。

「四英雄だ!」

「これで魔王に対抗できる!」


しかし。

魔法陣には、まだ光が残っていた。


「……待て」

老いた魔導師が顔色を変える。

「召喚陣が……終わっていない?」


最後の光が集まる。

そこに立っていたのは、

神崎悠真だった。


「鑑定を」

王の命令。

悠真の前に文字が浮かぶ。


【職業】

商人


数秒の沈黙。


【固有スキル】

なし


誰かが呟いた。

「……商人?」

「戦えない職業ではないか」

「なぜ勇者召喚に……」


悠真は理解した。

自分は選ばれた勇者ではない。

ただの、

巻き込まれた存在なのだ。


しかし。

誰も気付いていなかった。

鑑定魔法では読み取れなかった、もう一つの情報。

古代文字で記された、本当の能力。


【神授スキル】


その名前を知る者は、

この世界にはもう存在しない。


これは、

ハズレ職業と呼ばれた商人が、

世界一の商人を目指す物語。

そして、

人と人、国と国、種族と種族を繋ぐ物語の始まりだった。

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