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十従獣魔のエスクワイア  作者: 岩山 駆
王立学院シルバスコラ編
21/111

《武水那別命》


「……サム、ライ?」


「なんだそりゃ!?」


 という疑問が出た途端、狸魔族の彼女は待っていましたとばかりに青い目を光らせる。


「説明しよう! サムライとは高貴な家柄の貴人を守る武家より輩出せし者たちのこと! 誇り高く義理堅きヤマトの象徴だ! 忠義を全うし、刃を以て主に仇なす不届き者を──」


「メノウ今それはいいから!」


「むう、せっかくの機会であるというのに」


「この人たち興味持ってないって!」


「むむう、無念極まりないな」


 加勢してくれるのはありがたいのだが、ルチルは口上を制止する。



「このアマふざけやがって!」


「こいつの分も合わせれは魔石が三個だ! まとめてやっちまえ!」


「やれやれ。多勢に無勢、といったところだが……」


 数人が一斉に躍りかかった。メノウは腰を屈んで柄に手を当てる。


()が伴わねば意味はない──草薙流刀術」


 居合を抜き横薙ぎに一閃すると、真剣の刃渡りから水飛沫が迸った。広がるそれが斬撃の形を象る。


 ──飛沫撫斬(しぶきなぎ)り。


 間合いに踏み込むよりも早く、攻め入ろうとした受験者たちは抗いようもなく吹き飛ぶ。しかもその余波は壁にまで届き、浅い傷跡を残した。


(すごい……魔闘五技・波断(はだん)と似ているけれど範囲が段違いだ)


 相手の剣や杖といった武器だけが綺麗に斬られ、その威力に彼らは戦意をたちまち挫いた。


「く、くそぉ……!」


「あんなのにかないっこねぇ! 撤退しましょう坊っちゃん! イチ抜ーけた!」


「え、えぇ……!? ボクが尻尾を巻いて逃げるだって!? ──あっちょっ待ちたまえ!」


 蜘蛛の子を散らすように受験者たちは逃げ出した。二人の受験者が腕輪を攻撃の影響で破損させたようだが気にしている様子はない。



「その場にいた雇われの身に過剰な期待を持つのは酷というもの。それに、おぬしが命を賭すに値しないと判断しただけのこと……さて、主君一人でどうされる?」


「クッ……舐めないでもらおうか! 僕の力を見せてやろうじゃないか!」


 残されたヘングストが剣を抜き、正眼に構える。



 ──《眩き栄光(シャイングロリアス)》!


 すると、ヘングストの全貌は一際強く輝いた。目がくらみ、ルチルとメノウは顔を庇う。


 直視できないほどの発光。彼の魔法紋(ルーン)の力によるものだろう。


 光が落ち着いた頃、その場から馬獣人の貴族は姿を消していた。


「……逃げたようだな」


「だね……」


 嘆息しながらメノウは刀を納める。


「拍子抜けであったが、力量差を弁えていたのなら賢明な判断ではある。視界を奪った隙に乗じて攻め入ろうと反撃の餌食であったからな」


「ありがとうメノウ。おかげで助かったよ」


「なに、当然のことをしたまで……と言っても、余計なお節介であっただろうか?」


「そんなことない、本当に感謝しているから」


 ルチルにはまだまだ相手取れる余力があったことをメノウは見抜いていたようだった。


 だが闘う意思がなかったのもまた事実。本当に助けられたのである。


「それよりもアレを回収するとしよう。他の者に横取りされてはたまらぬからな」


「でもあの魔石って元々はさっきの受験者たちの分で……」


「奪いにきたのだから抗議される謂れはなかろう」


 言って彼女は置いて行った腕輪の方へ促す。落とした二人は失格だろう。


「ちょうど魔石が二個。ここは山分けということで如何かな」


「メノウのお手柄なんだからボクはいいよ」


「見方によってはルチル殿を囮に漁夫の利を得たようなもの。独占してしまっては気が引ける。受け取ってくれ」


 と、取り分はあくまで一個でいいと固持する。


 それならばとルチルは承諾して魔石の片方を貰った。これで残すはあとふたつ。



「ふぅ、ようやく(せつ)が手に入れたのもこれで一個か。あの者たちが強硬手段に出るのも無理もない話ではある。ダンジョンはこうして合流できる仕組みとなっている上に、限られたモンスターの取り合いになるのは避けられないし、受験者から奪う方が確実であるからな」


「モンスターが限られているってわかるの? それに、メノウが助けにこられたのって偶然?」


「ルチル殿は目の付け所がいい。折角なので解説してしんぜよう」


 言ってメノウは刀をダンジョンの床に突き立てた。するとそこが水源にでもなったように滾々(こんこん)と真水が滲み出して広がっていく。


(せつ)天叢雲(アメノムラクモ)は玉鋼と日緋色金(ヒヒイロカネ)と呼ばれる金属を用いて鍛え上げられた名工の逸品。切れ味と耐久を両立させるだけでなく、魔力を流すと水に変換させる効果があるのだ」


 先程の一振りで放たれた水の斬撃は魔法具(アーティファクト)の恩恵によるものであったと。


 それから水溜まりに向けて手をかざす。


 ──《武水那別命(タケミナワケノミコト)


 彼女の魔法紋(ルーン)が発動。不自然に水が集まり、丸く平たく盛り上がった。簡易的な水盆になった。


「へぇ、水を操れるんだね」


「多少ながら。最寄りにある水の流れを掌握する力とでも言えば理解してもらえるだろうか」


 水を生み出す魔法具(アーティファクト)とそれを支配する魔法紋(ルーン)を駆使して闘う剣士。それが彼女の戦闘スタイルなのであろう。



「こうして水場を作り故郷の水占(みなうら)……水を用いた占いでこのダンジョンを把握させるのだ。これをご覧になってくれ」


 話しながら文字がびっしりと描かれた金の円盤を水溜まりに乗せ、巾着から赤に染色された珠玉をばら撒いた。これが彼女流の占いなのだろう。


 円盤はひとりでにぐるりと回り出し、水の中で沈んだ球がいくつか浮かび上がって蠢いている。


「この羅盤は東西南北の方角を指し、浮かんだひとつひとつの珠玉は周囲に動く者の位置を示す。ここではモンスター及び受験者であると見受けられるな。先程はこの珠玉が不自然に集まっている様子が気掛かりとなって駆け付けた次第だったのだ」


「へぇ、便利だねぇ」


「しかし重要なのはここからだ。珠玉の数に注視されよ」


 言われて覗き込むルチルはざっと数えながら気付いた。


「あ、れ……?」


 二手に分かれたこのダンジョンの受験者は大雑把に二十人はいた記憶がある。つまり全員が正攻法で魔石を集めるには八十体のモンスターが必要になってくる。


 だが、珠玉はその数には達していないどころか、明らかに心許ない。少な過ぎる。



「そう、すなわち合格にあたって倒すべきモンスターが受験者の半分にも釣り合っていないという点だ」


 メノウはそう結論を出した。


 これではまるで、元から持っている魔石を含めた争奪戦を前提としているようではないか。


「半分……とても厳しいんだね」


 過酷な振るいに掛けられていると知る。


 このままでは自分が手に入れる取り分もなくなってしまうのではないかと考える内に、ひとつの結論にたどり着いた。



 だが、すぐさまそれを否定して頭と一緒に振り払う。そんなものはダメだ。決してやってはいけない。


「確かに(せつ)の二個分とルチル殿の分を合わせれば揃う。この状況では一番確実な手段だな」


 心を読み取ったとでもいうように、メノウは言い当てる。やはり同じことを思いついていた。


 間近で話し合って一見無防備な様子であったが、彼女に一切の隙がないのをルチルは察している。



「メノウとは争いたくない。せっかく仲良くなった相手から奪って蹴落とすような真似をする気はないよ」


 試験は遊びではないことは重々承知。甘いと思われても仕方ないだろう。


 だけど、そんなやり方で合格したことをルビィが知ったら喜んだりなんかしてくれない。それだけは確かだ。


「それにメノウだって同じでしょう? そうでなかったらわざわざ魔石を譲ったりなんかしないはずだよ」


「うむ。恩人にむやみやたらと刃を向けるのは気が進まない。そういう可能性もあると提示したまでのこと。野暮なことを訊ねてしまったな。詫びよう」


「それじゃあ、二人で合格できるように手を組むっていうのはどう? 協力して魔石をあと五個集めるんだ」


「万が一、至らなかった場合には?」


「また意地悪なこと言って、そんなつもりはないんでしょ? 大丈夫! 絶対揃えられるよ」


「……なるほど。その心意気を買って協力するとしよう」


 前向きなルチルにつられて、メノウも薄く微笑み賛同する。


「そうと決まれば善は急げだな。今しがたモンスターを補足した位置を回るということで異存はないか?」


「うん、ボクは魔法で遠距離から叩くからメノウは周囲の警戒をよろしくね!」


「心得た。では行くとしよう」


「魔石集めるぞーっ。わん、わん、おー!」


「むむ……? それは掛け声の類なのか?」


 そうして二人は行動を共にし、ダンジョン内を駆け出した。



次回の更新は10月17日(月曜日)を予定しています!

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