表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
40/108

凍酷熊と炎姫猫



 サーフィアの推測通り、ルチルたち新期生は森林の中に呼び集められ抜き打ちの模擬演習の開催をミノ教官によって言い渡された。


 五対五の旗取り合戦。相手は精鋭の上級生。舞台は鬱蒼としたこの森の中心。



「これはお前たちの水準を測るために設けている。いかほどの戦力になりうるのか確かめるのには実戦が手っ取り早い。だが見返りもあるぞ、実績次第では騎士の遠征にも参加できる機会も与えられるのだからな。だから腕に覚えのある者は名乗り上げろ。今回は小隊編成を前提としているから定員は五人まで、だがな」


 いきなりの先輩との直接対決とあれば尻込みするであろう、とたかをくくっていた牛魔族の教官であったのだが即座に挙手されたことに目を瞬かせた。



「武芸科からルチルにサーフィアとメノウの三人。魔導科からルビィ殿下とエメラルダ嬢の二人か。面白いくらいに頭数が揃ったがあらかじめ示し合わせでもしていたのか」


 図星を突かれてドキリとした反応を隠せないルチルとルビィ。


「準備万端だろうとなかろうとやることは変わりない、だろ? 大将」


「……確かにその通りだサーフィア。お前たちの健闘に期待するとしよう」


 要件を伝え終えたミノース・アステリオと観戦に回る生徒たちはその場を後にした。



 メノウは天叢雲(アメノムラクモ)を腰に提げ、ルチルは愛用のマジックメイスだけでなく魔動三節棍ウロボロスを畳んで背負い、ルビィから貰った腕輪を装着。


「例の秘密兵器か?」


「うん。ぶっつけ本番だけれど。サーフィアこそなんで鞘だけ着けてきたの? 必要な時にだけ《銀剣錬製(シルバーレギオン)》で出せばいいんじゃないの」


「そりゃあ、こうするためだ」


 言ってサーフィアは銀剣を作り出し、そのまま鞘に納めた。


「うん? 鞘があるのは剣をしまうためなのは分かるけど……どういうこと?」


「お前は知っているから疑問に思うだけさ」


 それから間もなく、試合開始の合図に銅鑼の音がどこからか響き渡った。


 用意されたのは練習用の赤旗。地面に挿されたそれを守り、相手の青旗を破るのが今回の目標だ。


「そんじゃお前ら、最後にもう一度おさらいするぞ。オレらは四人で森中を散策し敵チームの旗を狙う。誰か一人でも旗を見つけたら森の上から合図を出せ。そしたら残りの奴等はそれを目印に集合しろ。んでその間までこの陣営を守るのはエメラルダ、お前に一任するぜ」


「……わかっていますわ。ただ、本当に上手く行くのでしょうね」


 少々不貞腐れた様子で鹿魔族の令嬢は応じる。彼女だけがこの場に残される作戦である。


「大丈夫だよ、サーフィアの作戦に間違いはないんだって」


「どうだか。その根拠が身内贔屓でないことを祈りますわ」


「なによエメ。この作戦に不満でもあるっていうの。なんならアタシが相手も旗も森も蹴散らしてお株全部奪ってやってもいいのよ」


「えっ、森はダメでしょ」


 ルチルに諌められルビィは咳払いで話を続ける。


「それにアンタの魔法紋(ルーン)がこの中で一番防衛に向いてるのは間違いないでしょ。このヘソ曲がりが任せるのはそういうことじゃない」


「ヘソ曲がりは余計だろ」


「あーもうさっきから茶々入れるんじゃないわよオオカミ兄弟!」


「ああゴホン。賑やかなる空気はよいことではあるのだが」


 メノウは少々しのびなさそうに口を挟む。


「どうやらお相手方が先手に動いたようだ。それも大分派手な真似を」


 ルビィは素早く背後を振り返る。


「……この冷気、アイツの仕業ね」


 木々の向こうから肌を刺すようなプレッシャーと冷えきった空気が流れ出していた。



 上級生チームはイズナをリーダーとして指揮が行われていた。


「というわけで自分の術で広範囲を探索し、旗を狙う所存で……ノマドさん、クレシェさんは……」


「よしッ! では己は一先ずこの脚で探し回るとしようッ!」


「面倒なの回りくどいのまだるっこいの。だから片っ端から制圧するの」


 その筈であったのだが、獅子魔族の屈強な男と熊魔族のか細い少女は聞き分けもなく動き出した。



 ノマドの全貌が蒼雷に包まれたと思いきや、瞬く間に上空へと飛び出して姿をくらました。


 クレシェは鋼の茨鞭を振りかぶり、虚空を踊らせる。


 ──【暴烈風竜巻(ハイウィンドドラゴン)】!


 上級風魔法の言霊の詠唱と同時に渦巻いた鞭から、竜の顎を模した嵐が産み出される。従来であれば、魔力の溜めと精製に時間を要するのだがものの数秒で完遂。


 ──《永久冬獄(コキュートス)》!


 それだけに留まらずクレシェは己の中にある魔法紋(ルーン)を発動。嵐の竜に冷気を纏わせた。内部で凍りついた空気の塊が暴れ回り、猛吹雪のような様相を見せる。


 魔法と魔法紋(ルーン)の融合をなんなく果たし、そして命じた。


「蹴散らしてくるの、【《暴氷雪竜巻(ブリザードラゴン)》】」


 咆哮と共に飛び出したそれは一面を凍てつかせ、冬景色へと塗り替えながら森の中を突っ切った。術者はスタスタと歩いて追って行く。


「あの、クレシェさん。まだ特定もできていないのに単独行動は無謀です。慎重な行動を心掛けてくださらないと……」


「お前は臆病なの腰抜けなの情けないの。入りたてホヤホヤの新入りごときに連携しなくても遅れをとるわけがないの。負ける要素がないの」


「ですが……」


「いちいち指図するななの。そこで尻込みしている間にとっととクーが片付けてやるの」


 言い捨てた最後の最後まで、チームメンバーには目もくれなかった。


「……まぁ、想定通りの動きでしたよ」


 イズナはその奔放さに頭を悩ませながらも、状況に応じた策を切り替える。


「あの方々は言われずとも敵本陣を突き止め次第、目標を撃破してくださるでしょう。それまではラクーさん、リザさん、貴方がたは守勢に務めてください。自分がフォローに回りますから」


「了解。こっちは任せろ」


「へいへい、ちゃっちゃと片付けてくれよイズナの大将」


 残りの上級生二人は承諾してその場に残った。イズナは別方向から森の中を潜っていく。


 開戦の火蓋は、それから間もなく響き渡る轟音によって切られることとなる。



 木々を薙ぎ倒し、あるいは切り裂き、そして例外なく通過した対象を真っ白に凍てつかせながら暴雪竜が進軍する。


 ただ直進するだけではなく、時折迂回しては周囲を荒らし回り、一面を冬の訪れたような様相に塗り替える。


 その暴れる様を見物しながらクレシェ・ウルスラースは標的を虱潰しに歩き回っていた。地面を覆う霜柱をザクザクと踏み砕き、獲物が現れるのをまだかまだかと探していた。


 そんな凍結の怪物を付き従えていた彼女は苛立ち混じりにぼやく。


「木が邪魔なの目障りなの範囲も無駄にクソ広いの骨が折れるの。いっそこの機に全部伐採してやってもいいの。そうすればさっぱりするの」


 身勝手な独白であったがそれを気まぐれに行えるだけの力量を誇る表れでもある。



「んっ──そこなの」


 行く手の奥、微かにカサカサと茂みが動いたのを察知したクレシェは即座に【《暴氷雪竜巻(ブリザードラゴン)》】を差し向かわせた。


 獲物目掛けて歯牙を大きく開いて突進するそれであったのだが、


「やっぱり待つの」


 目前でクレシェは攻撃を制した。


「……なんだルビィ、お前か、なの」


 クレシェが遭遇したのは鮮烈な赤髪ツインテールの猫魔族の女生徒、ルビィ・フェリ・ベスティアヘイム。


「……ご機嫌よう。ご無沙汰しております、クレシェ先輩」


 戦闘用に履いた膝丈上の黒いショートパンツから広がるスカートをつまみ、一歩引いてカーテシーの動作を見せる。第一声は挨拶であり、礼儀正しく頭を下げる彼女。いつもの不遜で負けん気な態度とは百八十度異なっていた。


 それこそが、学院においてルビィとクレシェの上下関係。本来なら王女であるルビィにクレシェが平伏し跪くのだが、ここでは地位の高さなど関係ない。


 実力主義で実績重視。実際に戦地へ赴き成果を修めているクレシェ・ウルスラースの方が偉いのだ。


「大方出てくるとは思っていたの。ゴールドクラス特待生」


「ありがとうございます。此度の試合よろしくお願いいたします」


 おとなしく美辞麗句を並べるルビィに満足したのかクレシェはフンと鼻を鳴らす。


「けど、くれぐれも調子に乗るななの。復元水晶(リペアスフィア)で記録更新したくらいでいい気にならないことなの」


「はい。わかっております」


「いい返事なの。お前の旧友たちにもクーの前でナメた真似をしないように忠告しておくの」


「かしこまりました」


「まぁ、半年は同じ学年でいたよしみでここは見逃してやるの。せいぜい他の奴らと奮闘していればいいの」


 待機させていた【《暴氷雪竜巻(ブリザードラゴン)》】を指揮り、ルビィを素通りさせようと動かす。


「それは応じかねますね」


 キッパリと、ルビィは一蹴した。


 ──《神の火(ウリエル)》!


 あぎとが突如として閃光に包まれて爆ぜる。中級程度の魔法ではビクともしないのにもかかわらず、瞬く間にして頭部を吹き飛ばし、四散させた。


「…………あ?」


 クレシェの凍りついた彫像のように無表情な顔立ちがこれでもかと険を露にした。


「本当なら術者に直接ぶちこんでやったところだけど、不意打ちなんて卑怯な真似しても勝った気がしないものね」


「お前、なにをしやがんの」


「アンタの相手はアタシよ。猫被って(・・・・)いたってことぐらい分かりなさい」


 クレシェは鞭を振り上げ地面をしばいた。背後で大きな霜柱が爆現する。


「つまり、まさか、本気で、クーに歯向かうつもりなの」


「ええ当然。先に年食っただけで威張ってる女にいつまでもヘコヘコするのも飽き飽きしてるんだから」


「お前ふざけんななの」


「ふざけてないわ。大真面目。これまでおとなしくしていたのもいい子ちゃんぶっていたのもアンタの言いなりになってたのも全部目標があってのことで、それが達せられた今、必要がなくなったんだから」


 これまでルビィは風紀を乱す行いやトラブルを起こさぬように努めてきた。


 ルチルたちがこの学院に在籍してくるまでに自分の居場所を確立し、迎え入れる準備をするためだ。


 それが果たされた今、彼女には遠慮がない。


「あとは目の上のたん瘤から降り掛かる火の粉を払うだけ」


「糞生意気なのいい度胸なの上等なの。クーの《永久冬獄(コキュートス)》がお前の《神の火(ウリエル)》より上だってこと、知らしめてやるの」


「そうね、ここでハッキリ決めようじゃない」


 ──ブチ焦がしてやるわ。

 ──ブチ凍らせてやるの。


 極寒と灼熱。はからずも対極の属性の力を持つ二人が衝突する。


次回の更新は11月4日(金曜日)を予定しています!

・面白い!

・続きが気になる!

・更新が待ち遠しい!


と思っていただけた方、広告下の⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎評価から任意の評価と、

ブクマへの登録を是非よろしくお願いたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ