第12話 模倣技術の一撃
「作戦開始」
心の中で自分にそう言い聞かせる。まあ作戦をクソも無いのだが、こうした方がなんだか集中できる。
というわけで戦闘再開。まず最初に取るべき行動は虚空騎士の背後を取ることだ。相変わらず知弥先輩はもはや芸術と言っても過言でないくらいに虚空騎士の攻撃を避け続けている。それを横目に見ながら走り続ける。
利音「さてと、高さは確保した。でもどうやってあの間に入ればいいものか」
建物の間を通り抜け、瓦礫の山を乗り越え向かった先はちょうど虚空騎士との距離が最も近い一軒家の屋根の上。
この技を使うにはある程度の高さが必要だ。本来なら建物5階程度の高さは欲しいが、近くを見渡してもそんな高さの建物は見つからない。仕方ないので一軒家の屋根上で妥協する。
屋根に登るときに知弥先輩と虚空騎士が一瞬視界から外れたのですぐに目を2人の方向に向ける。しかしその視界に映っていたのは先程までの戦闘ではなかった。
知弥先輩は俺と同じ刀一本の超近接スタイルで、俺が一撃受け止めるだけでも苦労したような攻撃を軽々と受け流すか弾き返している。しかし、それより注目すべきなのは虚空騎士の攻撃。両手に一本ずつ剣を構えている。二刀流のスタイルだった。先程とは比べ物にもならないほどの速さで二本の剣を振り圧倒的手数で知弥先輩を襲っている。
知弥先輩もその攻撃には流石に焦りを見せ……ていなかった。圧倒的手数で攻める虚空騎士の攻撃を一撃一撃全て刀一本で防ぎ、弾き、受け流していた。
利音「すっご……」
いや、今は呆気に取られている場合じゃない。状況は……整った。
利音「先輩! お願いします!」
知弥「おっけ~」
知弥先輩は返事をすると同時にバク宙で横薙ぎの斬撃を躱しながら、左手を虚空騎士に向ける。その瞬間、知弥先輩の周囲に白い霧のようなものが現れた。それは虚空騎士に向かって集まり、そして、虚空騎士に向けた左手をグッと掴む。
知弥「凍れ」
ガシャン!
金属音とは違う表現のしにくい音が響く。強いて言えばガラスの割れるような音だろうか。その音が利音の耳に届いた瞬間には虚空騎士は完全に凍り付いていた。
利音「氷! でもこれで動きは止まった!」
俺は屋根の上を一気に駆け抜ける。力強い踏み込みによって一気に速度が上がり、数歩走っただけで最高速度まで達していた。そして、屋根の端を正確に踏み込み跳び上がる。走りの速度を跳躍で上への推進力に変えたおかげで普通の人なら絶対に届かないような高さまで跳び上がった。
利音「高さはこれで足りる! 次は!」
俺は視線を地上の虚空騎士に向け狙いをしっかり定める。跳躍の速度が遅くなると重力の重さが体に重くのしかかり地面への落下が始まる。そして、俺は使う。
利音「降、撃っ!」
体が自分の想像通りに動く。落下と共に体を回転させ攻撃に遠心力も加える。落下の勢いが増していくと共に体の回転もどんどん速くなっていく。
回転によって視界が回り続ける。風圧によって本来は目も開けられないような速度だが、制服の身体強化によって強化された利音の目はしっかりと地面の敵を捕らえていた。
そして、地面にどんどん近づき虚空騎士まで1mと近づいた瞬間、利音は腕を伸ばして刀に回転の勢いを乗せる。
利音「ハァッ!」
回転しながら構えた刀は綺麗に虚空騎士の左肩に命中する。
重力に遠心力、その他にも多くの力によって生まれた勢いが全て刀に乗り、刀は虚空騎士を覆う氷、そして布の中に装備していたアーマーすらも一気に斬り、心臓部分の核を真っ二つに斬り裂いた。
だが、利音の落下は止まらず地面に激突しようとしていた。
利音「エアバック!」
俺がそう叫ぶと着ていた制服が一気に膨らみクッションのようになった。制服のクッションにより少しは落下のダメージが軽減されたが流石にあの高さからの落下を完全に受け止められるはずもないので地面に当たった瞬間にかなりの痛みが体全身を襲った。
虚空騎士「*******!!」
制服のクッションが元に戻り全身の痛みに気合で耐えながら立ち上がろうとすると、虚空騎士の少なくとも生物が出す悲鳴とは思えない声が耳に響いた。そして、虚空騎士の体を構成する黒い霧のようなものがどんどん霧散していく。しかし。
利音「っ!?」
虚空騎士は体が霧散していくのにも関わらず俺に向けて剣を振り下ろして来た。
嘘だろ!?……この状態で俺に剣を向けてくるか!?……やばいやばいやばい!……避けられないっ!?
カキンッ!
しかし、振り下ろされた剣が利音に届くことはなかった。甲高い金属音のような音と共にその剣は動きを止めた。
利音がおもむろに目を開けると目の前には一人の男子生徒が立っていた。そして、よく見るとその生徒は利音に向けて振り下ろされた剣を生身の腕で受け止めていた。
おかしいな、金属音がしたと思ったのだが。
???「全く、核潰されたんだからとっとと消えろ」
そう言うとその生徒は右腕の拳を握り虚空騎士の腹部に向けて強烈なパンチを食らわせた。すると風船の破裂音……いや、それともまた違うような炸裂音と共に虚空騎士の体が彼方まで吹き飛んでいった。
???「さて、これで終わりかな」
その生徒は虚空騎士が吹き飛んでいった方を向きながら仁王立ちしていた。その間、俺は呆気に取られて開いた口を塞ぐこともできていなかった。
知弥「秀斗先輩!」
知弥先輩がこちらに駆け寄ってくる。それよりも2年生の知弥先輩が先輩呼びってことはまさか……。
秀斗「おう知弥か。先輩なんだから後輩をしっかり守らなきゃだめだぞ」
知弥「はい、ちょっと油断してました」
秀斗「まあ次に活かして気を付ければいいよ。今はそれよりも」
そして秀斗先輩と呼ばれたその生徒は俺に向けて「大丈夫か? 立てるか?」と手を差し伸べてきた。俺はその手を取り立ち上がろうとするが足に力が入らずその場に崩れ落ちてしまった。
秀斗「これは無理そうだね。裕生、救治の奴何人かこっちによこして。外傷は無さそうだけど立てないっぽいから保健室で休ませといて」
利音「あっあの、助けてくれてありがとうございます! あなたは」
秀斗「ん? 俺? 俺は戦徒会庶務、3年の濱羽秀斗だ。よろしくな! 1年!」
海百合中戦徒会の3年生。翔や哉太から何度か聞かされたことがある。曰く、現代最強の学生集団だと。
秀斗「とりあえず救治……救急治療委員の奴を呼んどいたからそのまま保健室で休んどきな。んじゃ、俺はもう行くからあとは知弥に任せる」
そう言うと秀斗先輩は一瞬で消えるようにその場を去っていった。
知弥「えっ? ちょっとまっt……はぁ」
知弥先輩の口からため息がこぼれる。気持ちはわかる。いきなり現れては面倒ごとを押し付けてどっか行ったんだからため息ぐらい吐くだろ。俺もこの状況には苦笑いするしかなかった。
知弥「とりあえず、救急治療委員の人待とっか」
利音「はい……」
その後、数分ほどで到着した救急治療委員の生徒に担架に乗せられて俺は保健室に運ばれた。知弥先輩はと言うと「まだやることあるから」と言って戦闘に戻って行った。
どうもこんにちは、如月ケイです。
と言うわけでツイッター(X)の方ではもう告知はしたのですがこの度、9月に行われるコミティア153にサークル参加することが決定しました!サークルスペースは【さ23a】でサークル名は『かいごう』となっております!
人生初のサークル参加ですよ。今まで一般、スタッフとしてイベントに参加してきましたがついにこれで3種類制覇しちゃいましたね。で、実はまだ印刷会社とかへの入稿とか終わってないんですよね。相方が言うにはお品書きなども作りたそうなので気長に待っていてください。続報などはツイッター(X)の@Ky_Februaryで投稿されるのでフォローお願いします。
因みに戦徒会の方は持っていきませんからね。
あともう一つ、もうちょっとで第1話の改稿が終わりそうなので今月中に投稿します。修正前とはかなり変わっているのでそちらも読んでいただければ嬉しいです。感想もお待ちしております。では!