第3話 魔王の名前を初めて聞いた私、旅立つ
旅立ちの日の前の晩。確認しないといけないことが山ほどある。
「お母さん、お父さん、今まで育ててくれてありがとう。感謝してる。でも聞きたいこと、山ほどある」
「ソンタリア、立派になって。ええ、なんでも聞いてちょうだい」
「今日がみんなで過ごす最後の晩だ。なんでも聞いてくれ」
「私、勇者でしょ。勇者って何、するの?」
「勇者は、勇者よ」
「何って、魔王を倒すに決まっているだろう」
魔王。初耳だった。生まれてから十数年、具体的には16年。夜も子供たちが外で遊んでいるし、動物も放牧状態、武器庫も見張り台もなかった気がする。もちろん魔王のせいで危機が訪れたこともない。
そんなことを質問しても、ずっと同じ答えが返ってくるような気がした。そして夜が明ける。
「よくぞ参った、勇者ソンタリアよ。魔王ワル・クーナイを倒し、再び平和な世界をっ」
再びも何もこの村に至っては、少なくとも16年は平和なのに。魔王の名前も初耳だし、ちっとも悪くなさそうな名前だ。
「分かりました、頑張ります」
「勇者に少しばかりの餞別を」
そう言われて、金貨の袋と決して強そうでない、なんならその辺で売ってそうな剣を貰った。
あとで金貨を確認したところ、小遣い程度で前世なら1000円くらいだった。
魔王が何をしているのかわからない。そもそも悪いのかすらわからない。そんな魔王討伐の旅が始まってしまった。




