ダンジョン試験
遂に試験の日が訪れた。ルチルたちは学院に呼び集められ、まずは教室を借りて筆記試験が行われる。
王立学院シルバスコラの試験では希望者により比較的簡単な筆記試験で済む代わりに実技を行う武芸科及び魔導科と、高難度だが筆記のみを行う学問科を選択して受験できる。
それは力のある者と賢い者、それぞれ秀でた人材が輩出できるようにという理念の下、そのような試験形式が設けられている。
武芸科は当然ながら王立獣魔騎士の一員になるための訓練を実践しており、近隣にあるダンジョンの攻略やモンスターの討伐といった活躍も学生の内から行われている。
学問科は技術やモンスターの研究など様々な分野を学ぶことで将来の職種を増やすことを主としている。
当然ルチルたちが受けたのは前者。そのため筆記についてはあまり危惧していなかった。
内容は主に魔法の知識や獣人の歴史、この国──ベスティアヘイムを含めた四代諸国の地理といった一般教養の問題。
それでも万が一にも落第することはないようにと、オニキスの指導のもとで対策を二人は叩き込まれていた。
たとえば今ルチルが問題を解いている問題は初歩中の初歩だった。
『獣人全般が扱う共有魔法の、炎属性の全段階を羅列するように答えを求めよ』
(初級の【火炎】。中級の【業火炎】。上級の【焦熱業火炎】、と)
基準として誰でも扱える初級魔法は生活に役立てる程度で、中級の魔法から実戦的なレベルとなり、熟練の魔導士にもなれば上級の魔法が可能となる。
そして更に最上級の段階が存在するというが呼称は統一されておらず、大陸でも数えられるほどしか修得できないらしい。
(まぁ、属性と階級を全部暗記できても結局ボクとサーフィアは初級レベルの魔法しかできないままだけれど)
自嘲を含めながらルチルは解答を埋めていく。
『魔法紋を大別して五種の系統を挙げよ』
(ボクと同じで身体や色んなものを強くする増強系、サーフィアみたいに魔力でなにかを作る物質系、物を動かしたりする支配系、それと周囲に影響を起こす干渉系……あとなんだっけ?)
そんな調子で筆記を突破し、その場で不合格となった者は退席を余儀なくされる。ルチルの知り合いは全員通過した。
昼頃になると次は実技試験が待ち受けていた。
それも実戦形式によるもの……課題はダンジョン攻略である。
学院には訓練用として無数のダンジョン洞窟が管理されており、そこが試験の舞台となった。
A班とB班で異なるダンジョンに潜るように振り分けられ、A班にはルチルとメノウ、B班にはサーフィアとボークとエンキが受験することに。
「じゃあ、合格した後に会おうね」
「負けるんじゃねぇぞ」
そうして双子が別々のダンジョンに入口に着くなり腕輪が配られた。赤い魔石がひとつはまっている。
気掛かりなのはそれにはまだ魔石をはめられる穴が残っていることだった。
ダンジョンの行先は道が枝分かれしており、かなり入り組んでいるようである。
大きな角を生やした牛魔族と思わしき隻眼の屈強な試験官によって説明が始まった。
「それでは実技試験の内容について説明する。これからお前たちにはダンジョンに潜ってある条件を達成してもらう」
同じ腕輪を手にして話は続いた。
「これには魔石が一個装着してあるが、見ての通りあと魔石を四個埋める穴がある。これを五個にすればクリアだ。魔石はダンジョン内に徘徊させたモンスターが持っている。以上だ、健闘を祈る」
説明そのものは至極単純だった。
準備ができた者からゾロゾロと決めた穴へと入っていく。選ぶ道は早い者勝ちである。
「よし。ボクも」
ルチルも意を決し、直感で通り穴のひとつへ進んで行った。
†
学院のダンジョン内は地元のところとは雰囲気が異なり、天井や壁が綺麗に整えられていたり床が石畳だったりと人工的な様相が垣間見える。時折火の灯された松明も設置されており、人の手で管理されているのがうかがえた。
通路を歩き、開けた場所に出るなり、そこにモンスターが待ち受けていた。
真っ黒の体毛を持ち、夜陰に隠れて素早い動きで翻弄し、死角からの急襲を得意とする狼型の魔物。狼魔族の獣人であるルチルにとってはご先祖みたいな存在だ。
「シャドウウルフだ。初めて見るなぁ」
ウロウロと周囲を歩き回っていた狼は、こちらに気付くなり唸りをあげて臨戦態勢をとった。首輪がつけられており、そこで赤い魔石がキラリと光を反射していた。
(なるほど、アレを奪えばいいんだね)
こんな狂暴なモンスターにどうやって首輪をつけたんだろう? と考えていると、息つく間もなくシャドウウルフは飛び掛かってきた。
喉元を狙ってきた突進をひょいと身を反らしてやり過ごし、反撃にメイスを振りかぶる。
「ごめんよっ」
確かな手ごたえと共に痛々しい悲鳴を耳にし、黒狼が壁に身を打ち付ける姿を目の当たりにした。
胴体への強烈な打撃でこときれたようでシャドウウルフは動かなくなる。一撃で仕留められた。
モンスターの死体に歩み寄り、その首輪から魔石を外す。まずは一個目、あと三個手に入れば合格だ。
順調な滑り出しかと思っていたルチルであったが、思わぬ出来事が彼を待ち受ける。
「そこの君、ちょっといいかな」
一人でダンジョンの道を潜行していたにもかかわらず、高い場所から誰かに呼び止められる。
どうやら別のルートからでも繋がっているところがあるらしく、競合相手と鉢合わせになったようだ。
その人物は輝いていた。
というのも、比喩ではなく実態として薄暗いダンジョン内でも淡い輝きを放っているのだ。明らかに不自然である。
それに仰せて煌めくような金の刺繍入りの白いコートを身に纏い、ブロンドに碧眼のキザったらしいお坊ちゃま然とした獣人である。竹を斜めに切ったような耳はピンと立ち、箒のような長い尻尾を持つ。
そんな特徴からして馬魔族なのだろうと推察できた。
「君は?」
「卑品っ。相手の名を訊く前には先に名乗るのが礼儀というものだが、興味もないしこちらが名乗っておこう。僕はヘングスト・フォン・ヴァイス。由緒あるヴァイス家の嫡男にして、人呼んで白馬の貴公子として有名なのさ」
「白馬って、服だけで髪の毛から尻尾までパツキンだけど?」
「そして又の名をレインボーフラッシュのヘングスト!」
「おおー! 七光り! ……褒めてるのそれ?」
野暮なツッコミであったのだがヘングストは無視。
「本題に入ろう。せっかく君が倒した手柄ですまないが魔石をこちらに譲って貰えないかい」
「えっ、急になにを言い出すの」
「皆まで言わなくてもわかるだろう? この僕の入学の糧にするためさ。栄えある名誉なことだよ。なに気にすることはないさ。僕が出世したあかつきには君の家に心ばかりの礼を贈るとしよう」
当然のことながら戸惑うルチルに構わず、勝手なことをつらつらと述べていく。
「ボクが倒した分を手にしたとして、あと三回も他人の手柄を横取りして合格するつもり?」
「ノンノンノンっ勘違いしていないかい?」
指を振り、ヘングストは宣告した。
「元々持っているのも差し出せば二個分だろう?」
「──【烈風】!」
「うわっ」
「おっとおっと待ちたまえ君たち。まだ早い穏便な交渉の真っ最中じゃないか」
「へへっ坊っちゃん、そんな回りくどいことせずとっとと奪っちまいましょうよ」
彼とは別の方向から突然風魔法の攻撃が飛んできた。慌てて飛び退くルチルは、そちらを見やる。
同じ空間にいるのはヘングストだけではなかった。彼の眼下から何人かの受験者がこちらに杖や刃を向ける。
(徒党を組んで強奪しているのか……!)
「彼等は協力者さ。もちろん報酬を払い、地位を用意する約束をしている。血気盛んなのが玉に瑕なのだが。悪いことは言わない。素直に渡した方が身のためだよ」
「やめてくれよ、なんでダンジョンをクリアするのに争わなくちゃならないんだ!」
「試験だからに決まっているからじゃないか。手段を選ぶ余裕がないものでね、こちらとしても心苦しいよ」
じりじりとにじり寄ってくる彼らを前に、ルチルはせっかく手に入れた魔石を握り締める。
「それで返事の方は如何かな?」
沈黙が答えだった。
(こんなところで落ちるわけにはいかない……!)
抵抗するか、逃亡か、ルチルは逡巡する。
「仕方ない。行きたまえ」
「【雷光】!」
「【火炎】!」
「【岩塊】!」
ヘングストの号令で下級魔法の雨あられが放たれた。
「くっそぉ──え?」
どうにかしないと。そうルチルが葛藤し、とにかく動こうとした矢先、
彼らの頭上から人影が降ってくる。だが、その人物は魔法群に立ちはだかった。
目にも留まらぬ抜刀で霧散させる。
こちらに背を向け、ヘングストたちへの相対する姿勢を見せた。
「なんだね君は!?」
「おや? 先に名乗るのが流儀ではなかったかな? だが、あえて自己紹介をするとしよう」
ヘングストの言質から一本取った彼女は、そう言って名乗りをあげた。
「通りすがりのサムライ見習い、メノウ・クサナギ。これよりルチル・マナガルム殿に助太刀する」
メノウは味方として見参した。
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