お腹に力を!
「はい!質問!なんで俺たちはジャングルにいるんですか!」
「それはここで君の魔力を操る練習をするからだよー。」
お、おお。久しぶりのマヌケなイリナだ!なんていうかこっちの方がいいなー。お堅いと喋りづらいのよ、俺が言えたことじゃないけど。
そうここはジャングル、高さが10メールはありそうな木が無数に生えている樹木林。ジャングルと言うにはいささか木が低すぎるが、そこは無視ということでね。放課後に訪れた夜のジャングルはとても不気味だ。月の光すらも高い木々が遮りその闇夜の暗さを増していく。
「えーー修行って奴っすかー。いやっすよ俺。修行とかやる気起きないわ。遊ぼうよ。」
「戦いばかりが起きるこの世界で力もないのに遊ぼうとか嘗めてるの?」
「……………すんません。」
普通に怒られた。このアホっぽい感じながら受け入れてくれるかと思ったら、シンプルに怒られた。真面目に対応しよう。俺は悲しい顔でしょぼくれた。
「…………そんなことより、君は幼馴染のひろみんとはタメ口で話せるんだね。すごく驚いちゃったよ。」
ひろみん?あぁ、宏海のことか。こいつらいつの間に仲良くなったんだ?………待てよ?仲良くなってしまったってことは、片方を怒らせたら両方で報復に来るということか………やべぇ。俺の命がやべぇ。それだけは避けようとしてたのに………
「そりゃお前、俺は高校に入るまであいつのことを男だと思ってたからな!ずっとタメ口だったのがそのまま引き継がれたかんじだ。」
「へぇー………君の目は節穴なんだね、あんな美人をずっと男だと思っていたっていうんだから。君の目はいらないね、目を潰した方がもっと色んなことが見えるようになって良いと思うよ。」
「辛辣すぎひん?いや、弁解させろいいか?あいつは高校にはいるまでずっと髪型がショートだったんだ。しかもずっとジャージだし制服ではスカートではなくてスボンを履いてたんだぞ。女性だと思うか?」
そう。宏美は確かに髪を伸ばしたら美人だが髪がショートの時はイケメンとして名を馳せていたのだ。バレンタインデーにはいつも女子からチョコをもらい、高校に入ってから女子+男子からもらうという両性からあらゆるものを貰いまくりのモテモテ野郎なのだ!ゆるせん!
それに比べて俺はいつも「食べきれない」って言ってもってくる宏海のチョコと母親から貰ったものしかバレンタインデーには食べたことがないという悲しい現実。なんだこれ。俺の存在価値とは一体なんなんだ。残飯処理?許せん!何もかもが許せん!
「ふーん。それは確かにイケメンに見えてしまいそうだね。それじゃあなんで高校に入ってから髪を伸ばしてスカートを履くようになったんだろうね。」
「おーー。そんなこと考えたこともなかったな………うーん。学校でズボン禁止になってスカートを履くようになって、ならいっそ髪も伸ばしちゃえ!みたいなのはどうだ?イメチェンって奴よ。」
「ダメダメだね。まずスカートをズボンに変えるのはうちの高校ならありだったはずだよ。それに、それならなぜひろみんがポニーテールなのかの説明にならない。」
「どういうことだ?さっぱり意味がわからないぞ!?髪が長かったらポニーテールとかにするんじゃないのか!?」
「はいここでしつもーん。君は髪型をどれだけ知ってるの?」
ここで唐突な意味不明の質問が飛んできた。これは答えた方がいいのか?いいに決まってるか。無視したら殴られそう。
「そうだな。ショートにロング。あとはポニーテールにツインテールだな!結構多く知ってるだろ!」
どうだと言わんばかりに自慢顔。
「全然少ないよ。私も詳しい方じゃないけど君程無知ではないよ。」
あれで少ない方なのか?結構多い方だと思ってたんだけどな。
「おい。無知って言うな。知識が乏しいと言え!」
「まぁそれは置いといて、なぜ無知な君でも知っているあまりにも数少ない髪型の一つであるポニーテールにひろみんがしているかだよ。つまりひろみんは君が知っている髪型に変更したんだよ!」
あぁ、昨日と全く同じテンションでイリナは俺に指をさす。
「いやいやいやそれはないな。いいか?俺が知っているものは世間一般で言えばオーソドックスなものなのさ。つまり、俺が知っていると言うことは大多数の人が自分の意思で勝手にその髪型になる確率が多いんだよ。つまり、俺が知っていたものに宏海が偶然なるなんていうのは結構な確率だということであり、俺が知っているから宏海がポニーテールにしたということはないというわけよ。OK?」
「むー!そうかなー…………私の勘って結構当たるんだけどな……………」
「まぁ、あれだ。俺が言ったのは確率論であって当たってるかどうかなんてわからないよ。確率はただの確率だからね。」
でも俺が知ってる髪型に宏海がわざわざしたとは思えないなー。だって俺にかかと落としを躊躇なく決めるようなやつだもん。殺戮マシーンやで。何回死にかけたかわからん。
「君にそう言われるとちょっと癪だなぁ。………そう言えばさ、なんでマカロン食べてる時に泣いてたの。」
ここでまさかの聞かれたくない質問が飛んで来た。そうだよな。4人の前で号泣しながらマカロン食べてたもんな。そりゃ誰だって不思議に思うよな。
「……………マカロンがあまりにも美味しくてな。俺は美味しいものに出会うと涙が止まらなくなるんだ。最近も30円ぐらいの飴を舐めてたら急に涙が出た。」
「冗談はいいからさ、本当のこと言っちゃいなyoー。」
ラッパーがしそうなあの、三本指を立てたよく分からないポーズをしながら言ってくる。うっわー!腹立つな!この世界と現実ではなんでこんなにも性格に差があるんだよ!誰だよお前。キャラはっきりさせてくれよ!………うっわー!本当これ腹立つなー!
「いやでーす。言いたくないことは言わない。これ人生を円滑にするための秘訣なり。」
「殴るよ?」
「殴ってみろよおらぁ!殴られた程度じゃ俺は吐かないぜぇ!」
「むーー…………どうしてもダメ?」
「可愛く懇願してもダメ!」
「やだやだやだぁ!知りたい!」
駄々こねないでよこんなことで!
「………じ、じゃあ仕方ないな。[教えて下さい飯田様]って言ったら教えてやらんこともない。特別だぞ?」
「…………お、教えてください飯田様!」
どうやら恥より好奇心の方が勝ったらしい。はっはっはっ!イリナが俺に対して懇願してるぜ!
「まぁ言わないんだけどな!!!」
ダッ!全速力で走る!
「はっはっはっはっ!なんで俺がお前に教えなくちゃいけない………………」
ゴロゴロゴロゴロ!バゴン!ピシャァン!カッ!メキメキメキ!ズズズウン!
うおー!!!俺の後ろで雷が暴れている!なんだこれ!いつの間にか空は黒くなっており。あれ?少し赤みがかってるのか?なんか地獄にいる気分だ!雲の中を雷が走り回っている!特に俺の後ろ………つまりイリナがいる方はさらに激しい。雷の光と、木が燃えたことによって発生する黒色の煙しか見えない。世界の終わりってこんな感じなんだろうな…あまりにも現実離れしているので頭がどうでもいいことばかりを考える。
「ワ タ シ ヲ 怒 ラ セ タ 罪 ハ 重 イ ゾ」
後ろからまるで腹の底から絞り出されたかのような声が聞こえる。いや、これもう声とかじゃないな!もはや効果音と言っても差し支えねーよ!ゴゴゴゴゴゴゴと同列の擬音語にしか感じれない!
「はっはっ!誰がお前に教えるか!バーカ!バーカ!バーカ!」
しかしここでへこたれないのが男、狩虎!通称虎さん!許しをこうなどしないのだ!
「………………………………」
わーい!無言だ!怖い!なんで人間って真面目にキレたら無言になるんだ!?本当に怖い!くっそ、あいつがブチギレたら何をやらかす?考えるんだ。一体なにを………………
サンッ!
その答えは一瞬で出た。優しいことにイリナは俺が不思議に思っていることを実行に移してわかりやすく示してくれたのだ。
イリナの位置から半径約100mの木が円状に切り倒された。俺はなんとか伏せたので切られてはいないが周りの木はどんどん崩れ落ちていく。あぁ、人を怒らせるものじゃないな、昨日反省したのに今日活かせてないんじゃあ反省した意味がない。
「おい、飯田狩虎お前に今チャンスをやろう。もし私の質問に答えたら何事もなく終えられるがもし答えなかったらお前の体を賽の目上に切り捨てて雷で焼いてやる。」
イリナさんキャラ変貌してますよ。…………でもそれなら!
「すいませんでしたイリナさん!自分調子に乗ってました!それなのにイリナさんは俺を許してくれるなんて………なんて寛大なんでしょうか。あなたは神様ですか?」
「そんなことは聞かなくてもわかるでしょ。私は神様だよ。そんなことよりなんで君はマカロンを食べて号泣したの?」
「………神様なら知ってるだろ……」
「あ?なんか言った?」
「いや!なんでもないです!イリナ様素敵って言いました!」
こえーよイリナさん。今にも人を殺しそうな凄みがある。
「え、えーっとですね……………」
それから俺はなぜ泣いたのかを説明した。宏美を怒らせてしまい殺されそうになりながらも、なんとか口からでまかせを言ったら偶然にもマカロンの販売が行われていて俺の命が助かったということを一切の漏れなく完璧に!
「ふーん。やっぱりあれは出任せだったのか。でもさ、怒らせただけで殺されそうになるって言うのは大袈裟じゃない?」
お前が言うか?お前が。さっき俺を切り刻もうとした奴が言う言葉か?
「わかってねーなイリナ。いいか?おれはあいつを今までに2度怒らせたがその2度とも全てが病院送りにされている。だからそろそろ殺されてもおかしくないんだ。」
1度目は回し蹴りが顎にヒットしそのまま気を失い病院へ。その時に脳を揺さぶられたせいで2日間ぐらいフラフラしていた。2度目は前回話した入学ガイダンスの時のだ。あの時は10連コンボを決められた後に延髄切りをくらい気を失い救急車で目を覚ましたという感じだ。さすが空手有段者。全てにおいてトドメの一撃が首より上だ。このまま順当に行けば、次は俺の頭が吹き飛び脳みそをばら撒くことになるだろ。もしかしたら握り潰されるかも…………嫌だよ俺、脳漿をぶちまけるの。
「ふーん…………それは…………きっと裏返しなんだろうね………うん。きっとそうなんだろう!いやー。私の中ではかなりスッキリしたよ!ありがとう!」
「なんだなんだ、なにに対してスッキリしたんだ。おれはお前の発言のせいで全くスッキリ出来てねーよ。」
イリナの意味深な発言によりまったくスッキリしないまま話が終わってしまった。くっそ、モヤモヤするな。
「そういえばこっちの世界では俺のことを君って呼ぶよな。なんでこっちでは君なんだ?」
モヤモヤしたのでなんでもいいから少しスッキリしたかったので聞いてみた
「そりゃあ、この世界で初めて会った時に[君]と呼んでいたからだね。最初の思い出は大事にとっておかないと。」
確かに最初が肝心だよな!初めて経験したこととかって何気に覚えているもんだし、その最初の思い出を大切にする思考。嫌いじゃないよ?
「さて、誰かが怒ったせいで遅れてしまっゴフッ!」
横腹を思い切りど突かれる。くっそー。なんて暴力的な女なんだ!
「……えーっとそんなわけでそろそろ本題に入らないとやばくない?」
「やばいね。大幅な時間ロスがあったせいで今から早急に進めないといけないよ。というわけでこれから君には木に向かって水を出しまくってもらいます!」
「やっと本題か!つまり木に水を出して薙ぎ倒せばいいんだな!」
「そうだよー。それじゃがんばって!その間私はそこら辺を散歩してるから。」
「おう!それじゃあな!」
イリナに別れを告げ俺は木の前に立つ。
水を出す………昨日は成り行きで、ていうか出した記憶は一切ないのだが、出していたらしい。ならば…………
バシャアアア!
手のひらを木に向けて念じると水が出た。出してる本人ですら、この放水は全然強そうに見えない。洗車のためにホースで軽く水を出してるレベルだ。…………これで戦わないといけないの俺。絶望的なんだけど。
「…………くそ!倒すぞ!絶対に倒すぞ!俺なら出来る!アイキャンドゥイット!」
俺はひたすらに水を出し続けた。
………………………
その頃のイリナ
そこら辺をただブラブラと散歩をしていた。
「はぁー………やっぱり1人だとつまらないなぁー。」
独り言を吐きながらただ歩き続ける。
「別に私だって怒りたくて怒ってるんじゃないのに……………」
思い出されるのはさっきの出来事。まさか、あそこまで怒ってしまうとは思ってもいなかった。茶化されただけなのに……………
「はぁ、あれで嫌われちゃったらどうしようかな……………まぁ、どうでもいいんだけどね!」
ずっと独り言を吐き続けているのであった
その頃の狩虎
「くそっ」
毒づきながら木をずっと見ている。
これじゃあただ木に水を大量に与えてるだけだ……根腐れしちゃうぞ!なんか、なにかコツはないか!
イリナを探す。どこにも見当たらないのできっと遠くまで散歩をしているのだろう。まさか俺、嫌われたか?いや、でもまさか俺が嫌われるわけなんてないよな。だって辺り一面を消し炭にするほどまで怒らせただけだもんな……………改めて振り返ると俺嫌われてるかもしれねーな。あーあ、後で謝っておこうかな。
それは置いといて、なにかないか?漫画とかで良くあるような、こう辺りを見渡すと何故かそれについてのヒントがあるような。そんな都合のいいことはないか?……………あ、そういえば。確か夢でカイがこんなことを言ってたな
「お腹に力を入れるんですよ。想像してください。あなたの目の前に身長170cmなのに体重が筋肉のせいで90キロもある成人男性を。その人が今あなたのお腹を殴ろうとしていたとして、あなたはどの時に力を入れますか?拳が当たる瞬間に力を入れますよね?その時を想像しながらお腹に力を入れてください。」
目の前にイリナが立っているのできっとイリナに教えているのだろうが例えが面白いというか、もうちょっと他になかったのかよと言いたくなるような話だ。イリナも「よく分かった!ありがとう!」て感じの顔と「分かりづらいんだよ」みたいな困った顔が混ざり合っていてかなり曖昧な笑顔になっている。俺もその夢を見た時は凄く居た堪れない気持ちになった。
でもまぁそんな微妙な教え方でも、イリナは今やこの森の一部を木炭に変えれるようになってるんだ。俺もその方法に従った方がいいだろう!
手を木に向ける。
目の前に屈強な男が立っている。腕の太さが俺の腕2本分ぐらいだ。その男がポーズをとると一気に拳が振り払われる!
まだ、まだだ、まだ当たってない。もう少し、あとちよっと………今だ!
グぅっ!
ぶしゃああぁぁぁ
また、ただ木を濡らしただけだった。
くそっどうすればいいんだ?今のはイケそうな気がしたんだけどな……………
「ミフィー君!大変だよー!!」
イリナが駆け寄ってくる。久しぶりのミフィーな気がした。と言ってもつい数時間前まではそう呼ばれてたんだけどな。
「どうしたんだ?トイレでも我慢してるのか?」
ゴハッ!
イリナの膝が俺の腹にめり込む!
「き、貴様……俺になんの恨みが…………」
「恨みしかないよ!そんなことより!この森のあちこちに火がついて燃えてるんだよ!」
恨みしかないだと!?切実に後でイリナには謝っておく必要がありそうだ。いやいや、それよりも火?一体誰が…………あ、イリナか。さっきの雷で辺りに火がついちゃったのだろう。
「……お前のせいかよ!だが俺は逃げないぞ。ここで俺が水の能力を使わないでいつ水の能力を使うんだ。ここで活用しないとまじで俺自体の存在理由がなくなってしまう。」
そうなんだよな。俺は得意な勉強を披露するわけでも、戦闘が強いわけでもないから存在意義が限りなく薄い。ゼロに近い。イケメン要因は宏海がしてくれるだろうし、モテモテキャラは生徒会の女子3人がいるからOKだし。いや!でもちゃんと秘密とかあるから!そこまでゼロじゃないから!0.2ぐらいはあるから!…………なに言ってるんだ俺は。
「そうだね。練習と兼ねて消火活動と行こうか。」
俺の言葉をある程度無視したまま俺の意見に賛成してくれるイリナ。くそっ、キャラが濃いからって俺の話に興味も示さないとは………後でなんとかして復讐しないとな……
そんなこんなでさっき来た道を戻り火がついてそうな場所に行ってみる。
うっわーなんだこれ。
一言で表せば黒と赤しか存在しない世界。
木のほとんどは真っ黒な有機物の塊となっていて、残っている数少ない木たちはというと真っ赤に燃え上がっている。どうやらこの地の緑は全て消えたらしい。
「…………イリナって、おい逃げるな!現実から目を背けるな!」
全力で逃げようとするイリナの肩をがっしりとつかむ。この状況を作り出した張本人が逃げようとするな!
「ーーーーーっ!そもそも私を怒らせた君が悪いでしょ!私に責任はまったくないからね!」
「えええええ!開き直るどころか俺に罪をなすりつける!?貴様ぁぁあ!なんて自分勝手なんだ!そのゆがんだ性格を今俺が直してやる!覚悟!」
俺はイリナの後ろに回り込むと脇腹をくすぐる!
「やっちょまっ………くっふ!……やめっ…………くふふふふふっ!くふっ…………………ぐっ……まって……んんっ」
はっはっはっ!我慢なんてしてないで素直に笑っちまえよ!
「〜〜〜〜〜〜っ!あはっ、あっはっはっはっはっ!くふっくふふふふふふふふ!!!」
そうだそうだ!どんどん笑うんだ!これでお前の性格もきっと正常になるに違いない!これといった根拠はないがな!
「ひっひひひ!い、いいかげひゃはははははは!い、いい加減にしろ!」
イリナの肘が俺の頭に炸裂する。だが笑っていたせいか威力に乏しい……………ふっ俺がそんなんで引くと思っているのか?そのままイリナはへたれこみ。俺は一旦距離を置く。
「はははははは!まだまだ続けてやるぜ!」
俺がイリナに襲いかかろうとした時、燃えている木が一本こちらに倒れて来た。あ、そういえばここって周りが火事なんだったな……………忘れてたぜ!
ここで俺が躱すのは簡単だがそれだと俺の前でへたれこんでいるイリナに当たっちまう。木の直径はざっと5mはありそうだ。手で支えられるか?いや、高さが10mもあるんだ、潰されて終わりだろう。つまり!
俺は反射的に右手を木の方に向けると水を放出した!
シュバババババ!
くっダメだ!威力が足りないせいか木がどんどんこちらに倒れてくる!
「ぬ、ぬぬぬぬぬぬ!」
踏ん張ってみるも全然出力が上がらない。
くそっ!どうする!?他に何か手はないか!?………手?手ならあるぞ!もうひとつ、いや!もう一本!
俺は左手を突き出し、左手からも水を放出する!
ぐぐぐぐぐっ!
よおっし!なんとか釣り合って来たぞ!後はどちらかにそらすだけだ!この出力があれば木を横に逸らすのなんて簡単だろう!逸らそうとしたその時、右手からの水の放出がなくなった。
え!?水切れ!?そんなことってあるの!?まじかよ!左手だけじゃ耐えれるわけないだろ!………助けてイリナさん!
「……………」
まだへたりこんでるよ!なんでこう優秀な奴は大事な時に使えないんだ!
「おいイリナ!こっち向け!木が倒れて来てるんだよ!お前も力を貸せ!」
…………まったく返事がない。くそっ!どうする!その時、ふと目に入ったものがあった。それはイリナが背負っている2本の剣だ。剣。剣を使ってこの木を切ることができれば、切った木の一部を水で吹き飛ばせるんじゃないか?俺は頭の中でシュミレートした行動を実行に移す為イリナの背中に手を回し剣を取り出す。
ゆらっ
剣は怪しく光だすがそんなこといちいち気にしてられない!
「うおおおおおおおおお!」
ぶん!ぶん!
木を三分割にすると俺は左手を使い小さめに切った木二つを思いっきり吹き飛ばす!
スズウゥウン
俺の目の前に木が落ちる!
ふう。押し返すことはできなかったけど潰されずには済んだな!
「ふっふっふっ、全て計画通りだよ!いやーよくやったね君!いやはやよくがんばったよ本当に!」
なんかこの人堂々と立ってるんだけど。どうやら彼女はへたり込んだふりをして実践の場を無理矢理作り、俺のスキルアップを狙っていたらしい。あっはっはっ!いや本当にこいつは…………
「がぁあぁああ!俺に度胸があったら今すぐお前をぶちのめしたい!よくも、よくも俺の心配を無駄にしやがったな!いつか絶対に何かで貶めてやる!」
何で貶めて辱めてやろうか…………くっくっくっ!楽しみだ!
「そんなことより君が今持ってるその剣。魔剣だよ。」
え?魔剣?聞き間違いだろうか…………きっと眉間っていってたんだろう。だって、魔剣なはずないじゃないか。眉間に違いない。シワが寄ってたのだろう、うん。
「いやだからさ、君が持ってるのは魔剣だよ」
えぇええええ!俺今魔剣持ってるの!?え?うわぁーーーーってことはつまり。
「あっはー!俺って魔剣扱えるんだな!初めて知ったよ!」
誤魔化すようにわざと大きな声をあげ、イリナの方をちらっと見る。うぉおぉぉぉ!めっちゃ睨んでる!
「………俺のこと魔族と疑ってる?」
「うん。最高に疑ってるよ」
疑ってるらしい。そりゃそうだ!魔剣を扱えるのは魔族だけだもんな!
「ちょっと待てーい!俺に光剣を持たせてくれ!そしたら俺の疑いは晴れるはずだ!」
「えーーーー…………まぁ、最後の情けとして持たせてあげるよ。」
イリナは背中に携えている光剣を抜くと俺に差し出した。大丈夫。きっと大丈夫だ…………予想だとたぶん大丈夫。
俺はそれをしっかりとうけとり、両手で握りしめた。………………特に何も起こらない。ふぅー。やはり何も起こらなかったな
「えええええ!?光剣も魔剣もどちらも使えるって!え?君って一体何者?」
「俺か?飯田狩虎とかいてなんでもで……」
「はい、パクらなくていいよー。冗談抜きで君は一体何者?」
くそっ、人生で一度でいいから言ってみたかったんだけどな。人生そんなに甘くない
「俺はそこらへんにいる普通の学生だぜ。」
「普通の学生が勇者であり魔族であるわけないでしょ。」
「いやいや、可能性を疑っちゃいけないぜ?可能性を信じれなかったらその先にはなにもないのさ!しかも、もしかしたら勇者だけど魔族の力を持ってるとかそういうハチャメチャな主人公設定があるかもしれないだろ。冴えない高校生が異世界に行ったら大抵無敵だろ?そんな感じだよきっと。」
「後半は握りつぶすとして、確かに可能性はゼロではないかもね。でもま、カイと同じように水を出せているんだから多分こっち側なんだろうけどさ。」
「信じてくれてありがとよ。とまぁ、この話は置いといて。そろそろ周りが危ない気がしてるのは俺だけかな?」
辺りを見渡す。ほんの少ししか燃えていなかった火は燃え広がり今では周り全てに火がついている。大火事です。
「…………んーと、君。水出せる?」
「さっき右手の方の水が切れた。」
「あぁ、水切れは時間とともに回復するからもうそろそろ全快してると思うよ。」
「へー。でも俺の水量でこの森全部の火を消すのは無理だと思うけどな。」
さっきだって木一本を吹き飛ばすことも出来なかったわけだし。
「………………………」
「………………………」
「…………走ろっか。」
「………………だな。」
俺とイリナはまだ火が付いてない場所を探しそこから走って逃げた。
逃げて逃げて走って逃げて。俺たちは走り続け木がない高台へと逃げた。俺達を囲んだ炎はなんとも熱くて、汗をダラダラとかかせてくる。
その高台から森を眺めてみると全体の約5分の3がもはや赤い。森全体の広さが大体2万ヘクタールだとすると最早1万2千ヘクタールほど燃えているというわけだ。すごいね。地球温暖化まっしぐらだ。
「なぁ、イリナ。この世界の出来事は現実になにも影響しないんだよな?」
「そうだね。なにも影響しないね。」
「つまりここでトンズラしても、なにも、俺たちには何も罪はないというわけだよな?」
「そういうことになるね。」
「……………」
「……………」
「……………しちゃう?」
「……………」
「……………」
「……………しちゃおうか。」
俺たちは自分がやってしまったことの重さから逃げる為にこの場からさった。無言で………ただ風だけが俺たちの罪を見ていた。
あ、そう言えば……………
「ごめんよ、イリナ。」
「な、なに?どうしたのさ。」
「いやまぁ色々とあってな。」
さっき決めた通り謝り、そのまま歩き続ける。
「なんのことに対してかは分からないけど、森を燃やしたのは全面的に私が悪いから謝らないでね。」
イリナもそんなことを言った後、そのまま歩き続けた。




